54万キロ走行のロードスター試乗記(NA6CE)

54万キロ走行のロードスター試乗記(NA6CE)

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パンデミック以降、80年代~00年代(ネオクラシック世代)のスポーツカーが高騰しています。こと、初代NAロードスターも例に漏れず、程度よくレストアされた車体と、新車のNDロードスターがほぼ同じ値段なんて、とんでもないことになっているようです。

NAロードスターといえば既にだいたい30年以上前のクルマ。そのコンディションを保つことはもちろん、きちんとメンテナンスされたロードスターはどんな乗り味なのか・・・そんな事を思うなか、身近に一台のユーノスロードスターがいることを思い出しました。

復活、ユーノスロードスター


今から約10年前の大雪を覚えていますか?

2014年2月(平成26年)、東日本では「120年に1度」とされた大規模な雪害がありました。積雪量は関東平野部でも30~80cm、甲信越地方および奥多摩・秩父・丹沢・箱根などの内陸部は1m以上、山間部では2m前後にまで達しました。交通機関は相次ぎ欠航、運転見合わせ、大幅なダイヤ乱れが生じ、高速道路はもちろん通行止め・・・


そんな状況でご紹介したいのが、友人のユーノスロードスターです。

平成4年式、ブリリアンドブラックのSスペシャル(NA6)をベースに、マツダスピードチューンのシリアルナンバーが施された一台でした。例外なくオーナー色に染められたこのクルマは愛着が注がれ、大きなトラブルもなく長距離ツーリングもなんのその。

当時の走行距離は「26万キロ」を指していましたが絶好調。メンテナンスをきちんと行えば「コンディションを維持できる」ベンチマークとして、個人的にリスペクトしていたロードスターでした。


話を戻しますと、2014年の悪天候は埼玉某所でも抗えることはなく・・・豪雪のスピードは想定以上。大量の雪による重量により、このロードスターが格納されていたカーポートが崩壊したのでした。


ちなみにロードスターの幌はノーマルルーフ(普通車)と同じ荷重、つまり相当な雪の重さにも耐えられる強度設計がされています。しかし流石にカーポート構造材の重さには耐えることができず、無情にもロードスターを潰してしまったのでした。


幌は避けて、ミラーはひしゃげて・・・


前後フェンダーはべこべこ・・・当時、友人氏から発せられたSNSからは、かなり厳しい現状のレポートが流れてきました。厄介なのはリアフェンダー周りで、ここはモノコック(フレームと外板を一体化、全体で剛性を保つ仕組み)なのでボディ構造に関わる部分になってくるのです。また、変な荷重がかかっているからメカは見ないと分かりません。

そして(現在では考えられないかもしれませんが)、失礼ながら2014年当時の過走行なユーノスロードスターの相場は底値のような状況でした。10万キロ超えは10万~20万で購入できたのです。つまり、普通の感覚であれば廃車コースです。

復帰させるのか降りるのか。

予防整備も含めこまめなメンテナンスを行ってきたロードスターですから、パーツ取りして別の箱(ボディ)に移植する、もはや他世代のロードスターに切り替える・・・様々な選択肢があるなかで、友人が決断したのはこのクルマを復活させること。「コストを度外視して修復、ついでにフルレストア」と決断を下しました。


そこにどれくらいのコストがかかったのかは野暮なので書きませんが、数か月後に復活したロードスターは、中も外もピカピカになっており「ユーノスなのにボディが艶々している!」と仲間たちから絶賛されました。

あれから10年・・・このロードスターは走行距離を重ね、ついに約540,000kmにまで達しました(2023年末)。ざっくり計算すると地球を13周以上(※)走ったことになるのですが・・・それがどんな乗り味なのか気になります。そこで友人氏に頼み込み、試乗の機会を得ることができました。※地球一周の距離は約40,000km

ユーノスロードスター「Sスペシャル」


まずはベース車両となったSスぺシャルをご紹介します。

ユーノスロードスター「Sスペシャル」とは、走りに特化したメーカーモデファイが施された一台です。グレード名としては「SP」として現行型(ND)まで継続していますが、現在のキャラクターに置き換えると「RS」に近いものといえるでしょう。

1991年8月にカタログ入りした「Vスペシャル(※)」に次いで、「Sスペシャル」は翌年の1992年9月にラインナップ追加されました。※)1990年8月に「Vスペシャル」は限定車としてデビューしましたが、好評により翌年カタログ入りしています


その特徴は、それまでショップオプションだったストラットタワーバー(&ブレースバー)やビルシュタインダンパーを標準装備として、さらに14インチBBSホイールでカチッと足周りを締め上げています。


また、インテリアまわりもパワーウインドウが標準装備(!)であり、ナルディのレザーパーツ(シフトノブ、ステアリング)やステンレスパーツ(スカッフプレート、キックプレート)で「走り」をイメージさせるスパルタンな演出も怠りません。


当時設定されていたボディカラーはクラシックレッド(赤)とブリリアントブラック(黒)の2色のみ。なお、有名な寿司下駄タイプのリアスポイラーやエアコンはショップオプションでした。

その乗り味はなんというか、かなり乗るステージを選ぶ仕様になっていました。もともとNAロードスターが備えていた適度な緩さをカチッと締め上げてシャープな応答性を狙ったものになっており、例えるならば当時トレンドだったホンダ(SirやタイプR)と同系列の「そのままサーキットに行って走れる」ようなものになっています。


特に純正ビルシュタインはロールを最小限にとどめるかなりハードな設定で、サーキットのような抑揚がフラットなステージであれば水を得た魚になれます。その反面、ダンパーの突き上げが厳しいので、ワインディングロードや道路の継ぎ目などのギャップでボディが跳ねてしまいます。したがって日常域では汗を搔くものに仕上がっていました。

極端なステージ特化だったのでそれが悪ではなく、さらに当時は「ロードスターはロールし過ぎる」「スポーツカーはガチガチに固めるのが最良」という価値観もあったので、好みにドンピシャでハマれば問題ないそんなクルマでした。

EUNOS ROADSTER(NA6CE)S special
車格: オープン 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3955×1675×1235mm 重量: 960kg(実質980kg)
ホイールベース: 2,265 mm トランスミッション: 5MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤ: 185/60R14 82H
エンジン型式: B6-ZE[RS] 1597cc 種類: 水冷直列4気筒DOHC
出力: 120ps(88kW)/6500rpm 燃費(10・15モード) 13.2km/l
トルク: 14.0kg・m(137.3N・m)/5500rpm 燃料 無鉛レギュラーガソリン

「走行距離540,000km」のユーノスロードスター


冒頭に話を戻しますと10年前にフルレストアが敢行され、よりオーナー好みの形に再セッティングが施されました。

一目で分かるのはエクステリアでしょう。当時からプレミアだった「M2 1001」準拠のものへ置き換えられていることで、もちろん砲弾型サイドミラーの位置は左右非対称です。全塗装されたブリリアントブラックのボディは現在でも鏡のように風景が写り込んでいます。


メカ関連は、もともとマツダスピードチューンおよびサーキット用途としていた名残から、各種ブレースバーにより剛性強化が図られています。重量増になった分幌は取り外し、ハードトップ(DHT)仕様としています。なお、近年では珍しくない反対色(黒×白)による2トーンルーフは、国産車ではロードスターが先駆けた存在としてメーカーに認知されているそうです。

人を選ぶ「Sスペシャル」の純正ビルシュタインはKONIのアブソーバーで再セッティングをおこない、ダブルウィッシュボーンのブッシュ関係もすべて打ち直されています。なお、普段はパナスポーツ15インチを履いていますが、お借りした時期は純正BBSホイール・14インチのスタッドレスタイヤになっていました。


最も特徴的なのはエンジンです。吸排気系のモデファイはもちろんオーバーホールが施されています。その本体は某ショップによりNAロードスターおよびNBロードスターの「B6-ZEエンジン」におけるミックスが行われ、良いとこどりのバランス調整が施されています。したがって、ハイパワーではありませんがきちんとカタログスペックが保証されているとの事です。


いざ乗り込むと、ロードスター用に開発されたエスケレート(フルバケットシート)に身体がすっぽり納まります。尻もカチッと抑えてくれてシートポジションからみえる目線も上々。ネックピロー(首枕)は長距離ツーリングをこなすための知恵ですね。


メインコンソールにある走行距離計に表示されているのは542,083km(2023年末時点)。あらゆる部分にレストアの手が施され、オリジナル部分はシャシーに由来する部分が大きいかもしれませんが、間違いなく地球を13周以上走っている証明ですね。

そんなことを思いながらユーノスマークの入ったイグニッションキーを回すと、聴きなれたクランキング音とともに、恐ろしくあっさりエンジンに火が入りました・・・普通であることが凄い。

ご老体をぶん回してみた


そろそろと駐車場で徐行をしながらエンジンレスポンスを確認するとアイドリングは安定しています。ビンビン針が立つわけではありませんが、アクセルを踏み込むと引っ掛かりもなくスムーズに回転計は上がりました。車内外に響くエクゾーストノートはNAロードスターらしい野太さで、こればかりはこの時代のクルマを超えられない気持ち良さです。

感慨に更けつつも公道に入り、さらにアクセルを踏み込んでいくと想定よりもトルクフル。「一瞬NA8だったかな?(BP:1800cc)」と思いましたが、このクルマは私のNBロードスターと同じ素性のB6-ZE(1600cc)エンジンです。M2 1001の精密機械の如きチューニングエンジンには及びませんが、NB後期のB6エンジンよりも気持ち元気な印象です。

初期応答がいいのでNBと比較してボディが軽い影響かと思ったのですが、14インチのダッシュ力とカタログスペックを得るためのバランス調整を行った賜物のようです。B6エンジン、やはり素性はいいんですよね・・・こりゃ気持ちいいなぁと思いつつも勝手知ったるロードスター。ステアリングポジションもシフトフィールも直ぐにしっくりきました。


中間加速においても相応のトルクが保たれているので、流しているだけでも気持ちがいい!ただ、ラフにアクセルを煽るとホイールスピンするしブレーキでズルっと滑りました。これはスタッドレスタイヤの柔らかさが原因のようで、調子に乗ると危ない・・・

路側帯のラインをトレースしながらハンドリングの応答性を確認すると、破綻なく(まさに意のままに)クルマが反応してくれました。幌仕様の緩さもいいですが、ボディがシャープに反応する(ステアリングセンターがしっかり出る)ハードトップならではの乗り味です。加えて、各種ブレースバーによる補強による効果なのか、足周りのしなやかさがいいのか、ギャップを超えてもボディは適度に路面をいなしてくれました。

必ずどこかがガタガタギシギシ鳴り、場合によってはバラバラになるのではないかと心配になるNAロードスターですが、この剛性感は普通に凄い!過去の記憶におけるNAロードスター(NA6)は、もう少しクラシックな乗り味だったような気がしますが、限界域でもない限り人馬一体(=乗って楽しい)さは変わらないようです。


正直、破綻が起きないか少しだけいじめてみたのですが・・・ぜんぜん期待に応えてくれます。危なかったのはスタッドレスに起因することくらい。普通に「走る、曲がる、止まる」こなせているので、本当に過走行車か?と疑うほどでした。適切なメンテナンスを行うと、クルマはキチンと応えてくれることを実感します。

唯一心残りだったのは、このクルマは本来15インチで調整されていること。NA/NBロードスターは適切なインチアップであれば足が安定方向になるので、それを試したかったこと。ただし年式相応に不調もあるようで、直前にはエアコンファンが回らないトラブルもあったり、ベルト周りが怪しいので交換検討中だそうです。そういう部分も含めて楽しめるのが、ユーノスロードスターですね!お金はかかるけれど・・・

文鎮でないところが素晴らしい


ロードスターは10万キロまでが慣らし運転といわれていますが、北米では走行距離が20万~30万キロであっても普通に中古車販売されているし、国内でもメンテナンス前提ではありますがタクシーは40万~80万キロ走る・・・なんていわれています。したがって、走行距離にこだわるのは日本独自の文化であるようです。

その背景には、高度経済成長からバブル期以前(70年~90年)までの日本車における精度の問題がありました。クルマは鉄なので腐ってしまうものだし、次の車検には買い替える・・・そんな時代の名残なのです。したがって、近年の国産車は走行距離が10万、20万キロを超えていても普通に走れるといわれています。

しかし、それでも「走行距離54万キロのクルマ」は過走行という評価になるでしょう。


ただし、違う視点では(特に我々スポーツカー乗りにとっては)「愛着性能」が高いともいえます。これは過走行であればあるほど「凄い」こととして感情はリスペクトに触れるのではないでしょうか。工業製品としての劣化は進んでいても、クルマに対する「愛着」は時間とともに蓄積されていきますからね。

そういう意味でこのロードスターは、10年前に「スクラップになるか、生まれ変わるか」オーナーの覚悟が試された一台でした。なので、乗り味を試すなんて正直おこがましい行為だとは思ったのですが・・・期待以上に元気だったため、改めて驚かされました。


もちろんここまで愛情が注げるか、コストがかけられるかとなると、オーナーの価値観や周りの環境により変わってくるものもあるでしょう。それでも、本気になればここまで仕上げることができる、ベンチマークとなる一台でした。そこにいるだけで美しいし存在が嬉しくなる、そんなロードスターでした。

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