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今回の話もNAロードスターが中心になります。開発エピソードに加え、ロードスターを「続けていくため」にみえてきた方向性などのエピソードです。
幌について
マツダでもファミリアのカブリオレを作っていたけれど、布を扱って折りたたむ技術なんて持っていなかった。
逆に欧米では馬車の時代があって、馬をエンジンに変えた時代を経ている。最初は馬車も屋根はなくて、全部オープンカーだった。そのうち駅馬車などで「こうもり傘」のようなものが開くようになってきた。つまり、そんな時代から欧米では幌を作っている。ロードスター、サルーン、クーペ、カブリオレとは馬車の名前だけど、そんな幌の技術が日本にあるわけない。
だから最初は、イギリスから技術者を雇った。ガードレールがあるところ(※リバーサイドホテル:NA開発現場)で仕事をしている時、横で一緒に図面書いたりしていた。カタコトでも技術屋の使う英語って分かるし、彼らもプライドがあるから、衝突もした(笑)。
それまでの「幌」は水漏れが当たり前だったけど、マツダはホースの水圧20cmだったか、それを圧力高くギュッと絞って当てても水が入らないようにサイドシールを作っている。クルマは組み上がっても、Aピラーの中央が必ずセンターではない。線が引いてあるわけではないから、どこかは分かないはず。
だからAピラーも何mmかはずれていて、場合によっては水が入ってしまう。サイドのラバーシール圧縮は2mm以上になると抵抗になるから、その分も精度を上げて水が入らないように作った。
参考:
シートに関して
ロードスターはライトウェイトだから、普通に乗るときに少なくとも腰が痛くならない厚みと、もちろん重量やコストを制限した中で実現した。スポーツ走行に使う人たちはホールドが悪いというけれど、競技はバケットに変えてくればいいと思っていた。全部バケットにしてしまうと99%の街乗りメイン層には持っていけない。
世界中を全部ひとつのシートでやっているから日本人では不満がある人もいるだろうけど、皆さんよりもアメリカ人の95%が乗れないといけない(※ロードスターのメイン市場は米国)。アメリカ人が文句をいわないように作ったら、日本人の尻には小さくなる。
前渕が滑るから上げてくれとか、身長190cmの人は足があたって乗りにくいとかあるけれど、太めな人は1inch痩せてくれるようにお願いするとか、そんな整合をとったのがあのシートになる。つまり、残念ながら日本専用のシートは存在しない。アメリカ人のクレームはIQS(※自動車初期品質調査)から連絡があるけれど、指摘はされなかった。
トランクスペースのこだわり
お客さんの99%は日常使いだと捉え、トランクにこだわった。スポーツカーはヤワなものではなく割り切りが必要といっても、レーシングカーならいいけれど、それではお客さんが限られた方だけになる。残りの99%に不便を強いる事はできない。
ゴルフバックはやりすぎかもしれないけれど、リセス(※窪み)で13inchのウッドが入るならば、それを作ってやればいい。ただ、ゴルフには一人で行く場合もあるし、オープンカーならば助手席にポンと置いて、道すがらも楽しんで貰えるだろうと思った。
実際二人で温泉旅行に行って、ボストンバックと土産が乗るくらいにすれば使い勝手がいいわけだし、それをやれることが文化に繋がると思った。助手席に荷物を置けばいいかも知れないけど、トランクに仕舞えることをやめたらロードスターではなくなると思う。
ロードスターの顧客層
もともとこのクルマはアメリカ市場のセクレタリーカーを狙っていた。だから最初はアメリカで発表して、日本のジャーナリストに文句いわれた(笑)。
要は二人乗りだから、離婚した女性と子供一人とか、独身とか、エンプティネスター(※子育て終了世代)とか、子育てを夫婦でやっている方(※ファーストカーがある人)達を想定している。しかし、免許取り立ての18歳が買ってくれるし、70ウン歳が最後のクルマとしても買ってくれたりと、ことの外多くの人に売れた。
結果的にロードスターのターゲットユーザーは「クルマの楽しさ」に感度がある方全員が対象になったし、NB以降もそのターゲットを引き継いでいる。「楽しさ」のターゲットは広く、若人からお年寄りまでみなが「楽しみたい」となる。したがって「楽しさ」を求める人全員に提供しなければいけないから、そこそこの豪華装備や快適装備も必要になるし、お金のない人にはNR-Aのような走りのグレードも用意した。
スポーツカーは趣味性の高いカテゴリーで、未だにオープンが恥ずかしいという人もいる。ただ、食わず嫌いのようなものだから、私は乗って貰うチャンスを作りたかった。
だからディーラーでも試乗車を用意して欲しかったけれど、「どこにお金があるのか、ディーラーにそんな事は負担させられない」と会社にいわれてしまった。乗ったら欲しいといわれるモノだし、一週間、一ヶ月乗ったらどんどん良さが出てくるのだけれど・・・(※NDから各ディーラーに試乗車が置かれています)
ロードスターの楽しみ方
モノを大事にするというのは、乗らずに、錆びないように置いておくのではなく、使いながらもいかに大事にするかということになる。例えば「凄くいい湯のみの焼き物」があっても、それを使わずに飾っているのは、それ自体の機能に対して失礼だと思う。壊さないように、大切に使う事によって初めて価値が出てくる。
だから、クルマはきちんと乗らないといけない。なぜならクルマは人間の脚なんだから、脚を飾っておいても仕方がない。義足じゃないんだから、乗るってことを大切にして欲しい。
季節のいい時にオープンにして、花見とか紅葉を観にいったり、夏は暑いから夜中の星空を観にいくなど、ある意味で緩い使い方をする。でも、いざという時にジムカーナーできちっと性能も出る。そういうのが大切になる。
ただ、ジムカーナーはテンションを上げてタイヤ摩耗させながら乗るから、ずっとやってはいられない。しかし単に緩いのではない、普段使いも含めて「緩く使う事も出来る」のが本質的なもの。それがロードスター本来の「あり方」になる。
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