ロードスターは人を繋げる(B-1)

ロードスターは人を繋げる(B-1)

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貴島孝雄さんのインタビュー共有その3です。今回から、ロードスターが話の中心に展開していきます。今でこそ「人馬一体」はマツダ車の代名詞になっていますが、かつてはロードスターを表す言葉・・・その背景あるものとは。

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ストレスを感じないクルマ


ロードスターは楽しいでしょう?言い換えれば「しっくりくる」クルマで、これは本能的に当たり前のことになる。実は、ロードスターは「楽しい」という言葉を「感性」に置き換えて、技術的に定義しているクルマになる。

サスペンション、シフトフィール、ハンドル操作、ドライビングポジション、普段使いまで、全て「楽しい」ことを目標にしているから、乗った時に「しっくりくる」となれば狙い通りだし、それが自分のクルマであれば、愛着が沸く特性にもなる。

特に、ロードスターの50:50の重量配分やハンドリングは、常にニュートラルステアであることにこだわっている。人間は、自然でないことへ本能的にストレスを感じるようになっていて、オーバーやアンダー(ステア)だと、ストレスが少しずつ溜まっている。それが蓄積していき疲れてしまうと、このクルマはつまらなくなった、飽きたとなってしまう。

ロードスターは「よく曲がって」「楽しい」といわれるけれど実は単純なことで、人間を中心にニュートラルに動いているから、クルマとのコミュニケーションにストレスがなく乗れることが理由になる。つまり、それが人馬一体であり、「楽しい」という事になる。


昔のライトウェイトスポーツからみると、ロードスターは安全要件から少し大きめなサイズではあるけど、普段遣いができることにもこだわっていた。つまり、二人乗りだから二人分の旅行セットが格納できないと、どこにも行けない不便なクルマ、つまりストレスになってしまう。「軽さ」や「低さ(低重心)」だけではなく、本質的な部分から「楽しい」という感情を刺激するサイズに作っている。

実は50:50の配分を守らずとも、イージーにクルマを作る事は可能である。FFで少しアンダー気味でも、フロントヘビーなFRにしても、ニュートラル「感」を出すために、フロントやリアのトーを調整して、あたかもニュートラルステアであるようなセッティングは出来てしまう。しかし、それは「物理的に嘘」だから限界のところで本質が出てしまい、「あれ?」っていうストレスになってしまう。

だから、楽しい・ファンである事を継続してもらうには、ストレスを感じないクルマであることが重要になる。

ロードスターは人をつなげる


また、クルマというのは「人間の脚」を機能拡張したものだから、身体の一部、つまりその人(オーナー)そのものになる。ミーティングで集まれば、最初はクルマの話をしていても、「人(そのオーナー)」に興味がでるはず。どのロードスターも個性的なので「どんな人が乗っているのか」と、同じ価値観を持つ仲間であれば、当然そんな流れになる。

最近は私も軽井沢やオアシス(※ミーティング)に参加するけれど、兄弟でも法事ではないと集まらないのに、ロードスターの仲間は定期的に顔を合わせる。家族以上に会っているからそんな感情になるのも当然だし(笑)、全国のネットワークもできていくなんて、大げさかも知れないけれどロードスターの「楽しさ」が作り出せる文化ではないかと思っている。つまり、楽しさは人を繋げる。

ロードスターの立ち位置


2000年代、マツダがフォードのアンブレラ(傘下)になった時、グループであるフォード、ジャガー、ボルボが競合したら意味がないので、それぞれのブランドを築きなさいという指示があった。その時に選んだ「マツダらしさ」とは、人馬一体から始まる「走る喜び、Zoom-Zoom」だった。ブランドブルズアイといって、商品のセンターに来る定義にはデミオもアクセラも「人馬一体」であることに決めた。


また、プロダクトフィロソフィといって、何で特徴を付けるかも決めた。スタイルは絶対なのでファイブポイントグリルというものを決めてデザイン統一して、操って楽しいためのインサイトフル(洞察)やアイディア、装備も必要・・・となったところで、安全性とか燃費とかは当たり前のことで、ウリにならないと気付いた。

つまり、ハイブリッドで燃費が30kmなんて当たり前だし、今のスカイアクティブだって燃費は絶対に前に出さない。エンジンがいい、性能がいいクルマを売ります、なんてやらなくした。


そこで「人馬一体」だから、当然「面白くないと駄目だよね」となって、マツダのラインナップで一番「楽しい」ロードスターが中心に置かれた。フォードが資本から抜けても「Be a driver.」といっている。

もちろんこんな話は簡単にいくものではなくて、ロードスターはモデルチェンジに7~8年かかるし、全体でラインナップが刷新するなんてのは15年〜20年近くかかる。だから、今になってやっと「人馬一体」が浸透しているかもしれない。

マツダはロードスターを無くすつもりは全くない。景気がいい、業績がいい、だからスポーツ系にお金が使えるようになった・・・そんな事でスポーツカーをやるのは、お客様を裏切ることになる。

本当は、同じものを続けてもいい


少なくとも私は、スポーツカーは継続と熟成をさせていかなければならないと思っている。ロードスターの後追いのクルマ、MR-S、MG-F、バルケッタ、S2000・・・彼らの後継車種はなくなってしまった。ビジネスを続けるには信頼や信用が絶対に必要であり、次に乗りたくても選ぶことができないと、お客さんは離れてしまう。

だから、ロードスターは「継続」をするために、何をどうすればいいのかずっと考えていた。継続には少なくとも世界で月1500台売らなければならない。では、どういう商品作りで注目を浴びようか、どんな限定車を出すかなんて、年に2回は海外プランを立てて、北海道にちなんだニセコ(※NC海外限定車)って名前をつけて台数を作るラインをサポートする。それで繋ぎながら、次世代モデルを作るための開発投資を回収していく。

実は、ロードスターはレギュレーションが変わらなければ、初代の頃から「同じもの」を作り続けてもいいと思っていた。しかし、時代とともに燃費や排ガス規制へ対応しなければならない。過去の安全装備はレベルが低すぎて、少なくとも骨格から変えなければならなくなった。しかし、それが無ければ変える必要なんて全くない、乗り味なんてそのままでもいい。続けていくことが大切だった。

次回に続きます

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