この記事を読むのに必要な時間は約6分です。
新型スープラにはマニュアルトランスミッション(MT)の採用が検討中だそうですが、チーフエンジニアである多田氏の「スポーツカーに、MTって必要ですか?」というインタビュー記事が巷で話題になっています。(その記事自体はタイトルで若干ミスリードを誘っていましたが…)
この手のトピックが出ると、ここ数年自動車ファンの間で話題になるMT対ATのトランスミッション選択問題。正しい答えのない世界だとは思いますが、時代の転換期であることを感じる内容です。
高級車からMTが消えた
実際に、近年のスーパースポーツなどはMTが廃止になっています。ちなみにですが、有名どころの最後のMTは2013年の「ガヤルド(ランボルギーニ)」と「カリフォルニア(フェラーリ)」だそうです。カリフォルニアに至っては、世界で5台しかMTの受注が無かったそうで…
また、国産車に目を向けると、2007年(10年以上前!)に日産「GT-R」が登場した際にMT設定がありませんでしたが、開発主幹(当時)をされていた水野氏の話が有名です。
GT-Rのようにラップタイムを求めるクルマであれば、ビッグパワー&トルクを限界まで活かす為に当然の選択でしょうし、同じ理由でホンダ「NSX」やブガッティ、マクラーレンなどもDCTを採用しているのは、同じ理由なのではないかと思われます。
また、じゃじゃ馬の印象が強かったハイパフォーマンスカーを電子制御で「安全に」扱えることが、新たなユーザー獲得に繋がっているという実情もあるでしょう。
DCTは時代遅れになる?
ただ、2017年にBMW・Mディビジョンのセールス&マーケティング担当副社長ピーター・クインタス氏は下記のようなコメントをしています。

マニュアル・トランスミッションとデュアルクラッチ(DCT)は早晩無くなる。DCTが通常の(トルコン式)オートマティック・トランスミッションに対して変速スピードの優位性を持つ時代は終わった。かつて、DCTは通常のATに対して軽量性と変速スピードという2つの利点があった。今ではその両方共が失われようとしている。
実際に近年は、トルコン式の懸念であったパワー伝達効率を大きく改善しているようで、いままでの固定概念を覆すATが登場し始めています。そこで冒頭のトヨタ多田氏インタビューを引用させて頂くと…

ここ近年、特にスポーツカーの情熱を語られて、実践されている氏の発言ですから、餅は餅屋なはずです。スープラというクルマのキャラクター(ポルシェケイマンのライバル)を鑑みると正しい事なのかなと思います。「なんでスープラにMTが無いんだ!」と騒ぐ層がイコール購買層ではありませんでしょうし、実際にはMTの準備を進めているそうなので、シフトフィールや信頼性を高めたMTが登場するのかもしれませんね。
それでもMTにこだわるメーカーもある
ただし、その一方でアストンマーチンのCEOは・・・

という超絶かっこいい発言をしていたり、ポルシェは一度見限ったMTを最近のラインナップでは復活させていたりします。マツダも国産車では珍しくラインナップにMTが多いメーカーですね。
それではマニュアル・トランスミッションの良さって何処にあるのか?となるのですが「シフトフィールが気持ちいい」とか「ダイレクトにクルマと会話ができる」など、ATでいいじゃん!という方たちに対して、訴求力が低いといいますか、言語化してのアピールが難しかったりします。
ただ、考えてみると近年の自動車レギュレーションではDSC(操舵安定)やABS(ブレーキ補助)が義務化され、むしろプリクラッシュ(自動ブレーキ)やオートパイロットが新車販売のセールスポイントになっている状態です。
そんな“走るコンピュータ”といわれて久しい近年の自動車技術の中でマニュアル・トランスミッションは人間がコンピュータを介さずに愛車を操作出来る最後の領域だと思うのです。なるほど、だから「会話」とか「フィーリング」って表現になるのかと!
もちろん、そのクルマのキャラクターやマーケット(購買層)によってメカを選択するのでしょうから、繰り返しますがMTもATもDCTもCVTも、どれが正しいという事はないのでしょう。ただ、マニュアル・トランスミッションでスポーツカーを運転するのが贅沢といわれる時代が来そうな空気を感じます。
ちなみに世界シェア的な観点でいくと、米国と日本は9割以上と圧倒的にAT車が普及しており、欧州では高級車を除いたら7~8割はMTだそうです。
そのような中、国内の中古車市場を含めれば比較的安価にスポーツカーの「MT」を選ぶことの出来る私たちの世代は、幸せ者なのかもしれません。なんてったってMTで操舵するのは贅沢な楽しみ方ですから!