ロードスターの「剛性」と「剛性感」

ロードスターの「剛性」と「剛性感」

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ロードスターはオープンカーだからボディが緩い、したがって剛性が低い、だけど屋根がない分軽い・・・そんなステレオイメージがありませんか?これらはある意味で正解かも知れませんが、本当は異なるものでもあります。

そもそもクルマの「剛性」とは

クルマは走り、曲がり、止まります。高速、低速、悪天候お構いなしに使用されますし、開発時には想定できないような過酷な状況で運用されることもザラにあります。したがって、車格・目的に合わせた幅広い事態(マージン)に対応できるよう基本骨格(ボディフレーム)が設計されています。

高級車であればカーボンなど高級素材の使用もありますが、ボディの多くは鉄やアルミなど堅牢性と耐久性を兼ね備える金属で造られます。太くて、まっすぐで、塊になっているような金属が「硬くて強い」のは想像の通りですが、そのまま量産するのは大変なので、なるべく平坦に、なるべく面を使い、時には重ねて、なるべく最小の量で立体的に加工をして、ボディフレームを構築していきます。


なぜ堅牢でなければいけないかは、木箱をイメージしてもらえればわかりやすいかも知れません。これにタイヤをつけてエンジンを積むとどうなるか。振動で箱は分解するかもしれないし、凸凹路になったらガクガクに負担がかかり真っ直ぐ走らず、スピードなんて出せません。さらに衝突したら搭乗者のダメージは計り知れません。

自動車として成立させるにはこういった基本要件を満たさなければならないのです。特に近年は歩行者保護の配慮も必要なので、トラブルが起きた際には正しく壊れなければいけません。

ちなみに、初期のクルマは全てフレームの上にアッパーボディを載せてパワートレインを組みつける「ラダーフレーム構造」を採用していましたが、近年のクルマはフレームとボディが一体になった「モノコック構造」を採用しています。つまり、カブトムシの甲殻のようにボディ全体で「強度」を保っているのです。

そのうえで、ボディの堅牢さを示す定量的な指標のひとつが「剛性」です。

剛性とは「曲げ」や「ねじり」の力に対する寸法変化(変形)のしづらさを指します。入力される力に対して変形が小さい時は「剛性が高い(大きい)」、変形が大きい時は「剛性が低い(小さい)」と表現されますし、工学的な計算式も存在します。

ただ、クルマは「走る」もの・・・つまり、常に「動いて」いるものなので、バランスを考慮しなければなりません。剛性が高くなると単純に重くなるし、結果として走行性能(軽快感)にも影響が出ます。トータルバランスを取るために適切なパワーユニットを採用し、重量配分を考え、足回りのセッティングを突き詰めていきます。

すると、結果的にドライバーはボディ剛性以外のインフォメーションをクルマから感じているのが現実です。つまり、サーキットのように常に高い負荷がかかり、ボディ自体のヨレが走行性能に著しく影響が出るような話であれば別ですが、普段乗りをするなかでボディ剛性を感知することは、よほどの条件がそろわない限り、ほぼ不可能とされています。

我々が感じているのは「剛性感」


普段乗りをしていて道路のギャップにまたがった際に「ガタタン!」とボディが揺れるシーンを想像してください。

この時に起こっている状況を分析すると・・・路面からの突き上げがタイヤに通わり、サスペンションのスプリングやダンパーを通して伝わった力が、ブッシュをたわませてボディに伝わり「ガタタン!」になります。

ここで注目したいのは、同じクルマであってもタイヤの空気圧、サスの仕様(硬かったり、柔らかかったり)、ブッシュの状態(新品か熟成か経年劣化か)など、様々な条件で「ガタタン!」の感じ方が違います。もしかしたらインテリアパーツのチリがずれていたり、トランクやダッシュボードの荷物やドリンクホルダーの小物が鳴っているのかも知れません。


雑に表現すると、硬めのサスペンションならば振動が早めに収縮するので「ボディが硬い」と印象を受けるかもしれないし、サスが抜けていればボディはゆらゆらするので「ボディが緩い」と感じるかもしれません。さらに、ゆっくり振動が収縮するフワフワが人によっては良い乗り心地と感じ「しなやかなボディ」と思うかもしれません。

つまり、我々はボディ剛性ではなく自身が感じる感覚、つまり「剛性感」を感じていることになります。現実的に、サスを固くしてもブッシュ交換をしてもボディ剛性が上がることはありません。でも、走りはシャキッと変わるので「ボディがしっかりしている」と印象が変わってしまうでしょう。

こういった事象は他にもあります。ステアリングマウントが劣化するとステアリングセンターが緩くなるし、ドアが軽く閉まる音が「バーン!」と薄いだけでも「ボディ全体」が緩いと感じる人はいるのです。ロードスターであれば窓のレールガイドが経年劣化で崩れる持病がありますが、エンジンの振動で窓がガタガタ鳴ることにより、ボディが緩いと思っている人はいるはずです。

厄介なことに、「剛性感」は人によって印象が大きく変わります。メーカーのテストドライバーなら話は別でしょうが、普通の人の「感覚」は全くあてにななりません。


実は、自動車の快適性にはNVH(騒音・振動・ハーシュネス: Noise, Vibration, Harshness)という定量的な指標があり、これが「ボディ」の印象を左右しているのが現実です。

「騒音」はロードノイズや風きり音などの外部から侵入する音を、「振動」はエンジン、プロペラシャフト、ドライブシャフト、ホイールやタイヤなどのアンバランス(動いているもの)から発生する振動を、そして「ハーシュネス」は路面の凹凸による突き上げや、立て付けの悪さから来るガタピシ感などを表します。

つまり、普段我々が感じているのはボディ剛性ではなく「剛性感」なのです。

そもそも「剛性感」自体も、ドライバーが基準とするクルマが違えば、評価も変わります。表現は悪いですが、高級ミニバンに慣れていればロードスターを安っぽいと思うかもしれませんし、ロードスター乗りはを高級ミニバンをダルいと思う・・・なんてあるかも知れません。

もちろんメーカーはより良い自動車を提供しようと日々クルマの味付けを行っており、それらのギャップを埋めるのがNVH対策といえるのかもしれません。そういう意味で「剛性」は必要にして十分な値であるとしたうえで、試乗提供されているという現実があります。

ロードスターは「重く」て「軽い」


ここからはロードスターの話に切り替えます。現代のクルマはモノコック構造、つまりボディ全体で「剛性」を担保しているのですが、オープンカー専用ボディのロードスターには屋根がありません。

屋根がない分軽く作れるのでは・・・なんて思いますが、箱をイメージしてもらえるとそう簡単ではないことが分かります。


ボディ全体を箱ととらえて「面」で囲ってあれば、「曲げ」にも「ねじり」にも一定の耐久性を保つことが可能です。


しかし、オープンカーを想定する箱には屋根の「面」がありません。この箱を曲げたり、ねじったりとなると・・・とても簡単に潰れてしまいます。箱を重ねても、面が空いている状態で捻ってみると、驚くくらい箱の剛性が落ちることがわかります。

そこで剛性を担保するには、さらに箱を重ねたり、縦、横、斜めに補強を入れる必要が出てきます。ポイントとして、全面を囲っていた箱と同等の強度を保つには、それなりの補強を入れなければならないことで・・・

例えば、クローズドボディをベースにしたオープンモデルであるカブリオレやコンバーチブルでは、RX-7(FC)が1,250kgから1,390kg(+140kg)、ファミリア(BF)が880kgから1,090kg(+210kg)、セリカ(ST)が1,160kgから1,350kg(+190kg)と、ベースに近しいボディ剛性を満たすには、それだけの補強が必要なことが分かります。


ロードスターがそれでも「軽い」ボディになっているのは、最初からオープンカー専用のボディとして開発されていたからです。

ロードスターのボディは剛性を担保するため、なるべく「箱」になるように組まれています。フロアとバルクヘッドで基本的な「箱」が構成されていますが、屋根がない補強として「太いサイドシル」と「太いセンタートンネル」の補強が入っています。通常はただの蓋として機能するドアも構造材と捉え、堅牢なドアウエッジとキャッチャーを用いて、ボディサイドも「面」の補強として活用しています。


ちなみに、駆動方式も排気量も違うので単純な比較はできませんが「4座のコンパクトスポーツモデル」のクローズドボディは、ZC型スイフトスポーツが970kg、ストーリアX4が840kg、デミオ15MBが1,020kgとなっており、剛性をボディ全体で担保するクルマは意外なほど「軽く」仕上がっています。

また、最初からオープンボディを見越しつつ、コストをある程度かけられる718ボクスター/ケイマンなどは、1,360kg→1,390kg(+30kg)ほどの重量差しかありません(元から重いという考え方もありますが)。

もちろん注目すべきは「剛性」だけではありません。クルマを安全に、快適に、製法を引き出すにはある程度の硬さと重さが必要なので、トータルバランスで考えなければいけません。そのうえでロードスターは、オープンボディ専用ボディの「軽さ」を担保するために、補強によって意図的に「重く」せざるを得ない部分も持ち合わせており、その上でボディ剛性を担保しているのです。

歴代ロードスターのボディ剛性

先には初代のことを書きましたが、スポーツカーは徐々に熟成されていくものなので、ロードスターも世代を重ねながらボディの熟成を重ねてきました。

初代ロードスターですら、マイナーチェンジ毎にシャシーの底やキャビンのシートベルト基部を繋ぐ「ブレースバー」を追加してきました。なぜなら、さまざまな環境で運用されたフィードバックによって、安定した走行性能を保つために必要な処置だったからです。余談ですが、パワープラントフレームは剛性向上ではなく、あくまで起動ロスを減らすためのパーツです。

参考→https://mx-5nb.com/2020/08/17/power-plant-frame/


また、ボディ剛性の話と少しずれますが、ダブルウィッシュボーンのロードスターで、サスペンション基部を支えるストラットタワーバーは意味がない(ストラットではないので支柱をつなげる意味がない)という意見もあるようですが、それはそもそもの考え方が違います。振動するエンジンの上を跨いでサブフレームとともに立体的にボディを固める意図があるからです。

タワーバーはサスペンションのローカルな剛性を上げるもので、ボディ剛性が上がるわけではない。基本的にどんな足でも補強はある方がいいけれど、全てのグレードに補強を付けたら重量やコストが問題になる。ジムカーナやレース、峠などの激しい乗り方ならいいけれど、普通の人は大人しく乗っているのだから、タワーバーが必要な領域にならないので、付けるのは勿体ない。VSとRSでは乗り方が違う前提でセットを決めるため、乗り味に合わせてサスペンションも選択した。

参考→https://mx-5nb.com/2020/05/11/kijima2018-6/

純正ストラットタワーバーを持つと、驚くほど重くて硬いことがわかります。1gでも「軽さ」を重視してきたロードスターが「重く」なってでも必要とみなしたから備えているパーツであることを開発主査は語っていました。

NBロードスターではフルモデルチェンジ(実質のビッグマイナーチェンジ)の際に、メーカーでしかできない対応ということで、ボディ基部に各種ガゼット(補強板)を追加して、先代を同等の剛性が担保できるような補強を施し、キャビンのブレースバーは廃止しています。また「剛性感」に大きな影響を与えるAピラーの振動を抑えるために、ピラー基部にも大きな補強が入っています。

後期型の「走りのグレード」となるRSとNR-Aには、各種ブレースバーの強化とともに、プロペラシャフト/パワープラントフレームのトンネル部分を補強するトラスメンバー/トンネルメンバーを追加して、ボディにあいた空間を補強しています。余談ですが、ロードスタークーペは屋根を繋げているので、全体のバランスを取るためにボディ下部のブレースバーをいくつか撤廃しています。

NCロードスターになると解析技術の向上や高張力鋼板の使用などアップデートされた技術から、NA/NBとは別格のボディに仕上がっており、それは発表されている数値でも別格であることがわかります。そのうえで面白いのはNDロードスターの開発思想です。NDは当初から「感」というキーワードを用いて、公的に剛性をうたうことはやりませんでした。

つまり、堅牢なボディは強度や数値の追求ではなく、感覚・・・つまり「剛性感」を高めるアプローチの開発をおこなっていったと、公式にアナウンスしているのです。安全性能や走行性能に関わるキャビンなどの必要な部位の剛性は向上させつつ、ボディに入力される物理的な力を解析し、適切な硬さ(=しなやかさ)を兼ね備えた乗り味を追求しているのです。

剛性 NA NB前期 NB後期RS系
先代比 NA比 先代比 NA比
曲げ剛性 100% 7% 107% 16% 124%
ねじり剛性 100% 1.50% 102% 22% 124%
剛性 NA NC ND
先代比 NA比 先代比 NA比
曲げ剛性 100% 22% 151% 17-19% 177%
ねじり剛性 100% 47% 182% 9% 198%

なお、オフィシャルに公示されているデータを並べていくと、これだけ大きな差があります。ただ、繰り返しますがクルマはトータルバランスです。ここに上げている数値はクルマ止まっているときの数値(静剛性)であり、様々な荷重がかかって変化するNVHを踏まえたうえで、人の印象・・・つまり「剛性感」は変わってきます。

それを踏まえても、NCロードスター以降が「別物」と感じるのは、数字の上でも明らかです。初代ロードスターを100とするならば、NC以降の飛躍的な向上が分かるからです。でも「しっかりしすぎている」からこそ、NCデビュー時の印象がネガティブになったことも事実です。先を知らなかった当時の先代ロードスターオーナーは、ゆるい「剛性感」のおかげて、結果的に「軽快感」を感じていたのです。

その反省を活かし、NDロードスターはデビューまでに「剛性感」を作り込みました。初期型の軽いステアリングも軽いドアも全て演出です。ボディ剛性の数値だけで見ると、初代からダブルスコアに近い数値になっています。それでいてトータルの車重が「軽い」のですから、NDロードスターの凄さが分かります。

試してほしい、ハードトップ(DHT)


最後に、よほどのことが無いと正確なボディ剛性を感じることはできないと書きましたが、NA~NCロードスターにはひとつだけ明確に知る方法があります。それはハードトップ(DHT)の装着です。それも他人のクルマではなく、自分の愛車への装着です。身をもって蓄積している環境でないと、本当の意味で違いは分かりません。

バスタブのようなキャビンをクローズドボディに近しい方式でガッチリ固めるので、同じロードスターでも乗り味が大きく変わります。もちろん、30kg近い重量物が「上」に被るのでアクセルのレスポンスが若干重くなりますが、ハンドリングのシャープさが明らかに向上します。ちなみに曲げ剛性で87%、ねじり剛性は12%向上(NAロードスターの装着時)と数値的にも大幅に変わります。

ただ「どちらが良い?」となると、それは個人の好みでしかありません。シャープさの反対側には、オープンドライブのゆるさ(=軽快さ)があるからです。ただ、ハードトップは対候性や防犯性の向上だけではなく、ラップタイムを刻むにも必要な要素であることは納得できます。なお、幌を外せば重量増は±ゼロになるのもポイントです。

ハードトップはロードスターの特権なので、機会があれば自分のクルマで剛性の違いを感じてみてください。その際にガタガタギシギシ鳴るのはあくまで「剛性感」です。きちんと異音対策も忘れずに!

関連情報→

ハードトップ(DHT)「ひとり脱着」と異音対策

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