20年乗ったロードスター、降りる決断(前編)

20年乗ったロードスター、降りる決断(前編)

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NBロードスターを新車購入し約20年間乗り続けた友人A氏が、ついにロードスターから「降りる」決断をしました。ただ、趣味性の高いクルマの卒業ですから、そこには様々な思いや葛藤があったことが想定できます。

そこで、あえてA氏にその意図を伝えてインタビュー依頼をすると、無事に快諾をいただけました。今回はNBロードスターが新車販売されていた当時の貴重な証言として「NBロードスターを迎えるまで」の内容です。20年前の空気感を感じていただければ幸いです。


A氏(関東在住):50代男性
ロードスター  :2002年式NB8C 6MT
グレード    :VSコンビネーションB

ロードスターに至るまで、クルマ遍歴


私の地元ではクルマがないと生活できないし、娯楽や趣味としてクルマを捉える世代でもありました。だから、免許取得から今に至るまで、軽自動車からワゴン、セダン、SUV、もちろんスポーツカーまでセカンドカーも含めて20台ほど乗り継いでいきました。

もちろん最初は国産車から始まっていて、トヨタ、ダイハツ、スズキ、ホンダと家族のクルマを借りたり、友人から譲り受けたりしながら中古車を乗り継いでいました。特にお気に入りなのが三菱ミニカでH14型を2台乗り継いでいますが、3台目の74年式ミニカ(F4GL)は幼少期に父が所有していたものと同型車で20年前に入手し、いつかレストアしようと思って実家の納屋に眠らせてあります。あの時代のクルマは独特のスタイリングだし、線の細さ(頼りなさ)も含めての「乗り味」が素敵だと思っています。

また、クルマ趣味の環境には恵まれていて、当時でもかなり珍しかった輸入車を周りの友人たちが所有していたおかげで、メルセデスベンツ、VW、BMW、ポルシェ、ランチアやシトロエンなどのステアリングを握る機会を得ることができていました。自動車趣味の界隈では“鼻が付く”ほどベンチマークになる欧州志向ですが、これは本当に馬鹿にできないんです。運転させてもらって驚くのは、80年代のクルマでも少し走っただけで得られるクルマの意志というか、意のままに反応するフィードバックがあることでした。

欧州車から感じた「哲学」


欧州車は一見ただのセダンであってもエンジンは官能的に吹けあがるし、コンパクトカーであってもわだちでボディは軋まない。ファミリーカーでもステアリングセンターはしっかりしていて、コーナーでグラグラなんてしないんです。国産車のゆるい雰囲気も嫌いではありませんが、彼らは唯一無二のキャラクターというか、オーナーを「このクルマに乗りたい」とその気にさせてくれる、その奥には作り手の「哲学」があるんです。

また、同じ時期に都内へ通っていたのですが、その道中に二玄社(※当時のカーグラフィック出版社)があったのもクルマ趣味に影響がありました。そこにはいつも雑誌でした見たことないようなクルマが停まっていて、よく実走をしていたんです。そこで国産車と欧州車の違いは何なのか・・・とコーヒーを飲みながら素人ながらにも観察していた時に気づいたのが、クルマの「足」の動きでした。

欧州車のストロークって独特で「しなやかさ」と表現することができる、どのクルマも自然にロールしてコーナーを駆けていくんです。その時代の国産車はスーパーカーブームの名残かも知れないけれど「いかにまっすぐ、速く走れるか」という評価基準が横行していました。直線番長なんて言葉の通り、馬力が高いほどヒエラルキーも高い位置にあって、その割にブレーキは効かないし、コーナーはカックンと曲げていく。むしろ、その逆境で機械をねじ伏せて支配下に置くような走りが「上手い運転」なんてされていたんです。

でも、欧州車を見て、触って、観察して分かったのは、彼らは違う価値観で勝負していたのでした。「コーナーを軽快に曲がる」とか「クルマ自体を楽しむ」なんて世界でバランスを調整していて、ポルシェ911であっても、大衆車のゴルフであっても、そのポリシーは一貫していたんです。だから、その価値観に惚れこんで「新車を買う時は欧州車」と、コツコツお金を貯めていました。

初めて買ったプジョーから、フランス沼へ


振り返ると、私はスーパーカーや肩ひじ張ったガチスポーツカーではなく、旧車や軽自動車、スポーツセダンなど一見普通に見えるクルマでありつつもスポーティーなものが大好きで、だから悩みに悩んで最初に買った新車は5速MTのハッチバック「プジョー106XSi」でした。

国内で106シリーズはS16グレードが有名ですが、最初期は500台限定でノーマルベースのグレードが輸入決定したのでした。でも、プジョーといえば「猫足」で、それをいち早く体験したかったし、もちろん周りで見かけることのないプレミアム性にも惹かれたのでした。コンパクトなボディにもかかわらず元気な1600ccエンジンを詰め込んでいて、普段使いであっても刺激的だったキャラクターは、さすがフランス車と唸りました。


その翌年くらいだったでしょうか、マツダ(&西武自動車)がユーノスブランドを廃止することになり、そこで併売していたシトロエンが撤退するニュースが入ったんです。シトロエンといえば、「魔法の絨毯(じゅうたん)」と憧れたハイドロニューマチック(※シトロエン独自の油圧・エアサスペンション)があり、一度は乗ってみたかった。

そこで、ディーラー撤退前に冷やかしに行ったら、在庫処分になっていたエグザンティアブレークが、軽自動車が買えてしまうくらいのとんでもない値引き提示をしてきて・・・プジョーから乗り換えてしまいました。当時はお金があったなぁ・・・

もちろん、当時のシトロエンなんて信用できないクルマの筆頭みたいなもんですから(笑)、ハイドロは最高でしたが経済的な面で厳しくなり、結局乗り換えることになりました。その後はルノー・トゥインゴ、プジョー306、シトロエン・サクソと、結局フランス沼にハマっている状況は変わりませんでした。一癖も二癖もあるクルマたちでしたが、所有欲というか「このクルマでなければダメだ」と深いオーナーシップを提供してくれた、思い出深い名車たちでした。

ただ、いずれも心許せるかというと話は別で、メインはフランス車、サブに日本車を所有していたような感じです。そんなクルマ遍歴ですから、職場でクルマ好きな同僚とも仲良くなって、休日にお互いのクルマを交換してレビューをするようになっていったんです。そんななか、後の妻になる女性が所有していたのがNBロードスターでした。

衝撃を受けた、オートマチックのNB2ロードスター


彼女が所有していたNBロードスターはクリスタルブルーメタリックの、世代でいえば後期型NB2でした。NB6C(1600cc)SPの4速AT仕様なので、スペック的に尖っている部分はないと思います。マニュアル至上主義ではありませんが、正直「スポーツカーでオートマ?」「雰囲気重視かな」なんて心の中で思いながら運転をさせてもらったら・・・激しく反省する羽目になりました。

なによりも、スピードを出さなくても意のままにクルマが動くハンドリングに「国産車でもこんなにヒラリヒラリと軽快に走るクルマがあったのか」・・・と衝撃を受けたのです。ちょっとイヤミに聞こえるかも知れませんが、それまでの評価ベースが欧州車だったこともあり、自分の視野が狭まっていたことを実感しました。

理屈抜きで運転が楽しい!という鮮烈な印象は、マツダのオートマチックトランスミッション特有の雑な変速ショックですら鼓動感とでもいいましょうか、味として感じてしまったんです。欧州車に負けず劣らず「このクルマじゃないとダメだ!」と思わせてくれる、乗り手をその気にさせてくれるクルマでした。

改めてディティールを観察すると、コンパクトなFRにもかかわらず収容力の十分なトランク、2名乗車には十分な居住性・・・日常生活の足と趣味を兼ねて乗るにはベストなクルマであり、変なキャラクターラインもない有機的で美しいエクステリアに、いつの間にか惚れ込んでしまいました。


実は、友人が新車のユーノスロードスター(NA)を買ったときに少し借りる機会はあったのですが、シフトフィールの良さやボディの軽さを感じつつも「いいクルマだな」程度の印象しかなくて、食指は動かなかったんです。また、NB1デビューの時も展示場で説明を受ける機会はあったけれど、試乗を勧められても面倒で断っていたくらい、ロードスターには全然興味がありませんでした。

ただ、彼女が所有するロードスターを運転させてもらうようになり、じっくり乗ることで改めて知ることは多く、日本車でここまでフィロソフィ(哲学)を感じたのは初めてでした。片耳でRX-7に関わった人が作っている話を知ってはいましたが、ロードスターにもエンジニアの明確な意思や作りこみ、つまり欧州車のような「仕立ての良さ」を感じることができたのです。見た目だけの廉価なオープンカーだろうと思って馬鹿にしていたのに、どんでん返しを食らった感じです。

NB2からNB3の新車購入へ


いつしかNBロードスターの所有者だった彼女のクルマ好きの血を焚きつけてしまったのか、一緒に行動するようになってから「ロードスターをもっとダイレクトに味わいたい」と言い出すようになっていきました。

個人的にはATのNBロードスターでも十分楽しかったのですが、彼女の勢いは止まりません。いつの間にかマニュアル仕様に乗り換える決断をしていたようで、オートマ限定免許も解除していました。だから、今の(※所有している)NBの「黒いボディカラーに明るい内装」というチョイスは彼女のこだわりです。黒は夏場に暑くなってしまうし、ボディメンテナンスは大変なんですけれど、「そういうのは任せる」ということで・・・

NB2からNB3の乗り換えというは当時でもかなり贅沢な選択でした。実際にNB2の下取り価格はけっこうエグくて・・・それでもコスト度外視で乗り換えてしまうくらいのパワーをNBロードスターは持っていたんですよね。だから、うちのロードスターの最初の所有者は妻であり、私はメンテナンス担当としていたのが、今のNBロードスターを迎えることになったいきさつです。

そもそも欧州車志向の強かったA氏がたまたま出会ったNBロードスター。当初、本音は廉価なATオープンカーと思い馬鹿にしていたそうですが、そのハンドリングに唸ることになります。

さらに、走り込むにつれて、馬力に依存せず「乗り味」で勝負するキャラクターと、スポーツから普段使いまでこなす作りこみに惚れ込んでいくことになります。また、クルマ好きの彼女が勢いでオートマチックからマニュアルに乗り換えるというのも、幸運だったかもしれません。

では、なぜ「降りる」決断をすることになるのか。次回へ続きます。

関連情報:

NBロードスターの新車見積価格


参考:A氏の車歴

購入年 年式 車名 メーカー 型式
1987 1986 カリーナセダン1600GT トヨタ AT160
1988 1974 フェローMAXハイカスタム ダイハツ L38
1988 1984 アルトCタイプ スズキ SS40V
1991 1988 ミニカエコノターボRホワイトパック 三菱 H14V
1994 1986 コロナクーペ1600GT トヨタ AT160
1996 1996 106Xsi プジョー S10
1998 1987 ミニカ5ドアターボ 三菱 H14A
1998 1997 エグザンティアブレーク シトロエン X1RFW
1999 1995 ビートバージョンZ ホンダ PP1-110
2000 1985 マイティボーイPS-QL スズキ SS40T
2000 2000 KeiターボSタイプ スズキ HN21S
2000 1990 リーザchacha ダイハツ L111S
2000 1990 リーザOXY-R ダイハツ L111S
2000 1976 ミニカ5ハイスタンダード 三菱 A104A
2001 1973 ミニカF4 GL 三菱 A103
2002 1995 トゥインゴEASY ルノー 06C3G
2002 2002 ロードスター1.8VSコンビネーションB マツダ NB8C
2007 1998 306S16 プジョー N5S16
2011 2002 サクソVTS シトロエン S8NFS
2019 2019 アルトワークス スズキ HA36S

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