ロードスター開発前夜(B-2)

ロードスター開発前夜(B-2)

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今回の話は、NAロードスターが開発されていく中でのエピソードです。あえて貴島さんに「何故ダブルウイッシュボーンなの?」と聞いています。

貴島さんのプロフィールはこちら

FFやMRの検討モデルに対して


あれは当て馬で、最初から作る気がなかった(笑)。オープン2シーターを作ることはもう分かっていたんだけれど、ホンダのシビックはアメリカで売れているからどうだ?なんて話が来るから、経営陣を説得する為にああいうモノを作った。

「FRが楽しい」といくら伝えても、(当時)20年以上マーケットがゼロなうえに、何十とある世界中の自動車メーカーがFRのオープンカーなんて作っていないところに、ウチ(マツダ)がFRでオープンカーやって儲かるのか?ってなった時、経営陣の誰も信用しない。

だから他の形だけ作っておいて、クリニック(市場調査)をおこなったら「やはりこれが良かったです」と、支持が一番多かったデータを持っていけば「やってみるか」となる。


本陣(マツダ)であることをばらさないように、アメリカのスタッフだけサンタバーバラのショッピングモールにコンセプター(V705)も持っていったけど、時速5〜60km/hで走れなければならないというから、RX-7(SA22)のストラットサスペンションを付けた実走車をイギリスで作って、アメリカに持っていった。

すると、これはポルシェか、いつ出るのか、いくらなのかって現地で聞かれて、「いくらなら買うのか」と逆に聞いたら、10人中8人が買いたいといってくれた。実際20年間マーケットゼロで、何をかけ算しても「売れる」根拠、エビデンスが無いから、そんなデータを持って経営陣を説得にまわった。

何よりも従業員が欲しがってくれて、経営陣の中にも好きな人はいるけれど立場上絶対にそれをいえない。だから、私から言わせてもらうと、ある意味ずるいけれど・・・暗に承認される方向に導いていくのが面白かった。

ベンチマーク車種について


普通の開発では、キーになるクルマを三台購入して性能確認の分解をおこなう。1台はティアダウンといって、スポットも剥がせないくらいバラバラの断面に切るって、戻せないくらいの解体をおこなう。もう1台は性能測定の実験を行う。最後の1台はベストな状態で置いておいて、出来上がった試作車と比較をおこなう。エンジニアリングは学びだから、それくらいベンチマーキングをしないとよそには勝てない。

しかしNAに関しては参考車両がなかった。初代(NA)のプログラムは本当にいけるか分からなかったから、これが本当に大変で、衝突安全やねじり剛性などの目標値を試行錯誤しながら決めていった。

実際、正式なプログラムとして認められていないから原資がなくて、みな手弁当でやるしかなかった。当時は今のようにタダ残業をしてはいけないなんて時代ではなかったので、自分でも絶対に欲しいという好き者が集まった。土曜日出社をしたり、残業時間のここを使ってやろうとか効率的にやって、そういう体制を構築した平井さんは立派だった。

ダブルウィッシュボーンの採用に関して


スポーツカーを作るならオーナーが「キャンバー」や「キャスター」を調整する楽しみがあるから、ストラットではなくてダブルウィッシュボーンでないと駄目だと主張をした(※貴島さんはNA初期のシャシー担当)。すると「君たち軽量なクルマを作りたいんだろう、なぜストラットにしない」といってくる人がいた。

平井さんからも貴島くん説得してくれと頼んでくる。しかし、そういう人たちはすぐ「データを持ってこい」となる。それで重量並べてみろ、コスト並べてみろ、どっちがいい?となったら負けるから行きませんと断った。当時のウィッシュボーンは重くて値段も高いから、プラン段階で負けたら潰されてしまう。

でも、また2~3日経ったら「そうはいっても説明をしてくれ」とお願いをされた(笑)。だから、今の数字では絶対に駄目なので、ウィッシュボーンをストラットの値段で、場合によっては安く、軽くしたいと技術屋さんがいっている。これをを信用して伝えてください・・・と頼んだ。収益と性能は整合をとって初めて成立するのであって、重いけど使わせてくれとか、コストが高いけど性能がいいなんてのは絶対駄目になる。


誰もがウィッシュボーンを好んで高いコストを払ってくれるのかとなると、お客さん全体でみても、ほんの僅かしかいない。普通の人はストラットでもウィッシュボーンでも、オープンカーであれば何でもいいはずだし、そんな人たちからお金は貰えない。

こだわる人たちのために作って値段が高くなったら、普通の人たちが逃げていく。だから技術屋は努力をしなければならない。

ダブルウィッシュボーンの良さとは?


ダブルウィッシュボーンはもともと性能の高いシステムで、スポーツ走行だけではなく、一般の使い方でも性能がいい。昔はシンプルなダブルウィッシュボーンしか無かったけど、コーリン・チャップマン(※)が、アッパーアームを付けると勿体無いからダンパーを長くして簡略化したのがストラットになる。

※コーリン・チャップマン:レーシングドライバー、ロータス・カーズ創始者 参考リンク

これの何が悪いというと、ステム(※軸)に曲げ荷重が入る。だからストラットのダンパーは径が太い。それがフリクション(※摩擦抵抗)になるし、性能も悪いし、重量もかさむ。上が止まっているからキャンバー調整もやりづらい。


アッパーがあれば、それを変えることによってキャンバーコントロールが可能になる。加えて、長さやアンチダイブ(※前傾姿勢)など、設計上の自由度がいろいろ出てくる。ロードスターのようにアームを軽くしたウィッシュボーンのダンパーはフリクションも少なく性能がいい。だから、世の中の高級車はダブルウィッシュボーンになっている。

一方、ストラットを極めたのはBMW。ストラットに曲げ荷重が入っても歪(ゆがみ)が入らないようにバネ荷重でオフセットさせて打ち消す構造はBMWの特許になる。日本のメーカーはトヨタもホンダもマツダも全部、BMWの特許を使っている。

次回に続きます

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ロードスターの楽しみ方(B-3)

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