NBロードスター後期・AT仕様(NB8C/NB4)試乗記

NBロードスター後期・AT仕様(NB8C/NB4)試乗記

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クルマはじっくり乗ってみなければ分からない。今回はNBロードスター後期型(NB8C/NB4)のオートマチック仕様(AT)をお借りすることができました。

今回のNBロードスターは2004年式。通称「NB4」とされる世代で、1989年にデビューしたユーノスロードスターから始まった「N系マツダFRプラットフォーム」をじっくり15年かけて熟成させた、いわばユーノス系の最終仕様。

特に、NBロードスターの後期型の1800ccモデルは(NB2/NB8C~)は可変バルブタイミング機構(S-VT)を備えた【BP-VE】型エンジンを積んでいることが特徴で、奇麗に上まで回ってパワーをひねり出す、こちらもB型エンジン系列における最後のユニットになります。※言葉を選ばず書くと、かの「M2 1028」に採用されたチューニングエンジンにフィーリングは近しいです。

ちなみに、NBロードスターの国内販売台数は約3万台、さらにAT仕様は全体の約7,600台(25%)ほどでしかありませんでした。存在自体がレアであることは間違いないのですが、その乗り味は果たして・・・!?なお、石井自動車さんへ愛車の整備をお願いしている間の代車として、1週間ほどお借りしました。

今回はNBロードスター特有の略称が多く記載されています。略称の意味は下記の通りです。

<世代>
NB1 → NBロードスター前期型 1998-2000
NB2~4 → NBロードスター後期型 2000-2005

<エンジン>
NB6 → NBロードスター1600cc仕様
NB8 → NBロードスター1800cc仕様

MAZDA ROADSTER(NB8C)VS combinationA AT
車格: オープン 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3955×1680×1235mm 重量: 1,080kg
ホイールベース: 2,265 mm トランスミッション: 4AT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤ: 185/60R14 82H
エンジン型式: BP-VE[RS] 1839cc 種類: 水冷直列4気筒
DOHC16バルブ
出力: 154ps(113kW)/7000rpm 燃費(10・15モード) 11.4km/l
トルク: 17.0kg・m(167N・m)/5500rpm 燃料 無鉛プレミアムガソリン

とってもレアなブラックレザー仕様


ただでさえ珍しいNBロードスターのAT仕様ですが、今回お借りしたクルマが重ねて珍しかったのが「VSコンビネーションンA」というグレードだったことです。

ロードスターにおいて「VS」というグレード名は特別で、その発端は専用色のネオグリーンに塗られたユーノスロードスター「Vスペシャル」まで遡ります。歴代「VS」グレードの特徴としては、レザーシートを始めとしてノーマル仕様とは違ったトーンのインテリアコーディネートにあります。


オープンカーはエクステリアだけでなくインテリアも目立つので、愛車を華やかな雰囲気に変えてくれるのです。NDEロードスターの「Vセレクション」なんて、ド直球に分かりやすいVS系コーディネートといえるでしょう。


一方、NBロードスター現役時代(2000年代)のマツダは経営再建を行っており、新車をなかなか発表できずにカラーバリエーションでラインナップ充実を図っていました。もちろんブランドピラーであったロードスターも対象で、その恩恵として様々な実験的試みがなされました。分かりやすいのは、インターネットでオンリーワン仕様を注文できる「WebTuned」シリーズや、ターボやクーペなんて限定車も販売されています。


そのような状況で2002年(NB3)からカタログ入りしたのが「VS コンビネーションA」というグレードです。

こちらは従来のVSで採用されたエレガント寄りのものではなく、クールでレーシーなコーディネートを行っているのが特徴で、ブラックレザーシートやアルミ調パネルNARDIの本革巻きパーツが仮装されていました。※なお、既存のカラーリングは「VSコンビネーションB」となります。

ところが、海外要望から採用されたブラックレザーシートではありますが、一見ノーマル(ファブリック仕様)と変わらないことや、そもそもレーシー向けには「RS」というグレードもあったので、このオトナな選択はあまり市場受けできず、最終的には全国で153台しか出ませんでした。


さらに、NB4(2004年)時代にはイタリアのパーツメーカー・ナルディが経営破綻をおこしてしまい、従来採用されるべきだった本革巻きパーツはOEMの無名ブランドとなり(質感は同じ)、アルミ調パーツもNB4全グレードに導入されたため、最終型のVSAはほぼ見かけず(というよりも、私は今回初めて見ました)、下手な限定車よりもレアな個体になります。しかも純正色のハードトップ!(※幌レスだったので、車重はほぼノーマル準拠となります)


ちなみにボディカラーの「チタニウムグレーメタリックⅡ(29Y)」はNBロードスター最終型のテーマカラーとして採用されていますが、当時はRX-7最終型の「スピリットR」やRX-8、マツダスピードアテンザにも塗られた「速そうな」ガンメタリックで、グレー系はどんな場所でも映えることから乗っているだけで気分が盛り上がるカラーといえるでしょう。

あれ・・・何かが違う!?


鍵が何百回と回したものと同じデザインであることに感激しながら、キーを回すとこれまた聞きなれたイグニッション音とともにエンジンに火が入りました。想定外だったのは、ノーマルマフラーであっても今時の基準でいくとOKが出なさそうな「いい音」がリアより響き、テンションを上げてくれました。


AT車であっても勝手知ったるNBロードスター。基本操作は何も問題なく行うことができました。ただし、純正シートがなかなか身体に合いません。シートを立たせたり寝かせたりと試行錯誤・・・流石に借りたクルマのシートをアンコ抜きするわけにはいきません。行き着いた答えは「サンバイザー」を調整すること。

思えば、私が過去に新車のNB3RSに乗っていた際はバイザーを外していました。実は、NB後期型シートのサポート自体に問題はなく、私の座高が高いことが問題だったのです。なので、バイザーを横へずらして前方視界を確保することで、やっと落ち着ちつきました。


クルマを借りたのが下仁田(群馬)だったので、埼玉方面に戻るために高速道路へ入ります。すると、流石テンパチエンジンということで、トルクで全然走ることができました。ちょっと試しにキックダウンを行うと(デチューンされているとはいえ)S-VTにより上まできっちり回って、元気なマフラーサウンドと共に矢のような加速を味わうことができました。

しかも直進安定性は抜群で、むしろステアリングは重いくらい・・・いや、明らかに「重い」!

快適な高速巡行を終えて下界に戻ると、パワステとは思えないくらいの「重さ」があることに気づきます。ある意味ではステアリングセンターがしっかりしているといえますが、重ステ(パワステレス)ほどではなくとも、今まで乗ってきたスポーツカー(とりわけロードスター)の中で一番重いのでした。


高速巡行であれば問題ありませんが、正直、慣れないと片手でステア操作は厳しそうなので違和感を得たのですが、よくよく調査をおこなってもこれがデフォルトセッティングだそうです。NB後期AT仕様との対話は、この「なんで・・・?」という疑問から始まりました。

MT車のように走れない!


普段テンロク100馬力程度に乗っている私は、かっ飛ばしたいときは「床まで踏んで」パワーを使い切る走りを意識しています。1600cc仕様はヘボヘボなローパワーであるからこそコントロールが可能なのです。

ただ、今回のAT仕様は後期型の1800cc。うっかり床まで踏むと可変バルタイ(S-VT)の領域に吹けあがるし、このパワーは想定以上にドッカンで元気なので、ラフなアクセルは事故のもとになりそうでした。正直、ボディよりもエンジンが強い印象です。ちなみにですがMT仕様から若干デチューンされていますが、7000回転まで回ることは変わりません。

一方、上まで回してパワーを出すタイプであることからなのか、徐行~20kmあたりまでは思ったよりも穏やかなトルク特性であることに気づきました。極論ですが、その速度領域では同世代のマツダ・ファミリーカー(デミオやベリーサ)の方がキビキビ反応します。


つまり、下はおとなしいけれど踏むと危ない・・・そんな特性のAT仕様において、普段乗っているMTと同じテンポで走るにはどうすればいいか。そんな観点で、夜な夜な走り込みを行っていました。

約20年前のクルマなのでNBロードスターの4速ATはMTモードなんてありません。ただ、現行車のATでは「隠しモード」になっている「HOLD(ギア固定)」ボタンを活用すれば、走行モードの選択肢は多岐にわたります。

ただし、街乗り&峠想定で走り込んでいくと、「ドライブ(D)」「ドライブ+(D+HOLD)」「セカンド(S2)」あたりが現実的な選択肢になりました。「セカンド+(S2+HOLD)」はエンジンがビンビンに反応して、危険で踏めなかったです。ちなみに、セカンドのトップスピードは104km/h、ロー(L1)は59km/h以上は踏まないで!と説明書では指定されています。

ただ、それでも何故かしっくりこない。シーンごとにはいいじゃん!と思う部分があるのですが、総合的にはもう少し「走り」にやりようがあったかも・・・と思ってしまうのです。


具体的には、直線では1800AT仕様の方が明らかに早いです。しかし、コーナーではNB6の方が安心して踏みきれるし、踏ん張ってくれる信用度が高い。借りたクルマのタイヤはいいものを履いてるし、パワーは全然上だし、緩やかなロールもする。でもアンダーになってしまう・・・アクセルで姿勢をつくれるかと四苦八苦しましたが、やはり上手くいかない。クルマを信用しきれないんです。

さらに、同じ諸元(ボディサイズ)であるはずなのに、明らかにクルマが大きく感じるので、なぜか駐車も一発で決まりません。気を抜くとVIP止め(斜め駐車)しているんです。実は、乗れていないことにかなり凹んでいたのですが、転機となったのは肩の力を抜いてドライブしたことでした。


疲れた身体を癒すためのダラーっと巡航速度で走っていた時に、なぜかそれが気持ちいい。そこでやっとわかったのが、重いステアリングは「両手でしっかり握って走る」ためであると同時に、ステアリングセンターがしっかりしているので巡行モードでかなり扱いやすいこと。さらに、私はLSDの恩恵を受けており、コーナーの曲げ癖が身体に染みついていたこと。

MT車よろしく左手を離して忙しく操作すること自体がお門違いで、グランツーリスモと捉えれば全て快適であることにやっと気づけたのでした。つまり、そもそも「MTと同じように・・・」なんて対話の方向性が違っていたのです。そう思えたら、一気に話は進みました。

ロードスターのグランツーリスモ(GT)


「グランツーリスモ(Gran Turismo)」とは、同名のプレイステーション用ビデオゲームが余りにも有名になりすぎて、本来の意味は薄味になってしまいましたが・・・もともとは「大旅行(=グランドツーリング)」という言葉から派生しています。

つまり、元来は大旅行に使える【高速・長距離走行に適したクルマ】を指しており、(明確な定義はありませんが)一般的には、出力の大きいエンジンを搭載して快適なキャビンと十分なラゲッジスペースを備えるセダンもしくはクーペであり、それらは「GTカー」と呼ばれるようになりました。

一方、欧州の自動車レースでは「過激な性能競争」を避けるため、参加車両の規定を「レース専用車」から「一般の高性能ロードカー」へ変更された歴史があり、「GT」を指すクルマは自動車レースに参加する高性能車種とほぼイコールになったのでした。


つまり、NBロードスター1800cc後期のAT仕様は「ロードスターをGTにする」セットになっていたのです。事実、速度が乗ればのんびりトルクで走ることができるし、いざとなればアホみたいなパワーを持っている。でも、そういった際に事故をさせないため、両手を離さないようステアリングは重くしてあるし、その恩恵でステアリングセンターがしっかりしている。だから直線でも安定している。


恐らく、本気になって信用すればコーナースピードも稼げると思いますが、私は公道で「いざという時」を試せなかったのでパワーが怖くて踏み切れませんでした。したがって、一番楽しくて気持ちよく走れたのは「D」レンジでのんびり流すこと。

折角の「BP-VE」型エンジンもS-VT(可変バルタイ)の領域まで使うことは稀だけど、「100km+αまでの領域」でカッコよく流して「いざとなれば早いと」思っていれば、そんな請託な使い方自体を心地よく感じたのです。すると、NBロードスターのオーディオもクリアに聞こえてきます。何故に?と思ったら、NB4のみに採用されたエアロボードのスピーカーが快適空間を演出していました。

NB8C後期型 1800cc/AT仕様 結論


私はNBロードスター後期型の1800cc/MT仕様「RS」(NB8C)に乗っていた時代もあり、その印象はNAと比較して恐ろしく高まったエンジンパワーはあったけれど、それを「手の内」で扱える範囲であるクルマの記憶が残っています。それに近しい乗り味はNC2ロードスターの幌MT仕様であり、パワーのあるロードスターの楽しさをそれなりに理解しているつもりです。

また、(これは想定なのですが)同じNBロードスターのAT仕様(NB8C)であっても、前期型(NB1:BP-ZEエンジン)は別物であると思われます。後期型とギア比は同じですが、パワーとトルクはもっと低い領域から発生する特性になっているので、ユーノスロードスターのAT仕様(NA8C)を引き継いだ乗り味になっているはずです。


一方で、別の機会にNBロードスター後期型の1600cc/AT仕様(NB6C)をお借りするしたですが、こちらはまさにテンロクのNBロードスターそのもので、MT仕様と同じく「エンジンを使い切るタイプ」のクルマでした。※こちらもめっちゃ楽しかったです!


総じていえることは、こういったロードスターのステレオタイプなイメージ・・・「身体全体を駆使して、手の内に収まるパワーを使い切るスポーツカー」を大きく覆してきたのが、今回のNBロードスター後期型の1800cc/AT仕様でした。同じクルマであるはずなのに、セッティングでここまでキャラクターが変わるのか!?というメーカーの本気を見ました。

これは、後期型になってよりパワーを得た段階で「どうせなら・・・」と想定オーナーに合わせて、徹底的にクルマを作り込んだエンジニアの哲学を感じます。クルマが大きく感じたのではなく「車格が上がった」ことを感じるのです。これは本当に凄い。


個人的には「上がりのクルマ」でマセラティやアストンマーチンを駆るのではなく、日本車としての魂も持っているNB8C後期型のAT仕様は、見た目以上のプレミアというか「あえて、分かっている」エンスージアスティックな空気をまとっているので、将来的には「アリ」な選択になるであろうと感じました。

それが分かっていないと、このAT仕様のロードスターはステアリングも重いのでダルく感じるかもしれません。でも、その本質は「グランツーリスモ」です。この、いつもと全然違うロードスター、機会があればぜひ乗ってみてください。ハマる人、間違いなくいると思います!

なお、今回お借りしたグレード「VSコンビネーションA」のインテリアコーディネートは、現行型のNDロードスターにおいて「SLP(Sレザーパッケージ)」に引き継がれています。

Roadster(NB) Automatic transmission【SB4A-EL】
Gen Year NB6(1600cc) NB8(1800cc) Unit
NB1 1998- 2,426 1,734 4,160
NB2 2000- 1,474 764 2,238
NB3 2002- 340 201 541
NB4 2003-
2005
510 162 672
NB7 0 23 23
ALL 4,750 2,884 7,634
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