NBロードスターのアライメント調整

NBロードスターのアライメント調整

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ロードスターが直進していない!


私の愛車は幾度となくホイール交換を行い、さらにサスペンション交換やスペーサーの装着をしています。また、下回りを当てたり、縁石レベルの障害物を乗り越えたり、もちろんブッシュの経年劣化もすすんでいるでしょう。つまり、足周りを酷使しつづけてきましたが、ふと気づけばとんでもないことになっていました。

それは「まっすぐ走っていない」事実です!

もともとステアリングセンターが緩いロードスターですが、スポークの下端をセンターにすると、クルマが明らかに右に寄っていくのです。メーターは見てもステアリングを見ないで運転していたから、お恥ずかしい話ですが、運転中に少し左にステアを入れる悪癖が付いていました・・・

そこで、きちんと現状確認をしながら「普通」の状態に戻すため、ホイールアライメントの調整をショップにお願いしてきました。ロードスターの足周りは自分で調整できる良さがありますが、水平が取れない状態ではDIYにも限界があるからです。

測定結果を読み解くと・・・とても残念な状態になっていたことが可視化されました。

アライメント、フロントの現状


まずは基準値と比較して、現状がどうだったのかを要素別に読み解いていきます。今回はテスターのデータベースをもとに、作業を行ってもらいました。なお、私の愛車は車高を下げておらず(経年劣化で数ミリ下がっていますが)、その前提で中央値をセットしています。

車高によって基準値が異なりますので、以下のデータはあくまで参考としてください。

<調整時ステータス>
フロントフェンダー端面からホイール中心までの寸法:346mm~355mm
リアフェンダー端面からホイール中心までの寸法:371mm~380mm
空気圧:2.2kg/cm2 ※規定より多めに入れています
ホイールアライメント NB6C基準値 調整前
フロント 基準 基準
①トータルトー(mm) 1.00 3.00 5.00 -3.10
②フロント個別トー(mm) 0.50 1.50 2.50 -1.40 -1.70


①②トー角

トーとは「足のつま先」を指す単語で、クルマの場合は真上から見た時の【タイヤの角度】を指します。前すぼみの時はトーイン(ポジティブトー)、前開きの時はトーアウト(ネガティブトー) といいます。ちなみに日本では左右のズレをmm(ミリメートル)で表示しますが、海外では角度表示になるそうです。

一般的なクルマは、走行中における足周りの挙動を見越してあらかじめトーの味付けをしていて、コントローラブルさを要求されるFR車はトーイン気味にセットされるようです。フロントタイヤがトーイン状態だとハンドリングのシャープさが減少しますが、逆にステアリング操作の影響を受けにくいため直進安定性が向上します。もちろんトーアウトは逆の効果を狙っています。

トーが適正値になるとブレーキ振動減少や加速性向上にも寄与します。また、トーインが過大だとタイヤの外側、トーアウトが過大だと内側が偏磨耗します。

NBロードスターはトーイン気味(片側+1.5mm、両側3mm)が規定値になりますが、調整前の愛車は真逆のトーアウト(両側-3.1mm)だったので、確かにレスポンスは良かった気がしますが、真逆の状態だったことに残念な気持ちになりました・・・

ホイールアライメント NB6C基準値 調整前
フロント 基準 基準
③フロントキャンバー -0°43’ +0°02′ +0°47’ +0°30’ -0°32’ +0°03’ 0°35’


③フロントキャンバー

キャンバー角とは、クルマを正面から見た時のタイヤの傾斜角を指します。V字形(外側)へ倒れているときはポジティブキャンバー(+)、ハの字形(内側)へ倒れているときはネガティブキャンバー(-)といわれます。ちなみにVIPカーでよく見る「鬼キャン」は、キャンバー角の事を指しています。

パワステがなかった時代のFR車は操作力を軽減させるためにポジティブキャンバーにしてありましたが、現代のクルマは基本的にキャンバーを付けないセットになっています。

ただ、コーナーリングを重視するスポーツカーはネガティブキャンバー気味にセットする傾向があります。それは、コーナーリングの際にタイヤが地面に対して垂直だと接地面積が外側に寄ってしまうので、キャンバーを付けることでグリップ稼ぐ効果があるからです。しかし、極端なキャンバーは偏磨耗の原因になり、左右の不揃いはステアリングが片側へ流れる原因になります。

キャンバーは(トーも併せて)適正値にセットすると、ハンドリング、グリップ、トラクション(加速性能)、乗り心地が向上し、ハブやドライブシャフトなど、足周りメカの負担も低減されます。

私の愛車はスペーサーをかませていたこともありネガティブ寄り(規定値以内)になっていましたが、左右差(0°35’)があったことからバランスを崩していた事が分かります。

ホイールアライメント NB6C基準値 調整前
フロント 基準 基準
④キャスター +4°55’ +5°40′ +6°25’ +0°30’ +6°33’ +6°26’ 0°07’


④キャスター

キャスター角とは「操舵輪にのみ存在する」角度で、クルマを「側面より見た時」のストラット(支柱)傾斜角度を表わします。この角度は自己直進性(まっすぐ走る力)に寄与するもので、特にFR車ではコーナー後にステアリングを元の位置に戻す役割を果たします。ちなみにそのセットは3°~10°と比較的大きな値で味付けされますが、FF車の場合はキャスターによるステアリングの流れがほぼないので、角度がつけられることは少なくなります。

左右の値が大きく異なると、直進させる力が弱まって直進安定性が悪くなります。さらに、片側に曲がりやすくなることでハンドリングにも違和感を覚えることになります。キャスター角の大きな調整はフレーム修正レベルになってしまいますが、微量であればトーとキャンバーの調整で補うことができます。

私の愛車は基準値より寝ていましたが、ありがたいことに左右はほぼ均等でした。

ホイールアライメント NB6C基準値 調整前
フロント 基準 基準
⑤SAI(キングピン角) +11°39′ +11°50’ +11°24’ 0°26’
⑥インクルーデット角 +11°18’ +11°27’ 0°09’
⑦前セットバック -0°04′ +0°00′ +0°04′ -0°13′

⑤⑥SAI(キングピン角)、インクルーデット角

SAIはクルマをを「正面から見た時」のストラット(支柱)が傾斜している角度を示します。また、インクルーデット角はキャンバーにSAIを加えたものになります。

基本的にここのみを調整をすることはでないので、現状を知る手段として確認する項目になります。極端な左右差があったり、規定値より30分以上狂いがある時は、事故車(もしくは後遺症が残っている)の可能性が高くなります。

ただ、左右差があるのは空気圧を始めとした様々な要因が考えられます。したがってボディの歪みを確認する参考値として見ておきましょう。


⑦前セットバック

セットバックとは、クルマを真上からみた際の車軸の平行度を表わします。 完全平行の状態(0°00′)が「当たり前」であり、+(プラス)だと進行方向に向かい運転席側(右)が前へ、-(マイナス)だと運転席側が後ろに下がっています。

SAIと同じくクルマの歪みを見る指標になることと、左右差は計測時の誤差があるかもしれませんが・・・それでも、私のクルマは右足が後ろに下がっている(歪んでいる)ことが分かります・・・

アライメント、フロントの調整

現状が分かったところで調整を行ってもらったのが下記の数値になります。今回は記事用にフロント/リアの順に記載していますが、作業自体は「現状把握」を行ってから「調整」になります。

キャスター 左ホイール 右ホイール
フロントカム リヤカム フロントカム リアカム
増加方向 反時計方向 反時計方向 時計方向 時計方向
減少方向 時計方向 時計方向 反時計方向 反時計方向
キャンバー 左ホイール 右ホイール
フロントカム リヤカム フロントカム リアカム
ポジティブ 反時計方向 時計方向 時計方向 反時計方向
ネガティブ 時計方向 反時計方向 反時計方向 時計方向

なお、ロードスターのフロントはインナーボールジョイントによるトー(ステアリング切れ角)の調整と、ダブルウィッシュボーンのロアアームにあるアジャストカムボルトで調整を行います。

ホイールアライメント NB6C基準値 調整後
フロント 基準 基準
①トータルトー(mm) 1.00 3.00 5.00 2.70
②フロント個別トー(mm) 0.50 1.50 2.50 1.40 1.30
③フロントキャンバー -0°43’ +0°02′ +0°47’ +0°30’ -0°30’ -0°32’ 0°02’
④キャスター +4°55’ +5°40′ +6°25’ +0°30’ +5°35’ +5°33’ 0°02’
⑤SAI(キングピン角) +11°39′ +11°50’ +11°24’ 0°26’
⑥インクルーデット角 +11°20’ +10°52’ 0°28’

トーとキャンバーを調整することで、結果として他の数値も適正値近くまで調整することができました。フロントは特にトーの適正化が中心になりましたが、キャンバーも左右を揃えることで驚くくらい直進安定性が増したことが体感できました。ちなみに、数値だけだと分かりづらいので極端なイラストにしてみると・・・

調整前はセット誤差(+0.5mmまで)以上にトーアウト(しかも右が空いている)だったものを、規定値に近いトーインへ調整。

片側に寄っていたキャンバーの左右差を無くしています。なお、キャンバーの規定中央値は+0°02’ですが、リアキャンバー(後述)を付けているので、後輪に合わせて規定内でネガティブ気味にセットしています。

アライメント、リアの現状

リア 基準 基準
⑧トータルトー(mm) 1.00 3.00 5.00 1.00
⑨リア個別トー(mm) 0.50 1.50 2.50 1.00 0.00

⑧⑨トータルトー、リア個別トー

後輪のトーは前輪以上に重要な役割を果たします。

後輪の一般的なトー角は0°が基本で、セッティングするにしてもトーインになります。その効果は、コーナリングの限界性能が上がる反面、コントロール性能は下がります。トーアウト設定はほぼ存在しないのは、コーナリングの限界性能が下がるだけでなく、直進安定性能も大きく損なわれるからです。

FR車であるロードスターはリアの安定性が乗り味の「肝」になるので、トーイン寄りの味付けが基準になっています。なお、愛車では左側のみトーインになっていたので・・・そりゃクルマが右に流れるわけです。

リア 基準 基準
⑩リアキャンバー -1°27’ -0°42′ +0°03’ +0°30’ -1°58’ -1°19’ 0°39’

⑩リアキャンバー

リアキャンバーの効果はフロントと同じで、ネガよりにすることでコーナリング中のグリップに効果が期待できます。ちなみに太いタイヤを履けばキャンバーを付ける効果(意味)がほぼなくなります。しかし、ロードスターは(現在のクルマとしては)比較的おとなしいサイズを履いているので、キャンバーの味付けに期待できそうです。

調整前のリアキャンバーは左右差があったうえに、規定値以上に寝ていました。つまり、直進安定性が悪く、変摩耗リスクを持っていたということです・・・

リア 基準 基準
⑪スラスト角 -0°15’ +0°00′ +0°15’ +0°30’ +0°03’
⑫後セットバック -0°04’ +0°00′ +0°04’ -0°07’


⑪⑫スラスト角、後セットバック

スラスト角はボディの中心に対した進行線で、もちろん規定値は0になります。右寄りは+(プラス)、左寄りはー(マイナス)としめされ、駆動輪が前にあるFF車にとって生命線的な要素であり、後輪のトーがおおきな影響を及ぼしています。

走行中に右に寄っていた私の愛車は「+」値が出ていましたが、こちらはアライメント調整で0にすることができました。また、後輪のセットバックは前輪と同じく「-」値を付けており、ボディが後ろも(つまり全体的に)歪んでいることが分かります・・・

アライメント、リアの調整

リアのアライメントもロアアームにあるアジャストカムボルトで設定を行います。フロントのキャスター角の調整と同じ個所で、リアはトーの調整になるのが特徴です。

トーイン 左ホイール 右ホイール
フロントカム リヤカム フロントカム リアカム
増加方向 反時計方向 反時計方向 時計方向 時計方向
減少方向 時計方向 時計方向 反時計方向 反時計方向
キャンバー 左ホイール 右ホイール
フロントカム リヤカム フロントカム リアカム
ポジティブ 反時計方向 時計方向 時計方向 反時計方向
ネガティブ 時計方向 反時計方向 反時計方向 時計方向

下記の表が調整後のものになります。リアは基準値よりも低かったトーを左右ともトーインに調整し、キャンバーは規定値の限界近くまでネガティブにセットしました。これは5mmのスペーサーをかませていることが理由で、スペーサーを外せば規定値寄りになるようにしてあります。(単純に、コーナーの限界を少しでも上げたい意図もあります)

リア 基準 基準
⑧トータルトー(mm) 1.00 3.00 5.00 3.30
⑨リア個別トー(mm) 0.50 1.50 2.50 1.60 1.60
⑩リアキャンバー -1°27’ -0°42′ +0°03’ +0°30’ -1°14’ -1°14’ 0°00’
⑪スラスト角 -0°15’ +0°00′ +0°15’ +0°30’ +0°00’

改めて可視化すると、以下のようになります。

調整前は片側のみトーインだったことで、スラスト角も右に寄っていましたが、左右均等にセットすることで直進安定性を向上させて・・・

片側のみ極端なキャンバーが付いていたものも、規定値以内で再調整を行いました。ちなみに、イラストは極端な表現にしていますが、実車でセッティングを確認しようにも、このくらいの数値では糸を垂らさないと分からないレベルになっています。

アライメント調整の効果


アライメント調整の効果は抜群で、冒頭に書いた「まっすぐ走らない」ロードスターのステアリングセンターがビシッと中心に来てくれたことで、安心してまっすぐ走るようになりました・・・当たり前のことかもしれませんが!

また、乗り味の変化も大きく(調整前がガタガタだったこともありますが)、あらゆる面でスムーズな動きになりました。特に顕著に感じたのが、ギアを落としながらのブレーキングです。路面のインフォメーションを拾ってガタついているかと思っていたのですが、そんなことは無かったのです・・・慣れってやつは良くないですね。

ちなみに、ショップの作業工賃はピンキリで1万円~3万円が相場のようです。安かろう、悪かろうは無いと思いますが、私は口コミ評価を調べながらショップ選定しました。


アライメント調整は「普通に戻す」行為であり、極端な性能向上を期待するものではありません。しかし、クルマの味付けに大きく寄与していることは間違いなく、その効果を鑑みると費用対効果の感じることができる、むしろ期待値を遥かに超えるものであると再認識しました。

また、足周りのプロショップが存在することや、統一コンディションで戦うNR-Aレーサーの友人はアライメントのベストセッティングを日々追求しており、奥の深い世界であることは間違いありません。

私の場合はレベルの低いしょうもない悩みからスタートしましたが、愛車の挙動が怪しいと心配であれば、アライメント調整をお勧めします!

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