トヨタ MR-S最終型(ZZW30)試乗記

トヨタ MR-S最終型(ZZW30)試乗記

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クルマは乗ってみないと分からない。「MR-S」の小特集を組むにあたり、スペック解説や歴史検証をおこないましたが、スポーツカーであれば「乗り味」が分からなければ片手落ちですよね。

私自身の「MR-S」体験を振り返ると、約20年前に友人の「MR-S」と互いの愛車(NBロードスターRS)を交換した記憶くらい。その時の印象は「え?噂よりも楽しいじゃん、ロードスターと同じだ!」でした。しかし、それ以上の記憶は蘇らず・・・途方に暮れていました。

そこでSNSで「試乗させてください!」と呼びかけてみると、有志の方々から声がけをいただくことができました。インターネットの力は偉大です。

そこで、あくまでロードスター(NB6)乗りの【独断と偏見】であり、サーキットではなく公道ベースでの視点になります。当時最大のライバルだった「MR-S」の実力はどんなものなのか、その試乗記をお届けします。

Vエディション・ファイナルバージョン


今回鍵をお借りしたのは、2007年7月末の「MR-S」生産終了に合わせて設定された特別仕様車「V EDITION・FINAL VERSION」(限定1000台)になります。つまり。「MR-S」の最終型となるこの仕様の特徴は、高級グレード「V EDITION」の装備(レザーパッケージ)とともに、追加架装による質感をバチバチに高めていることです。

やはりカタログ画像と実車では解像度が違います。普通にカッコいいオープンカーで、細かいディテールの造りこみは眺めているだけでも面白く、特に幌を閉じた(閉めた)美しいスタイルも見所です。

オーナーさんは新車から乗り続け、基本ディーラー整備にてコンディションを維持する「MR-S」愛の溢れる方になります。試乗は長野県の某ワインディングロードにて行いました。

TOYOTA MR-S(ZZW30) :V EDITION・FINAL VERSION
車格: オープン・カブリオレ・コンバーチブル 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3885×1695×1235mm 重量: 1010kg
ホイールベース: 2450mm トランスミッション: 6MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク タイヤ: F:185/55R15 R:215/45R16
エンジン型式: 1ZZ-FE 種類: 水冷直列4気筒DOHC
出力: 140ps(103kW)/6400rpm 燃費(10・15モード) 14.2km
トルク: 17.4kg・m(170.6N・m)/4400rpm 燃料 無鉛レギュラーガソリン

まずは乗り込んでみる


クルマに乗り込むと、ボディサイズの割に厚めなドアは「ドムッ」と重い音で閉まり、即凸衝突が担保される包まり感がありました。純正レザーシートはシートバックがツルツル滑ることもなく背中を固定してくれます。

座った第一印象は「広い!」と思ったこと。2シーターではありますが程よいタイトさとでもいいますか、NBロードスターと比較すると室内長で+30mm、室内幅で+5mm程度なのですがキャビンスペースは十分に感じました。また、好き嫌いが分かれそうなインテリアデザインも、座ったら全く気になりませんでした。


ただ、私自身のクセで、スポーツドライビングの際はシートを立たせる(腰を固定する)ので、座高が高い私だともう少し尻が深いと助かりました。座高が高くなったことと、ロードスターよりもAピラーが寝ているからか、クローズドでの前方視界は狭く感じます。

ロードスターでは交差点の一番前で停止すると頭を横に曲げて信号確認を行う儀式がありますが、「MR-S」ではもっと頭を寝かせる回数が増えそうです。(※ノーマルのロードスターシートも座高が高く、私はシート交換前は座面のアンコ抜きしています)

テレスコでステアリング位置を調整してメーターの視認性を調整、シートを少し寝かせたり、前後させたりと試行錯誤しながら着座位置を探していきます。なお、クローズド(幌を閉じていても)でもヘッドクリアランス自体は十分にありました。


シフトノブのパターンを確認すると、「NBロードスター」や「RX-8」の6速MTにおけるリバースギアは右下にありましたが、「MR-S」のリバースは1速のさらに左上に入れるタイプとのこと。リバースギアに入れるとアラームが鳴ってくれるのですが、実はバックしようとして何度も1速に入れてしまいました・・・

また、ロードスターではセンターコンソールからシフトが生えており手首でシフトチェンジできるのですが、「MR-S」は(私の座高の高さから)少し腕を伸ばす(下ろす)感じになりました。

「セリカ」由来の【C65M型】6速マニュアルトランスミッションはショートストロークタイプで、触感はカチカチというよりは「ゴクン」と合わせるタイプでした。ギア比はうまくクロスされているので、感覚的にシフトチェンジが可能です。ちょっとグニャッている(剛性感は甘い)かと思いましたが、走っている際はほぼ気になりませんでした。

逆に気になったのはサイドブレーキのレバーが後ろにセットされていること。物理ブレーキであることは安心ですが、絶対にサイドブレーキドリフトやターンをさせない!という意思を感じました。


NA/NB乗りであれば見慣れた幌のトップロックを外し、幌を畳みます。リアキャビンに綺麗に収納され、カチンと固定されるZ型の幌は素直にかっこいいし、カバー(パンツ)をつけなくていいので羨ましい!オープンにすると視界は開け、クローズドの視界不満は解消されました。

クラッチを踏みながらキーを回すと、ブオン!とエンジンに火が入ります。思ったよりもエンジンサウンドがキャビンに響かないのは、背中にあるラゲッジスペースが機能しているのでしょう。

街乗りを想定する


まずは普段使いを想定して、駐車場で徐行テストをしました。

ぶっちゃけ感想は「普通」です。鼻先が入りやすいとか、ミッドシップレイアウトとか全然関係なく、本当に普通のMT車として扱えます。着座位置が気持ちフロント寄りの割には、ロードスターとボディサイズがほぼ一緒だからでしょうか、驚くくらい車両感覚に違和感がありませんでした。

すぐ気づいたのがべダルレイアウトの良さで、身体をきちんと正面に向けるので(当たり前かもしれませんが)奇麗に真っすぐ走ります。慣れていて忘れていましたが、ロードスターはエンジン位置(ミッションマウント)の関係上、ペダルが少し右側にオフセットされているのです。


アクセルレスポンスは低速からグワっとトルクが出るものでななく、踏み代に合わせてパワーが出るタイプ。ワイヤースロットルなのでレスポンスも良好でした。パワーステアリグはけっこう軽めなセットで、後でロードスターを運転したらパワステのクセに重く感じました。

ロングホイールベースなので最小回転半径は5m。ボディサイズの割には大きめな数値ですが、転回(Uターン)も大回りにはなりませんでした。スペックから受けるイメージよりも取り回しは良好な印象でした。


剛性感は明らかにNA/NBロードスターより高く、NCロードスターと比較して一歩手前くらいな感じです。スカットルシェイクとまではいいませんが、ギャップを超える際は前後タイヤから返ってくるギャップにディレイがありました。ただし、キャビン内は全く「ミシリ」ともチープ音が鳴ず、トヨタクオリティマジ凄い!と驚愕しました。

速度域を上げてみる


ストレートでアクセルを踏み込み加速を行うと、ホンダVTEC(可変バルブタイミング)のようにエンジンのカムの切替を感じるかと期待したのですが、トヨタVVT-iはそんな「分かりやすさ」はありませんでした。低速時でも感じていたのですが、どちらかといえば「きちんと踏まないとパワーが出ない」タイプの特性になっているようです。

つまり、ライトウェイトスポーツらしく回さないと本気を出してくれないエンジンなので、驚きとともに嬉しくなりました。ロータスに採用されていたのもなるほど、納得です。また、これ以上パワー感を出すとひとつふたつ上の腕前が必要になりそうです。

低速からの駆け出しは流石で、後輪にトラクションがかかるのを分かりやすく感じます。かといってアクセルを煽ってもホイールスピンはありませんでした。エンジン回転数を上げて繋げばカッ飛びそうですが、ここは公道だしお借りしているクルマなのでやめました。

ただし、中間加速のアクセル反応は意外なほどマイルド寄りなセットであり(想像よりも一歩踏み込んだ方が伸びる)不思議だな・・・と思いましたが、これは後で理由がわかりました。


ロングホイールベースの直進安定性は流石ですし、オープンで窓を下げていても風の巻き込みはほぼ気になりませんでした。確かサイドミラーの位置で風量をコントロールしていると聞いていましたが、オープン走行が素直に気持ちいいです。ただし、ただし、ベルトラインは高いのでボディサイドに腕を置くのは厳しかったです。

この領域で違和感があったのはエンジンブレーキが甘めだったこと。NA時代のロードスターを知る人であれば分かると思いますが、個人的にはフットブレーキを信用できなくエンジンブレーキを併用するクセがあるのです。しかもNBロードスターはスポーツABSをかなり効かせてきます。


つまり、「MR-S」はフットブレーキを信用しろということですね。もちろんブレーキ自体は必要にして十分な反応であり、むしろラフめに合わせてみてもABSが効くような場面はありませんでした。

また、フロントに荷重がかかりづらいからか速度が乗るとステアリングがより軽く感じ、足周りのセットも相まってソフトな乗り味になりました。逆に路面からのインフォメーションは少なめですが、ロードスターも時にはバックラッシュが疲れるときがあるので良し悪しでしょう(EK等の旧タイプRほどのゴツゴツはありません)。

ワインディングを試す


ワインディングロードでは、まずセオリー通りに走ってみました。

すると、フロントの軽いミッドシップらしくクイックかつシャープに鼻先が入っていきます。ただ、意外にアンダーが出るので、当初はロードスターの方が曲がるかな?こんなもんかな?という印象を受けました。でも、トヨタ渾身のライトウェイトスポーツがそんなわけありませんよね。

そういえばこのクルマはミッドシップ。FRと同じ走り方で判断するのは違うはず・・・最近のサーキットはパーシャルを推奨せず、ステアを定めて全力でトラクションをかけるのがセオリーだそうですが、先の読めない公道では昔ながらのアクセルワークが活きるはず。

そこで、コーナー中パーシャルにしていたアクセルを少しづつ踏み込むと・・・持ち前のトラクションから鼻先がコーナーにするする入っていきます。つまり、アクセルで姿勢をコントロールするクルマだったんです!


ロードスターもアンダーになったら踏む方が車体が安定するし、PPF(パワープラントフレーム)のおかげでダイレクトに反応し、駆動ロスを減らすようにセットされていますが・・・「MR-S」と比べると本当に僅かですがラグがあるのです。その点「MR-S」はアクセルと直結するイメージでトラクションがかかるのです。

過去の教訓から絶対に破綻させないセッティングと聞いているので、改めてコーナーでアクセル開度を調整すると・・・笑っちゃうくらい曲がる、曲がる、曲がります。そしてスピンする気配もありません。それでもアンダーが出そうになったらチョンとブレーキできっかけを挟むと回頭性が回復するので、そこで舵角調整ができます。(※あくまで私レベルのヘボい走りの範囲です)

よく考えたら、重量配分がリア寄りなので尻は後からついてくるのが当たり前。デフもいい感じに仕事をしてくれるので、クルマを信用してアクセルでクルマを曲げるのが正解のようです。中間加速でドッカントルクが起きない理由も理解できました。いうならばアクセルでコントローるできる範囲が広い。旧来のミッドシップのように、いきなりパワーがかかってオーバーステアになって危ないですからね。


純正車高のソフトな足周りもいい仕事をしてくれます。ストロークを使い切って、奇麗なロールで粘ってくれて安心です。ゴツゴツが激しすぎるとアクセル戻したくなるので、ステアフィールがマイルドにしてあるのも、もしかしてこれが理由だったのでしょうか。

電子制御(DSCなどのトラクションコントロール)はありませんし、アクセルもワイヤーで繋がっている。つまり、基本アナログ制御でメカニカルグリップを重視したセットは、この時代ならではのスポーツカーの「乗り味」だと思いました。


ただし、これに気づかないと「凄く普通のハンドリング」といわれても仕方ないと思います。街中でかっ飛ばす機会なんて少ないですからね・・・あまりにも楽しいので峠を周回していたのですが、タイヤの焼ける匂いが。ちょっと調子に乗り過ぎたようです。

ロードスターと比較して

簡易比較(サイズ)
MR-S ROADSTER(NB)
全長×全幅×全高 3885×1695×1235mm 3955×1680×1235mm
室内長×室内幅×室内高 895×1350×1055mm 865×1355×1025mm
トレッド前/後 1475/1460mm 1415/1440mm
ホイールベース 2450mm 2265mm

スポーツカーとしての分かりやすさでいえば、ニュートラルステアなロードスターに軍配があがると思います。なぜなら、どんなに適当に走ってもそこそこ走れてしまい、【自分の運転が上手くなった】と錯覚するからです。

一方、「MR-S」のセットはぱっと見はマイルドなので、日常域でミッドシップの特性を感じることは少ないかも知れません。実際、街乗りの実用域(2000〜3000回転)でエンジンを合わせている限りは、ボディの軽によって駆け出しがクイックなくらいの、本当に普通なクルマです。非日常を感じるのはカッコいいエクステリアとオープン2シーターであることでしょうか。


しかし、自分自身のギアを上げるとスポーツカーとしての素性が見えてきます。

回すタイプのエンジンなので踏み込むと元気なキャラであることが分かるし、アンダーでアクセルを緩めずに、あえて踏む(アクセル開度を調整する)とミッドシップらしくリアにトラクションがかかり「すごく曲がるクルマ」に豹変します。

個人的にはレブ(6700回転)まで回さずに、トルクのピーク感が美味しい4000〜5000回転あたりでコントロールを維持する方がワインディングに向いているイメージでした。


つまり、「MR-S」のスポーツ性は分かりづらい・・・というよりは、ミッドシップ車を知らないと「普通じゃん」という印象になるでしょう。これは勿体無い・・・ディーラーで試乗車が用意してあっても「走りの良さ」が完全に伝わっていたかというと微妙かもしれません。安全で壊れないオープンカーくらいの印象だったかも知れませんね。

正直、低速域ではマイルドなセットにしてあるのでダイレクト感は薄いです。でも、踏むと正体が分かる。これがトヨタ流のライトウェイトスポーツであるとすれば、乗りこなしてみたくなるではないですか!

ちなみに先代「MR2」はエンジンパワーが勝ち過ぎてアンダーオーバーなステア特性になっており、コーナー中に舵角修正(ハンドルを進めたり、戻したり)を行なって曲げるのがお約束でした。そうでないとスピンしてしまうからです。※軽スポーツMRの「AZ-1」もそうでした


でも「MR-S」は絶対にスピンさせない意志を感じるので(むしろドリフトなんて無理)、私のような素人でもコーナーで全然踏んでいけました。逆にスポーツモデファイを行う人は、ダイレクト感が増す方向にセットするというのも納得です。

ただ、ノーマルセッティングが貴重になっている現在であれば、この「素うどん」状態の乗り味を、あえて楽しむのはアリな考え方だと思います。知る人ぞ知る、実は秘伝の味が効いたクルマといえるでしょう。

また、ごちゃごちゃ偉そうなことを書きましたが、屋根を空けてのんびり流すだけで自然や街と一体感を得るシンプルな楽しさは間違いなくあり、それを気軽に楽しめるという点では間違いなくライトウェイトスポーツカーでした。つまり、肩ひじ張らず乗れるオープンカーとしては文句なしの出来栄えです!

今回は「走り」に徹したレポートとなりましたが、スポーツカーには「走る、触る、見る」と色々な楽しみ方があります。

今回お借りしたクルマの鮮やかなスーパーレッドV(赤色)がワインディングに佇む姿は美しく、スーパースポーツの持つ高級腕時計のようなオーラとは違った、家族であり、友人であり、恋人のような「安心できる関係」を感じることができました。クルマはただの工業製品ではない、そんな言葉を思い出しますね。

最後に、貴重な体験をさせてくれたオーナーの【字光ナン族(じこなんぞく)】さんに、改めてお礼申し上げます。

協力:TMCJ有志MTG

TOYOTA MR-S(ZZW30)  V EDITION・FINAL VERSION【特別装備】
外観 ソフトトップ(レッドorブラック)
アルミホイール(スーパークロームメタリック塗装)
ホイールオーナメント(ブラック)
フロントエンブレム(ブラック)
サイドエアインテークガーニッシュ(グレーメタリック)
リヤエンブレム(スモーク調)
リヤバンパーロアガーニッシュサイド(グレーメタリック)
内装・装備 本革シート&ドアトリム表皮(レッドorブラック)
本革巻き3本スポークステアリングホイール(レッドorブラック)
ドアアシストグリップ(チタン調シルバー)
ダイヤル式ヒーターコントロールパネル(チタン調シルバー)
インストルメントパネルブレースカバー(チタン調シルバー)
シフトゲージカバー(チタン調シルバー)
ヘリカルLSD
外板色 グレーマイカメタリック
シルバーマイカメタリック
ブラック
スーパーレッドV
【メーカー希望小売価格(税込)】
6MT ¥2,320,000
6SMT ¥2,400,000

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