ロードスター乗りの視点でイングラムを作る(ARTPLA)

ロードスター乗りの視点でイングラムを作る(ARTPLA)

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模型メーカー海洋堂が2024年5月にSNS募集をかけていた「ARTPLAモニターキャンペーン」にて、なんと当選しました!私自身は大したことのない週末モデラーですが、今回のお題はパトレイバーということで楽しく製作させていただきました。そこで、ロードスター乗りの視点で模型製作を行っていこうと思います。

メディアミックス作品 パトレイバー


MODEROID 1/60 ブルドッグ
発表から35周年を超えた「機動警察パトレイバー(1988年作品)」は、OVA、コミックス、小説、映画、ビデオゲーム、模型、トイなど多岐に展開するメディアミックス作品です。原作はそうそうたるメンバーが集うクリエイター集団のヘッドギア、舞台は作品発表当時に近未来だった1998年の東京から始まります。

物語の背景として重要なのは、1995年に首都直下型地震が発生した設定があります。そこから災害復興のため、東京湾を埋め立てながら首都圏を再開発する公共事業「バビロンプロジェクト」が施工され、瓦礫だらけで足場の悪い環境でも建築・土木作業等ができる汎用多足歩行型作業機械「レイバー(Labor)」が普及したのです。


PLAMAX MF71 イングラム&クラブマンハイレッグ
一方、バビロンプロジェクトは大規模な環境破壊をもたらすリスクがあることから、市民団体や漁業関係者などの反対運動が起こりました。一部の過激派が「環境テロ」と銘打つ破壊活動をおこない、それに伴う「レイバー犯罪」が発生するに至ったのです。

そこで警視庁は、警備部内に専門部署「特科車両二課中隊(通称:特車二課)」を設けます。そこに所属するお巡りさんのロボットがパトロールレイバー、つまり作品タイトルになっている「(通称)パトレイバー」です。


MODEROID 1/60 イングラム/ヘルダイバー/零式
細かいウンチクはさておき、作中の特徴的な描写としてはショベルカーやブルドーザーなどの建機に代わって「レイバー」が日常的に運用される社会があります。

見慣れた街の風景に巨大ロボが歩き回る、そんなロマンあふれるシチュエーションに仕上がっているのです。また、作品自体も決してメカが中心ではなく、人間味あふれるキャラクターの群像劇やドラマチックなストーリー展開が好評でした。もちろん作品は大ヒットし、多くのファンやフォロワーを生みだしていきました。

1998年式 パトロールレイバー「イングラム」


PLAMAX MF75 1/20 機首コレクション 泉野明 with アルフォンス
現在は設定(1998年)より未来になってしまいましたが、作品発表時の日本は好景気だったことから、少しだけ今の世界線とは異なる描写があります。例を挙げると、バブル景気が弾けていなかったり、ベルリンの壁が残っていたり、超電導を用いたバッテリー&モーター動力のノウハウが一般化しているなどです。

ロードスター視点ではユーノスディーラーが健在であり、登場人物がユーノス製のスポーツセダン(ユーノスFX)に乗っている描写もあったりします。

参考→https://mx-5nb.com/2019/11/08/eunos-fx/


なお、主人公機となるパトレイバーは篠原重工98式AV「イングラム」という機種名で、98式という型式の通り1998年製になります。つまり、2代目NBロードスターと同じ世代のメカなのです。作中ではユーノスが健在であることから、劇中では2代目「ユーノス・ロードスター(NB)」が存在しているのかも知れません。バブルの煽りを受けてフルモデルチェンジの際にビッグサイズ・モアパワーになっていたら笑えますが、それはまた別の話ですね。

98式AV  イングラム
メーカー 篠原重工(八王子工場)
全高 8.02m
全幅 4.37m
重量(空虚) 6.00t
重量(全備) 6.62t
最大起重 2.40t
最小旋回半径 3.90m
外装 CFRP(炭素繊維強化プラスチック)
FRM(アルミニウム、スチール)
駆動系 SCLM(超電導モーター)
動力 SCB(超電導バッテリー)


イングラムは篠原重工が警察任務用に開発したパトロールレイバー。その外観は極めて人間に近く、デザインも「見る者に与える心理的影響までも考慮して設計(=分かりやすくカッコよく)」されています。

警視庁の導入コストは56億7000万円、腕一本が5億円とされる研究開発コストからすれば破格ですが、これは第二小隊の稼働データ提供を受けることを念頭にした価格設定だそうです。事実、ストーリーが進むとイングラムの能力をフィードバックした後継機種(99式、0式、AV2等)が劇中に登場することになります。

2002年のイングラムを想像する


メディアミックスシリーズであるパトレイバーは、発表媒体によって微妙に設定の差異があります。つまりパラレルワールド、今でいうマルチバースですね。どれが一番面白いか・・・なんて評価は人によって違いますが、一応シリーズ完結編(※)とうたわれた「機動警察パトレイバー2 the Movie(1993年作品)」は、骨太なドラマ展開で人気を博しました。
※The Next Generation パトレイバー(2014年作品)という続編が存在します


ストーリー冒頭の2002年冬、横浜ベイブリッジで謎の爆破事件が起こります。当初は犯行予告されていた自動車爆弾と思われましたが、マスコミでは自衛隊の支援戦闘機「F-16J(※)」から放たれたミサイルによるものとスクープ報道されてしまいます。そこから「現在の東京で戦争が起きたら」というドラマが始まります。


コトブキヤ 1/72 ハンニバル 陸自仕様
劇中では、静かな映像ながら日常がじわじわと非日常になっていく様子がリアルに描写され、得体のしれない不安が募るなかで、昼行燈と思われていたカミソリ後藤が突破口を模索していく・・・そんなストーリーです。

近年、現実世界でもパンデミックによる「不要不急の外出要請(2020年)」で東京から人が消えましたが、その時は「パトレイバー2」の不安な描写を思い出したものです・・・
※当時、航空自衛隊に採用される予定のF2支援戦闘機の名称は決まっていませんでした(FS-X)

閑話休題、話は近年の模型シーンに飛びます。先のパンデミック以降は模型やゲームなどの趣味性の高いインドアコンテンツが大きく見直され、特に当時キッズだった子供がオッサンになってお金も時間もあったことから、昭和作品の再ブームが訪れました。30年~40年前の懐かしい作品であっても模型(プラモデル)の立体化が相次ぎ、「パトレイバー」に登場したメカも例に漏れず多数発売されました。

そんななか、パトレイバー2に登場したバージョンのイングラムが、模型メーカーの雄、海洋堂より【ARTPLA SCULPTURE WORKS】シリーズとして満を持してリリースされたのです。

ARTPLA SCULPTURE WORKS イングラムリアクティブアーマー1号機

機動警察パトレイバー2 the Movieより、リアクティブアーマーを装備したイングラム1号機がARTPLAにラインナップ!イラストレーター出渕裕 氏デザインによるイングラムが、もっとも力強く美しく見えるポージングとプロポーションを追求した、ポーズ固定のプラスチックモデルキットです。

質感まで伝わってくる有機的な形状のリアクティブアーマー部分や、流れるような面で構成される頭部や首回りなど見所満載。パーツ表面の形状は繊細ながらも、肉厚な成型で頑丈に組み立てることができます。(海洋堂ホームページ説明文より引用)
https://kaiyodo.co.jp/items/plasticmodel/ap027/


ちなみに、リアクティブアーマー(爆発反応装甲)とは、金属製の箱に「薄いシート状の爆薬」を設置するもので、敵攻撃の被弾時にあえて起爆させ(表面の金属板を吹き飛ばして)本体装甲の貫徹を妨ぐシールドです。主に戦車などの装甲戦闘車両(AFV)に用いられるものですが、パトレイバー2の劇中では最終決戦時、既に退役して実験機扱いになっていたイングラムに「着せて」活躍するシーンがありました。


なお、イングラムの外装自体はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やFRM(アルミニウム、スチール)であり、それ自体は現在のクルマとほぼ同じです。そんな世界のロボはどんな感じだったのか・・・なんて想像すると、メカ好きの身としてはいろいろ想像が捗ります。そこで、ロードスター乗りの視点でARTPLAイングラムを仕上げていきたいと思います。

ARTPLAイングラムの仮組

 
本キットはミリタリーモデルの統一スケール(1/35)が採用されています。ポーズ固定キットなのでさっくり組み上がるかと思いきや・・・パッケージにはぎっしりとランナーが!

ニッパーでパーツを切り離す前に確認して欲しいのが、海洋堂はガレージキット(少量生産かつ作家性が高い模型)のパイオニアだったこともあり、ランナー配置時点でも分かる造形美と、明らかに感じるパーツの重さです。作る前からいつものプラモと少し違う感じがするんです。


プラ成型(インジェクションキット)とはいえ想像よりも肉厚なパーツは、デジタル技術の向上により、ガレージキット並のハイクオリティなディティールが盛られ、刻まれていることに驚きます。どの部分になるのか予想できないパーツも多く、組む過程でその回答を得られるのが面白いところです。なお、原型は新進気鋭の造形作家、吉良かずやさん。


なお、最近の模型は原型師(アーティスト名)を公開することが多いので、作家さんで指名買いするのもオススメです。ちなみにこちらは以前組んだ、イングラムと同じ吉良かずやさん原型の「ARTPLAエヴァンゲリオン2号機獣化第2形態ザ・ビースト“ジオフロント血戦”」です。


また、キットは塗装前提の単色成型ではありますが、グレーの成型色そのままでもサフを吹いたような色味に近しく、パチ組みであっても造形美が楽しめます。もちろん最新キットなので、パーツ単位で組むことができる親切設計でもあり、ブロックごとに時間をかけて作り込むことも可能です。


仮組み段階でもパーツがピタっと定まるし、プラ材質の特徴なのか流し込み接着剤だけでもガッチリくっつきます(逆に、時間が経つと離せなくなるので注意)。ブロックごとである程度形にしたら、成型の都合で出来たパーティングライン(分割線)や、ゲート跡(ランナーに繋がっていた部分)を、エッジ(角)を落とさないように気を付けながらヤスリで撫でれば下地処理は完了です。


面白いのは、ART(造形)を楽しむキットということで、ウインカーやバイザーはクリアパーツだけでなく、あえてプラパーツも用意されています。また、基本的にはそのまま組んでOKですが、塗り分けのために「後ハメ」加工の余地や、消しづらいパーティングラインが少し残されており、モデラーの腕を試してくるところもニクい仕様です。

下地処理


今回のイングラムはパトロールレイバー・・・つまりお巡りさんのロボットです。そんなレイバー自体が建機やクルマからインスパイアを受けていることもあり、イングラムはパトカー塗装の質感を参考にしました。また、今回のキットは「1号機」であり、今後「2号機」「3号機」が発売予定であることから、再現性のある塗装を心掛けています。

また、作中のイングラムは現場から退いてる設定もあるので、そのような背景も加味していきます。


そうはいっても大したことではなく表面処理の均一化も兼ねて、白いパーツ、黒いパーツは同色のサフェーサーのままで仕上げています。さらにイングラムに「着せる」リアクティブアーマーはダークグリーン、関節はロボの骨格に布材をかぶせてある設定なのでミディアムブルーで統一しています。


ブロックごとに塗り分けたのち、面相筆でリアクティブアーマーのベルト部分や首周りのメカなど、細かい部分の筆塗りを行いました。模型的な「映え」を計るなら、首周りのシリンダー(受け)部分に金色や赤などの差し色を行いたいところですが・・・設定ではそこへ搭乗者(フォワード)が頭を出して操縦するようにもできています。そこで視界に目立つ色が入ると邪魔であるはず・・・そんなところから、なるべくメカ部分はモノトーンで統一しました。


その後、ブロックの仮組を行いながら、次の工程のために一旦セミグロス(半艶)トップコートにて塗面を統一しました。折角なのでもうひと手間かけていくことにします。

ウェザリング(汚し塗装)


ウェザリングとは模型における塗装技法のひとつで、いわゆる「汚し」を中心に、経年劣化や風化を表現する手法です。今回のイングラムは1998年のメカであり、我が家には図らずともその時代のクルマがあるので、その辺りを参考に塗装処理を行っていきます。


まずは白と黒の外装パーツですが、設定上はFRP/スチール/アルミといった、クルマのボディと同じ素材が採用されています。そこで「とりあえず水洗いを行って水垢が少し残っている状態」を再現してみました。適度にウェザリングカラー(リキッド)の黒でフィルターをかけて、セミグロスのトップコートで適度なツヤ感をだしておきました。余談ですが、私はコミック派なので胸元の「Alphonse」デカールはオミットしました。やっぱり「イングラム」なんですよね・・・


布材でシーリングが施されている関節部分は、そのままロードスターやトラックなどの幌やデニム地をイメージしました。


こういった布材は意外と折れ目が目立つので、少し派手目なドライブラシをかけてエッジを際立たせています。機体番号のデカールを張り付けたのち、全体には艶消しでトップコートをかけて、外装パーツとの質感の違いを出してみました。

 
リアクティブアーマーは表現に迷いました。ドライブラシをかけたのですがイメージに合わず、結局はウェザリングマスターでエッジを際立たせることに留めました。一応人型が着るジャケットなので、布っぽくするために全体は艶消しで、留め具などのパーツは艶が残るように調整をかけました。


なお、クリアパーツ類にはあえて汚しを入れていません。クルマもウインカーやテールランプは適当に放置していても奇麗ですからね・・・ただし、適度な揺らぎを入れたかったので筆塗りで仕上げています。あとは組み立てれば完成ですが、折角なのでさらに手間を加えていきます。

名脇役をつくる ARTPLA「飼育員」シリーズ


パトレイバーの名脇役といえば、レイバーを最良のコンディションで維持し続ける体育会系の組織、第二小隊整備班の存在があります。そっくりそのまま・・・とはいきませんが、海洋堂ARTPLAブランドでは同スケール(1/35)の動物園を再現した飼育員シリーズが存在します。


そこで、キットを彼らに見立てて整備班のシンボルとなる「白い作業着」として塗装をしました。全般的に艶消しで仕上げていますが、散水用のホースなど一部はグロスコートをかけています。なお、飼育員の原型は村井太郎さんです。1/35スケールであっても人物の表情が豊かで驚かされます。


また、今回用意した「飼育員とシロサイセット」にはハイディティールなターレットトラック(荷物運びクルマ)が付属しているので、適度に汚しを入れながら組んでみました。ちなみにトラックの原型は谷明さんです!

 
また、トラックに荷物が乗っていないのが寂しいので、パワーポイントでパーツ伝票っぽいものを作って、紙封筒で作った段ボール(っぽい箱)に貼り付けてみました。箱のなかには磁石を仕込んだので、トラックにはパチンとくっついて載せることができます。伝票のコードはNBロードスターのパーツを描きこんでいます・・・


欲しいパーツだけ作るのは模型に失礼なので、飼育員セットのメインとなる動物たちも仕上げていきます。アクリルガッシュで筆塗りを行い、ドライブラシ等で質感を高めていきました。動物たちは松村しのぶさん造形だけあって、恐ろしく出来がいい・・・

ARTPLA 1/35 イングラムリアクティブアーマー1号機 with 飼育員


そんなわけで完成後、撮影用ブースを持っていない私がいつも向かうのは近所のホームセンター屋上駐車場。太陽光の元であればどんな仕上げであっても模型がカッコよく見える法則が発動するからです。


今回の主役、イングラムのアップ。ここまで寄っても破綻しない造形美と、バイザーの後ろに単眼カメラが造形されていること、分かりますでしょうか!?


動物たちもいい感じにできました。ここまでアップでも大丈夫なようです。大きさはホント、手のひらサイズなんです。


そのうえで、全高約8mのレイバーは、人間の約5~6倍のかなり大きなメカであることが分かります。整備班たちが足元にいるこの感じ、これがやりたかったんです!


ちなみに動物&飼育員の皆様はこんな感じに仕上がりました。


リアビューから見ると分かりやすいのが、リアクティブアーマーの下に素体があること。排気口周りは塞がれていない芸コマぶりは、デザイナーのセンスが光りますね。


ちなみにリボルバーカノン(銃)は筆塗りで金属ぽい質感をイメージしています。グリップ部分を木製(塗装)にするか迷ったのですが、警察がそこまで趣味的な対応はしないと踏まえ、あえて単色です。また、ハンドパーツはラバー塗装指定だったのでゴムが擦れたような表現を行っています。


そんなわけで、ロードスターと同じ98年製(という設定の)ロボット、イングラムのご紹介でした。2024年7月時点でキットはまだ店頭に並んでいるので、腕に自信がある方は手に入れることをお勧めします。


無塗装で組んでも超カッコいいし、塗り分けの敷居も高くないので頑張れば何とかなる、ARTPLAはそんな好キットです。また、イングラムは私と同じ世代の方であればぶっ刺さること請け合いですよね・・・!

最後に、このようなモニター製作の機会を頂いた海洋堂さんには、この場を借りて御礼申し上げます。モニターキャンペーンでは他に凄腕モデラーの皆様が同じキットでも各々の解釈でイングラムを仕上げていて「こんな表現もあるんだ!」と大きな刺激を受け、凄い経験をさせてもらい感謝しています。


また、本キャンペーンの作例は2024年7月23日よりヨドバシカメラAkiba(秋葉原)にてしばらく展示されています。近場の方は足を運んでいただければ嬉しいです!(後日ヨドバシ梅田でも展示されるそう!)

なお、パトレイバーシリーズは「パトレイバーEZY」としてリメイク(続編?)が近年公開予定とされています。ファンの皆さん、準備はできていますか!?

関連情報→

NBロードスターのデフォルメカー作成(ネコワークス)

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