トヨタMR-S前期型(ZZW30)サーキット仕様 試乗記

トヨタMR-S前期型(ZZW30)サーキット仕様 試乗記

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クルマは乗ってみなければ分からない。今回は「MR-S」【走り】の素性にに全振りしたサーキット・モデファイ仕様のカギをお借りすることができました。

そこで【独断と偏見】ではありますが、ロードスター(NB6)乗り視点でどのような乗り味だったのか、その試乗記をお届けします。

あくまで公道ベースなので限界域まで試すことはできませんでしたが、エッジの効いたパワフルな乗り味を少しでもお伝えできればと思います。

MR-S前期型・サーキット仕様


今回の「MR-S」は車台番号が5000番台とデビュー最初期に組まれた個体がベースになります。

ボディカラーだけでなく、インテリアも純正オプションのイエローでコーディネートされていました。実際に見るシートの色味は「黄色」というよりも落ち着いた「芥子色(からしいろ)」な珍しい色味であり、安っぽさはありません。

下記はカタログ上の諸元です。

TOYOTA MR-S(ZZW30)前期型
車格: オープン・カブリオレ・コンバーチブル 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3885×1695×1235mm 重量: 970kg※
ホイールベース: 2450mm トランスミッション: 5MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク タイヤ: F:185/55R15 R:205/50R15
エンジン型式: 1ZZ-FE 種類: 水冷直列4気筒DOHC
出力: 140ps(103kW)/6400rpm 燃費(10・15モード) 14.2km
トルク: 17.4kg・m(170.6N・m)/4400rpm 燃料 無鉛レギュラーガソリン

※エアコンレスモデルは960kg

通常は最低限の普段使いをしながら、ホームとなるショートサーキットを月次で走り込み、地元の某有名なサーキットは仕上げに年数回走るそうです。基本、それに合わせたセッティングになっているのですが、流石に平日は車高調をソフト寄りの設定にしているそうです。しかし試乗では「足周りをキュっと締めてきました!」とオーナー氏は笑顔で語ってくれました。


パッと見で分かるのはハードトップであることと、ボンネット/リアフードが明らかに軽量化されていること。ベタベタではなく適度に落とした車高と、明らかにリアへキャンバーがかかっている雰囲気のある佇まいとでもいいますか、オイルとタイヤの焼ける臭いが似合う、なかなかなオーラですね。


試乗の流れとしては、先ずは先入観を持たず自由にドライブをしてみて、その後に「答え合わせ」をおこないました。コースは某つくば山麓(ふもと)のワインディングロード。残暑が残る蒸し暑い気候ではありましたが、何とかノーエアコンで走りきることができました。

しっくりくるコックピット


ドアを開けると運転席にはフルバケットシートが取り付けられていました。その奥にみえるペダルは「かかと」の部分が擦れて地金が出ています。ヒールアンドトーあるあるですね。

よっこいしょと座り込むと、座面(アンコ)が取り払われていたシートはガッチリ腰を抑えてくれて、座高の高い私にとってはメーター類のインフォメーションも含めていい感じに低くて広い視界がセットされました。肩の包まれ感もいい感じですね。

ヘッドレスト部分(後ろ頭)に空間が生まれるので頭の固定が厳しいのですが、フルバケはヘルメットを被る前提があるのでこれで正解です。公道なので4点式ではなく通常のシートベルトで身体を固定しました。なお、ウエストラインに腕を置くことはできませんが、ドアトリムについているパイプ状の持ち手がひじ掛けを兼ねてくれました。


今回のクルマは5速MT仕様。シフトパターンもロードスター(NB6)の5MTと同じだったので、違和感なくシフトチェンジを行うことができました。シフトフィールは、MR-S6速(後期)よりもぐにゃり感は少なかったのですが、どちらかというと剛性は低めなので、きちんとギアを合わせるタイプのミッションでした。もちろん走行中は慣れてしまえば問題ありません。

キーを回すと想像の3倍以上に野生的ななエグゾーストサウンド!アクセルにリニアに反応して「ブォーン」と響いて気持ちを盛り上げてくれました。

これ、後で「純正マフラー」だと聞いて驚いたのですが、幌を外してあることと、その元にあったインシュレーター(防音材)を取り払っていること、そしてハードトップの反響で鳴っている音だそうです。確かに下品な感じがしない不思議なサウンドで、それでも背中から聞こえてくるエグゾーストは凄い迫力。控えめに言ってもめっちゃ良い!!


ゆっくりクラッチを繋いでいくと、普通のクルマのようにするっと動き出すのですが・・・明らかに路面のインフォメーションを拾ってくれることがわかります。徐行でも乗り心地がハードなのは人を選ぶことに間違いありませんが、一方で乗せられている感はありません。

ガタタン!とボディ全体で共振するのは本当にトヨタ車なのかと疑ってしまう剛性感。いわば某タイプRのような硬派さとでもいうのでしょうか、これは面白そうです。

軽さが効く、加速&トラクション


ストレートでアクセルを踏み込むと、ターボエンジンのような極端なGはかかりませんが、想像よりもトルクフルな1ZZエンジンが咆哮を上げてリニアな加速を楽しませてくれます。「VVT-iってこんなに良かったの?本当に実用エンジン!?」と、普段はたかだか100馬力程度のテンロクロードスターに乗っている身からすれば、十分に刺激的な加速でした。

ただ、以前試乗した「MR-S(ノーマル最終型)」と比較して明らかに出足が良いこと、ボディの軽さに気づきました。これは諸々の軽量化(ボンネット/トランク/フロントラゲッジスペース除去/幌撤去)が効いていそうです。

このクルマ自体が初期型なので最終型と比較して40kg以上軽量ですが、そこからさらに軽くなっている(目算では約-20kgほど?)はず。その効果が出ているのでしょう。


特にフロントラゲッジスペースを撤去すると、ボンネットの下には「何もない」空間が広がります。流石ミッドシップカーとでもいいますか、目を疑ってしまう光景でした!

かといってボディが緩いわけではなく、明らかに剛性感が保たれています。これはオープン時の開口部を物理的につなぐハードトップの恩恵になるでしょう。接続ジョイントはAピラー両端、Cピラー左右根本、リアデッキ2ヵ所と合計6か所。ロードスターのDHTと同じ接続方式(かつ同じロック機構)でした。なお、ロールケージは無くても基本的にハードトップであればサーキット走行は可能です。

実は1ZZエンジン自体はリビルドではありますが基本ノーマルで、エアクリーナーの熱対策やオイルマネジメントなど基本的なメンテをしている程度だそうです。ただし、エンジンマウントは強化タイプになっているそうで、確かにアクセルワークによる腰の「ぐらつき」が少ないというか、ペダルとスロットルの一体感があったような気がしました。プラシーボ?

ちなみに純正オイル指定は「5W-20」ですが、このクルマはサーキットで高回転を維持する前提になるので「10W-30W」と固めにしているとのこと。オーナーさんは「過保護ですよね〜」といいつつも、ブランドではなく回数にこだわって1500kmもしくは月一ペースでオイル交換をしているそうです。


また、タイヤサイズを調整も効いており、スタートダッシュだけでなく中間加速でもグっとトラクションがかかります。フロント:195/50/R15、リア:225/50/R15(※ノーマルF:185/55R15 R:205/50R15)とマニアックなサイズを揃えているのは流石シバタイヤです。なお、リアは「2サイズ増し」にするのが行き着いたベストセッティングだそうです。

粘る、曲がる!コーナーリング性能


試乗前に「あえてアンダーにしてありますのでブレーキどうします?」と聞かれました。

実は「MR-S」はABSを切るとリア寄りの制動力になるそうで、ターンインの「ぐにゃり感」「腰砕け感」抑制に効くそうです。そうはいっても公道なので万が一を想定し、ABSはオンのままで走らせていただきました。そんなブレーキは意外なことに基本ノーマルとの事でしたが・・・制動力は必要にして十分、踏み代でコントロールが効く印象です。ボディの軽さが活きるポイントといえるでしょう。


コーナーで感じたのは明らかにヨーの発生が早い事。

小径ステアリングの影響かも知れませんが、決してオーバーステアではなくいわばクイックステア!しかもボディがしならずにシャープに反応してくれました。また、ステアリングの適度な「重さ」が心地よく、何か弄っているのかを聞いたら(持病で緩みがちな)タイロットエンドまわりのレストアを施した程度とのことでした。

なお、サーキットではタイヤの性能が上がったことから、コーナーではブレーキを奥まで我慢して・・・ガツンと踏んで方向を変えてから「舵角」を戻し、そしてアクセルを床まで踏むのがトレンドになっていて、最近の走り方ではパーシャル(ペダルコントロール)を使わないそうです。

そうはいっても予測がつかない公道でそんな走りをしたら迷惑をかけるので、センターライン内でのパーシャルを使った走行を行いました。


しかし、事前にアンダーと聞いていましたが・・・街乗りや峠程度ではそんな現象はおこらず、むしろめっちゃ曲がるし、それで破綻する(スピンする)気配もありません。タイヤサイズの効果かと思ったら、アライメントも弄ってあるそうで、トーは基準値ですがキャンバーは(フロント―1°5’、リア―3°)寝かせてあるとのこと。なるほど、リアの粘りがめっちゃ効いていました。

実際、ここには書けない速度域まで試してみましたが全然付いてくるし、ABSが効くようなシーンもありませんでした。ロードスターも曲がるクルマだと自負をしていましたが、ここまで気持ちよく曲がってくれるのかと驚愕しました。正直・・・楽しすぎます!

ただし、前述の通りインフォメーションはガンガン拾うので、荒い路面でかつ高速域だと緊張感が生まれます。ヤバいと思ったのは段差舗装されていた路面です。人工的に作られた想定外のギャップによる縦揺れは剛性感がありすぎてボディがバラバラになるかと思いました。(おかげで復路走行での当該経路では徐行しました)「足を締めてきました!」の言葉は伊達じゃなかったです。

楽しくて声が出る、感性性能


ギリギリの日常要素は残してありますが、「走り」に90%以上特化したクルマ・・・しかもLWSをベースにしてその素性を磨き込んだチューンはアクセルを踏むたび、コーナーを曲がるたびに「うおー!」と笑顔になってしまいました。サーキットに特化したクルマを街乗りで評価するのは違うかも知れませんが、これぞまさに五感に訴える感性性能といえるでしょう!

正直、コンマ切りをストイックに目指すと上は際限なくキリがなくなります。しかも、馬力だけで考えたら昨今のSUVですら普通に数百馬力のすごいパワーがあるし、EVのトルクなんて反則技みたいなものです。


それでもあえて「MR-S」にこだわり、その素性を伸ばす方向で「軽さ」と「ハンドリング」をテーマにしてクルマを作り込む姿勢は、リスペクト出来るものがありました。ホント、愛車ってそういうものですものね。

ロードスターもうかうかしてられない、世の中には楽しいクルマがまだまだあるとわかる、本当に操舵が気持ちいい「MR-S」でした。

特に、繰り返しますが今回いちばん驚いたのはノーマルマフラーが超いい音だったこと。外部には迷惑かけずにドライバーの気持ちを盛り上げるベストチューンとでもいいますか、本来持っているスポーツカーの野生みを感じることができたのは大きな収穫でした。

電動化待ったなしの近代スポーツカーでは環境規制のひとつに「騒音」も含まれており、エミュレートされたエンジンサウンドがスピーカーで鳴る仕組みが導入されています。でも・・・やはり「生音」にかなうものはありません。かの時代に生まれたスポーツカーの特権だと思うのです!

そして、鉛筆を研いでナイフにしたような・・・おしゃれなオープンカーも研ぎ澄ませばこういう姿になる。そんな可能性を十分感じることができた、楽しい「MR-S」の試乗でした。

最後に、こういった機会をくださったオーナーの【MIYAony.Ltd】氏に、この場を持ってお礼申し上げます!

【主なチューニング箇所】

<エンジンまわり>
1ZZリビルドエンジン
強化エンジンマウント
オイル交換1500kmまたは月次(10W-30W)
リアバンパー下部カット(熱対策)
熱対策エアクリーナー
<足周り>
車高調整式ダンパー BLITZ ZZ-R
ハイグリップタイヤ シバタイヤ F195/50R15 R225/50R15
アライメント調整 キャンバー F-1°5’ R-3°0’
<軽量化>
カーボンボンネット VARIS
FRPエンジンフード
ハードトップ化&ホロ撤去
インシュレーター除去
フロントラゲッジスペース撤去
<インテリア>
小径ステアリング(32パイ)
フルバケットシート(ZETA) BRIDE

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