二軍の反骨精神

二軍の反骨精神

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今では想像できないかも知れませんが、かつての「ロードスター乗り」はモヤモヤした思いを時代がありました。それはマツダのフラグシップスポーツカー、ロータリーエンジンを搭載する「RXシリーズ」の存在があったからです。

ロードスターは最高!しかし、後ろめたさがあった・・・


私は新卒2年目に、親からの借金となけなしの貯金をはたいて、やっと自分の愛車を手に入れました。

中古車ではありますが、平成4年式の「ユーノスロードスターVスペシャル」はブリティッシュ・レーシング・グリーン(ネオグリーン)のボディカラーにに明るいレザー内装&超絶おしゃれなナルディのウッドインテリアを架装し、しかも「音楽CDを聴ける」贅沢なクルマです。確か当時120万円位だったかな。

それまで見たことなかったメッキのドアノブを引くと、ドア開口部の足元には「Roadster」のロゴが入ったスカッフプレート。こんなカッコいいクルマが所有できるなんて!・・・と、失禁しそうなくらい感激した納車時の記憶が今でも心に残っています。

見た目だけでなくハンドリングも最高に楽しく、栃木のド田舎をドライブすべくに週に何回もガソリンを入れる日々でした。そういやリッター100円切っていましたね。

ちょっと慣れてくるとオープントップにするNAロードスター特有の儀式(リアスクリーンをジッパーでフリーにする)がおっくうになり、調子に乗ってジッパーを外さずに幌を開けたら・・・ビニールのスクリーンがバリッと割れて悲しかったのもいい思い出です。

ただ、こんな楽しい日々が重なるほど、心の奥底には「マツダ乗り」の立場として後ろめたさが募っていきました。

いつかはロータリー!


それは、当時のマツダ・フラグシップといえば、誰が何と言おうとロータリーエンジン搭載車を指していたことです。

現在こそロードスターはグローバル評価された歴史的名車認定されていますが、当時のマツダ乗りはロータリーに乗らなければ「ホンモノ」ではないという、宗教めいた強迫観念&使命感に駆られていたのです。つまりロードスターはあくまで「ステップアップ」の存在、入門用のスポーツカーという評価でした。

したがって、私も使命感に駆られて貯金をはたき(セブンではありませんでしたが)新車のエイト(RX-8)オーナーになりました。アクセルを吹かすとみるみる減っていくガソリン残量に、「これでやっと一人前だぜ!」なんて感慨にふけりながらも、心の奥底ではやせ我慢をしていたのです。

クルマ自体は本当に良かったし今でも乗りたいクルマの一台ではありますが、経済環境が変化していくなかで維持していくのが本当に辛かった・・・周りからの評価を気にするのはアホらしいのは十分に分かっています。でも、本当にロータリーは特別な存在だったのです。

なぜこんな思い出を書いているのかというと、NDロードスターデビュー当時の(2015年)八重洲出版「MAZDA ROADSTER 完全ファイル」内の記事が、当時のトラウマを引き起こしてくれたからです。

二軍の反骨精神


その内容とは、エンジニア田中英明氏のインタビュー「二軍の反骨精神」という記事でした。


内容を要約しますと、当時マツダのスポーツカー・フラグシップは「RX−7(ロータリー)」であり、社内でも一軍のメンバーが集って全精力をかけて開発されていた反面、ロードスターは「二軍」が限りある資源の中で造りあげた・・・というものでした。

つまり、マツダの【中の人】からロードスター開発に対して「二軍」という表現が出るとは思わなかったからです。


確かに過去のマツダ技報を確認すると田中氏が平井元主査とならんで原稿を書いています。まさにメインメンバー・・・だからこそ、この話は説得力がありますよね。

背伸びしてロータリーに乗っていた私としては、ロータリースピリッツ云々という志に賛同していた半面、維持コストや説教くさい使命感に肩が凝ってしまい、結局はクルマを降りてしまったトラウマに対して、自分が本当に求めていたものは何だったのかを、改めて肯定してもらえた気がしたのです。

結局私が求めていたのは、モアパワーでもなく、一等賞を狙うものでもなく、最新鋭の技術を競うものでもなく、「コンビニに行く普段使い」でも楽しめる、二軍扱いでもいいお気楽なスポーツカーだったのです。

反面、NDロードスターデザイン発表時(2014年)のプロモーションにおいて「ロードスターはマツダの魂です」というプロモーションに、ひねくれ者の私は違和感を覚えました。

なぜなら、NCロードスター時代までディーラーには試乗車などは置いてなく、交渉のテーブルではいきなり値引きを提示されるくらい雑な扱いだったのに、新しいNDロードスターはマツダを象徴する「魂」に昇格したので、デビュー当時(2015年)は片田舎のディーラーであっても試乗車が用意される、とんでもない状況になりました。


ロータリーのフラグシップが消えてしまった今、ロードスターはマツダのブランドピラー(象徴)であることは理解できます。でも、酷い扱いを受けていた時代をスッポリ忘れてしまうのは如何か・・・と思っていた矢先に、ロードスターは「二軍扱いだった」という背景を、田中氏がインタビューで語ってくれたのが嬉しかったのです。

実際、二軍扱いではあっても志は高く、30年以上ライトウェイトスポーツ(LWS)として基本の作り込みを継続したことが、ロードスターがマツダファンの「魂」に昇格できた理由であると思います。そんな反骨精神でブレなかった姿勢が、今の結果に繋がっているのでしょう。

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