NBロードスター限定車「NRリミテッド」

NRリミテッド概要

2000年1月、NBロードスター前期型（NB1）末期に設定された限定車が「NRリミテッド」です。

冒頭のカタログ文言にあるとおり、NRリミテッドは欧州ライトウェイトスポーツをリスペクトした、トラディショナル（伝統的）なコーディネートが施されています。NB8C（1800cc）「S」グレードをベースに、エレガントさを重視した「VS」グレードから一歩踏み込んだインテリア、より明るいベージュ内装＆ダークウッドを採用し、さらに専用ボディカラー等をまとって限定500台でリリースされました。

なお、NBロードスターの限定車は英記号二文字で記されることが多く、「NR」とはおそらく「NOIR RED（ノワールレッド）」・・・つまり、濃い（深い）赤という意味であると類推します。つまり専用ボディカラー「アールヴァンレッドマイカ（A1Q/A7/23E）」を指しているのです。

また、このコーディネートは先代NAロードスターの限定車「VRリミテッド コンビネーションA」に先だって設定されていました。ロードスター初の世代をまたいだシリーズ化から、NRリミテッドはユーノス推しのオーナーからも当時一目置かれた存在になりました。

また、NRリミテッドは同一仕様の限定車が（NRリミテッドも含めて）全世界で約8,000台生産されています。

北米市場では「SE（SpecialEdition）」シリーズ、英国では「Icon」など、近年のロードスター限定車においても継がれているシリーズの先駆けでもありました。なお、海外のエクステリアカラー名は「Mahogany mica（マホガニーマイカ）＝楽器などに使われる赤い木材」「Merlot Pearl（メルローパール）＝赤ワイン用ブドウ」など、粋なネーミングが採用されています。

NRリミテッド仕様

NRリミテッドのベースとなるNB8C「S」グレードは、現行NDロードスターにも継承されている「Standard（標準）仕様」となります。走りを重視した「RS（Racing sports）」グレードとの差は、ハードサス（ビルシュタイン）と15インチホイールを履いているの差しかありません。また、LSD（トルセン）は装着されていますが、ABSは装着義務の前なので不採用でした。

さらに、NB前期型（NB1）における15インチ採用車は「ストラットタワーバー＆大径スタビライザー」を装備するルールがあったので、NRリミテッドにおいても同様の装備（ストラットタワーバーは専用塗装）が行われています。NB前期型のノーマルサス採用車においてこの処置は、NRリミテッドのみになります。

カタログモデルの「VS（Vintage special)」グレードが当時2,415,000円だったので、NRリミテッドにおける価格差は+101,000円。専用装備を踏まえたうえでも、費用対効果が高い限定車でした。　

NRリミテッド　エクステリアの特徴

NRリミテッドは、専用ボディカラー「アールヴァンレッドマイカ（A1Q/A7/23E）」が採用されています。

アールヴァン（＝Art Vin）とはトルコ北東部の都市で、濃赤色な宝石「山珊瑚」の生産地です。その「深い赤（ノワールレッド）」にちなんだシックな色味は、NRリミテッドの「ピュア＆オーソドックス」というテーマを満たすボディカラーではないでしょうか。

このボディカラーのルーツはNAロードスターの「VRリミテッド」より、さらに前が存在します。かのユーノスブランドにおいて、名匠ジウジアーロに「世界で一番美しい小型サルーン」といわしめた「ユーノス500（後期型）」のテーマカラーとして開発された逸品だったのです。

ユーノス500は10年経っても色褪せないとうたわれた塗装「高機能ハイレフコート」を持って、前期型では「メイプルレッドマイカ（D7）」という専用テーマカラーが設定されていました。2年後のマイナーチェンジでアールヴァンレッドに差し代わったことから、メイプルレッドマイカと同時に開発された、もうひとつの選択肢であったことが分かります。

ユーノス500は、今でいうグランクーペ的な位置づけとなるスペシャリティセダンであり、シックで色気のあるワインレッドが似合う、とても美しいクルマでした。アールヴァンレッドマイカ自体もユーノス500とロードスター以外では塗られておらず、全マツダ車においてもレアリティの高いボディカラーになります。

また、NRリミテッドでは先に登場したNBロードスター「10周年記念車」と同じく、純正デザインのバフ仕上げ15インチホイールが採用されました。当時、実は海外では不評だったことから、NRリミテッド以降のロードスターでバフ仕上げが採用されることはなくなってしまったことからレアリティが高く、ロードスターのクラシック系のモデファイにおいては、今でも人気の高いホイールになっています。

ベージュに染められた幌（ソフトトップ）もNRリミテッドだけに採用されました。NBロードスターでは後期型（NB3以降）でもベージュの幌が採用されますが、そちらはクロス生地であることからビニール素材の明るい幌はNRリミテッド唯一のものとなります。さらに特筆すべき点として、通常はオプション扱いのソフトトップカバー（ベージュ）も、標準装備になっていました。

NRリミテッド　インテリアの特徴

インテリアは本革シートやシフトブーツも含め、ほぼ全てベージュでコーディネートされており、ステアリングやシフトノブのダークウッド・ナルディが差し色としてまとめています。インナードアハンドルやサイドブレーキのプッシュボタン、メーターパネルのメッキリングなどの専用装備や、ロードスター初のホワイトメーターパターンも採用されました。

オーディオにおいても抜かりはなくBOSEサウンドシステムが採用され、まさに「全部入り＋α」のような存在になりました。しかし、海外では標準装備となる専用フロアマットは日本市場のみオプションでした（+18,500円）。

NRリミテッドにおいて、とびきりなレアリティとなるアイテムがイグニッションキーで、形状は同じであってもベージュカラーが採用され、いつのもマツダキーに見慣れてると驚くと思います。

そもそも、最近のイグニッションはプッシュボタン化されてしまい、クルマの「鍵」自体を見なくなってしまいました。したがって一周回って「レトロかっこいい」アイテムといえるのではないでしょうか。残念ながら、既にパーツは廃盤になっているため、正規ルートで手に入れる術はなくなりました・・・

余談ですが、先代のVRリミテッドにおけるインテリアは純然たるベージュではなくトープ（もぐら色：灰色が少し入っている、落ち着いたベージュ）であり、これはXedos 6（海外版ユーノス500）やユーノスコスモなど、ユーノス系高級車の内装にちなんだカラーリングとなっています。

ノワールレッドの系譜、その後・・・

NRリミテッドはNBロードスター前期型（NB1）終盤に設定された区切りであり、ある意味「全部入り」仕様として仕上がっていました。

限定車として一定の成果をあげたことから、後期型におけるマイナーチェンジ（2002年7月以降の「NB3」）では、NRリミテッドとほぼ同じ仕様に仕上がる「VSコンビネーションB」が、ついにカタログ入りすることができました。「アールヴァンレッドマイカ」の実質的な後継として設定された「ガーネットレッドマイカ（25F）」と、ベージュ＆ダークウッドインテリアは「NRリミテッド」が先陣を切ってくれたおかげでしょう。

また、ノワールレッドの系譜としては、NCロードスターにおけるテーマカラーのひとつに設定された「カッパーレッドマイカ（32V）：NC1～NC3」がカタログカラー採用されています。ただ、「VS」グレードのインテリアカラーはベージュ（明るい内装）ではなく、サドルタン（チョコレート系）のより高級感があるコーディネートへ変更されました。また、残念なことにウッド内装は法規的な部分や、そもそもモダンデザインなNCロードスターにマッチしないことから採用されず、ショップオプションとなりました。

なお、NC3ロードスター最後期にはカッパーレッドマイカが「ジールレッドマイカ（41G）」に差し変わっています。これはNDロードスターのソウルレッドに繋がる素敵な色であることと、NC3ロードスターはほぼ国内市場で売れなかったことから、激レアなボディカラーとなっています。

ただ、限定車としてはかつてのロードスターと近しいコーディネートが復活しています。

2006年の「Blaze Edition（ブレイズエディション）」における「ラディアントエボニーマイカ（28W）」＆サンドベージュ内装は、まさにVRリミテッドの系譜です。ちなみに、ブレイズエディションでは濃緑色「ハイランドグリーンマイカ（35K）」を選択することも可能で、こちらはNA/NB時代の「VSスペシャル」をリスペクトしたものです。

また、珍しいところではRX-8の2004年に登場した限定車「スポーツ・プレステージ・リミテッド」が「ラディアントエボニーマイカ（28W）」＆サンドベージュ内装を採用しています。

しかし、現在はノワールレッドの系譜は断たれてしまい、マツダのスポーツカーでこのカラーコーディネートを見ることはなくなってしまいました。

2022年末、マツダ独自の塗装技術「匠塗（TAKUMINURI）」による特別塗装色第4弾、「アーティザンレッドプレミアムメタリック」が設定されました。「しっかりと深みと濃厚さを演出するハイコントラストな表現は、造形の強さと美しさを際立たせます」と公表されており、まさにノワールレッド系譜の復活です。

その第一弾として「MAZDA6 20th Anniversary Edition」・・・つまり、旧名「アテンザ」の20周年記念車に、個の新色が採用され、内装にもタンカラーがコーディネートされています。（個人的にはNDロードスター2リッター2023年モデルあたりにも、この色が採用されると予想しています。

さらに、2024年末には念願の「アーティザンレッドプレミアムメタリック」×「スポーツタン」内装を採用した、ロードスター35周年記念車が設定されました。NA、NB,NCと続いたノワールレッドの系譜は今後も継続していきそうです。

さて、NRリミテッドの登場から20年以上経った今、自動車業界のトレンドは大きく変わっています。そのようななか、NRリミテッドには派手さや華やかさはありませんが、アールヴァンレッドの小さなオープンカーは現在の目で見ても特別感というか、小粋な雰囲気を醸し出しています。ピュア＆オーソドックスというコンセプトは陳腐化していない証明ですね。

そんなハイセンスで特別なロードスターが「NRリミテッド」でした。

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NBロードスター　ガーネットレッドの魅力