MG TF(RD18K)オーナーズレビュー

MG TF(RD18K)オーナーズレビュー

この記事を読むのに必要な時間は約27分です。

今回はNBロードスターのオーナーでもあり、最後の純ブリティッシュライトウェイトスポーツ「MG TF」のオーナーでもあった【でらいら】氏に寄稿いただきました。本家英国のLWSはどんな乗り味なのか、ご確認ください!

はじめに


みなさま、初めまして。でらいらと申します。普段はこのサイトの読者であり、みなさまと同じようにロードスターが大好きなひとり(NB8Cオーナー)である者です。

さて、2回にわたり特集されたMGブランドとそのLWSであったMGF、「懐かしい!」と感じる方も「ロードスターのライバルにこんなクルマがあったのか!」と思われた方もおられたと思います。


実は私、MGFの進化系にあたる「MG TF」を所有する機会に恵まれまして、NBロードスターとMG TFの双方の所有経験がございます。そんなわけで今回、本サイトのMG特集に際して、管理人様よりオーナー目線でのMGレビューを寄稿する機会をいただきました。

自分のNBオーナーとして/MGオーナーとしての経験を活かして「晩年のMGとはどんなクルマであったのか?」を皆様に少しでもお伝えできれば幸いです。
※本文中で特段の注意書きがない限り、「ロードスター」は「2001年式NB8C」を指します。何卒ご了承ください。

日本におけるMGF/MG TF


MGF
先の記事で「お祭りだった」とあったMGブランドの復活とMGFの登場ですが、MGFについていえば、当時の日本のエンスージアストにも広く受け入れられたといえるでしょう。今でも古書店やインターネットを少し調べれば、著名な自動車雑誌での特集記事やビデオなどを見つけることができます。


また、エンスー向け(?)に、こんな本も刊行されました(ボロボロですみません)。実際の台数で見ても、日本における輸入スポーツカーとしてはまずまずの数字を記録しています。実際の販売台数こそ不明ですが、MGFの総生産台数の定説である77,269台のうち、6,445台が日本仕向けだったとされています。

日本では1995年の東京モーターショーで展示されたのち、年末に販売開始。輸入はローバージャパンが担い、日本で絶大に支持された所謂「ローバーミニ」と同じディーラー網を利用することができました。

グレード展開は標準モデルとなる1.8iを皮切りに、96年にVVC(可変バルブ)モデルの追加、特別仕様車の追加などを経て(カタログ上は)2001年まで販売されました。ただし、2000年以降にローバーグループの経営深刻になったことなどがあり、国内で流通したMGFのほとんどは1999年式までのモデル(Mk1:前期)になります。


MG TF
2003年、MGFのフェイスリフト版として日本でもMGTFが発売されます。

プロジェクター式ヘッドライトの採用をはじめ、外観の変更やサスペンション構造の変更、インテリアのリファインなどのほかに、エンジン出力もわずかに向上が図られ、グレード名も出力に応じて標準モデルがTF135(135ps)、VVC付きモデルがTF160(160ps)となりました。

オトナの事情としては、MGFからMG TFに変わるおよそ3年間の間にローバーグループは解体の憂き目に遭い、MGブランドは英国車ブランド(とはいってもBMW傘下でしたが)のミニやランドローバーなどとは別の道として、「MGローバー」というメーカの一員になります。


この「MGローバー」体制は「ローバー」ブランドが高級車、「MG」ブランドはスポーティなクルマを担う戦略が明確に打ち出されていました。しかし、経営難のMGローバーがスポーツ系の新型車をすぐに起こすことは難しかったため、図らずもMG TFはMGブランドイメージの中枢を担う車種にもなりました。

日本の販売網もローバージャパンからMGローバー日本(別会社)へ変更となり、2003年7月より販売開始となります。しかし、日本においてMG TFのセールスは、MGFのようにはいきませんでした。MGローバー倒産までの総生産台数39,880台のうち、日本向けの車両はわずかに127台だったとされます。

これは、当時MGローバー自体の不安定さによるイメージや、車格に対する車両本体価格の高さ(295万円から372万円)、3年間のブランクの間にライバルだったNBロードスターやMR-Sなどがマイナーチェンジ(後期型)を果たして商品価値を高めていたことなど、複合的な理由によるものと推測できます。

追って、より手頃なTF115(1600ccエンジン)もモデル追加される予定でしたがMGローバーの倒産により叶わず、MG TFは2005年にあえなく販売終了となりました。


ネオクラシックの本家、英国LWSはどんなクルマだったか

前置きが長くなってしまいましたが、ここからは私のMG TF「TF160」と、知人のMGF「アビントンリミテッド」がどのようなクルマであったかをご紹介します。

端的にいえば、装備はロードスターより少し豪華で、ドイツ車(当時のメルセデスSLK、BMW Z3、ポルシェ ボクスター)よりもアフォーダブルなクルマです。また、同じくローバーKユニット(エンジン)を搭載する英国車、ロータス エリーゼやケータハムスーパーセブンなどよりも過激さは抑えられ、快適装備、安全装備も必要以上に装備したクルマです。

一方、ハンドリングはMR(ミッドシップ)らしい軽快さを持ち、5MTミッションは好感触、トルクフルなエンジンも扱いやすく音も良しと、総括して色々なクルマの良い所取りをしたクルマに仕上がっています。

反面、(希少性はさておき)こういったオールマイティ感からくるキャラクターの薄さは、スポーツカーとしての訴求力には直結しないかもしれません。そんな前提でオーナーズレビューを読んでいただければ幸いです。

先代MGFについて


残念ながら私はMGFを所有したことはありません。しかし、日本でも(世界でも)MG TFよりMGFの方が売れていた事実からして、そこに触れず私のTF160だけをレビューすることは「NAロードスターを無視して歴代ロードスターを語る」ようなことにならないか?と心配になりました。・・・と、いうわけでMGF「アビントンリミテッド」を所有する知人のM氏からコメントと写真をいただきました。


MGF「アビントンリミテッド」世界限定500台

MG MGF Abingdon LE(RD18K)Limited to 500 units worldwide
車格: オープン 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3915×1640×1260mm 重量: 1090kg
ホイールベース: 2,330 mm トランスミッション: 5MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク(F)
ディスク(R)
タイヤ: 185/55VR15(F)
205/50VR15(R)
エンジン型式: 18K 種類: 直列4気筒DOHC16バルブ
出力: 120ps(88kW)/5500rpm 燃費(10・15モード) 11.4km/l
トルク: 16.8kg・m/3000rpm 燃料 無鉛プレミアムガソリン

MGF 1.8iをベースに、オシャレ装備(ベージュ内装/革シート/幌、ブルックランズグリーンのボディカラー/各種メッキ部品etc.)が付いた限定車。ロードスターでは「Vスペシャル」「VS」グレードに近いイメージのクルマ。イギリスのスポーツカーに伝統的に採用される「GreenOverTan(緑の外装にタンカラー内装)」を採用したことで、とてもトラディショナルな仕上がりになっている。


M氏コメント
MR-Sやロードスターのように軽くて小気味良いコーナリングを楽しむよりも、1段高いギヤでゆったりとワインディングや景色の良い場所を流すのが、MGFの得意とするシチュエーションだと思います。

ウィークポイントは多く、いつ故障で乗れなくなるか分からないようなクルマですが、オープンにしてNA(自然吸気エンジン)の心地良いサウンドを聴き、乗り降りでヨーロピアンなボディラインや少し可愛らしいフェイスをふと眺めるたびに顔がニヤけ、“明日も乗れると良いな”と感じられる素敵な1台です。

また劣化・パンクしたハイドラガスサスペンション(※)では、バネカットしたシャコタンのように大変乗り心地が悪く、安全かつ気持ち良くドライブするのは難しいです。金額は高くとも状態の良い中古品に交換、若しくはバネサス化を強くオススメします。

※)MGFの独自機構として、足周りには従来のコイルスプリングではなく流体を用いたアブソーバー「ハイドラガス・システム」が採用されている


M氏は普段は別所有するクルマでサーキット走行も楽しまれていますが、MGFは大らかな気持ちで運転することに悦びを感じるとのことです。このコメントからは、新車当時はライバルとされたロードスターやMR-Sと、MGF/TFは性格が異なるクルマであることがわかります。MGブランドのクルマとして例えるなら、小気味いい「MGミジェット」よりも、ツアラーとしてその名を轟かせたMGBに通ずるように思います。


また、同氏が言及されているように、MGFもMG TFもノントラブルを前提にしたクルマではなく、この辺りをストレスに感じる方にはロードスターの方が向いているといわざるを得ません(※)。特にハイドラガスの特徴的な足周りを持つMGFはオーナーの苦労が絶えないようです。しかし、その「面倒」をも楽しみ、寄り添って暮らす価値のある豊かな性格のクルマであるというのは、M氏と私の共通見解です。
※従来より国産車はメンテナンスフリーが美徳とされているが、欧州車はクルマ本来の機能を発揮するために「交換すること」が前提の設計思想となっている。

MG TFのエクステリア

MG MG TF(RD18K)
車格: オープン 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3950×1630×1260mm 重量: -kg
ホイールベース: 2,380 mm トランスミッション: 5MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク(F)
ディスク(R)
タイヤ: 195/45 ZR16(F)
215/40 ZR16(R)
エンジン型式: K 種類: 直列4気筒DOHC16バルブ
出力: 160ps(118kW)/6900rpm 燃費(10・15モード) 9.5km/l
トルク: 17.7kg・m/4700rpm 燃料 無鉛プレミアムガソリン

さて、MGF/TFがどのようなクルマか少しずつご理解いただけてきたでしょうか?ここから(ようやく!)私の所有経験に基づく「MG観」を述べさせてください。こちらが「MG TF160」(MR/5MT、2004年式)です。

MGFは見たことあるけどMG TFは初めて見た、知らなかったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、MG TFで出向いたミーティング先で「MGF・・・?」といわれる経験を多くしました。実際、当時からメディアの露出も販売台数もMGFの方が多く、知名度には大きな差があるようです。

ただし、ビデオゲーム「グランツーリスモ」の歴代作品(GT4~6)にはMGFとMG TFの双方が登場しています。実のところ、私も学生の頃にプレイしたグランツーリスモ4がキッカケでこの「TF160」を知りました。それ以来、いつか手に入れたい!と思いつづけて10年以上、ようやく実現したのがこの個体でした。

外見については先代から基本骨格は大きく変わらず、MGFのシルエットそのままに進化した様子が窺えると思います。しかし、よく見比べてみると前後バンパーに加えてサイドのエアダクト部やトランクまわりなどにも手が入っており、実は「結構変わっている」のです。


この記事を書いていて思いましたが、MGFとTFの関係は、ロードスターにおけるNAとNBの関係によく似ています。あるいはNBロードスターのモデルチェンジ成功を見て、当時のMG開発者があえて同じ手法を用いたのかも・・・というのは邪推でしょうか。

ボディカラーはメタリックのグリーンです。あえてボディカラー名を記載していないのは、この色の正式名称が最後まで分からなかったからです・・・(※)。ご存じの方も多いでしょうが、イギリス車の「緑」はかつてレースカーにナショナルカラーの概念があったころ、イギリスが使用していたのが緑であることに由来します(所説あり)。イタリア車の赤、フランス車の青と同様、伝統的で誇り高い色でもあります。ゆえにMGF/TFも緑が豊富に用意されており、モデルライフを通じて複数の緑が登場しています。
※)MG TFのカタログデータにはル・マン・グリーン/ブリティッシュ・レーシング・グリーン/グッドウッドグリーンの3種類が併記されている


MGFからMGTFへの変更で最も外観・ドライブフィール双方への影響が大きいと思われるのがハイドラガスサスペンションから一般的なスプリングサスへの変更です。

これにより車高が安定する(ハイドラガスは特性上、気温で車高が上下する)とともに、M氏のコメントにもあった通り、約20年が経過した現在は整備にかかる費用も大きく変化しています。また、フィーリングの面でも英国車らしいしなやかな挙動とされるハイドラガスのサスペンションと比較して、MG TFのスプリングサスはLWSのライバルに近いダイレクト寄りの挙動へ変化しています。ちなみに、当然といえば当然ですが、MGFとMG TFの足周りに互換性はありません。

さらにTF160は、フロント195/50R16、リアは215/40R16と16インチのホイールに4ポットの赤キャリパーが奢られ「やる気」を演出してくれます。(当時の)この車格のスポーツカーとしては豪勢な足元に感じますが、これは戦前から倒産まで掲げ続けたMGブランドにおけるクルマづくりの理念となる「Safety Fast」、つまり、安全でコントローラブルでありながら楽しく速い車に仕立てよう、という想いが感じ取れます。


サイドから見てみると、典型的なくさび型の造形になっていることが見て取れます。ロードスターと比較するとドアの上端が高いため少し腰高に見えますが、実車を見るとむしろフロントエンドが存外に低く感じると思います。

質素でありながら、派手なプレスラインを用いなくともショルダーラインがパリッと立って、前後に一本に貫くように見える造形は光を上手く捉える形をしており、最近のマッシブなスポーツカーとは異なる趣があります。私はこの出で立ちをまるで「仕立てのいいスーツを着ている」ような面の張り方だな、と思っていました。


MGFと比較してシャープな造形となったフロントエンドはボンネットこそMGFと共通ですが、造形に破綻なく仕立てられています。この辺りは英国自動車産業が長年のバッジエンジニアリング(同一車種を複数ブランドで販売する)で培ってきた「化粧直し」の技術が活かされているのかもしれません。また、プロジェクター型のヘッドライトは黒いベゼルにメッキのリングを奢られ「目ヂカラ」も強まっています。


リアエンドはマフラーがロアグリル内に配置されています。この造形はフロントと対になっており、フロントグリルには丸いフォグランプが、リアはマフラーエンドが配置され、統一感のある仕上がりになっています。

現在のいかにも速そうなスポーツカーとも、スポコンやユーロ全盛の当時の華やかなライバルたちとも違う、実に「英国らしい」淡泊でありながら流麗な造形の小型スポーツカーであると感じます。

MG TFのインテリア


内装に関してはハードなスポーツカーというよりは郊外を流すクルーザーのような雰囲気です。実にツーリングに適したカタチ・・・とでもいうのでしょうか、5ナンバーの2シーターとは思えないほど余裕のある造形がとられています。造形自体は先代とさほど変わりませんが、エアコンスイッチまわりなどが変更されています。また、評判が芳しくなかった高めの配置だったシートも、少し低く改められています。

ロードスターと比較するとキャビンは広く、特にダッシュボードから先の視界やサイドウインドウの面積からなのか、抜群の解放感があります。これはMRならではの造形手法と思われ、ホンダ ビートの内装に近いものを感じます。


シートは標準でハーフレザー、ヘッドレストは別体型となっています。音響は6スピーカーとなっており、特にヘッドレスト裏にも印象的な大型のスピーカーが配置されています。このあたりからもロードスターとは違うキャラ付けをされていることが分かります。


なお、深くは語りませんが、内装の組付けのクオリティは実に「イギリス的」です。何度部品をはめ直したことか・・・当時のオーナーがどのような苦労をしたのか知る由もありませんが、誕生から20年以上が経過した今となっては、そんなポンコツぶりもご愛敬です。

MG TFのドライブフィール


私のクルマは1.8LのVVCエンジン(160ps仕様)でした。実際に運転してみると拍子抜けするくらい快適で、運転しやすい印象です。これは私だけの所感ではなく、ロードスターオーナーや英国車オーナーの知人たちに試乗してもらっても同じ感想を得ています。

ローバー謹製の18Kユニットは下からトルクがあり、クラッチを繋ぐだけで容易く発進ができます。かといって回転が重いこともなく、加速時はレッドゾーンの7000回転まできちんと吹けてくれます。このユニット、実に音がよくカラッと乾いたノイズがとても魅力的です。


ロードスターのBP-VEと比較しても、Kユニットはやや低い回転数から「うおおおお」と唸る・・・というか、エンジンが「回っている」ことを感じられる響きを放ちます。極端な例ですが、BMWのシルキーシックスに似た音調だと思います。

シフトを下げれば「ガオン」とまたいい音が鳴り、この辺りの優れた演出は、エリーゼやスーパー7といった「ガチ」のブリティッシュライトウェイトに同ユニットが採用された理由に繋がっている気もします。ただ、標準エンジンとVVC(可変バルブ)の音の違いは(私には)あまりわかりませんでした。

ちなみに、あまり回し過ぎているとヘッドガスケットが吹き飛ぶ持病があります。恐ろしい・・・


シフトフィールも上々で、機構上ダイレクト感の薄さはありますが、ゴリっと嫌な感触がすることも、すっぽ抜けるようなことも無く、意図したとおりに操作できます。また、長めのストロークのおかげで、街乗りではゆったりとして余裕ある操作につながります。

ペダル類は比較的小ぶりなのですが、(個体差かもしれませんが)スロットルはかなり敏感です。反対にブレーキは踏力に応じて奥までリニアに効きます。もちろんツーリングに向く性格のクルマといえどスポーツカーらしさは忘れておらず、ヒール&トゥも難なく決めることができます。

気になるハンドリングですが、ロードスターと比べると「曲がんない!」というのが第一印象でした。


もっとも、これは街乗りについての話で、おそらく最小回転半径の差と、私がMR車を運転し慣れていないことに起因するものです。したがって(ロードスターと比較して)クイックというよりは「よいしょ」と曲がる感じがあります。正直「ゴーカートフィーリング」される同じ英国のミニに近いイメージをしていましたが、それを想像すると少し肩透かしを喰らう感があります。街中を流すハンドリングの味付けは、完全にクルーザー寄りといえるでしょう。

一方、興味深いことに交差点で少しキツめに減速してハンドルを切れば、打って変わってクルマがひらりと鼻先を入れてくれます。この動きのメリハリは驚きましたが、思わずニヤリともしてしまいました。

ちなみに電動パワステを採用していますが、ロードスターと比べても「少し重いかな?」くらいで特段の違和感なく運転ができます。また、ドライブフィールとは直接関係しませんが、適正に稼働するエアコンであれば日本車に劣らずめちゃくちゃ強力です。当時の欧州車としては利便性においても「日本人好み」なクルマといえるでしょう。

MG TFの高速域とワインディング


高速域において
街乗りの緩やかなイメージをがらりと変えるのが高速域での動きです。5ナンバーサイズに満たない全幅とは思えないほどに、とにかく安定していて驚きます。

アシは路面を捉えて的確に起伏をいなし、ハンドルは路面情報を的確に伝えながらも、全くぶれることはありません。車齢20歳を過ぎてもこの挙動であることに驚きますが、新車時にはもっと安定していたかもしれないと思うと、やはりGTカー寄りのクルマであると思えてきます。

小型のMRオープンカーという特性上、ある程度の速度を超えるとさすがに空力と重量バランスによってフロントが少し浮きますが、日本の高速道路でそれを体感するシーンは滅多になさそうです。風の巻き込み状況は不思議にも80km/hまでは全くの無風であり、それ以降は巻き込むといった、メリハリのある調子になっています。

ちなみに、所有していたころは知らなかったのですが電動パワステが速度感応式であり、高速域ではパワステオフになる機構が入っているようです。この情報の真偽が定かでなく申し訳ないのですが、その説明に納得がいくくらい高速道路で安定しているクルマに仕上がっていました。


ワインディングにおいて
ワインディングではひとつ上の車格で攻めているような、あるいはより新しいクルマで攻めているような感覚を得ました。ブレーキを踏む、ハンドルを切る、加速する、それぞれの速度にふさわしいギヤを選ぶという一つ一つの動きがロードスターよりもやや重く・・・感覚で楽しみながら運転するというよりも「こなす」印象を受けます。

ステア操作を効かせるためにはしっかり減速をして、前のタイヤを使える状態にする必要があり・・・そんな気難しさがありながらも、スロットルを開けばクンっと曲がってくれる素直さも兼ね備えており、この辺りがMRならではの挙動であると思わされます。

ただし、ピーキーで怖いと思うことも、テールが急にスライドする不安感を抱くこともなく、あくまでもドライバーが的確に「安全で速く」走ることができるように味付けされています。これはMGの理念に基づく味付けでしょう。


ロードスターが「思い通りに動く」ことで信頼されるクルマだとすれば、MG TFは「オーナーが過剰に暴走しないように諭す」という印象で、そういう意味でも信頼ができるクルマでした。また、そんな味付けを現在ほど電子制御がなされていない時代に、このクラスで実現しているという点も偉大であると思います。

新車当時のMGFが各種アワードで「ハンドリング賞」を受賞しているのは、誰にでも安全な楽しさを提供してくれるという評価であり、MG TFも優れたハンドリングを継いだクルマといえるかもしれません。

MGに乗るということ


MGF/TFは、ロードスターに感化されて登場した感は否めない一方で、ロードスターよりもGT感/クルーザー感の強い仕立てのクルマに仕上がっていました。そうなると、ミニサーキットやジムカーナを楽しむならロードスターが向いているでしょうが、遠くにドライブに出かけたり、ワインディングを流したりする点においては、MGもなかなか適しているでしょう。

新車当時、日本でこのクルマを選ぶユーザーは「ポルシェほどの高速域はこなさないが快速で移動できるオープンカーが欲しい」「サーキットは行かないけれどたまに他のクルマとワインディングで遊びたい」「かっこよくて楽しいクルマが欲しい!」という欲張りな方ではないでしょうか。なにより、日本ではすさまじく存在が珍しいので、注目の的になることは間違いありません。

また、故障自体は多いですが、英国車らしく部品は(会社が亡き今でも)豊富に出ますので、金銭に余裕があれば維持も容易いです。ただ、ここまで書いて改めて申し上げるのも憚られますが、私はすでにこのクルマを手放しています。「なんで手放したんだ」と多方面かあおりを受けそうですし、事実、手放した直後は度々そうした言葉をかけられました。


理由は単純で・・・残念ながら、私のライフスタイルにはMGよりもNBロードスターの方が適していたからです。

もう、かつての形では存在しないメーカーの古いクルマであることや、現在であれば海外から部品を取り寄せる手続きが容易になった反面、費用的な難しさもありました。

出先のトラブルに対処する据わった肝、クルマのポンコツっぷりを笑い飛ばすおおらかさ、忘れがたい解放感と後ろから突き上げる官能的なエンジン音、流れる景色に混じるわずかなクーラントの匂い・・・そうした様々な要素を学ばせてくれるとともに、どこへ行こうとも常に、オーナーへ「オーナーらしくあること」を要求し続けてくるのがMGというクルマです。


こうしたかけがえのない経験の結果、私のクルマ観においては、MGを無理して所有し続ける選択を辞めました。ただし、これは決してMGよりもロードスターがより優れている話ではなく、「今の自分にはたまたまロードスターが合っていた」というだけの話です。

今は少し距離を置く選択をしましたが、もう少し歳を重ねた先で再度オーナーに挑戦したいと心から思ったのが、私にとってのMGというクルマの評価でした。

おわりに


MGF/MG TFは日本で生まれたライトウエイトスポーツカー文化の精神的な継承車「ロードスター」を目の当たりにした英国のエンジニアが、本家の意地で作ったクルマです。また、かつて一流スポーツカーメーカーとして名を馳せたMGブランドが統合と解体を繰り返し、英国自動車産業の最後の華として選ばれたのが、この小さなオープンスポーツでした。

このクルマの後、英国から大衆向けのライトウエイトスポーツは登場しておらず、今後の環境規制やEVシフトの潮流のなかで復活する兆しもないことから、おそらくMGF/TFが英国におけるLWS文化の末裔でありつづけるでしょう。


ただし、日本にはこの文化を色濃く残した「だれもが、しあわせになる」クルマが残されています。私たちはそんなクルマをいつまでも作り続けてくれるメーカーがあることに感謝しつつ、これからも素敵なカーライフを送っていきたいものだと思います。


本文には関連しませんが2024年に100周年を迎えるMGブランドは、今年の英グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのメインモニュメントを担当します。中国資本で勢いを増している新生MGは、現地でEVオープンスポーツ「サイバースター」とそのクローズドトップ「サイバースターGTS」を発表したようです。この記事を見て興味を抱いてくださった方は、ぜひ新生MGのニュースもチェックしてみてください!いつか日本にも再びMGがやってくるかも・・・?

拙文にお付き合いいただきありがとうございました!

MGF/TF小ネタ

・PCDが変
MGF/MG TFともにホイールは95.25の4穴です。ちなみにMk Iエリーゼや一部ケータハムなどと同じです。

・部品供給がいまだに潤沢
本国のウェブサイトでは、切れている部品を探す方が難しいかも・・・ちなみに、未だにボディシェルASSYが購入可能です。

・幌の開閉はロードスターの方がラク
幌の機構はよく似ているのですが、幌開閉の操作感はロードスターよりも重いです。ただし、ロードスターの難点であるトップロックの設計はMGの方が優れています。長年のノウハウかもしれませんね。

・ドリンクホルダーが浅い
MG TFでも浅いと思っていましたが、MGFはそんなもんではなかった。停車中のティーカップ用でしょうか?

参考出典
https://www.webcg.net/articles/-/21041
https://www.webcg.net/articles/-/20725
https://www.webcg.net/articles/-/1324
http://www.mgtf.be/DE_numbers_ALL.html

Text by でらいら
https://x.com/MidoriMiniata

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