正直に作った、ロードスター(2017まとめ)

正直に作った、ロードスター(2017まとめ)

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開発元主査 貴島孝雄さんインタビューまとめです。最後は改めて、スポーツカーを続けていくための哲学と、そして「ロードスターをやって良かったこと」をお聞きしています。

スポーツカーを続けていく為に


ポルシェは当然として、ベンツにしてもアウディにしてもBMWにしても、カーメーカーの掲げる看板になるからスポーツモデルはサイクリックに提供している。しかし日本は、それが一気になくなってしまった。これでは文化にならない。

ロードスターだって、耐えることも苦しむこともありながら30年続けて、おかげでギネスに載る事もできた。お金とか評論に対して耳が痛いこともあったし、きちんとした哲学や信念がないと社内からも潰されてしまう危機があった。


ロードスターはターゲット・コスティング(※原価計画や原価統制)が甘いものではないから、発売1年前でもコストを下げなければならない。アルミボンネット?200万円のクルマでどこが採用している?トヨタにあるか、日産にあるか、ホンダにあるか、なんで使う必要がある、やらなければこのコスト未達はいけるじゃないか、なんてずっと会社にいわれる。

そこで「アルミの方がヨー慣性は低いから、性能がいい」なんて絶対に耳を傾けないし、「分かりました、コストは目標に入れます」といっても信用されない。だから「この歩留まりを考えて、こういうアイディアがあるから、これを刈り取って今の未達はゼロにします。でもアルミボンネットはやめません」と、プランを上程しなければならない。


それには技術的にコストを下げるアイディアが欲しい。だから開発チームを回って「エンジンで幾らか出来ないか?」なんて聞きに行く。すると皆が正直ではなくて、目標に対するマージンをしっかり持っている(笑)。だから「いざって時は俺が何とかするから」と伝え、いうことを聞いてくれる間柄を作っていないとプロジェクトなんて上手くいかない。

こういう時に信用される為には、普段から誠心誠意、真摯な態度をやっておかないといけない。裏があると思われたら一切認めてくれない。相手が困ったときに何もしなかったら、次から絶対にやってくれない。


クルマの開発は約4年かかる。だから最初からずっと詰めていく。自ら達成するターゲットを決めるのが主査で、性能を下げるなんて一言でもいうと「主査が性能を下げること認めるぜ」となってしまう。それは絶対に駄目だから、最初にいったことは意地でも変えない。その代わり、ターゲットに関わるエビデンスを用意する。要件だけいって「やっとけ」では絶対にいけない。

そのために他社をベンチマークして、「このアイディアはウチに入っていないね、これで取り込めるね、これでやりましょう」という合意が出来ないと、相手は絶対に認めない。それはサプライヤーも一緒で「アンタのところの新技術は何があるか」なんて聞いてやると、こんなモノがあると教えてくれる。実現はいつか聞くと「2年後だったら」なんて話になるので予算を準備する。そういう地道な事をしないとスポーツカーは続けられない。

正直に作った、ロードスター


ロードスターを担当してよかった事は、ギネスに載るくらい沢山のお客さんにサポートして貰えたこと。BMWはオープン2シーターの市場がある事を教えて貰えたといって「Z3」を出したけど、50:50では作ってこなかった。「バルケッタ」にしてもFFで持ってきた。「MG-F」はリアエンジンだった。そして今、残っているのは我々だけになった。


要は50:50の重量配分、ニュートラルステアできちっと作って出したのは「ロードスター」だけだった。人馬一体というコンセプトに対して「いい」と信じていたものが、お客さんにその通り受け入れられた。理論を忠実にやれば「楽しい」と分かってくれた。

どこのメーカーがどんなクルマを作ってもいいけれど、これを正直に作った事によってマツダの地位を築けたことが嬉しい。

だから、私の学生にも理論には忠実にやれと伝えている。この部品はどういう理論で作るべきなのか、それを実現するためにはどんな技術で作るのがいいのか、それを極めてものにしろと。いきなり技術でスタートしても、理論が分かってなかったら結果がどうなるかわからない。一番大事なのは、実現したい思いに対しての理論、つまり思考のサイクルになる。


私自身、今後も生きている限りは「ものづくり」を続けていく。ものづくりって実は自動車以外にも通ずるところを感じていて、特にこれからの世の中は「楽しい」と思える感性のエンジニアリングを利用したものが必要になっていく。

ロードスターの人馬一体というのはキャッチフレーズであって、つまり「乗って楽しい」というクルマの事を指す。移動が楽しい、運転が楽しい、それを総称したのがZoom-Zoomで、最近はBe a DRIVERかな。だって、ロードスターって楽しいでしょう(笑)。

2017年8月19日 山口東京理科大学
貴島研究室「ものづくり工房」にて

※記事内の役職、敬称は当時のものになります

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