あの時、NDを購入しなかった理由

あの時、NDを購入しなかった理由

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2015年春、ついにNDロードスターがデビュー!


2015年春に販売が開始された第4世代ロードスター、いわゆるND型は噂にたがわぬ素晴らしい出来であり、クルマを語るメディアは総出で「最高傑作」と浮足立ちました。

時代背景としてもエコだミニバンだと騒いだあとに、2012年に発売されたトヨタ86のおかげで「スポーツカーも許される」機運が高まっていたうえで、ついに燃料投入されたということで、まさに「お祭り」騒ぎ。

実際、NDロードスターはデビューとともにワールドカーオブザイヤーおよびワールドデザインオブザイヤーも受賞しているので、将来的にも世界が認めた「歴史に残る名車」という存在が約束されているでしょう。


そしてついに、私の近所のマツダディーラーにもNDロードスターの試乗車がやってきたので、速攻で冷やかしに行きました。

目の前のNDロードスターは前年(2014年のデザイン発表)に舞浜で見た試作車ではなく、ラインで組まれた生産型のロードスター。ほんの少しの勇気があれば、新車として購入することができる存在が目の前に降臨したのです。

新車の香りを漂わせながら、真新しいエクステリア・インテリアに目が奪われます。エンジンサウンドはどんな音?アクセルレスポンスの反応は?ステアリングフィール(乗り味)は?そんな想像が脳を刺激して、大人げなくワクワクしてしまいました。

しかし・・・そこに同席していたディーラー営業さんのひとことで、私のテンションは谷底まで一気に下がりました。

愛車への死刑宣告

それは・・・「試乗のついでにNBの査定をさせてください」といわれた一言です。

営業であれば冷やかしにもワンチャントライする「熱心な気持ち」は十分理解できます。もちろん好意からの発言かも知れませんし、販売マニュアルで指定されているとおり「言わなければいけない」提案かも知れません。

ただ、こちらから頼みもしないのに、私の愛車の【市場価値】を調べようとする姿勢に「気持ち悪さ」というか、嫌悪感に近い感情を得たのです。


私のNBロードスターは(2015年当時で)12年落ち、走行距離も10万キロ以上、そこから経年劣化でぶっ壊れていく運命が待っているでしょう。しかし、そんなネガ要素を踏まえたうえでも愛情を注いでいました。

そこで、何が悲しくて望みもしない市場価値を知らされるのか。「あなたのクルマは○○円です。でも、クルマを買うなら査定額を上げますよ」・・・その気になっていれば必要な情報ですが、そんな覚悟はまだありません。愛情を注ぎながら育てているクルマはプライスレスであるとおもう一方で、中古のNBロードスターが二束三文であることは分かり切っていました。

そんななかで「貴方の家族のスペックを査定しますよ」と提案されても残念な感情になるのはあきらかで、がっかり感と腹が立つモヤモヤした感情が入り乱れて、試乗もせずにディーラーを後にしました。そして、そのディーラーには立ち寄ることも無くなりました。

ポジティブな見方としては、冷やかしを追い返すことができて良かったでしょう・・・

ロードスターが不幸な点


改めて思うことは、歴代ロードスターは感性(=楽しさ)を刺激するプロダクトであることです。

したがって、愛車と過ごす時間が経てば経つほど・・・「愛着」が育まれていきます。それが、どんなに市場価値が無いNBロードスターだったとしても、唯一無二の存在なんです。

かの開発主査は【愛着性能】という言葉でこれを表現していました。

ロードスターは思い通りに動いて「満足」できるから、ずっと所有していたいと思える「愛着」という性能を持っています。もちろん工業製品だから機械的な劣化は進むけれど、愛着は失せるものではなくむしろ時間と共に増えていきます。思い通りに動かせるクルマは人の「感性」に訴えるものであり、「人馬一体」という感覚が愛着性能に繋がっているのです。

軽井沢ミーティング2023 貴島孝雄氏のトークより要約

さらに、歴代ロードスターが凄いのは、(時代に即した装備の違いはあれども)どの世代であっても「乗り味」の軸が変わらないことです。

NAオーナーが未だに愛車を手放さない事も、NCオーナーが愛車を愛でていることも、NDのオーナーが新車にハマっていることも全て共感できます。誰でも自分の愛車が一番の存在なのです。

だからこそ「市場価値」という厳しい現実で「あなたのクルマは○○円だ」とされるのは、いわば自分の価値観に値段を付けられるようなもの。場合によっては死刑宣告のようなもので、それを知る覚悟が当時の私にはありませんでした。


一方、私は「一生このクルマに乗る」とも断言しません。天変地異や環境の変化など、万が一の出来事(どうしようもないシーン)はいくらでもあるからです。だから、次のクルマを検討する(もしくはロードスターを降りる)ことは十分にありえます。人によってはNDを降りてマイナーチェンジしたNDを再購入する方もいらっしゃいます。

・趣味だからこそ、気楽に気兼ねなく、のんびりと
・趣味だからこそガチンコで

これら、一見反比例するような価値観であっても、どちらも正解です。自分が好きにすればいいんです。

ただ、私はもうしばらくNBロードスターでもいいかな・・・と、この出来事で自分の感情を改めて知ることができ「いらない」という決断をしました。もちろん、NDロードスターも素晴らしいロードスターであることは分かっているつもりですが、もう暫らく今のままでいいかなぁと・・・あれからもう8年くらい経ちましたが、今だにモニョっている「スポーツカー乗りはめんどくさい(←私だけ?)という話でした。


関連情報:

なぜ自分の愛車が一番なのか(A-1)

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