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NB20周年企画・貴島さんインタビューの最後は、NBロードスターを開発コンセプトと、結果として現在までの「マツダ・ロードスター」の方向性を決定づけたエピソードです。
改めてNBロードスターのプレスキット(広告商材)には今回のキーワードが記載されており、ナマで話を伺った際に「なるほど、そうだったのか」と改めて気づくことになりました。NBロードスターが誕生するまでの葛藤、ご堪能ください。
以下、貴島さんインタビュー再開です。
参考:貴島孝雄氏プロフィール
→ https://mx-5nb.com/2019/12/29/kijima2017-0/
ロードスターの「乗り味」
ロードスターの「味」はどこから来ているかというと、「50:50の重量配分」「ヨー慣性を低く」というものになる。
例えばNCは、ホワイトボディではNBよりも軽い。NBで車重が一番重いのは1,080kg(RS後期1800cc)だけど、NCの車重は1,090kgなので、タイヤの重量を考えても10kgしか変わらない。(※外径が1インチ上がると約10kg重くなる)
つまり、NBの「50kg+70kgの2名乗車」と、NCの「60kg+50kgの2名乗車」では同じことになる。それで「乗り味」が変わる訳がないし、そもそも10kgの差で変わるような、やわな素性にはしていない。だからNCの試乗会でもNAやNBと同じ「ロードスターの味」できびきび動くと評価され、安定性が増しているなんて声もいただいた。基本が一緒だから当然だし、NCをセットする方向性に迷いはなかった。
ただ、軽量化はいいことだけれど「軽いこと」が目的になってしまってはいけない。1トン切るのは記号性であって、クルマが楽しくなかったら何の意味もないし、そういうことが指標になっていないのはまずい。ロードスターはマツダ・ブランドブルズアイのセンターにあるし、ロードスターの乗り味である「人馬一体」はマツダ車全体の味ともいえる。
「Lots of Fun」から20年
ユーノスロードスターは異常で、本音ではあんなに売れると誰も予想できなかった。
当時は日本で「二人乗りの贅沢」を楽しむような自動車文化はないし、オープンカーには羨望のまなざしもあった。初代があれだけ爆発的に売れたものだから、NBは普通の二代目のような作り方をすると絶対失敗すると思っていた。それを、まさか私が引き継ぐとは思っていなかったから、平井さんの退職から兼任しろといわれて「おい、待てよ!」と思った。
それまでのクルマで初代が爆発的に売れたものの二代目は、どれもうまくいってなかった。ファミリアも二代目はぱっとせず、二代目RX-7(FC)も厳しく・・・あれは270万円で買える最後のアンフィニモデルだけが人気だった。ロードスターはその轍(てつ)を踏まないために、できるだけ「楽しいクルマ」を目指すことに決めた。
実際、プラットフォームもエンジンも一緒だから「人馬一体」を継承するコンセプトには悩まなかった。しかしロードスターの「楽しい」方向を、どう引っ張っていいのかが分からない。つまり、人馬一体は決まっていても、その具体的なものがなかった。
開発で集まった年上のメンバーは「お前は何もわかっていない」といってくる。私も初代で足周りや操縦安定性をやっていたけれど、クルマ自体の【生みの苦しみ】は後から平井さんに聞いた話だった。だからNBで一番悩んだのは、なぜロードスターが「楽しい」のか、それを考えた事に尽きる。
初代の開発時に作っていたのは、「運転の楽しさ」だけだった。そこからヒットしたロードスターを改めて検証すると「人を繋げる楽しさ」が愛される理由であり、これをもっと広げていくことが重要だ・・・と、やっと分かった。そこで、ミーティングで集まる、パレードをする、家で眺める、そんな様々な「楽しいシーン」を定義していくことにした。
【NBの思い入れが強い】部分は、やっとそれに行きついたことで、「Lots of Fun」を提唱し、商品として熟成させる方向性に舵を切ることができた。
※NBロードスター・プレスリリースより抜粋
・Fun of Open Air Motoring
オープン走行の楽しさ
・Fun of Sports Driving
走る楽しさ、操る楽しさ
・Fun of Styling
スタイリングを眺める楽しさ
42万台売れた初代に対して7割(28万台)出たら成功と思っていたけれど、結果NBは30万台を販売した。これで主査は終わる予定だったけど、その後三代目にも指名された。あの時代は世の後押しもなければ、リーマンショックもあって、スポーツカーを作っている時代でなかった。
NCはプランの段階からRX-8との関係で苦労した。プジョー206CC(電動メタルトップ)が出てきたから、新製品会議でも電動屋根を作って、倍売れと指示があった。そのプランをせざるを得ないから、ロードスターの電動トップは絶対にコンパクトに畳めるものにしようとベバスト社(※ルーフシステムのサプライヤー)と機構検討をしたけれど、フォードも来ていてモノをいいだすからデザインもプランもがたがた。それでも対応をしなければならない。
日本人はなぁなぁで大丈夫でも、彼らには数字でキチっと示さなければならないし、経営会議も行き違いの繰り返し。でも、RHTのリアフェンダーを別ボディにする話が通って、これでやっと成功すると思った。幌に合わせて腰高のNCを作ったら、あれは絶対駄目になっていた。加えて、エイトの足をそっくり使えといわれて「そっくり使います」といいながら全く使わず、徹底して軽量化ができたことも大きかった。
マツダ・ロードスターとは
繰り返すが、ロードスターの「楽しさ」を作るのは1トンを切る目標ありきではない。ロードスターはとにかくキープコンセプトで、むしろキープではなくてコンセプト自体を変える必要が全くない。つまり、コンセプトをどう進化させていくかに尽きる。
太古の「石器」は生命の危機をもたらす敵を倒すために進化して、「食べ物」を得ることのできる安心や安定、そして幸せを得るための道具だった。すなわちヒトは「道具」によって、グループ、チーム、家族とまとまっていった。ヒトは一人では生きていけないからだ。
そんな「幸せ」の感情は、人間同士が共感できるきっかけになるし、道具・・・・つまり、ものづくりの本質はそこにある。
初代のカタログにもある「だれもがしあわせになる」は、ロードスターの道具としての定義を示しているし、歴代ロードスターシリーズ全てが達成しているものでもある。つまり、感性価値が豊かな商品には「人を繋げる力」がある。ロードスターは人を繋げるメディアなのだ。(談)
2018年8月17日 貴島研究室「ものづくり工房」にて
初代ロードスターで提唱した「人馬一体」・・・これは、乗ったら楽しいというコンセプトでした。さらに、偶然と必然が重なって大ヒットしたユーノス・ロードスターのヒット要因はどこにあったのか。
ここからの進化は、メイン市場である北米向けに余裕のパワーやトルクを持つ方向もあれば、スポーツカーとして速さを追求するために、高出力や軽量化素材を多用して、先鋭化する道もあったかも知れません。
しかし、それは「ロードスター」の楽しさの本質ではないことに気づき、新型(NBロードスター)は電子制御サスペンションも無ければ高出力エンジンも採用しない、進化の方向性はあくまで「感性価値」の向上を目標におき、「Lots of Fun」を達成する素性を作り込みました。
つまりマツダ・ロードスターの「人馬一体」を改めて定義したのが、NBロードスターというプロダクトだったわけです。
さて、インタビューは今回でひと段落、次回でこのシリーズは終了です。
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