トヨタMR-S中期型(ZZW30)SMT仕様 試乗記

トヨタMR-S中期型(ZZW30)SMT仕様 試乗記

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クルマは乗ってみなければ分からない。今回は(現時点で)量産国産車で唯一のロマンメカを搭載した「MR-S」【SMT仕様】のカギをお借りすることができました。

SMTとはシーケンシャル・マニュアル・トランスミッション(Sequential manual transmission)の略称です。「MR-S」の場合はクラッチ切替の動作が自動化された、いわゆる2ペダルマニュアル車になります。オートマチックトランスミッション(AT)との大きな違いは、基本マニュアル車と同じなので「自分で変速する」必要があります。つまり、1速からギアを上げないとレブリミットまでエンジンが回るのです。

そんな面白いクルマがロードスター(NB6)乗り視点でどのような乗り味だったのか、【独断と偏見】の試乗記をお届けします。

いろいろネガティブな噂が囁かれたメカではありましたが、結論から書くと・・・「クセ」があるのは確かでしたが間違いなくマニュアル車の乗り味であり、これを知らないのは勿体ない!と思えるめちゃめちゃ面白いクルマに仕上がっていました。

MR-S中期型・SMT仕様


今回お借りした「MR-S」はフェイスリフトが行われた中期型がベースになります。【V Edition】という「上質さ」をコンセプトにしたグレードで、特徴的な「ダークグリーンマイカ(専用色)」に明るいタンレザー内装がコーディネートされています。

お察しの通りダークグリーンは英国のナショナルカラー。つまりブリティッシュ・ライトウエイトスポーツをリスペクトしたモデルであり、ロードスターであれば【Vスペシャル/VS系】グレード、近年では「コペン」シリーズでも採用されている、定番の「カッコいい」コーディネートです。

特に「MR-S」の緑(ダークグリーンマイカ)はNBロードスターの「グレースグリーンマイカ」よりも華やかな色味になっており、晴れ間の下ではボディの艶やかさがギラっと際立っていました。緑が似合うクルマって良いですよね・・・


なお、前期型から中期型になってエクステリア(見た目)以外の大きな差は、トランスミッションが6速化されていること、リア周りのフレームが補強されていること、そして後輪がミッドシップ車らしくインチアップされているところです。また、SMT仕様はノーマルと比較して車重が+10kg(990㎏)になっています。

TOYOTA MR-S(ZZW30) V EDITION・SMT 2002
車格: オープン・カブリオレ・コンバーチブル 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3885×1695×1235mm 重量: 990kg
ホイールベース: 2450mm トランスミッション: 6SMT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク タイヤ: F:185/55R15 R:215/45R16
エンジン型式: 1ZZ-FE 種類: 水冷直列4気筒DOHC
出力: 140ps(103kW)/6400rpm 燃費(10・15モード) 14.2km
トルク: 17.4kg・m(170.6N・m)/4400rpm 燃料 無鉛レギュラーガソリン

シーケンシャル・トランスミッションとは?


シーケンシャルとは「連続的な」という意味。つまりシーケンシャルトランスミッションは1速、2速、3速・・・または逆順に「順を追って」ギアを選択する機構を指しています。

つまり、シフトレバーの位置で任意のギアを選択することができるHパターンと異なり、4速から2速など特定のギアに直接入れる「ギア飛ばし」はできません。ただし、大きなメリットとして「誤ったギア」を選択することが起こりにくいことはタイムロスやオーバーレブ防止に繋がり、直感的に操作ができることから、レースカーなどの競技用車両に採用されました。ちなみに本番レースでの初使用は1989年のフェラーリF189(640)だそうです。


現在ではレースカーにおいて当たり前となったシーケンシャルトランスミッションはドグクラッチ式(ドグミッション)という機械式のもので、シンクロメッシュ機構(回転数が異なるギアと軸の回転速度を同期させる機構)を持たず、直接ギアの歯を繋げる仕様になっています。

確実に動力伝達ができる反面、ギアチェンジの音が大きくなることや変速ショックも大きいことから、機械式のシーケンシャルトランスミッションが市販車で採用されることはほぼありません。


ただし、チューニングパーツとしてOS技研やイケヤフォーミュラから販売されており、スカイラインやシルビアなどに搭載することが可能です。名作「湾岸ミッドナイトC1ランナー」でもRX-7に搭載するエピソードがありましたね。

なお、90年代中盤からはF1に採用され有名になったことから、アーケードシーンでのビデオゲームにも搭載されるようになり、ドライバーよりもゲーセン通いキッズの方が身近に操作して慣れていたかもしれませんね。

トヨタのシーケンシャル・マニュアル・トランスミッション(SMT)


一方、市販車における自動クラッチ(クラッチペダルレス)マニュアル車の歴史は深く、その起源は1940年代にまで遡ります。ただ、スポーツシーンにおいてシーケンシャル方式が採用されたのは1997年のアルファロメオ「セレスピード」や、BMW「Mボックス(SMG)」あたりから始まっています。

一方、トヨタのSMT(Sequential Manual Transmission:シーケンシャル・マニュアル・トランスミッション)は「MR-S」のコンセプトカーから搭載が示唆されていました。実際には販売開始から約1年経った2000年8月にカタログ入りをしています。

このメカはトヨタとLuK社で共同開発したもので、油圧制御機構やトランスミッションコントロールコンピュータなどにより、クラッチペダルレスの変速操作を実現しています。


操作はチェンジレバーを+(プラス:シフトアップ)、-(マイナス:シフトダウン)に入れるだけのシンプルなもので、シフトポジションに応じたエンジン回転数をシステムが的確にコントロールします。なお、ステアリングにも+/-ボタンが搭載されているので、ハンドリングに集中したシフト操作も可能になっています。

面白いのはAT限定免許でも運転が可能なことで、結果的に「MR-S」の間口を広げる一端を担うことに繋がりました。なお、あくまでマニュアル車なのでクリープ現象はありません。坂道ではブレーキを踏まないとバックするので注意!

SMTの乗り味は?


今回のドライビングコースは、地元近辺の勝手知ったる田舎道。エンジンをかけてアクセルをゆっくり踏むと・・・当然するっとクルマは動き出します。駐車場から公道に入りシフトを「+」に入れていくと、なるほど!マニュアルシフトそのものでギアが上がります。


嬉しい誤算は、電子機構のシフトレバーではありますが左手で操作する剛性感が高かったこと。「MR-S」MT車のシフトにおける「ぐにゃり感」が皆無であり、気持ち良いシフトフィール(?)を得ることができました。ただ、意外だったのがギアを入れた際の「クリック感」がなかったこと。レースカーのようにガシャコンと操作するものではないようです。

なお、シフトアップの際はMT車でクラッチ操作をする際と同様に、アクセルを緩めて(離して)変速を行うことが推奨されています。

また、ステアリングでは左右に付いている「奥(裏)」のボタンでシフトアップ、「前(表)」のボタンでシフトダウンが可能でしたが、普段MT車に慣れている身としては、左手でギア操作を行った方が感覚的に操作を行うことができました。ちなみに、どのギアに入れているのかはメーター内のインフォメーションで確認することが可能ですが、ほぼ見なくてオッケーでした。


面白いのは徐行までのシフトダウン操作。もちろん「-」に入れて段階的に下げることも可能ですが、ある程度までスピードが下がると勝手にギアを落としてくれます。今回は後期型のクルマだったので、徐行では「2速」まで下がり停止すると「1速」になる仕様でした。(前期型では自動で「1速」まで落ちてくれるそうです)

通常のMT車ではギアを入れたまま止まるとエンストするので最初はおっかなビックリでしたが・・・慣れればAT感覚で停止することが可能になりました。

1800ccエンジンに軽い車体ということで、街乗りではトルクで走れる2,000~3,000回転(~80kmまでの法定速度)の領域であればアップでもダウンでもシフトショックは起こらず、スムーズに走ることができました。個人的な感想は「6速」まで入れるシーンはほぼ無く「5速でいいのでは?」と思ったくらいです。

スピードレンジを上げてみると、最高ではないか!


SMTのレビューでよく見聞きするのは「シフトダウンは得意だけどシフトアップは微妙」といったもの。果たしてそうなのか、スポーツドライビングのためにくねくね道でグッとアクセルを踏み込んでいきます。当然AT車ではないのでキックダウンは起こらずタコメーターの針はグン!っと伸びていくので、シフトを上げると・・・

本当に、僅か0.2〜0.3秒ほどのディレイ後にギアが上がっていくのが分かります。【SMTさん】が一生懸命仕事をしているのがわかるのです!正直、コンマ単位で秒を削るサーキットユースであればこの差は大きいので「普通のMT車の方がいい」となるでしょう。


ただし、これはレブ近辺まで(6400回転)引っ張った際に起こる現象であり、100%の全開域を求めるサーキットではなく、5〜6割の「安全マージン」を残す必要がある公道でディレイを感じる領域を使うのは余程の事と思えました。逆に、自動クラッチの予備動作があることを分かっていれば、イメージしていたほどの違和感を得ることはありませんでした。

つまり、日常から信号ダッシュを競っていたり、連日峠アタックをするのではなく、気分で「元気に走りたい」「たまに山に行きたい」位の使い方であれば、愛車の【SMTさん】が頑張って仕事をしてくれるので、相棒感が醸成されるとすら思えました。

ちなみにSMTはノーマル比較+10kgの重量増となっていますが、車体の中央にユニットが集中しているからか「重さ」を感じることはできませんでした。電動化されているスロットルも基本はアクセルワイヤーで物理的に繋がっているので、AT車と違いMT車らしくペダルにリニアな反応をみせてくれました。

また、好評なシフトダウンは「ギア飛ばし」ができない分丁寧に落とす必要がありますが、通常の「MR-S」では弱めだったエンジンブレーキが効いてくれるので、私的にはSMTの方が走りやすいとさえ思えました。


むしろ公道のスポーツドライビング領域では1zzエンジンのトルクが一番おいしい4,400回転辺りの取り回しがかなり優秀で、2速~3速(+4速)域でのコントロールは水を得た魚のよう。ハンドリングは普通の「MR-S」の例に漏れずアクセルで曲げるクルマであることが健在で、特に今回のクルマはHKSマフラーのおかげで「盛り上がる」タイミングを耳で感じることができ、感覚でシフト操作を行うことができました。

また、前後にTRDスタビライザーを入れていたことからステアリングも適度に重く、足周りもSRスペシャル(カヤバ)にTRDバネを合わせているそうで・・・程よくロールしながら踏ん張るスタイルは私のNBロードスター(NR-A相当)に挙動が近しく、掛値なしにこの「MR-S」はヤバい(好みだ!)と感じました。

SMT仕様、限界域のレビューばかりが有名なのが勿体ない・・・このクルマ、間違いなく楽しい!

SMTのデメリット


MR-Sのデビューに間に合わず、やっと1年後にカタログ入りしたSMTですが、トヨタとはいえども初採用の技術ということもあり、オーナー氏によれば「丁寧な取り扱い」でクセを意識しないとトラブルに繋がる可能性は高いそうです。


一番やってはいけないのが低速での「半クラッチ」相当の動作。信号待ち等ではクリープ現象がないので上り坂で下がってしまうのは先に書いた通りですが、ブレーキで停止せずアクセルを煽って位置調整をすると寿命が早まるとのことです。

また、SMT関連のユニットはエンジンルームにあるのでどうしても熱を受けやすく、バッテリーを起点にした電圧低下トラブルや、アクチュエーターなどの機器故障が起こりうるので、可能な範囲でのステータス確認が必要だそうです。これに限らずミッドシップな「MR-S」には熱対策の予防整備が有効であることは間違いなさそうです。

既に対応済みな個体が多いと思われますが、2009年9月にはSMT仕様にリコールも起こっています。

1.不具合の状況
トランスミッション内部の変速用シャフト表面の熱処理が不十分なため、シフト操作を繰り返すと当該シャフトに亀裂が発生し、折損することがあります。そのため、トランスミッション警告灯が点灯して、変速不能となり、停車と同時にエンジンが停止し走行不能となるおそれがあります。

2.改善の内容
全車両、当該変速用シャフトを良品に交換します。

実際、修理をしようにも「MR-S」自体が生産終了から15年以上経っていることから補修パーツそのものが出てこないこともあり、出てきたとしても覚悟が必要なコストになってしまうのが最大のデメリットになってしまうそうです。

ただし「MR-S」のコミュニティによる情報交換は盛んであり「有志の知見による解決」や、極論は「MTへの換装」も可能なので、愛車の延命やレストアは結局のところ覚悟の問題とのこと。これはどんなクルマも同じですね。

ロマンメカ、その先には


その後、トヨタにおけるシングルクラッチ・自動トランスミッションは「MMT(Multi Mode Transmission)」アイシン精機およびアイシン・エーアイと共同開発し、2002年以降の「ヤリス」をはじめ「カローラ」「マークX」「オーリス」などに搭載、熟成していきました。また「レクサスLFA」にはASG(Automated Sequential Grearbox)が採用されています。

一方で、増大しすぎたパワーを受け止めるため(ドライバーの負担を減らすため)に2ペダルマニュアル車は、DCT(Dual Clutch Transmission)などの進化を遂げて、欧州スポーツモデルや国産車では「GT-R」や2代目「NSX」などに採用されています。また、オートマチックトランスミッションは多段化などの超絶進化を遂げ、現行「スープラ(A90系)」や「GRヤリス」などに採用されるに至っています。

そして、この先はドライバーの負担を減らす技術は着実に進み、電動化においてはMT自体が必要なくなる時代を迎えるともいわれています。MT機構やエンジンサウンドのエミュレーションが実用化手前ともいわれていますが、それはまた別の話ですね・・・


したがって、一見「SMT」自体は一代限りの技術に見えてしまうかもしれません。ただ、逆にプレミアム性でいうと「MR-S」のSMT仕様は「トヨタのライトウェイトスポーツ」「ミッドシップレイアウト」「唯一無二のロマンメカ」という3拍子が揃っています。なおかつスポーツカー最大の売りである「走りがいい!」という条件も満たしていました。

今回、試乗する前に様々な事前情報を頭に叩き込んでから挑んだのですが、やはりクルマは乗ってみないと分からないものでした。

少なくともSMT仕様の「MR-S」の走りは最高でした。今の時代に生き残っている個体は少ないし、なかなか機会はないかも知れませんが・・・トヨタが本気になって、スポーツカーの敷居を下げるために出したロマンメカ、チャンスがあれば一度ステアリングを握って欲しいです。


最後に、貴重な機会を頂いた「clay@MR-S」さんには改めてお礼を申し上げます。オーナーとクルマは似るとはいいますが、愛車をとても大事にされていたことが印象深かったです!

関連情報→

トヨタ MR-S最終型(ZZW30)試乗記

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