ロードスタークーペ コンプリートカーmm1(後半)

ロードスタークーペ コンプリートカーmm1(後半)

この記事を読むのに必要な時間は約7分です。

前回に引き続きコンプリートカー「mm1」の話を続けます。

カスタマイズカー事業のスタートアップ


マツダ自身がさまざまな理由から市販化を断念したロードスタークーペ「TSコンセプト」。しかし時代の潮流が手を差し伸べることになりました。

当時、本格的な流行が見込めそうなカスタマイズカー事業において、カー用品店を手掛けるオートバックスセブン社が、自社ブランド「mono CRAFT」シリーズのスタートアップに「TSコンセプト」を指名したのです。

そこで、オリジナルモデルから最小限のリファインを行うことで、市販化の目処を立てていきました。


2004 オートバックスセブン 「mono CRAFT mm1」 30台限定
ロードスタークーペ(NB6改、NB8改)ベース
(※うち1台はSGリミテッド1600ベースの幌車)

ブランドコンセプト
「mono CRAFT」は「乗る楽しさ、眺める楽しさをテーマに、個性的な車をより多くの方に楽しんでもらいたい」ということをコンセプトに、コンプリートカーの提供製作・販売を行うカスタムカーブランドとして誕生しました。

なお「mm1」のネーミングは社内コードネームを採用したとありますが、当時のロードスター専門誌にはマツダ好きの魂を込めた・・・という記載もあります。

市販化に至るモデファイ


「mm1」はマツダが出来なかった安全要件を、カスタマイズカーという立ち位置にすることでクリアをしました。

つまり、クーペの完成車をオートバックスセブン社が購入し、それを「カスタマイズ」して販売したのです。最大の懸念点であった構造変更に関わるレーンフォースメントもオーバーハングを削り取って対処し、外装もFRP成型で良しとするなど、量産車ではできない荒業を行いました。


なお、フロントグリルが「TSコンセプト」よりも大きくなっているのは、牽引フックの使用角を45度以上取らなければならないという車検上の理由です。しかし、コンセプトモデルのイメージを上手く引き継ぎ、凸部を無くしたバンパーは、むしろオリジナルよりも洗練された魅力的なフェイスになっています。


ただしリアセクションに関してはテールランプも含めノーマルのロードスタークーペと同一になっています。(それでも魅力的なリアビューですが)


実は「TSコンセプト」で流用されたクーペフィアットのテールパーツは奥行きがあるため、フレーム部分を切削しなければなりませんでした。

そこで新規パーツに置き換えるコストをかけるのならば、豊富なアフターパーツが存在するロードスターの特性を活かし、ユーザー自身の手に委ねるという英断をしました。


ただし、広告には架装車に採用できなかった「アフターパーツも販売」と記載されています(実車に反映させたソースは残っていませんでした・・・)。そこには「TSコンセプト」のリアイメージと同じイラストが描かれています。

2005 「ROADSTER COUPE CIRCUIT TRAIAL」コンセプト


翌年の東京オートサロンでは、市販化された「mm1(NB6)」1号車をベースに、デザイナーの福田成徳氏により更なるカフェレーサー・アレンジが発表されました。さりげないフェンダーとヘッドライト回りのホワイト処理が素敵です。


Abarth Simca ルマンカラー
なお、デザインソースはこちらになるかと思われます。


さて、この「mm1」の予定販売は100台だったのが、マツダの工場火災で生産不可能になり30台のみの限定販売となってしまいました。ただ、それでも当時の販売状況は芳しくありませんでした。

NBロードスター自体がモデル末期であったことによる不人気と、近しい価格帯で最新のロータリーエンジン・スポーツカー「RX-8」が購入できたこと、そして第三世代NC型「ロードスター」が発表されてしまったという三重苦な状況があったからです。


したがって「mm1」は市場在庫としてしばらく残る結果になりました。当時はオートバックスの店頭に、とんでもない価格で売られていた記録が残されています・・・しかし、現在はその価値に気づいた方の手に渡ったことにより、市場に出ることはほぼない状態です。

参考→https://mx-5nb.com/2019/11/05/coupe-price/

ESQUELETO BRISA(エスケレート・ブリサ)


一方で2020年現在、NBロードスターのアフターパーツとして「mm1」ルックは再現することが可能になっています。

ロードスターにはおなじみのフルバケットシート、エスケレート・ブランドで有名なファトラスタイリング社より「ESQUELETO BRISA(エスケレート・ブリサ)」というボディキットとして購入が可能なのです。

同社は「mm1」のパーツ開発に協力していたことがホームページに記載されており、まさにmm1の魂を引き継いでいます。※補足ですがエスケレート・ブランドではNCベースの「mh1」のボディパーツも購入可能です。


なお、同社のキットではフェイスまわりに注目が行きがちですが、注目はテールまわりです。


「mm1」市販化で断念された二灯式のテールライトが、LED仕様としてアップデートされ復活しているのです。

全国16台のクーペボディ


ロードスターベースのクーペボディはNA時代からの悲願でした。

その系譜は第三世代NC型「RHT」タイプ(海外名 MX-5 Coupe)、第四世代ND型の「ロードスターRF」まで引き継がれてました。おそらく次世代のNE型(NE、NFは124spiderに充てられているのでNG型?)にもクーペが派生車種として登場するでしょう。

そのうえで、当時でも希少だったクーペボディを贅沢にカスタマイズした「mm1」。29台(30台)制作しようとしたデータが残って今明日が、実際に販売されたのは16台で終わってしまったそうです。一から開発して、大々的に宣伝をして、実際に売れた数を考えると、プロジェクトは厳しい結果だったかもしれません。

 
そんな希少なクルマであるにもかかわらず、車庫の肥やしとはならずに、量産時に割愛されたオリジナルデザインへ「戻しす」ことにこだわるオーナーの手に渡るなど、今なおエンスージアスティックな存在として愛されているのは救いかもしれません。


「mm1」は時代の潮流に乗ったとはいえ、単なるワンオフモデルで終わるのではなく、市販化まで実現した情熱には頭が下がります。希少車であるとともに、アガリの一台(人生最後のクルマ)になりうる、国産車最後のコンパクトFRクーペではないでしょうか。

見かけたら拝まずにはいられない、そんな「mm1」のご紹介でした。
(写真提供:関西在住Y氏)

関連情報:

国産最後の5ナンバーFR ロードスタークーペ(Coupe2)

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