M2 1001(NA6CE改)試乗記

M2 1001(NA6CE改)試乗記

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クルマはじっくり乗ってみなければわからない、幸いなことに、友人のロードスターをお借りする機会を得ることができました。今回はNA6ロードスターの限定モデル・・・といいますか、当時のマツダ・サブブランド「M2」から販売された「M2 1001」の試乗記です。

M2 1001(NA6C改)
車格: オープン 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3955×1675×1225mm 重量: 960kg(実質980kg)
ホイールベース: 2,265 mm トランスミッション: 5MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤ: 195/50R15
エンジン型式: B6-ZE[RS]改 種類: 水冷直列4気筒DOHC
出力: 130ps(96kW)/6500rpm 燃費(10・15モード) 10.5km/l
トルク: 15.1kg・m/5500rpm 燃料 無鉛プレミアムガソリン

通称マルイチとかゼロワン呼ばれるこのクルマは、NAロードスターの中でも全国300台のレアモデル。ウルトラざっくり解説しますと、メーカーが公式にチューニングを施したロードスター、型式は「NA6CE改」となります。


この「M2 1001」は、NAにおけるチューニングやドレスアップのベンチマークとして様々な場面で紹介されることでも有名です。個人的な話を書くと、私が社会人になっていた00年代はすでにNBロードスターが登場しており、かつM2社は解散済みだったので、・・・失礼ながらそんなに思い入れはありません。でも、同じ心臓を持つNB6ロードスターオーナーの私としては、B6-ZEエンジンをメーカー水準で本気で弄ると、どんな味付けになるのかは気になって仕方がありませんでした。

90年代の日本製スポーツカーが軒並み価格高騰している現代において、特にこのようなメーカー謹製のコンプリートカーは「走る文化遺産」ともいえる存在です。しかし、プレミアが付いている名車といわれる割には、ネットでも雑誌でもスペックの紹介ばかりで、その乗り味を詳細に語る評価は意外と少ない。折角の機会なので私の独断と偏見で、その辺りをレポートさせて頂ければと思います。

M2とは


M2(エムツー)とは、マツダの商品企画を行うグループ会社でした。

「商品企画において、商品プランナーがお客様とのダイレクトコミュニケーションの中から、クルマの新しい価値創造を目指す」として、世田谷のM2ビルで開発メンバーと意見交換しながら、クルマを開発する・・・という事でいくつものマツダ車のコンプリートカーを企画開発。そこから市販に至ったモデルも複数あります。その最初の1台が「M2 1001」です。

M2の活動期間は1991年~1995年。現在は、その後のマツダ経営再建により休眠会社となっています。当時在籍していたメンバーは、マツダ本社でマツダスピード事業部に行かれたり、オーナーズクラブを束ねたり、もちろん独立したりと様々ですが、現在のロードスター業界で有名な方がさまざまいらっしゃいます。

M2 1001のスペック


コンセプトは「CAFÉ RACER 」。カフェレーサーとは「公道レースを速く、カッコ良く」という趣旨でクルマやバイクをモデファイするスラングです。

以下、プロモーション文章より抜粋です。

M2から最初に発表する1001は、「走るときめき」の提案です。飾らない風貌に潜在能力を感じ、わずか数メートル転がした瞬間に、別物であることがご理解いただけるものと思います。このM2 1001を御すためには、いささかの鍛えも必要かと思いますが、これもスポーツカーオーナーだけの悦楽であろうと考えて居ります。

開発総指揮は立花啓毅氏。同氏はマツダのシャシー実験部のリーダーとして、M2在籍以前からメディアの露出が多く、マツダスポーツカーの顔であったといっても過言ではありません。そんな方が、自身の”走り”に対するアイデンティティを「1001」に注ぎ込んだとなれば、クルマの仕上がりが気になるところです。

チューニングエンジンB6-ZE(RS)改
ノーマルよりも圧縮比を上げ(9.4→10.67)ハイオク仕様に。ハイカム、ハイコンプピストンを投入。NA(自然吸気エンジン)らしい高回転域の伸びと、アクセル操作に即応する鋭いレスポンスの源泉になっています。ノーマルよりも圧縮比を上げ(9.4→10.67)ハイオク仕様にして、ハイカムにハイコンプピストン、専用エキマニ(4−2−1)、軽量フライホイール、専用マフラー(HKS)を架装しています。出力は130ps/6500rpm(ノーマル比+10ps)、トルク15.1kg-m/5500rpm(ノーマル比+1.1kg-m)といったスペックです。

専用エキマニ(4−2−1)、専用マフラー(HKS)
軽量フライホイールとの相乗効果で、官能的な吹け上がりとサウンドを演出。単なるパワーアップではなく、「気持ちよさ」を追求した、M2らしい選択です。

足周り
マツダスピード製をベースに専用セッティング。ロードスター初の純正15インチ採用。現代の基準では小さい15インチですが、これがバネ下の「安定」(※決して軽量ではない)に繋がり、シャープなハンドリングを実現している。

ボディ補強
アルミ製のタワーバーやロールバーを装備。単なる安全装備ではなく、オープンボディの弱点である剛性を的確に補い、足周りをしっかり動かすための重要なパーツとなっています。

また、専用のフォグランプ内蔵エクステリアやリアスポイラー、砲弾型ドアミラー、専用マッドフラップ等を標準装備。ボディカラーは専用色のブルーブラックを採用しています。

M2 1001 乗り込んでみる


実際に乗り込んでみると、まずはバーン!と閉まるドアの軽さと、シンプルな(しかし決して安っぽくない)エクステリアに驚きます。

クラシックなスタイルの専用バケットシートに腰を埋めるとかなりタイトで、乗り手の体型を選ぶことになるでしょう。意外なのは座高が思ったより高く、ヘッドレストがないので、運転中は首の筋肉を使うことになります。これは幌を開けた時に理由がわかるのですが、首が自由なので(仮にヘルメットをしていても)圧倒的に全体を見渡すことが可能です。


内装は最小限のシンプルなもので、センターコンソールすら取り外されています。トランクやフェルリッドのオープナーも廃され、そこには専用の小物入れが付きます。本当に、必要最低限のモノしか存在しません。世代が進んだロードスターの工夫を凝らした収納や快適装備を知る身からすると、まるでレーシングカーに乗り込むような緊張感と潔さを感じます。しかし、これがいい。クルマとの対話に不要なものは、何一つないのです。


コックピット正面で確認できるのは専用のメーター類。ひとまわり小さいため、一見ドレスアップ目的かと思っていたのですが、NA純正メーターよりも座面からの視認性が良く、正確な情報を確認できるメリットに繋がっています。なお、回転計、速度計が純正より左右入れ替わっているのが何気に凄い。このモデファイはメーターパネル自体を作り直すレベルのものですからね。

ただ、(オーナーのアドバイス通り)燃料計は増えたり減ったりと、結構適当な動きをしていました。タンク内で動きまくる燃料の影響かな?

砲弾型のサイドミラーも十分とはいえませんが、なんとかなる視認性を確保しています。こちら、左右非対称でセットされており、助手席側にはミラーの位置に1001のシリアルナンバーが配置されています。

M2 1001 珠玉のチューニング・エンジン


イグニッションを入れると、NAのノーマルエンジンよりもかなり野太いアイドリングが始まります。たまにラフな音も刻みますが、温まると次第に安定していきました。水温は75℃〜85℃の間で推移しましたが、走行時の方が安定するのはロードスターのお約束ですね。少しアクセルを煽ると、それだけで元気なエンジンであることが、すぐに判ります。

トルク感は正直NA8(1800cc)の方が太く感じますが、吹け上がりの良さはこちらが圧倒的に上なので、すぐに常用回転域のパワーバンド(街乗り、2000rpmあたり)で普通に流せて、むしろ意外に乗りやすくいことに驚きました。同じB6エンジンで例えると、NB6は「ブロロウォーン」って少しのんびりした感じの吹け上がりですが、1001は「ヴォン!」と軽快に吹け上がります。

では、踏み込んでみるとどうでしょう。

専用マフラーの音は意外にジェントルかついい音で、3000rpm辺りから音が盛り上がり、4500rpmでめっちゃいい音になり、上まで一気に吹き抜けてます。もちろん速度も乗ってくるので、シフトアップが忙くなります。しかし、音域に雑味は全くなく、丁寧に調律されていることを感じます。シフトを抜いて慣性走行に入ると3000rpm辺りで「踏まないの?」と、尻の下(キャタライザー辺り?)で共鳴音が生じ、少し申し訳ない気分になりました。


スペックだけで見ればNB8と同じ「130ps」ではありますが、排気量の差があるとはいえどもエンジンの味付けはかなり印象が異なりました。特にNB6乗りとしては、同系列のエンジンでもここまで官能的になるのか・・・と、少しショックを受けるほどです。それくらい踏みたくなってしまう、その気になってしまうフィーリングの良さがあったのです。

M2 1001 コーナーリングに関して


コーナーリング性能を試してみましょう。実は、最初は重ステ(パワステレス)に警戒感を持っていたのですが、パワステ特有の「遊び」が無い分の剛性感というか、軽いボディと官能的なエンジンがコラボして、想像以上にコントローラブルに鼻先が入ります。コーナー中に修正舵を出すことはほぼありませんでした。ノーマルのNAよりもハンドリングはよりシャープになっている印象です。


また、ものすごく感動したのがボディの作り。全くといっていいほどミシリとせず、NA特有の腰砕け感もなく踏ん張ってくれます。後にロールバーを確認すると床面の溶接だけでなく、ハードトップ用のサイドフック基部までボルト留めをおこなって剛性を確保するこだわりを確認できました。

足周りもいい仕事をしていて、低くなった車高に合わせた適度なストロークで、ギャップを乗り越えても何処かに飛んでいくような不安はありません。正直、ハードトップ付きの純正車高NBロードスタ-よりも足とボディのバランスがよく、乗り心地も1001の方がずっと上でした。

私の甘ちゃんな走り方では全然信用して踏むことができ、NBに近しいハンドリング(しかも速度領域が高い!)を味わえました。過去のメディア評価では「アンダーから唐突に限界がくる」といった記述も見受けられましたが、私自身はそんな場面に遭遇することはありませんでした。

おそらく、これは90年代初頭のタイヤ性能を基準にした評価であり。現代の高性能なラジアルタイヤを履いた1001は、想像以上に懐が深く、安心して踏んでいけるました。機械式LSDの挙動も、タイトコーナーからの立ち上がりでは強力なトラクションとして、頼もしく感じられました。


ボディが信用出来るので直進安定性も全く問題がなく、むしろエンジンを回したくなるのが別の意味で危険です。余談ですが、NA開けをするよりも素直にオープンにした方がヒーターは効きました。ちなみに燃費は満タン法で(302km走行で給油量27.12L)リッター11.13kmでした。※ハイオク指定

M2 1001 気になったこと


甘ちゃんと笑われるでしょうが、あえて書きます。

低速度領域でパワステレスは、現代のクルマに慣れた腕には、もはや「筋トレ」です。車庫入れ、峠道での転回、低速度(20km/h以下)での、交差点ターンは、普段使わない筋肉を使いました。それに伴ってでしょうか、特に夜間走行は気疲れが有りました。しかし、速度が乗れば、路面からの情報がダイレクトに伝わる素晴らしいフィールに変わるのですから、オールラウンダーではなくステージを選ぶクルマであることが分かります。

小型のバケットシートはヘッドレスト部分(頭の支え)がないので、リラックスモードで走る時に首が凝ります。あと、恐らくエアコンレス仕様は夏場キツいんだろうな・・・

また、メーカーの威信をかけて作ってくれた1001用のパーツは生産保証期間が終了しているのでオリジナルを保つためのカロリーは大変だろうと、余計な心配をしました。しかしその一方で、ロードスターは世界中に熱心なファンがいるため、専門ショップによるリプロパーツやレストア技術も進化しています。オリジナルを維持する情熱と知恵は、オーナーにとっての大きな課題であり、同時に最高の楽しみでもあるでしょう。

M2 1001 どこに価値をみいだすか


M2というメーカー組織が販売し、立花氏という生粋のエンスージアストが1001の陣頭指揮を執ったこのクルマは、開発サイドが「これがライトウェイトスポーツだ!」と示す、ひとつの完成形であったといえるでしょう。事実、1001モデファイは全て理詰めで施されています。

内装レスを突き詰めたからフェルリッドオープナーも車内から排除し、従って鍵付きのフェルリッドとなりました。ダイレクト感と軽量化を得るためにパワステレスを選択し、メーターは常にインフォメーションを確認するために小型化し、バケットシートは走行時の視界を確保するための、古き良き小型タイプになっている。


空力重視の砲弾型ミラー、実はフォグランプだけでも走れてしまう(リトラクタブルを開かなくても明るい)エアロバンパー。パワーを出すのであればロータリーだ、ターボだという方向もあったでしょうが、フィーリングに拘ったメカチューンのNA(自然吸気)エンジン。これらを個人で、イチから始めるとしたらどれ位のコストがかかるのか。


NA6という素材を「ここまでやってもいいんだよ」と示すスタイルの提案だけでなく、メーカー保証まで行ったその心意気にハマってしまったら、もう逃れられないでしょう。それは、単なる速さや快適さといったモノサシでは測れない、「哲学」や「美学」をクルマに与えるという行為でした。スペック至上主義や、SNSでの見栄えを気にする現代のクルマ文化に対する、静かな、しかし強烈なアンチテーゼとも言えるでしょう。


実際に1001を返却し、愛車のNBロードスター(NB6)に乗り込んだ際気付いたのが「1001はクルマを小さく感じた」です。

ぶっちゃけ、ボディサイズもインテリア寸法ほぼ変わらない筈のNBロードスターなのですが、エンスージアスティックに演出され、走りのみを本気で楽しめる1001の環境はスペシャルだったと、改めて感じました。NB6の牧歌的なエンジンフィールで「ああ、日常に帰ってきたな」と、少し寂しくなったのは秘密です。

実際、ホンダVTECとかスカイアクティブなどの素晴らしいエンジンは今は数多くありますが、精密な腕時計のようなエンジン感覚は、NA/NBロードスター乗りだからこそ判る良さだと思います。


まとまりのない文章で恐縮ですが、ある意味で旧来のライトウェイトスポーツにけるベンチマークを体感できた、非日常なロードスターだったのが「M2 1001」でした。最初はうわべだけのクルマかと思っていましたが、正直申し訳ございませんでした。

クルマとは単なる移動の道具ではなく、人生を豊かにするパートナーであり、自己表現のキャンバスにもなり得るのだと、30年以上の時を超えて我々に静かに語りかけてくる、まさに走る哲学そのものでした。

関連情報:

940kgのロードスター(NA6CEベースグレード)試乗記

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