この記事を読むのに必要な時間は約13分です。
積年の宿題でした
以前、かの元主査にインタビューに伺った際に「君はターボに乗ったことあるかい?」と問われました。
「あのターボはアメリカの要望で作ったんだけど、ドッカンじゃなくてロードスターの人馬一体である「気持ち良さ」を追求したモデルなんだ。機会があったら乗ってみるといい」
私自身、たまたま歴代ロードスターのステアリングを握る機会を得ることはありますが、NBロードスターのターボのみどうしても触れる機会がなく、ずっと心残りでした。ただ、願いはなんとか実現するもので・・・とある縁により、念願のターボに乗る機会を得ることができました。今回はその際の「乗り味」に関するレポートです。
ロードスターターボのトピックは別ページで書いているので、スペック詳細はそちらをご参照いただければと思います。
参考:https://mx-5nb.com/2022/05/09/mazdaspeed_miata/
世界で7台のロードスターターボ
MAZDA ROADSTER(NB8C) Turbo | |||
車格: | オープン | 乗車定員: | 2名 |
全長×全幅×全高: | 3955×1680×1235mm | 重量: | 1,120kg |
ホイールベース: | 2,265 mm | トランスミッション: | 6MT |
ブレーキ: | ベンチレーテッドディスク/ディスク | タイヤ: | 205/40R17 80W |
エンジン型式: | BP-ZET[RS] 1839cc | 種類: | 水冷直列4気筒DOHC 16バルブICターボ |
出力: | 172ps(126kW)/6000rpm | 燃費(10・15モード) | 12.2km/l |
トルク: | 21.3kg・m(209N・m)/5500rpm | 燃料 | 無鉛プレミアムガソリン |
ロードスターターボをざっくり説明すると、NBロードスターの最終型である4型(NB4)に設定された限定車で、その特徴はロードスターシリーズで唯一ターボエンジンを積んでいるところです。もともと北米向けに制作されたカタログモデルでしたが、国内でも350台(公称)の限定車として設定されました。ちなみに、実際の出荷台数は300台です。
今回のロードスターターボとの出会いは、某MTGで見かけた際にあまりにも綺麗かつレアすぎたのでオーナーさんに話しかけたのがきっかけでした。その後、オーナーさんのご好意により改めてステアリングを握らせていただく機会を得たのです。
ちなみに何がレアだったのかというと、「グレースグリーンマイカ」のボディカラーで「VSコンビネーションB(ベージュ)」のインテリアを持ちながら、「ターボ」であったことです。
そもそもNBロードスターの後期型(NB3~4)に設定された「VSコンビネーションB(ベージュ)」自体が357台(国内販売のうち1.2%)と極端に少ない前提があります(※もちろんWebTuned仕様としてプラス十数台が存在します)。
ターボはもともと専用インテリアとして「レッド2トーンインテリア(赤黒シート)」が用意されましたが、実は日本国内のみVS系も含むカタロググレードに沿った4種類のインテリア選択可能でした。「ターボ」であることも珍しいのに、ターボで「VSコンビネーションB」インテリアだった個体は29台。さらに、そこから「グレースグリンマイカ(ターボでは国内供給のみ)」だったのは7台。
つまり、世界で7台しか存在しない「ロードスターターボ」が、極上のコンディションを維持して目の前に存在していたのです。普通なら「珍しいなぁ」で終わる話ですが、個人的にはなかなか見ない個体だったので、勝手に感動していました。ちなみにNBロードスターの世界販売台数が約29万台なので、0.002%の存在です。
インテリアを確認するとNB4はエアロボードにスピーカーが付くのですが、「BOSEサウンドスピーカー」だった個体は初めて拝見しました。なお、NB4時代はナルディが経営破綻していたので、ウッド内装にバッジは付いていません。また、ステアリングの「にぎり部分」のセンターに、NAロードスターVスペシャル以来の一本のラインが入っています。
見慣れたエンジンルームのはずですが、知らないターボメカがいっぱい詰まっていて最終限定車ならではのロマンに溢れていました。ちなみにB型ターボエンジンのルーツはファミリアGT-R(WRC)に遡りますが、こちらはかのトミ・マキネンさんも駆っていたマシンでしたね。
なお、このNB純正幌は張り替えたそうですが、近年密かに仕様変更されていてリアガラスの「枠」が無くなっています。販売後にアップデートされる部品も珍しいですよね!
ターボで街を流してみる
早速キーを預かってエンジンを始動すると、いつものロードスターと同じイグニッション音が鳴り響きます。専用マフラーを積んでいるので、心持ちアイドリングのサウンドは野太いのですが、音量自体も下品な感じではなく、むしろ思ったよりも普通でした。
実際に低速域で流すにあたり敷居の高さは全く無く、トルクが太いうえに専用ファイナルギアの設定上あっという間に回転数が上がるので、シフト操作が忙しい印象を受けました。個人的には、私のNB6ではエンジン音とトルク感に合わせて街乗りでは3000回転あたりでシフトを上げるクセがあります。通常のNB8も「回すタイプ」のエンジンですから、同様の感覚でした。
しかし、同じフィールでターボを運転しようとすると、2000回転くらいでシフトチェンジが事足りるので、それが忙しい印象になるのでしょう。なお、街乗り3000回転は明らかにオーバースピードを招きます。
一方で、明らかに違いを感じるのはステアリングの重さと、路面からの突き上げの激しさです。これは強化されている足周りの影響で、もともとターボは北米専用のマツダスピードミアータなので、その素性を感じることができました。
それは、日本の公道における平均速度は40km/hと言われていますが、ターボはあちらの事情にあわせて80マイル(約128km/h)を中央値にして南カリフォルニアのオルテガ・ハイウェイ(ワインディングロード)で仕込まれ、なおかつ「そのままサーキットに持って行って勝てるクルマ」というセットを行っているからでしょう。
純正状態で下げられてた車高にストロークを合わせるため、強化されたスプリングとダンパーを架装しつつ、17インチ大径ホイールと強化されたスタビライザー。そんなターボのハンドリングはロードスター特有のクイックに感じるニュートラルステアではなく、わざと弱アンダーに設定されています。走っていて「うぉぉ・・・」と感じるほどロードスターでは珍しい「硬い」足周りは、同じ時代のホンダVTEC勢と同じ匂いを感じます。
つまり、純正状態の乗り心地は「ハードで忙しい」ので、ある程度の覚悟が必要です。ただ、あくまで所感ですがNAロードスターの純正ビルシュタインよりは「しなやかさ」を感じました。
ターボエンジンを踏み込む
本当にターボを積んでいるのか疑わしいエンジンでしたが、踏み込んでみると2700回転あたりから「ヒュイーン」とタービン加給する音が微かにボンネットの奥から聞こえてきます。
グンと踏み込むと、ドッカンターボではなく低回転から感じた「太く・フラット」なトルクのままにレッドゾーンの6000回転まで一気に吹けあがり、鬼加速が始まります。2.3リッターエンジンクラスのトルクとはマツダの説明ですが、速いロードスターは久々だったのでビビってしまいましたが、同時に想定外の加速に笑ってしまいました。このアクセルとエンジンが繋がるダイレクト感は、物理スロットルならではの気持ちよさでしょう。
エンジンの「美味しい」領域になると、硬い足周りも本領を発揮します。
余計なロールをさせないハードな足周りはコーナーリングで絶対にスピンさせない「意志」のようなものを感じます。この領域では新型NDロードスターに搭載されたKPC付のコーナリングに近しい印象です。むしろ、絶対に破綻させないから「もっと踏め」とターボの声が聞こえてきそうです。
速度が上がると「重い」と思っていたステアリングの操舵感がしっくりくるようになるのは、ポルシェ911など高速域で生き残るための欧州勢セッティングと同じです。ステアリングセンター(&剛性感)がしっかりしているので、コーナーだけでなく直進安定性も高く感じます。普通のNBロードスターよりも安心して直線番長がこなせるでしょう。
意外だったのはブレーキの強化はされていないことです。しかし、街乗りではABSを利かすまで制動するシーンは無かったので、足らない印象はありませんでした。また、NBロードスター最終型ですからオープンでもボディの剛性感は必要にして十分で、ギャップで起こるスカットルシェクよりも、足の硬さの印象の方が深かったです。
ちなみにカタログ値は172psですが、実馬力は189psとの事なのでロードスターRFよりもやばいエンジンに仕上がっているようです。さらにブーストアップの余地も残されていたり、トランスミッションもRX-8のパーツを流用しているのでマージンがあったりと、怪しい仕掛けが満載です。
街乗りだと普通の印象ですが、2段階くらい速度領域をあげると「ロードスター」を感じる、とても不思議なクルマでした。逆に言うと、踏まないとターボの良さは分からないかもしれません。
国内事情か、極上コンデションか
ロードスターはモデファイされるクルマなので、あえて自分なら・・・と、妄想を書きます。
オーナー氏もハンドリングの素性は認識されていたので、北米マツダスピードミアータではなくロードスターに近づけるモデファイは、おそらくインチダウンが鍵になると思われます。ターボは速度領域が上がると最高のクルマですが、日本の交通事情を鑑みると乗り味に「重さ」を感じるシーンが多く、それがロードスター特有の軽快感をスポイルしていました。
話は少し飛びますが、ホンダS2000の「TypeV」にはVGS(Variable Gear ratio Steering:車速応動可変ギアレシオステアリング)が搭載されていましたが、今ならその意味も分かります。可変するステアリングフィールであるVGSはサーキットユースに不評でしたが、ステアリングフィールと速度域の関係は、そのクルマのキャラクターやエンジニアの思想によって違うので、面白いですね。
閑話休題、ターボに乗った後にNB6に乗ると、パワーはありませんが改めて「軽さの演出」を実感することができます。数字遊びになりますが、ターボ純正状態の最小回転半径は5.2m(標準車は4.6m)。これは現行のシエンタやプリウスと同じ数値です。
そもそもNBロードスターは16インチでもオーバースペックとされていますが、ターボ純正の17インチから15インチに落とすだけでばね下重量が約16kgほど軽量化され、最小回転半径も改善されます。幸い、ブレーキサイズは後期RSと同一なので、NR-Aに準じたサイズなら履くことが可能です。
逆に、ターボは純正でも低くカッコイイ車高になっており、それに合わせてビルシュタインの減衰力もセットされているので、サスの交換やスタビライザーの交換までおこなう必要はないかと思われます。
なお、シフトフィールはRX-8の部品が流用されていることからか、ノーマルの6速よりも剛性感があるように感じます。また、トルクで走れてしまうのでシフトチェンジせず(ホールドしたままで)それなりに走ってくれます。ただ、4速→5速はNB6速特融の「ぐにゃり感」が少しだけ残っていたので、もっと重いシフトノブの方がいいかも知れません。
ちなみに、特殊仕様なのでマツダのレストアプログラムの恩恵は少なく、一部パーツは入手困難になっている模様です。ただし、マツダスピードミアータであった恩恵で、北米市場ではアフターパーツに恵まれている特徴があります。
いろいろ勝手なことを書きましたが、「極上のノーマルコンディション」かつ「世界で7台しか存在しないこと」は最大のアイデンティティなので、オーナーさんは贅沢な悩みを抱えることになるなぁ・・・と、思います。
どちらにせよ、貴重なロードスターであることは間違いなく「積年の宿題」を解決することもできました。オーナーのYさん、最後に勝手なことを書きましたが、なんだかんだいっても最高のクルマです。本当にありがとうございました!
→エントリーはこちらから
関連情報→