NCはスペックでは語らない(D-4)

NCはスペックでは語らない(D-4)

貴島孝雄さんインタビューの続き、NCロードスター編もこれでラスト。今までもNCに関しては、プレス発表や各種報道資料がありました。しかし、それ以外の部分・・・作り手の思いやこだわりを感じて頂ければ幸いです。NCも寸分違わず「ロードスター」でした。

貴島さんのプロフィールはこちら

NCベースのクローズドクーペ


ロードスターは世界の拠点から、例えばスピードスターのような提案があるけれど、本社は全く関わっていない。

彼らはカスタマー、つまり「用品レベル」で細工が出来る。だからアメリカはこうやりました、ヨーロッパはこうやりましたという話があるが、あんなのは私にとってお遊び。あれを本社で正式に提供するほど、会社は小さくない。


会社にもコンセプトで出すショーカーなどを作るモーターショー担当部門がある。そこで、今年のモーターショーではこれを出したいなんて企画をおこなう。でも、それを量産するなんて経営会議には通らないし、話題性のために出すようなもの。

あとは次期モデルの方向性に対する「感度」を見るために出すものもある。既に総合商品計画という向こう5年間の計画があるので、これはパリショーでだそう、ジュネーブショーでだそうと計画をおこなう。そこに少しずつフルチェンジのコンセプトを見せれば、お客さんが馴染んでくれるだろうという意図がある。


「伊吹」に関しても、NCのイメージコンセプトとしてショーカーの連中がやっていたから、デザイナーは関わっているだろうけど我々主査は関係ない。あんなもん出るわけない(笑)。

参考リンク

次世代コンセプトカー「息吹(2003)」その1

NC1グリル


マツダデザインは2000年代に「ファイブポイントグリル」として統一したけれど、NC1のグリルが丸いのは、ロードスター特有の理由があった。(※NC1は2005年発表)

ロードスターの人馬一体はマツダ全体をリードする役割があったけれど、それ以上に独自の世界観、つまり「ファンでフレンドリーでシンプル」というテーマがロードスターには既に存在していた。マツダのテーマを統一していく中ではあったけれど、ロードスターの世界観を絶対守るため、NC1はあえて「ロードスター」顔として出させて貰った。

VSにウッドパーツがない理由


まず、NCのデザインではブリティッシュ・レーシンググリーン(※濃緑)とタン色の内装が似合わなかった。また、ウッドパーツ自体もササクレ要件で非採用になってしまった。ウッドは(※ステアリングなど)壊れた時に「エッジが立つモノ」として人間に被害が出る。つまり、タカタのエアバックのようなものになってしまう。

お金や手間をかければ、ウレタン樹脂を染みこませた、カチッとしたプラスチックなどで出来なくはないけれど、問題はどんどん「木の質感」ではなくなってしまうこと。アレは握った時の木のぬくもりというか質感がいい。私もNBではウッドを使っていた。

「Roadster」の筆文字が消えた


これは、この時代のデザイナーの領域。筆文字は書道的な型なので統一ができない。つまり、全車種統一を考えたときに「CX-5」を筆文字で書くわけにはいかなくなる。例えば「R」って筆文字も、同じ形にならないと統一感がでない。そこでブランドを踏まえて、デザイン文字(フォント)で規定をおこなった。


マツダとしての統一は「Zoom-Zoom」の頃からいわれるようになった。全車種統一したのはステアリングセンター、タイヤホイールセンター、ボンネットとリアにマツダマークを入れることで、それがアイデンティティになると決めた。

そういえば、近年のマツダ車は「MAZDA」のロゴがなくなったはず(※スカイアクティブになっています)。その前は、マスコットと車種名、そして「MAZDA」のロゴを入れていた。マツダマークがカモメ(※フライング・M)に変わったとき、これが浸透するまでは「MAZDA」も入れようとなった。もう浸透したので、同じ意味をふたつ付けるのをやめた。


本当はMX-5の「Miata」もやめようという話もあった。「Miata」というのはアメリカだけで、日本はいわないし、ヨーロッパでは「MX-5」。日本もアメリカもヨーロッパも違う名前で、同じクルマでも三つの呼び方があるけれど、これはある意味伝統だから残していこうとなった。また、NAの時に「Roadster」のロゴ色を変えた(赤、緑)のも、色にはこだわる人がいるからだ。

アフォータブルプライス


NCの価格はNBからスペックが上がった分しか取っていない。あれは16から17インチへタイヤが大きくなった、そのインチアップの差額になる。実際の中心価格は240万前後になったと思うけれど、これが原点回帰というか、ロードスターの値付けになるし、これでも高すぎたと私は思っている。(※参考 NB8「S」:約218万円)

本来は経済成長に伴い、若者にはもっと給料を払わなければいけないという思いがある。しかし、実経済は伴わず、むしろ歪んでしまった。このクルマを買えるくらいの経済力を持って欲しかったけれど、リーマン(ショック)以降のロストディケイド(※失われた10年)、いやダブルロストディケイドか、もっと上昇する経済勾配だったらお客さんの購買力もあったはずだった。

NCへ懸けた思い


両国国技館でやったNC発表の時に、このクルマは10のシーンで楽しめますというのをやろうと思った。若者、エンプティネスター(※子育て終了世代)、スポーツ走行、サーキットに行くなんてシーンを見せて、こう楽しめます!・・・というのを考えていた。そうしたら、予算の関係で3つしかやれないとなった(笑)。


そこで企画を3つ出したらナレーションは「貴島さんがやってくれ」となった。そこで本番は、若者が楽しんだり、サーキットを走ったり、ロマンスグレーのモデルが来て・・・なんてCMをやって「これで終わりです、よろしく」ってやった。そうしたら、スペックの話がないと文句が来た。


※写真は井巻社長(当時)と貴島さん

それで「ロードスターはスペックじゃない、広報資料に全部書いてあるから見てください」といった。「低重心で可変バルブタイミングがどうこうといったって、お客様のフィーリングには全然関係なくて、走れるくらいの馬力はあります」くらいの考えだと伝えた。

つまり、お客様がロードスターの燃費がいいなんて指標を見ても、ロードスターの「楽しさ」にはほとんど意味がない。スペックは後から付いてくるものになる。

走って気持ちよく曲がった、自分の動きに対してどうだった、そういう事がロードスターという商品の魅力であり、こういう楽しみ方が出来るっているのを示して、あとはスペック見といて下さいと・・・それで十分まかなえるのだ。


そうしたら、プレゼンが終わった瞬間に拍手が起こった。カーメーカーのプレゼンが終わった時に拍手が出たのは初めてだ、参加者からはそんな声もいただいた。

そして、ロードスターは人と人とを繋げるものであることを意識していたから、発表会には平井さんにも来ていただいた。NB、NCと続けて来られたのは、この人のおかげだってことを皆に伝えたかった。

次回に続きます

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正直に作った、ロードスター(2017まとめ)

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