鉄に戻ったロードスター

鉄に戻ったロードスター

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今回は、クルマ好きにとっては嫌悪感を抱く方もいらっしゃるかと思います。特にマツダ好きの方は、読み飛ばして頂いた方が賢明かもしれません。あくまでアーカイブとして記載しています。

海難事故発生


2006年7月24日。三井商船が所有する自動車運搬船「クーガー・エース(COUGAR ACE)」がアメリカ合衆国アリューシャン列島付近で海難事故を起こしました。

事故発生時、クーガー・エースはバラスト水(船体の安定を保つため船内の専用タンクに積む海水)の調整作業中でしたが、その過程で誤ってバラストタンク内の海水を排出し過ぎたため復原力が不足。強い波のうねりにあおられ一気に横転したものとされています。

もともと自動車運搬船は船体重量と比較して喫水が高いので横風の影響を受けやすく、より重心の調節が必要です。そのためにバラスト水を注排水するのですが、台風などの風にも流されてしまい、座礁のリスクがあるとされています。

また、車両積載デッキは一つの大きな空間となっており、ここに浸水すると沈没を避ける手段がなく、浸水に対しても弱い構造となっているとの事です。

幸い、乗組員23名は1名が脚を負傷した以外は無事で船内で待機し、事故当日中にアメリカ沿岸警備隊およびアメリカ空軍のヘリコプターで救助されました。

積載されていたマツダ車たち


しかし、船には日本で製造されアメリカ合衆国に向けて輸出されるはずだった約5000台の新車が搭載されていました。

細かい内訳は「マツダ車」4,703台と「いすゞ自動車」110台。貨物の価値は1億1,700万ドル、当時のレート(116円)で約136億円になります。ロードスター視点で書くと、北米、カナダ向けの第三世代NC1型「MX-5(miata)」が載っていました。

<マツダ車 内訳>
MAZDA  4,703台

2,804台 Mazda3(アクセラ)
1,329台 CX-7     
295台 MX-5(ロードスター)
214台 RX-8
56台 Mazda5(プレマシー)
5台 Mazdaspeed6(マツダスピードアテンザ)

※いすゞ車はエルフ(トラック)でした

その後、クーガー・エースは度重なる点検および応急修理の結果、浸水の復旧にまで至りましたが、発電機の不調により自力航行は断念、曳航による移動となりました。同年9月12日にオレゴン州ポートランド港に到着し荷役後、本格的な復旧・修理が行われることになりました。

米国マツダの対応


また、寄港する前日の11日、マツダと北米事業統括会社マツダ・ノース・アメリカン・オペレーションズ(MNAO)は、積載していた米国およびカナダ向けのすべてのマツダ車を販売しないと発表。同年12月15日に、対象となった全てのマツダ車を廃棄すると発表しました。

MNAOのジム・オサリバン社長兼CEOのコメントは以下の通り。

米国と日本のR&Dセンターのエンジニアが車両の損害状況を厳しく検査した結果、お客様の最善を考えた最適な処置として、全積載車両4,703台を市場に流通させないという結論に至った。この決断がマツダブランドの維持向上につながると確信している。

クーガー・エースに積載されていた車両の中には長期間に渡って、急傾斜の状態で固定されていたにもかかわらず、外見ではまったく損傷のないものや、その程度が僅かなものもあったが、お客様の安心と安全を最優先とし、中古車としても一切販売しないこととした。


実際、完全に修復不能だったのは米国沿岸警備隊によると41台との事ですが、搭載されていたマツダ車のVINコード(車台番号)はウェブサイトに掲載されることになりました。
 
また、荷役されたすべての車両のエアバッグを展開、油脂類を抜き、タイヤなどのパーツを外し、プレスでスクラップ化、粉砕機にかけられ鉄に戻されました。そして、事故から約20か月後の2008年5月6日、最後のマツダ車が鉄屑になりました。


その様子はムービーにて記録が残されています。愛すべきマツダ車が鉄に戻る様子は筆舌しがたい悲しいモノがありますね。

ただ、鉄鉱石から鉄を作る場合は、鉄鉱石産出国(ブラジルやオーストラリアなど)から鉄鋼石を輸入するため、多大なエネルギーが必要になります。だからこそ、廃自動車は貴重な資源。鉄スクラップから鉄をつくることは、大きなエネルギーの削減にもつながるのです。

そして現在


ピカピカの新車がそのままスクラップにされる姿は、クルマはただの工業製品ではない、魂がこもっている…なんて信じてやまないクルマ好きにとって思う事があります。この魂が素材に戻り、新たなボディとして活かされているのを祈るのみです。
 
最後に、クーガー・エースは見事に修復され、今日現在も世界へ自動車を届けるために運航を続けています。

関連情報:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B9

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