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ロードスターのもうひとつの魅力といっても過言ではないのが、純然たるクーペになるハードトップ。ちなみにこの「ディタッチャブル・ハードトップ(DHT)」、つまり取り外しができる屋根はユーノスロードスター(NA)のリリース初期からオプション設定されていた、かなり拘りのあるパーツでした。
ハードトップの構造はNA/NB共に基本的に共通です。実際、私自身もNA時代に購入したものをNBロードスターに取り付けています。ただしデフォッガ有無と熱線のコネクター形状が異なるので若干の加工が必要です(※NAのアンテナレスモデルは、デフォッガを使用するためにトランクに隠されているヒューズを取り付ける必要がある)。
また、ハードトップのカラーバリエーションは(限定車も含めた)全てのボディカラー(+1色)が用意されていました。これはNCロードスターも同様で、パーツバリエーションをなるべく減らす近年においては、驚くべき良心的な設定ですね・・・
ロードスター・ハードトップ(DHT)前夜
ハードトップにおける構造素材のルーツを辿っていくと、レーシングカーやマツダのオープンカーに行き着きます。
6代目ファミリア・カブリオレに架装されていたトランクリッドと、サバンナカブリオレ(RX-7:FC-3C)のルーフ(レザー張り)の構造材に使われていた、「SMC」という工法が肝になっているのです。SMC(sheet molding compound)とはガラス繊維や炭素繊維に含浸補強した成形材料で、軽量かつ頑丈なレーシングカーのボディ素材などで培われてきた技術のフィードバックでした。
RX-7(FC)時代では曲面整形時に気泡が発生するので塗装困難でしたが、ロードスターの時代では立体成型と塗装技術の向上により、巨大な一体成型デザインが実現できました。したがって、純正色以外の特別仕様である【黒絞加工(くろしぼかこう)】のハードトップは、実は妥協の産物で・・・オプションカタログ初期からラインナップされていた「クラシックレッド塗装」の方が革新的だったそうです。
ちなみにこの技術は、後に誕生するAZ-1の外装にフィードバックされました。知る人ぞ知るAZ-1の「SMC外装」は、プラモデルのように軽く、強固で驚きます。また、NCロードスターのRHT(リトラクタブルハードトップ)やNDロードスターRFのリアルーフ構造材もSMCが採用されています。他社ではGRヤリスのルーフ材にも使われているようです。
こだわりのデザイン
ここまでハードトップの提供にこだわった理由は、極端なキャラクターラインやディティールで勝負するのではなく、光と影の「面」を用いて「フォルム(全体像)」で魅せることを意識した「ときめきのデザイン」をテーマにしたロードスターならではの背景があります。
ちなみに「Roadster=軽量馬車+簡易な幌」の語源や旧来ライトウェイトスポーツ(LWS)にあやかって「幌を開けた姿(=オープンスタイル)が完成形」と思われる方がたまにいますが、それは大きな間違いです。歴代マツダ・ロードスターはオープンカーではありつつも、屋根を空けても・閉めてもカッコいいスタイリングが試みられています。(※それが好みかどうかは個人の判断です)
かっこいいスポーツカーに乗りたい、更にたまの非日常が体験できればいいという人もいるのです。そういう意味でも、マツダ・ロードスターの幌をクローズしているスタイルは、かっこいいと思うのです。
参考→https://mx-5nb.com/2019/12/10/softtop-1/
そこに加えて、曲面主体のルーフラインを持つハードトップ装着による第3の姿「クーペ」も、開発の段階からじっくり作り込まれていたのです。
これは後にロードスターのフォロワー(競合車やアフターパーツメーカー)が登場することを見越したものでした。メーカーの威信かけた「純正パーツ」を最初から供給することにより、ロードスターは目先一発モノの企画ではなく「先まで考えて作られている」という本気度の証明と、差別化を図るものでした。
特に、旧来のマツダファンであれば「コスモスポーツ」のリアガラスをイメージする方も多いはず。ロードスター自身のスペックもコスモ近しいことから、マツダスポーツカーの系譜を感じることのできる、クラシックかつ新しいフォルムに仕上がっているのではないでしょうか。
近年ではオーガニックシェイプ(オーガニックフォーム)の自動車デザインが少なくなってきましたが、美しい曲面構成とこんな凝ったリアガラス形状はほぼ見かけなくなりましたね・・・
ハードトップ(DHT)の利点
ハードトップの利点といえば、わかり易いのは【耐候性】です。幌ではなくルーフ(屋根)になりますので見た目の変化以上に、エアコンが効く、静音性が上がる、空から石が降ってきても凌げる、防犯性が上がるなどのメリットがあります。私事になりますが、私の場合は「冬」と「夏」のシーズンにハードトップへ換装しています。
また、最も体感できるのは【剛性】です。
「剛性感」ではベストフィットな取付けができれば、明らかに「ガタガタ・ギシギシ」のチープ音がなくなります。オープンカーにおける異音の原因はAピラーに集中するのですが、そこがガッチリ固定されるだけでここまで変わるのか!と驚くことができるでしょう。さらに路面のギャップやコーナーリングでブルブルしなくなります。
もちろん、剛性も向上します。マツダ広報資料によると曲げ剛性で87%、ねじり剛性は12%向上となるので、日常使いでも別のクルマと感じてもおかしくないくらいに乗り味が変化するのです。
わかりやすいのはハンドリングで、いい意味でも悪い意味でもヒラヒラ・軽快だったものがシャッキしたものに、つまり狙ったラインにスッと決まるシャープなハンドリングに変わります。コンマ単位の精度を追求するサーキットユースがハードトップを愛用している意味がわかるでしょう。付随するメリットとして、クルマからのインフォメーションが向上するのでボディの「ヤレ」がどこに出ているかなどが分かりやすくなります。
客観的な数値を読み解くと「曲げ剛性」だけでいえばNDロードスターと同等基準にまで跳ね上がっています。しかし「ねじり剛性」はNAロードスターならNB程度、NBロードスターならNC程度の向上なので、低減するとはいえスカットルシェイクはそれなりに感じます。でも、屋根がつくだけでこれだけ変わるのか・・・と純粋な「走り」のポテンシャルを堪能できるはずです。
ただし、ロードスターはオープンカーでも成立するようにハンドリングがセットされているので、好みは人により違ってくるかもしれません。
参考:https://mx-5nb.com/2022/03/21/rigidity/
ハードトップ(DHT)のデメリット
もちろんハードトップにはデメリットもあります。
ハードトップは約30kgの重量物になるので、幌レスにでもしない限りクルマは重くなりますし、中央に配置される重量物なのでヨー慣性モーメントの影響は少ないのですが、明らかに重心が高くなることが、コーナーリング時の「腰の感覚」で分かります。
重量増は燃費も下がるし、剛性向上による路面のインフォメーション(サスの突き上げなど)もダイレクトに感じるようになるので、足周りのセッティング次第ではハードに感じるかもしれません。さらに、取り付け精度が悪いとガタガタピシピシと異音が出るのでかなりストレスです(※これは調整で改善できます)。
また、取り外したら地味に大きい構造材なので、置き場所の確保にも困ります・・・
参考リンク→https://mx-5nb.com/2020/03/04/hardtop-desorption/
ハードトップ(DHT)の当時価格
NA当時の販売価格は黒絞が162,000円、赤(有彩色)182,000円で取り付け工賃が3,000円。商品のお届けまでに納期がかかる・・・という記載は、純正色塗装の手間でしょう。
NBになると価格が上がって黒絞170,500円、ボディ色190,500円で8,500円の値上げになりました。また、実物を見たことがないのですが内装色(内張りトリム)にタンカラーを選べたそうです(基本は黒)。また、NB2以降だと黒絞も有彩色も同一価格の206,500円になりました。
また、珍しいところではM2 1028用の「軽量ハードトップ」が存在します。SMC(成形剤)の比重を1.9から1.3に落として、リアガラスをポリカーボネイトに置き替えることで、純正品よりも-8.7kgの軽量化がなされています。ただし、こちらは幌レス仕様の1028専用品なのでオプション販売(正規販売)されることはありませんでした。樹脂製のリアウインドーは旧車のヘッドライトのように経年劣化が起きるのでメンテナンスに手間がかかるようです。
一時期は某オークションの中古価格でリーズナブルに購入できましたが、程度にもよりますが60,000円~100,000円と少しづつ価格が上がっているようです。また「1028用」としてとんでもない価格で出品されることもありますが、本物であるか確認をすることをお勧めします。とりあえずの見分け方はリアグラスの「くすみ(経年劣化)」「M2 INCORPORATED」の刻印」、「ラッチパーツレス(※ステーのボルト留めになっている)」あたりを確認しましょう。
実はハードトップは純正品にこだわらなければ軽量化された海外品が比較的リーズナブルな社外パーツとして供給されています。公式レストアプロジェクトの恩恵か、ラッチパーツ等の取付用品も新品購入が可能です。傍目にみてM2関連のパーツはプレミア価格になっていますが、素性が怪しいものがワンサカありますので、ご留意ください。
ぜんぜん余談ですが、かつての中古車買い取り相場におけるハードトップの有無は買取査定に含まれていませんでした。「ハードトップは別売したほうが得」だったのです。母数が少なくなった今は、違う状況だと思いますけどね・・・
まとめ
最後は価格の話になってしまいましたが、メリットは以下の通りです。
2)天候保護:幌と比較して、雨や風、雪などの保護対策・断熱対策が図れます。
3)ハンドリングの変化:剛性向上により、クルマのインフォメーションが分かりやすくなります。
4)見た目の向上:好みによりますが、カッコいいクーペになります。
そして、デメリットは重量増に起因するものと、置き場所の確保ですが・・・最大のデメリットはオープンカーなのに屋根が空かなくなること。しかし、そのハードルを越えるとロードスターは1台で2回、別のクルマが楽しめます。
機会があれば、ロードスターを楽しむ選択肢のひとつとして、特に「乗り味」を実感していただければ嬉しいです。クルマの経年劣化による幌交換もいいけれど、コロナ過で幌の供給が厳しくなっているようなので・・・ハードトップは一時しのぎにも最適です。
NBロードスタークーペ(NB7)も含めて、特にNA/NBロードスターは国内における純然たる「5ナンバー(小型車)」の最後のクーペになります。オープンもいいけれど、ハードトップの走りはカッコいいし楽しいですよ!
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