新世紀のロードスター(NC1ロードスター)

新世紀のロードスター(NC1ロードスター)

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NAロードスター、NBロードスターともに約15年「同じシャシー」を熟成させた、日本では珍しい車種であるロードスターも、2000年以降の安全/環境レギュレーション対応の延命処置に限界がでていました。そこで2005年8月にフルモデルチェンジしたのが3代目ロードスター、通称NCシリーズです。

RX-8が先ではなかった


NA/NBロードスターは贅沢にもスポーツカー専用のN型プラットフォームで生産されていました。しかし、今回のモデルチェンジ条件は先行デビューしていたRX−8と共通のプラットフォームで生産されることが決まっていました。よく、NCロードスターはRX-8がベースといわれることがありますが、それは全くの誤りです。実情は、RX-8の開発は「スポーツカー一括企画」として経営承認を得ており、RX-8はNCロードスターありきの企画だったのです。(今回はデザインの観点で紐解くトピックになりますので、そちらのエピソードは別項にて)

開発主査は2代目ロードスターと同じく貴島孝雄氏、チーフデザイナーは2代目デミオも担当されていた中牟田泰氏です。

ロードスターらしさとは?「息吹」


NCのデザインで最大のネックとなったのは、背の低いスポーツカーの側突安全基準(サイドエアバッグ)を稼ぐためと、RX-8と共通シャシーを使うために「全幅1,720mm」というサイズの前提が存在したことです。先代NBの全幅は1,680mm。+40mmは3ナンバー枠になり、物理的にサイズが大きくなる車体を【いかに小さく見せるか】が、デザインのポイントになりました。

一方で、幅は変えられずとも全長はかなり調整されていることが分かります。RX−8(全長4,435mm、ホイールベース2,700mm)とNCロードスター(※数値はNC1 全長は3,995mm、ホイールベース2,330mm)、を比較してみると、4シーターと2シーターの差があるとはいえ「マイナス370mm」と、かなり切り詰められていることが分かります。


またロードスターらしさをデザインでも定義するために「楕円」をモチーフに捉えました。アイコニックな存在としてテスト的に発表したのが、2003年の東京モーターショーのコンセプトカー「息吹(いぶき)」です。改めて観察してみるとディティールのほとんどが楕円で構成されていますが、屋根がないだけで「ロードスター」に見えることが実証されています。

ただ、息吹はモダンに振りすぎたことでエモーション(刺激)に欠けるとデザインチームは判断し、ここからさらに「ロードスターらしさ」を盛り込む調整を行っていきました。ただし、BMW・Z4のようなハイターゲットを求めるのではなく、あくまで万人に受け入れられるフレンドリーな方向性に舵を切っていきます。

アスレチックデザインありきではない



したがって、NCロードスターは当時のマツダデザインテーマ「アスレチック・デザイン」を踏まえた上で、「ロードスターらしさ」「シンプル」「楕円」をモチーフにして、造り込まれていきました。あえてファイブポイント・グリル(マツダファミリーフェイス)を採用しなかったのも、ロードスターらしさを表現するための拘りです。


また、NCロードスターの「VSグレード(エレガント寄り)」には従来型の明るいアイボリー系から、サドルタンに変更されました。この色は「大人の目にも耐えられる」デザイナーのベストチョイスです。確かに、それ迄の(いい意味でも)チープな雰囲気から脱却した、神コーディネートだと思います。(マイナーチェンジでサドルタンの面積は少なくなってしまうのですが・・・)

アスレチック・デザインの特徴としては、「張り出したフェンダー(プロミネンスフェンダー)」と「クリアテール」があります。また、ロードスターらしく普段使いもできるようにラゲッジスペースはかなり考えられており、シートの後ろ(幌の下)にもストレージ・ボックスを備えています。このスペースは、追ってカタログ入りするRHT(リトラクタブル・ハードトップ)のメカ格納部でもあります。

シルエットでロードスターとわかる


NCロードスターはサイドビューにもこだわりました。100m先でもシルエットだけでマツダ・ロードスターとわかるように、ドライバーの肩口から上が見える美しいFR・プロモーションを目指しました。ロードスターの特徴である立ったAピラーの根元には小さいながらも存在する「三角窓」や、「丸いサイドターンランプ」など、先代からのアイコンを積極的に引き継いでいるのも特徴です。

また、NC1のバンパーフェイスはスポーツカーらしく「あごを引いている」のもポイントです。NC2以降になると衝突安全要件により、サイドビューから見たバンパーフェイスは(どのクルマを見ても)「真下に落ちる」形になってしまうのです。

先に書いた通り全幅の制限がある以上、プランビュー(真上から)でNA/NBのように座席部分を絞り込むコークボトルシェイプを取ることができませんでした。そこで「楕円」のモチーフをボディ全体でとらえて、オーバーハング・・・つまり、車体の角を大きく削った「樽型」シルエットにしています。間近でみると、フェンダーの主張を感じますがこれはデザインの妙で、上から見ると余計なでっぱりがない奇麗なシルエットに収まっています。

また、ヘッドライトはNBロードスターと同様に「NAロードスターのウインカー」をモチーフにしています。ここはボンネットのパーティングラインが見所で、ボンネットを低く独立させるためにヘッドライトはバンパーにビルドインされ、まるで旧イタリアン・スポーツカーのような独立ボンネットの構造にしているのです。

21世紀のロードスターとして


偉大なる初代ロードスターを21世紀のデザインとして引き継いだのがNCロードスターです。NCロードスターは様々な環境変化(不況や災害など)の時代を耐え抜き、結果、10年以上続いたロングライフなモデルになりました。

デザインとして良かったのか、悪かったのかという話になるとキリがなくなりますが、個人的には一目でロードスターとわかる、カッコかわいいデザインだと思います。

見た目の変化により「大きくなった」といわれがちですが、重量のあるパーツをより中央に低く、エンジンはバルクヘッドを押し込んでまで寄せてきた変質的なパッケージにより、走りもしっかりロードスターだったのも、大きな特徴です。食わず嫌いの人がいたら非常に勿体なく、機会があればNCロードスターのステアリングを握って欲しいです。

さらにこの後、より賛否両論を生んだRHT(リトラクタブル・ハードトップ)モデルが登場し、ユーザーの裾野が広がったのもNCロードスターの大きな功績でした。

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新世紀の大本命(NCロードスターRHT)

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