打倒NCロードスター、ポンティアック・ソルティス

打倒NCロードスター、ポンティアック・ソルティス

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アメリカ・ビックスリーのオープンカー


アメリカにはビックスリーとよばれる、3大自動車メーカーが存在します。

「GM(ゼネラルモーターズ)」「クライスラー」「フォード」は3社だけで、ほとんどの北米市場を独占してきたという歴史的背景がありました。特に1990年から2010年にかけては、これらのメーカーのアンブレラ(傘下)として、北米だけではなく欧州や日本の自動車メーカー・ブランドが参画し、分かれ、統合されていきました。

そのようななか、ロードスターを製造するマツダはフォード傘下にありました。そこでロードスターがアフォーダブルスポーツカー(オープンカー)の世界的なベンチマークになっていた事実は、GMもクライスラーも許せなかったのではないかと想定されます。


そこでクライスラーは2004年、当時傘下にあったメルセデスブランドで販売されていたメルセデスベンツSLK(R170)をベースにしたハイクラス・オープンカー、クロスファイアで勝負をかけてきました。

もちろん価格帯がちがうのでロードスターと直接競合することはありませんでしたが、華やかなオープンカー市場を盛り上げてくれた一台でした。

しかしGMは打倒ミアータを志し、新規プラットフォーム「カッパ」を開発し、その兄弟車を市場に送り込んできました。その時代は2004年から2010年、つまりNCロードスター世代とライバルになります。

ミアータ(ロードスター)自身も、NA/NBロードスターの小型自動車(5ナンバー)からNCより普通自動車(3ナンバー)に車格が上がったこともあり、価格帯やキャラクターなども含めて、カッパ・プラットフォーム兄弟車とはまさにガチンコ対決になりました。

GM「カッパ(Kappa)・プラットフォーム」とは


カッパ(Kappa)とはギリシャ文字10番目の記号「Κ」からきている言葉です。そんなカッパ・プラットフォーム(アーキテクチャ)の設計と開発はGMグループである欧州メーカーのオペルが主導で進められました。サブコンパクト・縦置FR駆動の専用新規プラットフォームです。

フレームの主要部品には、オペルの独自技術・ハイドロフォームが採用されています。これは鋼管を水圧で膨らませて成形するもので、袋状(閉断面)部品の成形では、一般的なプレス加工に比べて工数と溶接長を大幅に減らせるうえ、継ぎ目のない大型部品の製造が可能で、軽量化と高剛性化を両立できるメリットがありました。

また、前後の独立懸架サスペンションや、GM傘下のオペル製エコテックエンジンにアイシン製MT/ATトランスミッション、50:50の重量配分などのパワートレーンが作りこまれています。


専用プラットフォームとはいえ、共通化できるコンポーネントはGM社でとことん流用しているのも特徴です。こんなに流用があるのか・・・と思われるかもしれませんが、ロードスターも歴代マツダ車、(とりわけデミオと)コンポーネントを共通化している背景があり、こういった互換性で安価な価格帯を実現できているという事実もあります。

リアアクスル/デフ:シグマ、キャデラックCTS
インテリアストレージ:Y-Body、キャデラックXLR
エアバッグ/ステアリングコラム/ドアハンドル:デルタ、シボレーコバルト、ポンティアックG5
テールランプユニット:GMT360、GMCEnvoy
空調モジュール:ハマーH3
フロントフォグランプ:W-body、ポンティアックグランプリ
ステアリングホイール:ポンティアックG5
シートフレーム:オペルコルサ

ポンティアック・ソルティス・コンセプト


2002 Pontiac Solstice concept

「ソルスティス」はGM傘下のブランド、ポンティアックから発売されたスポーツカーです。なお、ソルティスという単語は、「夏至や冬至など、昼夜の比率が最大になる日(支点)」という意味になります。

2004年の北米国際自動車ショー(デトロイトショー)で公開されたソルスティス・コンセプトは、1988年まで販売されていたフィエロ以来の2シータースポーツカーということで話題になりました。


デザイン主導は当時GMに在籍していたフランツ・フォン・ホルツハウゼン。同氏はソルティス(&スカイ)のデザイン後にフォードへ入社しマツダへ出向。マツダ時代には「流(ナガレ)」デザインを指揮した一人でもあります。なお、現在はテスラのチーフデザイナーとして活躍をしています。

参考)→https://mx-5nb.com/2020/10/19/kabura/


このコンセプトカーは走り書きのスケッチからわずか4ヶ月で制作されたものであり、コンセプトカーは(リアアクスルも存在しないことから)ハリボテと揶揄されました。しかし久々のポンティアックブランドのスポーツカーであることと、米国向けのマッチョなラインはとても好評で、ミアータキラーとしてカッパ・プラットフォームの開発にGOサインが出るきっかけとなりました。

ポンティアック・ソルティス・ロードスター


2006 Pontiac Solstice roadster

車格: コンパクトスポーツ 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3992×1810×1284 mm
ホイールベース: 2415 mm 重量: 1305kg
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤ: 245/45R18
エンジン型式: Ecotec 2.4 種類: 2.4L 直4 DOHC
出力: 194kW[260hp]/5300rpm
トルク: 353Nm[36.0kgm]/2500-5250rpm
トランスミッション: 5MT/5AT 駆動方式: FR


「ソルティス」の製造開始は2005年で、まずは2.4Lエンジンのスタンダードモデルがデビューし、翌2006年に2Lターボエンジン(260hp)のソルティスGXPがグレード追加されました。

なお、GXPの2.4Lエコテック・ターボエンジンはGMの歴史の中でリッター当たりの出力が最も高いものであることと、米国自動車メーカー初のガソリン直噴エンジンになります。※2008年にはスタンダードエンジンへ若干の仕様変更をおこない、出力が若干下がっています。


コンセプトカーそのままの姿でデビューした「ソルティス」は、北米カーオブザイヤー賞とデザインオブザイヤー賞にノミネートされ、ポンティアックにとって久方の大ヒットとなりました。デビューから10日で7,000件、さらに年末まで6,000台の注文があったのですが、初年度生産は7,000台。そこでGMは異例となるお詫びの報告をするとともに生産増をおこない、翌年3月までに10,000台を納車しました。

日本では正規販売されなかったソルティスですが、2007年の映画「トランスフォーマー」に登場しているので、スクリーンを通してご存じの方も多いのではないでしょうか。

ソルティス VS ミアータ(ロードスター)


「ソルティス」は、セクシーで手頃な価格の、真にアメリカナイズなスポーツカーとして受け入れられました。価格はスタンダードモデルで24,275$(当時の為替レートで約280万円)から選択が可能で、ミアータが北米価格で21,750$ということもあり、価格の点においても明らかな競合となりました。

「ソルティス」の乗り味は、踏み込まないとロールをしない固めにセッティングされ、ミアータのようにコントローラブルではないとされました。しかし、適度なアンダーステアとクイックなステアリングは、普段乗りがメインのドライバーからは高評価を得ていました。

しかし、ミアータの2リッターよりパワーはあるものの、吹けない(トルク重視の)エンジンは大雑把であり、シフトフィールの凡庸さも相まって、重くてタルいともいわれていました。逆にGT寄りの、トルクで走るタイプのクルマであったので、ある意味ミアータと違うキャラクターとして確立されたようです。


また、欠点としては幌の開閉が手軽ではなかったことと、コストダウンを感じる内装と、オープンカーのストレージに期待はしないとはいえども、幌を格納することになるトランク容量は厳しいものになりました。

関連レビューでは、デザインを好むならソルティスでもいいが、より乗り味を求めるならばMX-5ミアータを購入することをお勧めする・・・といったものでした。ソルティスは速いけれど、人馬一体ではないという評価だったのです。

ポンティアック・ソルティス・クーペ


2008 Pontiac Solstice coupe

2008年のニューヨークオートショーにおけるタルガトップ・コンセプトを経て、2009年にはソルティスのクーペバージョンが追加されました。なお、グレード(エンジン)はロードスターと同一仕様になります。取り外し可能なタルガのハードルーフは格納場所がないことから、オプションで格納可能なクロストップが用意されました。


しかし、2008年9月におこったリーマンショックによる世界景気後退は、趣味車であるスポーツカーにとって冬の時代の始まりでした。結果、ロードスターの64,000台を超える生産数に対しクーペ1266台と対照的なもので、モデルサイクルなかばとはいえ、売上は燦燦(さんさん)たるものでした。したがって、現在ソルティスクーペは超絶レアモデルとなっています。ある意味、国内のNBロードスター・クーペに近しい存在です。

ポンティアックのブランド消滅


2008年のリーマンショックは自動車メーカーの統廃合を促進しました。それはビックスリーも例外ではなく、GMは2008年に経営破綻、あまりにも巨大な企業であったことから救済のため、アメリカ国有企業となりました。(※2013年に解消)

それに伴い1926年から84年続いたポンティアックブランドは、2010年に消滅を迎えました。GMの中級スポーティブランドというポンティアックの位置づけは、冬の時代を乗り越えることができなかったのです。

しかし、「ソルティス」を製造していたデラウェア州の工場は通常通り稼働しており、ソルティスの2010年モデルは少量ながら試作されていました。

最後の「カッパ・プラットフォーム」で生産された30台の内訳は、12台の「ソルスティス・クーペ」、8台の「ソルスティス・ロードスター」、そして兄弟車の「サターン・スカイ」が8台、残り2台は「オペルGT」でした。これらのクルマは社内評価試験やイベント展示車として使用されたということです。


なお、この時代はマツダもフォード資本が終了し、ロードスター自体もモデル継続のために試行錯誤していました。NC2からNDロードスターにフルモデルチェンジする予定だったものは白紙撤回され、NC3ロードスターが作られることになったのです。

現在、ソルティスは北米の中古車市場でプレミア価格になることもなく、手軽に購入できるライトウェイトスポーツカーとして定着した人気を誇っています。いつか、モデル復活されることを祈りつつ、今はライバルを称えたいと思います。

ソルティス生産台数 ロードスター クーペ
2006年 21,273
2007年 24,018
2008年 15,587 102
2009年 4,826 1152
2010年 20 12
合計 65,724 1266

関連情報→

三番目の刺客、マツダ鏑(カブラ)

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