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A氏はもともと彼女がNB2ロードスターのATに乗っており、それを同じNBロードスターのMT新車に乗り換えるラッキーな展開になりました。ただ、当初はオーナーとしてではなくメンテナンス担当としてロードスターに触れていたそうです。
そこで今回は、メインオーナーになった経緯と、そこから「得たもの」と「失ったもの」、そして、どういった理由で20年乗り続けたロードスターを「降りる」決断に至ったのか・・・そんな内容のインタビューです。
前回の内容はこちら→https://mx-5nb.com/2021/09/20/graduated-from-roadster1/
A氏(関東在住):50代男性
ロードスター :2002年式NB8C 6MT
グレード :VSコンビネーションB
納車されたロードスターで困ったのは
新車で購入したNBロードスターは妻の実家に直接納車してもらったのですが・・・最初に困ったのがシートポジションでした。彼女の身長は高くはなかったのでクラッチペダルにぜんぜん足が届かない。だから、シートレールを前いっぱいにして、背中にクッションをいれてやっと足が届く(笑)。海外ではセクレタリーカー(※女性向けのクルマ)っていわれているくせにです。
ロードスターはグローバルカーのくせに、このご時世で「乗る人」を選ぶとんでもないクルマだと改めて思いました。海外の背が高い男性が乗れないなんてエピソードを耳にしますが、全く同じ困りごとが日本の片田舎でも起こっていたんです。
また、彼女もマニュアル免許を取り立てだから、クルマを車庫から出すことができない。昔の人は全員マニュアルのクルマを運転できますから義父が車庫から出してくれて、しばらくは近所の運動公園でシフトチェンジの練習を行っていました。
でも、「憧れのクルマに乗る」というパワーはすべてを乗り越えていくんですね。ほどなく運転できるようになってからは、通勤もレジャーも買い物もいつもロードスターと一緒で、最初の車検時には既に7万キロを超えるくらい走り込んでいました。もちろん私も借りて運転していましたが、あくまでNBロードスターの所有者は妻というスタンスで変わりありませんでした。
ロードスターの「取り回しの良さ」って分かりやすくて、取り回しとは「身のこなし」とか「立ち振る舞い」を指す言葉ですけれど、普段の足として使えるにもかかわらず、その足で峠にも寄り道できてしまう。ロードスターのキャッチフレーズに使われる「人馬一体」って曖昧な言葉だと思っていたんですけれど、ずっと乗っているととても納得できるんです。
NBロードスターの流麗なデザインに包まれると、自分の体の一部として機能するとでもいうか、この感覚はロードスターのオーナーさんなら感じたことがあると思います。
ただ、分かる人だけに伝わればいいかな・・・と、こっそりMX-5のパーツを輸入して、Trilogy仕様(※英国限定車)にモデファイをしていました。ひとつだけ成し得なかったことは、Trilogyのスカッフプレートが手に入らなかったことです・・・
意図せず、ロードスターのオーナーになる
大きな転機があったのは、東日本大震災のあと(2011年)の頃でした。私の地元(宇都宮)は直接的な被害は大きくありませんでしたが、北関東は街全体が停滞ムードになったことが記憶に新しく、あれだけの災害ですから「この先に何が起こるか分からない」と誰もが胸に教訓を刻んだと思います。
何もない楽観的な状況であれば、次はアルファロメオのハッチバックを買おうかな、なんて思えたのですが・・・こんな時期、仕事の絡みで妻がメンタルをやってしまって、ロードスターはおろかクルマの運転自体もできなくなってしまったんです。
当たり前ですが、そうなると優先するものは変わってきます。趣味も含めていろいろ断捨離していくなか、クルマも減らすことになって・・・妻からは「自由にしていい」といわれたし、愛すべきフランス車に後ろ髪を引かれなかったといったら噓になるけれど、彼女が元気になったら、またロードスターのステアリングを握らせてあげたい。
そんな思いから、NBロードスター1台を残して他のクルマを売却しました。
NBロードスターで学んだこと
色々思うこともありましたが、せっかく残したロードスターですから楽しまなければ勿体ありません。「ロードスターは人を繋ぐ」という言葉がありますが、おかげで私もいろいろな方と知り合うことができました。
ロードスターの凄いところはクルマの良さもさることながら、自分のやりたいことを実現できるコミュニティがいくつも存在するところです。ウマが合う仲間に出会うこともできるし、開発者と話せる機会もある。仲間と法定速度でゆっくりツーリングしているだけでも気持ちいい。サーキットを極める人もいれば、ドレスアップを楽しむ人、見えないところまで掃除する人、クルマ談義をガチンコで話せる人も・・・文化っていったら大げさだけど、そういう意味で世界が広がっているのが、このクルマが支持される背景にあるのかなぁと思うんです。
だから、実は大型ミーティングにも夫婦でひっそり参加をしていて「あの時は楽しかった」なんて話は今も出てきます。また、SNSの繋がりでツーリングやイベントにソロでも参加するようになり、地元クラブのイベントスタッフも経験させて貰いました。何気ない会話でも趣味が合う友人たちとの交流は、心休まる瞬間でした。
しかし、楽しいことだけじゃありません。実は大変なトラブルも幾度か経験してきました。うちのロードスターは「壊れ癖」があるようで、何度も同じ場所が逝くんです。運転席の窓は2回落ちているし、リアキャリパーのラインも2回フルードを吹いています。事故られてヘッドライト交換もしています・・・が、フレームまではいかなかったのは不幸中の幸いでした。
ただ、当時は部品も高くなる前だったので、欧州車に比べれば国産車の部品や工賃の安さには衝撃を受けていました。コスト重視でいるならば、古くから付き合いのある整備工場にお願いすればもっと抑えることはできましたが、新車購入時からあえてディーラー整備にこだわって、点検、車検、整備等すべてマツダディーラーによる記録簿を残してもらっていました。正直、予防整備も含めて修理にいくらかかったかは計算しないようにしています・・・
ロードスターを手放すということ
ただ、私はロードスターを降りる決断をしました。きっかけは色々ありますが、大きくはふたつです。
実際、日本車って大きく壊れないイメージがあったんですけれど、いっきに不具合が重なったのは14万キロを超えてきた頃です。決定打になったのは、ミーティングの帰路にディーラー整備でも盲点となっていたオイルクーラーホースに穴が開き、冷却水を吹き出して高速道路上で止まってしまった事です。
その対策を行った直後、近い場所にあったヒーターホースに穴が開き再び冷却水漏れ・・・オイルクーラーホース破損時にエンジンのライン全体が熱くなってしまって、それが劣化を促進したのではと推定しているのですが、そんな「故障の連鎖」が続き始まりました。
もちろん予防整備はその後も続けていくのですが、これがきっかけでNBロードスターで遠出をするのはもちろん、街乗りも含めてメインで使用するのは難儀だと思うようになり、街乗用のクルマを購入しました。しかし・・・最近の日本車って本当に出来が良くて、その軽のマニュアルが最高に面白いクルマだったんです・・・
また、ロードスター乗りのコミュニティにもいろいろあって、98%は良識のある方々ですが、残り2%の人にはかなり癖がありました。趣味でお金儲けをするコミュニティは存在するし、他力本願で要求だけしてくるクレクレ君や、しょうもない不倫騒動、礼節を欠くコミュニケーションなど、嫌ならば繋がりを持たなければいいのだけれど、しょうもない人間関係に辟易する機会も重なりまして・・・
とくに厄介なのが、他のクルマを知らないで「ロードスター最高」って断言する、見識の狭い考え方が仲間うちで横行するのが、本当に見ていてツラいんです。正直、私もかつては欧州車が最高と思っていたわけですから、気持ちはとても分かります。でも、それを口に出すかは別だし、どのジャンルでも面白いクルマは世界中に沢山あるんです。
そんな当時の私を目覚めさせてくれたのがオートマチックのNB2だったのですが、いつの間にかロードスター界隈でも、そんな排他的な空気を感じるようになりました。ただの「よかったねー」ってコミュニティの方が気持ちいいし楽なのは分かります。でも、そうじゃないだろっていうのがクルマ好きの意地なんです。
アルファードだっていいクルマだし、オートマだってスポーツカーは楽しめるんです。それをロードスターという狭い世界であれどもグレードや排気量でマウントを取りあうことがあるなんて、アホ臭くて笑ってしまいます。
そんな気持ちでここ数年モヤモヤしていたなか、メンタルが回復した妻から「もうロードスターは大丈夫」といわれたことが、ロードスターを卒業する決定打になりました。
雨が降ったあとは下回りを洗って、ボディ全体の雨水と汚れを洗い流し必ず拭き取りをしておく、車両の健康維持のために少しだけ週末に乗る。それだけのために意地でクルマの維持をしてきましたが、テンションが落ちてしまった私よりも「ロードスターに乗ってみたい」と思って可愛がってくれる人に引き継いだほうが、このNBロードスターは幸せになれると気づいてしまったんです。
それならば、いつかまたロードスターを買うのか?と聞かれたら、今の段階では何も言えません。
後年、90年式の Vスペシャルを長く借りる機会があり、当時は気づかなかったNAロードスターの良さを味わうことができました。ただ、乗り味はクラシカルにも感じて、結局はNBロードスターの仕立ての良さを再認識することになりました。もちろんNDロードスターも幾度となく試乗を繰り返し、良いクルマであることには間違いないと確信しています。
でも、ロードスターとしての走りの軸は一緒なので、結局NBロードスターで十分と思えてしまうんですよね。
オーナーだったのは、幸せな時間だった
2021年、度重なる不具合と大きな経済的支出、メーカーによる部品価格の大幅な値上げにより、アフォーダブルにロードスターを維持するのはキツく感じる気持ちの割合が多くなりました。そんななか、今後の生活を考えた上で所有から約20年でロードスターを手放すのは、ちょうどいい頃合いという判断に到りました。
私がロードスターに関わった過去を振り返ると、心の底から欲しくて購入し溺愛したというよりも、この個体の背景にあるエピソードの思い入れのために、現在までテンションを維持できていました。妻の存在、そして家族としてのエピソードが無ければ、おそらくは既にロードスターを手放していたでしょう。
だからこそ、私にとってのロードスターは「車台番号300410」の、このNBロードスターだけなんです。このブリリアントブラックのボディには多くの思い出が詰まっているので、今後他のロードスターに乗る選択肢は考えていません。この子が可愛いからこそ、乗ってくれる人のもとに嫁がせてあげたいんです。
以上、つたない話ではありましたが、長年所有したロードスターを手放す人間の、ひとつのエピソードとして参考にしていただけたら幸いです。ロードスターは本当にいいクルマだし、それを知っているからこそ他のクルマも楽しむことができます。私にとってロードスターのオーナーだったことは、とても幸せな時間でした。
趣味なんて気楽にやればいい・・・しかし、趣味だからこそ本気になれる。
だからこそ、本気で乗ってくれる人のもとに嫁いだ方が、ロードスターも幸せになれる、そうおっしゃっていたのが印象的でした。個人的にはディーラー整備されている極上のNBロードスターがどこに行くのか気になるところですが、少なくとも廃車になることはなさそうです。
そんなA氏には、あえて「ロードスター卒業、おめでとう!」とエールを送りたいと思います。
※このロードスターは2022年3月中旬に、次のオーナーの元へ嫁いでいきました。
参考:NB8C-300410
10万キロ以降のメンテナンス(抜粋)
走行距離(km) | メンテナンス項目 |
99,300 | タイミングベルト交換(1回目) ウォターポンプ、テンショナー、シール類等含む |
108,651 | 右後ブレーキキャリパーアッセンブリー交換 |
131,798 | 右パワーウインドウレギュレーターアッセンブリー交換 左後ブレーキキャリパアッセンブリー交換 ブレーキパッド前後交換 |
139,113 | ブーストセンサー交換 |
142,821 | ショックアブソーバー新品交換 ホイールアライメント調整 |
148,113 | クラッチO/H、デフマウント交換 エンジンマウント交換、オイルパンオイル漏れ修理 |
152,223 | ブーストセンサー交換 クラッチレリーズシリンダーグリスアップ |
154,708 | タイヤ交換 YOKOHAMA S.drive AS01 195/50R15 ホイール交換 マツダ純正NR-A用 |
160,600 | シフトレバー周り部品交換 |
160,916 | ラジエター交換 |
161,916 | ダイレクトイグニッションコイル交換(2個) |
176,111 | フロントベルトラインモールディング交換 |
186,462 | タイミングベルト交換(2回目) ウォターポンプ、テンショナー、シール類等含む パルセーションダンパー交換 |
187,382 | タイヤ交換 MICHELIN Pilot Sport 3 195/50R15 |
196,707 | ホイールアライメント調整 エアコン点検&ガス入れ替え |
201,994 | クランクアングルセンサー、カムシャフトポジションセンサー ノックセンサー、フューエルフィルター交換 |
202,769 | 右パワーウインドウレギュレーターアッセンブリー交換 |
204,925 | クラッチペダル 可動部スプリンググリスアップ(異音発生のため) |
205,014 | クラッチレリーズシリンダー交換、ブレーキディスク前後交換 ブレーキパッド前後交換 |
209,618 | オイルクーラーウォーターホース等交換 |
214,665 | ドアウェザーストリップ左右交換 |
215,413 | ウォーターホース(ヒーターホース)交換(2回目) |
218,301 | 右後ブレーキキャリパーアッセンブリー交換 |
218,116 | プラグコード交換 |
218,551 | スロットルバルブ/ISCV清掃 シリンダーヘッドオイルシールキャップ交換 |
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