この記事を読むのに必要な時間は約8分です。
前置きが長くなりました。ロードスター「脚回りの話」、いよいよNBロードスター編になります。
NAロードスターと比較して「俊敏な回頭性が消えた」「乗用車的になった」など、(当時)酷評される事もあったNBロードスターのハンドリング。しかし、基本的なメカの構成はNAロードスターとほぼ変わりません。つまり、セッティングの「味付け」による印象の差なのです。
NBロードスターが意図したハンドリング
NBロードスターの開発において一番最初に行なわれたのは、NAロードスター開発時に【発売直前で変更された】脚回りのセッティングを【元に戻した】という話が、貴島主査からの証言で明らかになっています。つまり、シャシーチームがもともと意図していたハンドリングということです。
ここで想定していたのは、アウトバーンがありながら悪路も多い欧州市場。グローバル展開するロードスター(Miata/MX-5)ならではの事情になります。特に、NAロードスターの市場調査でも指摘されていた「速度が高い」領域のコントロール性を得る必要があったのです。
そこで、NBロードスターは下記の意図でセッティングされていました。
②限界付近のコントロール性向上
③しっかりしたステアリングフィール
④直進安定性の向上
⑤質感のある、しっかりした乗り心地
見直されたセッティング
これらを実現するために行ったのは、ジオメトリー諸元の見直しです。
直進安定性の向上のためのリアトレッドの拡大(+20mm~+10mm ※グレードによる)と、ニュートラルなアライメントを維持するため、ナックルやアームのジオメトリー(取り付け角度)変更を行いました。
特にフロントサスペンションのサブフレーム取付高は5.8mm下げ、フロントのロールセンターを61mmから41mmに下げました(リアは従来通り120mm)。(なお、この処置はNC1からNC2にマイナーチェンジした際も、近しいセッティング変更を行っています)。
また、フロントクロスメンバーのアッパーアーム取り付け位置を3mm後退、ロアアーム取り付け位置は2.1mm前進させ、キャスター角の変更(4°26’→5°40’)と、キャスタートレイルを増大(11.6mm→17.5mm)させました。たった数ミリのジオメトリー変更でも、挙動は大きく変わるという、クルマの奥深さを感じる話です。
これはクルマの挙動を最も感じる姿勢変化(ロール)に関して、【速度と体感】を合わせるためのセッティングでした。コーナリング時に旋回内輪の浮きを抑えつつ、外輪側は適度な沈み(NA 7:3 → NB 6:4)を実現すること。つまり自然なダイアゴナルロールと、それに合わせてタイヤの摩擦面を稼ぐ(グリップを稼ぐ)という意図がありました。
ロールのリニアな動き(応答性)を実現するために、ダンパーのトップマウントを単一プレートから、コイルスプリングとダンパー入力を別々で受けられるように構造変更を行い、バンプストッパーもラバーからウレタン製に変更しました。
これにより、ダンパーは低いピストンスピードから効果的に減衰力を発揮し、機敏な回頭性とリニアなハンドリング特性を生み出します。また、高いGが発生する高速旋回時や不正路面でもバウンド(跳ね)を低減するので、コントロール性の向上にも寄与していきます。
ちなみにサスペンションのストロークは基本的に従来通りですが、リアの「縮み」のみが+11mmとなっています。縮み側のストロークを増大させることにより、アクセルオン・オフにおけるタイヤの接地性確保や荷重移動で粘る脚・・・コントロール限界までの、より高いマージンを確保することができました。
つまり、加速に合わせたロール特性と、ダブルウィッシュボーンの利点を活かしたメカグリップ特性、そしてタイヤの摩擦面を稼ぐ為のダンパーセッティングが行われたのです。
乗り味の「質」を上げるために
走りの質感向上のために、サブフレームやクロスバー(補強)の取付点数の調整やサイズアップも行い、剛性を確保しました。
細かいところでいうと、ステアリングフィール向上のためにギアマウントの構造や取り付け部分の剛性確保、加えてサイズアップも行いステアリングセンターを明確にしました。これにより、一定速度以上で発生するステアリングの振動を大幅に低減することができました。(フラフラしないハンドリングです)
一方、車高に関してはメーカー内規による「タイヤチェーンクリアランス」確保のために取られた処置です。ユーザー保護の観点で考えれば仕方ない仕様です。
純正状態の車高でセッティングされているので、極端に車高を下げてしまうとロールセンターも下がってしまいます。するとロール量が増大して、フワフワ・ゆらゆらした挙動に変わってしまうので、ダンパーやスプリングで脚を固めていくのが定番です。ただ、極端にキャンバーがついてしまうとサスペンションアームや補機類に負担が掛かり、ひいてはダンパーの底づきリスクも発生するので注意です。
硬すぎる(ロールしない)脚はバンプ(跳ね)するのでタイヤの接地面が稼げなくなり、タイヤ片減りを起こすなど、ダブルウィッシュボーンのメカニカルグリップ特性が生かされません。何事もバランスなのです。
マツダのベンチマークになるNBロードスター
貴島主査もAutoExe社の「貴島ゼミナール」にてアドバイスをされています。以下、引用です。
さらに車高は、重心を下げることによる操縦性の向上と実用性を勘案して、-15mmあたりがベストと考えています。多少の調整は、もちろん、個々のオーナーの選択に任せます。
今でこそ、操舵にDSCなどの電子介入が義務付けられていますが、そのなかでもメカの「素性」で走ることのできるハンドリング・カーが歴代ロードスターです。そのうえでNBロードスターを客観的に評価するならば、現役当時にポルシェ911を抑えたベストハンドリング・カーという称号を得たのが、一つの答えであると思われます。
参考リンク:https://mx-5nb.com/2019/11/13/besthandling/
また、近年のマツダ車のシャシー構想は「人馬一体」というキーワードを用いますが、そこには「J07」というベンチマークがあります。
もちろん、人馬一体を最初にうたったのはコードネーム「J58G(=NAロードスター)」ですが、現在のマツダ車のコーナーリングにおけるベンチマークは「J07(=NBロードスター)」になっているのです。
(参考:MotorFan illustrated マツダのテクノロジー)
もちろん、歴代ロードスターのハンドリングはどれが一番か?となると、ドライバーの感覚に左右されるものなので、断言することは出来ません。
ただ、今回お伝えしたかったのはロードスターの「メカの素性の良さ」と、その味付け特性です。まさに、マツダ・スポーツカーの哲学を貫いたエンジニアには敬意を払わずにはいられませんね・・・!
preview
→ ロードスター脚回りの特性