次世代コンセプトカー「息吹(いぶき)」

次世代コンセプトカー「息吹(いぶき)」

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今回は2003年の東京モーターショーにて発表された次世代ライトウェイトスポーツカー・コンセプト「息吹(いぶき)」のご紹介です。

ロードスターに限らずクルマは秘密裏に開発が進められますが、唯一次世代ロードスターをイメージさせるコンセプトカーとして発表されたのが「息吹(いぶき)」です。

これは2005年にフルモデルチェンジを予定していたNCロードスターにおいて、モーターショーからフードバックを得るためのティザー発表であったことが類推されます。ちなみに本流のロードスター開発チームではなくコンセプトカー(デザイン)チーム主導の企画でした。

それを踏まえても、現在だからこそ理解できる「答え合わせ」な部分もチラホラあるので、紐解いていきましょう。

2003 Ibuki(息吹)


2003年当時に新車発表されたマツダ車といえば「RX−8」や「初代アテンザ」、2代目「デミオ」といった「Zoom−Zoom」世代。いわゆる新世代マツダを担う【アスレティックデザイン(Athletic Design)】のクルマが次々に市場投入され、2003年末の東京モーターショーでは、さらに初代「アクセラ(Mazda3)」がデビューしました。まさに今日のマツダに繋がるラインナップ黎明期です。

そんな時期に発表されたコンセプトカーが「息吹(いぶき)」です。


さて、本命の次世代ロードスター(NC型)が登場したのは2005年8月。貴島元主査のインタビューでは「プランを4年、図面とブツで2年半」とおっしゃっていたので、「息吹」を発表した際にはNCロードスターのゴールはほぼ見えていたはず。

つまり、NCロードスターのデザインは既に完成していたので、デザインチームは「息吹」に対する反応でNCロードスターの方向性に確信を得たと思われます。


もちろんデビュー前提の参考出品車ではなくコンセプトカーという位置づけなので、メカはそれなりのドリームプランとなっています。会場で流されたコンセプトムービーでは「2015年」のロードスターを示唆しており、そう考えると自動車メーカーの描くロードマップは本当に凄いと思います。

なぜならば、2014年に登場するNDロードスターへの布石・・・というか、その先のロードスターにまで込めたビジョンが「息吹」には盛り込まれているからです。

NCロードスターとの比較


諸元を確認すると、それが良くわかります。全長こそ短いものの全高、全幅、ホイールベース、トレッドはNCロードスターと同一です。元から「RX−8」と共通のプラットフォームで作られる事が決定していたので「このサイズになる」という予告でもありました。

エンジンや補機類などの重量物をクルマの中央に寄せていくパッケージも、不変なるロードスターの哲学として発表しています。


息吹のキーテクノロジーは、主要部品をホイールベース内に配置したスーパーフロントミッドシップ・レイアウト。特にボディ前部は、ラジエターなど冷却システムを含めた「パワーユニット全体」をフロントアクスルより後方にマウントし、NBロードスターに比べてエンジンを 400mm後方に、40mm下方に搭載する・・・としています。

このレイアウトを可能にしたのは、空調ユニットをシート後方に移設して、ダッシュボード内部にエンジンが入り込むスペースをつくる・・・という設計です。ボディ後部はリアに配置した空調ユニットや燃料タンクはもちろんのこと、メインサイレンサーまでリアアクスル前方に配置しています。

車体は「RX‐8」に用いたハイマウント・バックボーンフレームをベースにした「ツインバックボーン」構造を採用しています。これはオープンボディの専用骨格特有のセンターフレームとともに、トンネル下にも強固なロアバックボーンフレームを設定した上下にフレームを持たせる構造です。結果、クローズドボディに匹敵する高い剛性とスポーツカーに求められる軽量化を両立しています。


実際のNCロードスターはここまでは行かずとも、前作のNBロードスターと比較してエンジンは135mm後方へ移設、燃料タンクを110mm前方かつ120mm下方へ移動させています。その恩恵でバッテリーは従来型のトランクからボンネットに移設することができ、メンテナンス性が格段に向上しています。

また、ラジエターもRX-7のように低く・斜めに配置させてあり、とにかく重量物を中心に寄せるこだわりのパッケージになっています。車軸後方にエンジンが存在することから、真のフロントミッドシップ車といえるでしょう。


ただし、(構造的には可能でしょうが)実際のNCロードスターでは空調ユニットは後方格納ではなく従来のままで、そのスペースは幌ではラゲッジスペース、RHTではハードトップ格納部分になっています。※NDロードスターではさらに15mmエンジンが後退しています。

また、これら以外にぱっと見で「息吹」からNCロードスターに継がれなかったのは、ハイブリッドシステム搭載と電動ステアリングの採用くらいでしょうか。

次世代マテリアルの採用


また「息吹」は軽量化のために多様な素材を採用しています。

強化プラスチック製フェンダー/ボンネット/リアフロアパネル/ドアアウターパネル。アルミ製ブレーキディスク/ドアインナーパネル。カーボンファイバー製プロペラシャフト/ PPF (パワープラントフレーム)。マグネシウムホイールなどです。

これらによって軽量化を図るとともに、繊維強化をおこなった植物性樹脂の採用など、リサイクル素材も積極的に活用しています。


実際のNCロードスターでは軽量化のためにアルミ素材と超高張力鋼板(ハイテン材)を採用、NBロードスターと比較するとPPFとトランクリッド、エンジンブロックがアルミ変更されています。

また、何もパーツを架装しないホワイトボディ状態(フレーム)はNBロードスターと比較しても1.6kg軽い247.5kgとなっています。実はエンジンも19.1kg軽くなっていて、伝統の「グラム化作戦」によりシートで4.8kg減、ルームミラーで84g減など573部品を見直し、設計段階よりも43.539kgを減量しています。

「ボディパネル面積」「安全基準対応」の影響でNCロードスターはNBロードスター(ABS付RS)比で+10kgとなっているとされてますが、実はこちらアルミホイール重量の影響が一番大きく、RX-8と共通の5穴ホイールではなく4穴を採用したくとも、足周りを組み立てるコストの関係で断念した、その影響でした。


ちなみにフォード傘下当時のマツダにおけるロードマップのなかではスポーツカーの車台(プラットフォーム)は共通化することが決定事項であり、コンセプトカー「RX−01」や「RX−Evolv」の段階からオープンボディ(ロードスター)を見越した開発がなされていました。

貴島元主査がNCロードスターの担当に正式に抜擢される前には「とてもライトウェイトとはいえない」代物が進行していたそうです。ルーフ付きのクルマをカブリオレ化する技術的困難は(近年では初代ハチロクが断念したように)相当なものになるのです。

既に排気量を下げたいとしていた


パワーユニットは、吸排気バルブともにシーケンシャル・バルブ・タイミング&リフトを搭載し、効率とレスポンスに優れた軽量コンパクトなMZR1.6L直噴・直列4気筒エンジンとしています。ハイブリッドモーターがダウンサイジングターボのようなトルクアシストを行い、低速から太い加速性能を生み出します。

さらに、信号待ちなどのアイドリング時にはハイブリッドモーターがエンジンを自動的に停止、発進時にはエンジンを自動的に始動させることで、燃料消費や排出ガスの低減を図るとされています。今でこそアイドリングストップ機能は枯れた技術になりつつありますが、当時は登場前の先進機能でした。


実際のNCロードスターでは新進気鋭のMZR・2リッターエンジンを採用しています。実際にはクラスコンペティターであったS2000のように馬力を稼ぐことも可能でしたが、高回転重視の低速スカスカなパワーユニットではなく、あえて実用域のトルクと燃費を稼ぐためのチューニングがなされました。したがって、中間加速域ではホンダに負けずとも劣らないのですが、あまり知られていないのが残念ですね・・・


なお、パワーユニットにおいて排気量を下げる選択はNDロードスターで実現しています。またアシスト・ハイブリッドは初期のNDロードスターも含めた初期の魂動世代マツダ車において「i-ELOOP」としてオプションで採用されています。直噴はスカイアクティブで、モーターアシストはスカイアクティブXで実現していますが、マツダは「ハイブリッド」を売りにしない傾向にあるので、いつの間にか実用化されていたというのは見逃せません。

ただし、現行型のロードスターであってもハイブリッドシステムを載せて燃費を稼ぐのではなく、軽量化と燃焼効率プログラムにおいて燃費と馬力を稼いでいます。

デザインテーマは「NAロードスター」


プラットフォームとはクルマの骨格である、そこにエンジンや安全装備などのパーツを組み込んだ状態が「パッケージ」とされています。これらの条件を見越したうえでブランニューデザインしたのが「息吹」でありNCロードスターです。

RX-8と共通プラットフォームであることが決まっていた次世代ロードスターは、トレッド、ホイールベース、車幅といった各種寸法をギリギリまでコンパクトにしたうえでの想定諸元が、開発スタート時点で確定されていました。そうなれば規定内でいかに「ロードスター」像を創りあげるかがデザイナーの魅せどころになります。


そうなるとベンチマークはやはり「NAロードスター」。「息吹」には下記プレスリリース文章があります。

マツダのデザインチームが将来のロードスターの方向性を模索する上で、初代モデルを十分に理解し尊重することが非常に大切なことでした。特に初代のデザインが持つ純粋さに我々は魅力を感じました。


スポーツカーのデザインは、クルマの骨格を表現し、走りの機能を支援することから始まります。Mazda息吹では、コンパクトさと、スーパーフロントミッドシップレイアウトの圧倒的な優位性をできるだけシンプルに視覚化することを目指しました。その結果、とてもモダンなのに初代ロードスターを思わせるデザインを実現できました。

シンプルかつ的確なエクステリアデザイン


「息吹」は初代ロードスターを踏まえながら、新世代ロードスターのパッケージングをシンプルに再現する純粋さを「楕円」と「アスレティックデザイン」によって体現しています。


改めてNAロードスターと比較してみると、ウインカーやグリル、そしてショートボディをシンプルな形でトレースするだけでも「ロードスター」に見えるのがポイントです。


また、スーパーフロントミッドシップ・パッケージングは主要パーツを全て車軸のなかに納めます。その恩恵で前後クラッシャブルゾーンが確保でき、前後オーバーハングをバッサリと削ることが可能になりました。

軽自動車ばりにフロント/リアバンパーの先を削りとることは軽量化にも貢献できます。余談ですが、この思想はNC/NDロードスターのデザインでも引き継がれています。


わかりづらいかもしれませんが、トランクはリアのボディパネルが一体で開く大容量トランク。日常性を確保するためのトランクスペースは「ロードスターらしさ」のひとつです。当時のマツダデザインテーマ「アスレティックデザイン」はプロミネントフェンダーとされるアグレッシブな踏ん張り造形も特徴です。

そして、基本的には直線と楕円のシンプルな組み合わせのみで「息吹」はできており・・・つまり次世代ロードスターがこれだけシンプルに描けてしまうのは凄いです。


これはアニメのキャラクターデザインにも通じます。アンパンマンがマルと点で誰でも(なんとなく)描けるのと同じなのです。再現性が高いキャラクターは、長く愛される条件のひとつなのです。これはNAロードスターも一緒ですね。


前ヒンジで開くアリゲーター型ボンネットはスポーツカーの憧れ・・・未来感あふれる「息吹」に、いきなりスポーツテイストが現れるの演出は素直にシビれます。エンジンのパワーバルジがボディ側に残っていますが、この造形アイコン自体はNCロードスターにも引き継がれました。


ちなみにグリル両端の円部分はフォグランプが配置されています。これだけでもNAロードスターのオマージュであることが分かりますね。

オープンカーならではのインテリアデザイン


インテリアでは特徴的なハイマウント・バックボーンフレームを活かしてエクステリアとの一体感を表現しています。バックボーンの力強さを示すデザインが、前方ではダッシュボードを超えてボンネットへ、後方ではリアカウル(ソフトトップカバー)へと続いています。


さらにリアカウルはインテリアにスムーズに連続し、ボディに一体化された助手席シートが、インテリアとエクステリアの連続感を際立たせています。ボディパネルの内側をエクステリアカラーを同一にすることで、オープンカーらしい「見せ方」を意識しています。


空調ユニットをシート後方に設置したことは、エンジン搭載位置の大幅な後方移動を可能にしたことだけでなく、オープン走行時にも快適な空調効果を得られる、左右独立のゾーニング空調を可能にしています。首元から風がでる!


また、左右のフロントピラーとリアカウル部には4点アクティブロールバーが内蔵されました。衝撃を感知すると、瞬時に飛び出して乗員の傷害軽減を図ります。なおNA/NB時代には安全要件になかったロールバーですが、NCロードスター以降のオープンカーではロールバーが必須装備になりました。


しかし、モーターショー終了後のフードバックにおいて、マツダデザンチームは「息吹」が「シンプルすぎて機械的にみえてしまう」というジャッジを下しました。咀嚼すると、スポーツカーのエモーシャルな表現は生物(有機的)の躍動感が必要であると再認識し、NCロードスターの親しみやすい、ロードスターらしいエクステリアデザインに革新を持てたのでしょう。

NDロードスター検討「素うどん」モデル


息吹やNCロードスターはSEプラットフォーム(RX-8)と共通化する前提があったので、パッケージにはある程度の制限がありました。

しかしNDロードスターの開発は完全新規プラットフォームでいくことが決定します。その段階で改めて「ロードスターらしさ」を踏まえたデザインを検討し、「素うどん」と呼ばれた「ロードスターらしさ」のアイコンを集約したモデルが再検討されています。


もちろんここから、魂動デザインを採用したNDロードスターに繋がっていくのですが、時代や要件が違えば「ロードスター」の表現が変わっていくのは、なかなか面白いポイントです。

未来のロードスターとして


「息吹」が未来のロードスターとして目指したのは「ライトウェイトオープンスポーツにおける究極のファントゥドライブ」「走りの機能を支援し、ロードスターのアイデンティティを継承・進化させたデザイン」であることとともに「オープン時の快適性と安全性」がありました。

これはその後のNCロードスターだけでなく、現在のNDロードスターまで一貫したロードスターのフィロソフィ(哲学)です。


マツダは1989年のNAロードスター以来、30年以上ライトウェイトスポーツを継続していますが、NDロードスター発表時に「50年愛されるスポーツカーにする」とアナウンスしました。その方向性や決意を既に提示していたのが「息吹」でした。今日までブレずにロードスターを作り続けているマツダは、流石といわざるを得ません。

結果的にNCロードスターは時代要件により賛否が分かれましたが、現時点で次世代ロードスター(NE)は電動化技術の採用以外は何も決まってないとされています。

そのうえで、この「息吹」が登場していたら・・・今の時代なら拍手喝采な気がします。そう考えると、息吹は少し早すぎたかもしれませんね・・・!

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