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NB20周年インタビュー、今回もNB開発エピソードのご紹介です。
オープンカーは車体剛性が低い・・・初代ロードスター時代にはよく耳にした話ですが、これは意図的に「味付け」されたものであり、年次改良でアップデートされていったボディ補強が、それに違和感を覚えるユーザーに対応したものとされています。
NBロードスターはそれを踏まえ、メーカーしか出来ない「ボディを骨格から見直した」ことが特徴のひとつです。また、海外における独自仕様が多いのもNBロードスターの特徴であり、そういった背景を深掘りしていきます。
以下よりインタビュー再開します。
参考:貴島孝雄氏プロフィール
→ https://mx-5nb.com/2019/12/29/kijima2017-0/
NBのボディバランス
NBは、よりボディバランスを崩さないような調整を行った。ボディには共振点というものがあって、やりすぎると「ねじり」や「曲げ」を助長する、いわばバランスを崩す補強になってしまう。NBはバランスを調整していくなかで、NAにあったブレースバーを入れると逆に「不快な振動」が助長される特徴が分かった。
なお、共振点を感じるには、舗装したての道路であえて一週間くらいクルマを放置して、そこから走らせるとボディが不快にわなわな揺れてくるような現象だ。
NBでは大体110km/hくらいでそれが発生するので過剰な補強はやめた。実は、ハードトップみたいに、前も含めてグッと固定するとそれは起きない。前と繋いでガッチリ天井があるとセダン並みに限界が上がるから、200km/hくらいまで出しても問題が出ない。
ただし、(NB)クーペはオープンカーに屋根をつけているので、より重いクルマになってしまっている。レースであればオープンカーに屋根を付けて剛性を上げるのはわかるけど、あのままではその分の重量が上がるから、最初から屋根のある設計をする必要がある。つまり、無くてもいい補強を床に一生懸命してあるのが全くの無駄で、だったら床の補強を全て無くさなければならない。
クローズのクルマをオープンにするための補強はいいけれど、DHT(ディタッチャブル・ハードトップ)ならいざ知らず、クーペにしてしまうのは勿体ない。本当にバランス調整には苦労したのだから。
タワーバーはサスペンションのローカルな剛性を上げるもので、ボディ剛性が上がるわけではない。基本的にどんな足でも補強はある方がいいけれど、全てのグレードに補強を付けたら重量やコストが問題になる。ジムカーナやレース、峠などの激しい乗り方ならいいけれど、普通の人は大人しく乗っているのだから、タワーバーが必要な領域にならないので、付けるのは勿体ない。VSとRSでは乗り方が違う前提でセットを決めるため、乗り味に合わせてサスペンションも選択した。
豊富なボディカラー
NBのボディカラーが豊富なのは、限定車を多く販売したからになる。そもそも「色」は世相や国ごとにトレンドがあり、さらにそのクルマに合う色がある。今でこそマツダは赤に統一されているけれど、当時はクルマごとにテーマカラーがあった。そこから国ごとのトレンドに応えるとなると、どうしても色数が多くなる。
塗料は消費期限があるから、使い切る必要もある。一つのタンクで500台ほど塗装できるけど、二ヶ月経つと次の色が入るので、100台しか塗らなくても期限が来たら、残りを捨てなければならない。管理コストもかかるから車種を超えて一気に塗るし、決めた色は塗りきる。
昔の安いクルマは樹脂バンパーがあったけれど、あれは無塗装だから管理が楽だった。サイドミラーまで全車種統一する要請が来た事もあるけれど、それはカッコ悪いから不採用にした。私の主査時代は部品点数60万点で怒られたけど、今は約80万点をフォローしなければならない。管理コストをふまえたら、今の時代では色数を増やしたくないという考えはわかる。
海外仕様のNB
アメリカはオートマ(AT)があるけれど、NBのATはヨーロッパでは需要が無くて直ぐに販売を止めた。当時のATはエンブレの効き加減や、高速のランプで引っ張るキックダウンの応答遅れが危険だという意見があった。高速に入るためには自分でシフトを入れ、ギア一杯まで吹けるMTのほうが安心になる。しかし、現在のATは反応も燃費もいいから、顧客嗜好は変わっていくかかも知れない。
欧州のリアフォグはレギュレーションによるものになる。不明瞭な霧の中を走行をするから、むしろ眩しいレベルである必要がある。霧ではゆっくり走っても危ないし、高速でもいきなり衝突するリスクがある。また、寒冷地ではマイナス10度まで行くので寒さのレベルが違う。ドアノブなんて手で触れないし、シートヒーターを付けてないとクルマが売れない。同じ理由で直線区間が多いアメリカでは、クルーズコントロールがないとマイナス要因になる。
世界で同じメニューの限定車は、日本は300台、アメリカは2000台などトータルで何台販売するのかプランをこちらで行う。内装を変えるならデザイン指示を行い、機能部品の変更ならプロトタイプを制作して、業務工程も組まなければならない。専用投資も必要だから経営承認も必要で、役員から一人でも異議がでたら対策が必要になる。極端な話やり直せとなったら、価格、メニュー、投資と全て再考するけれど、現地ではシーズンが過ぎてしまったら台数が掃けないと泣きも入る。そして、儲からないプランと判断されれば白紙になってしまう。
アメリカでは未だにパワーに$(ドル)をかける価値観があるから、パワーをもっと上げて欲しいという要望は常にあるし、前のモデルよりもパワーが低いと文句が出た。NBターボも米国からの要望は大きかったので、あえてドッカンターボではなく、ターボ領域とノンターボ領域の境が無いようにトルクもキチっと伸ばす「人馬一体」なセットをおこなった。実は、開発費も1/10と安く作れた事も幸いした・・・
一方、ヨーロッパ専用の限定車はディーラーやディストリビューター(卸業者)が勝手にやっていた。鉄ホイールだったベースボディの発注をしてきて、現地のアフターマーケットでパーツを調達して布シートを革に変更し、ホイールをセットする。
さらに彼らは限定車に好みの名前を付けていく。自分たちで商品プランを行うのは楽しいし、それで全部売れるならばやらせた方がいい。日本もそうだけど、限定車はある意味スポーツカーの文化だし、標準車(カタログ車)だけではビジネスにならないといってくる。
また、海外ではコンセプトカーを販売することもある。クラシックベンツでもよくあるフロントウインドを付けない「スピードスター」などは誰かの手に渡っている可能性が高い。クルマは趣味であると同時に、20年後にプレミアが付くと分かっているので、投資のひとつとして手元に残したいという要望がある。
1900年代初頭のレースでは、ベース車を軽量化しつつロールゲージだけ装着して走っていた。それが旧来からのスポーツカー文化だし、ロードスターでそれを作ること自体が、人気がある証拠になると思う。
補足:
NBロードスターのボディカラーは海外限定色を含むと全30色で、仕様(幌・内装・ドライブトレーン)によっては世界で1台しか存在しないものもあります。特に国内では「Webtunedロードスター」というカスタマイズプランで、自分好みのNBロードスターをマツダに「作ってもらう」事が可能でした。
また、本社企画の限定車は大まかに7種になりますが、海外限定車を含むと(仕様は同じでも)国によって名称が違うので、把握できているだけでも約98種と、とんでもない数になっています。それだけ世界でMX-5mk2は愛されていたのです。
前回・今回ともトリビアっぽい内容になりましたが、もう少し続きます。
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