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ロードスターのECU制御範囲
バッテリー端子を外して20秒以上経過すると、クルマの学習データ(ECU)がリセットされる・・・なんて話、旧車では「あるある」なネタだと思われます。
実際、NC/NDロードスターはバッテリー・リセット後に各種電子デバイス(DSCやパワーウインドー)を復旧させる方法がマニュアルに記載されています。これがビデオゲームの隠しコマンドみたいでカッコいいんですよね。
しかし、NA/NBロードスターにそんな手順は存在せず、給電カットは単純にリセットされ、ゼロから再学習になるとされています・・・が、「何を学習しているのか」ご存じでしょうか。
20~30年前のNA/NBロードスターであっても、ECU(Electronic Control Unit)というコンピュータを積んで、分かりやすいところでは、スピードリミッターやスタートダッシュ時にはエアコンをカットするなどの自動制御を行っています。
ちなみに、当時のマツダでは「PCM:パワーコントロールモジュール」と呼称され、NA/NBロードスター共に助手席の足元奥のパネルにユニットが格納されています。なお、公表されている制御範囲は以下の通りです。
①入力(センサー) | → | ②ECU/PCM(制御) | → | ③出力 |
エアフロ・センサ | アイドル回転制御 | ISCソレノイド・バルブ | ||
カムシャフト ポジション・センサ |
燃料噴射制御 | フューエル・インジェクタ | ||
クランクシャフト ポジション・センサ |
フューエル・ポンプ制御 | サーキット・オープニング・ リレー |
||
スロットル ポジション・センサ |
点火時期制御 | イグニッション・コイル | ||
水温センサ | パージ制御 | パージ・ソレノイド・バルブ | ||
吸気温センサ | A/Cカット制御 | A/Cリレー | ||
O2センサ(ヒータ付き) | ファン制御 | クーリングファン・ リレー |
||
スピードセンサ(車速) | オルタネータ制御 | コンデンサ・ファン・ リレー |
||
ニュートラル・ スイッチ(MT) |
可変吸気制御※ | オルタネータ (フィールド・コイル) |
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クラッチ・スイッチ(MT) | スロットル全閉学習制御 | オルタネータ・ ワーニングライト |
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ノック・センサ | 可変慣性吸気 ソレノイド・バルブ |
|||
P/Sプレッシャ・ スイッチ |
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ストップ・ライト・ スイッチ |
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A/Cスイッチ | ||||
オルタネータ (ステータ・コイル) |
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ダイアグノシス・ コネクタ(TEN端子) |
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バッテリ | ||||
インヒピタ・スイッチ(AT) |
※可変吸気制御はNB8のみ
※ABS制御ユニット、AT制御ユニットは別途アリ
上記の表をざっくり解説すると、「①各種センサー」を介して「②ECUで統合/計算/調整」をおこない「③出力機能へ反映」させる仕組みです。
各種情報はリアルタイム検出され、フィードバックデータがクルマに自動反映されているようです。その制御解像度はNA6~NA8ロードスターシリーズ1まで8ビット、NA8シリーズ2~NBロードスター以降は16ビットになっています。
8ビットと16ビットの違いはビデオゲームコンソール(ファミコンVSメガドライブ)を連想させますが、ざっくり書くと扱える値が0~255(8bit)から0~65535(16bit)と大きく変わます。(合わせてメモリも多く扱えるようになります)
ちなみにこれはロードスターだけが16ビット化したのではなく、マツダ車自体のECUパワーを底上げさせざるを得なかった背景があります。米国市場では1996年以降にOBD対応(車両診断装置の共通規格)が義務化がされたからです。
そうはいっても今ほど電子制御の及ぶ範囲は低く、物理法則の及ぶ範囲が大きかった時代です。当時のエンジニアによる感(勘)に基づいた「味付け」により動くクルマは、電子制御であってもクルマが意思を持っていると感じさせてくれます。
ただ、そのなかでひとつだけ「学習機能」という項目があることにお気づきでしょうか。これがオーナーの乗り方で変化する、そのクルマ特有のクセ(味)になっていくようです。
スロットル全閉学習制御
電子制御の項目のひとつ「スロットル全閉学習制御」とは、スロットル・センサの信号を基に変化するスロットル・バルブの状態を【全閉学習域(全閉電圧値)】としてECU(PCM)に記憶する制御機能です。
スロットル・バルブとは吸入空気量を制御するための装置。NA/NBロードスターはアクセルペダルに繋がれたアナログワイヤーによりスロットル開閉を行い、そこで吸入された空気量に合わせてエンジン出力がコントロールされます。
面白いのは、アクセルを踏み込む走行中では前後の事態が想定できないので、アクセルを戻してから(スロットルが閉じる)」停止するまで状態でステータス判断を行い、ロードスターはオーナーのクセを学習していきます。
また、この制御はスロットル・バルブの経年変化も記憶していきます。電源カットされない限り、ECUは常に最新のスロットル全閉電圧値を検知、記録していくのです。ちなみに、この機能により従来の(旧車に付けられていた)アイドル・スイッチは不要になりました。
ECUの学習更新要件
ECUは下記条件がすべて成立した時、全閉平均値を全閉学習値として更新します。
1)全閉平均値と全閉学習値の差が一定値以上の時
2)評価値が1以下の時
3)全閉値抽出条件成立中に全閉平均値が更新された時
全閉平均値、全閉値抽出条件、評価値および禁止事項は以下の通りです。
全閉平均値とはスロットル・バルブ全閉値をECUが一定間隔で検出、平均値として算出したものです。また、走行時ではスロットル・バルブ全閉状態の検出が困難なため、全閉値抽出は以下の条件全てが成立した時に行います。
<全閉値抽出条件>
1)車両停止状態で無負荷(ニュートラル・ギア)アイドル時
2)スロットル・バルブ開度の変化量が設定値以内の時
3)ダイアグノシス・コネクタ(TEN端子)、非短絡時
<評価値>
評価値とは全閉学習値と全閉平均値のズレの度合いを表したもので、その差が少ないほど学習値は安定しているとみなされ、評価値も上がります。評価値は以下の条件で増減します。
→ 評価値 = 1設定
2)ダイアグノシス・コネクタ(TEN端子)非短絡時、または全閉学習値が更新された時
→ 評価値 = 0設定
3)全閉学習値より全閉平均値の方が設定値以上大きい時
→ 評価加減値 = -1減少
4)全閉学習値より全閉平均値の方が設定値以上小さい時
→ 評価加減値 = 1増加
<禁止条件>
EUCは下記条件のいずれかが成立した時に学習困難と判断し、全閉学習値には設定値(固定値)を代入します。
1)ダイアグノシス・コネクタ(TEN端子)短絡時
2)スロットル・ポジション・センサの故障等
3)バッテリ(再)接続時
4)全閉学習値が一定値以上の時
5)全閉学習値が一定値以下の時
つまり、どういうことなのか
NA/NBロードスターECUの記憶領域にどれだけ保存メモリが割り当てられているか非公開になっていますが、8ビットで約64KB(キロビット)、16ビットで約1MB(メガバイト前後)と想定され、その中にオーナーのクセを「学習」いるようです。
もちろんクルマの状況によりECUが最適解のマップに微調整しているのですが、日常的に「燃費運転」と「峠に攻めに行く」ロードスターでは踏み方が変わりますので、それに合わせた特性を平均値としてアクセルレスポンス(スロットルレスポンス)仕上げているのです。
つまり、たまに友人のロードスターのステアリングを握った際に、同じエンジン、同じグレードであっても若干イメージが異なることがあるのは、モデファイ以外にもこういった学習機能が反映されていたようです。
旧車はセッティングを変えるたびにECUリセットするのが定番ですが、ロードスターにクセがあると思ったら電源カット(ECUゼロリセット)するのは、ある意味で有効な手段かもしれません。
余談ですが、電動スロットル化されたNCロードスターにおいて、極初期(NC1)にアクセルレスポンスの違和感をうたうレビューが一部ありましたが、それは解像度の上がったECUによって「より細かく(1/1000秒単位)」オーナー向けの設定が可能になった影響も大きく(当時のポルシェよりも細かい制御を行っている)、逆にスロットルレスポンスが「育っていない」状態の印象であった可能性があります。
なお、デビュー段階で更に過敏に反応するセッティングは可能でしたが、一般道からスポーツ走行におけるコーナリング中のアクセルコントロール性など踏まえて、あくまでトータルバランスにこだわったセッティングとされています。
閑話休題、昨今の人工知能とまではいきませんが、長年貯め込んだ評価値(いわば経験値)に基づいた自分専用のマシンに仕上がっているロードスター。あなたのロードスター、調子はいかがですか?
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