NBロードスターの酷暑対策

NBロードスターの酷暑対策

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年々暑さが厳しくなっている日本列島。酷暑の日にはムンバイ(インド)やドバイ(アラブ首長国連邦)よりも気温が高くなるそうで・・・

そうなると心配になるのが、真夏日における愛車のコンディションです。ボンネットの下にあるエンジンは、常に「燃焼」という爆発現象を繰り返しているので熱くなるのも当然で、いくら現代のクルマがコンピュータで緻密に制御されているとはいえ、過酷な状況下で雑に扱えばオーバーヒートのリスクは常に付きまといます。

正直、一番の対策は「暑い日に乗らないこと」かもしれません。しかし、我々クルマ好きにとって、たとえ灼熱の太陽が照りつけようとも、どうしても走りたくなる日はあるはず。そうはいっても、冷却効率向上に効果が高いとされるボンネットダクトの装着は、美観や費用の面で敷居が高いのも事実。ちなみに、ロードスターにおいてボンネットの後端を浮かせる手法は、走行中にフロントガラスの根元で空気が滞留する(正圧がかかる)ため、残念ながら排熱効果は期待できません(むしろ、そこは外気導入を行うための重要な場所なのです)。

そこで今回は、酷暑の中でも安心して走るためのトピックを、いくつかご紹介します。話の軸はNBロードスターにありますが、他の世代のロードスターにも応用できる内容ですので、置き換えてとらえていただければ幸いです。

クルマからの声を把握する


クルマへかかる負担を定量的に知る手段として、メーターに配置されている「水温計」は有効な指標になります。しかし、純正状態の水温計が示す指針の動きは、ドライバーに過度な不安を与えないよう、意図的にリニア(忠実)に動くことはほぼありません。むしろ、いつもは盤石に定位置を指していたはずの針がH(ヒート)側へ動き出した時には、「かなりやばい状態」と認識しましょう。

代替手段として後付けメーター(機械式やOBD接続(※)タイプ)を装着するのも良い選択ですが、NBロードスターであれば純正水温計の動きをリニア化する方法があります。リアルタイムで動く水温計は、慣れないうちは精神衛生上よろしくないかもしれませんが、コストをあまりかけずに愛車のコンディションを正確に把握できる、非常に効果が高いモディファイといえるでしょう。

ちなみに、オーバーヒートという致命的なトラブルでは、それを起こしてしまったドライバーの大半が「水温計を見ていなかった」事例が圧倒的に多いそうです。

※OBD接続はNB3以降で可能ですが、現行ND3(ND2)では外部電子機器接続でエラーが発生するリスクが報告されています。機器のマッチングは要確認です。

参考→https://mx-5nb.com/2019/11/20/water-info/

また、計器類だけでなく、人間の五感もトラブルを未然に防ぐセンサーとして意外にアテになります。例えば、車内や車外で「甘い匂い」がしたら、クーラント(冷却水)が漏れているなサインです。「焦げた匂い」は何かが溶けたり焼けていたりする異常事態を示唆しています。「明らかな異音」「ボンネットからの白煙」は、誰がどう見ても正常ではないことが分かりますよね。そして、エアコンがいつもより効かないと感じるのも、単に気温のせいだけではないかもしれません。

重要なポイントになるのは、日常との「違和感」に気づくことです。人間の感覚は意外と鋭いものですから、「何かおかしい」と感じたら、楽観せずすぐに対処していきましょう。ちなみに、マツダのオーナーズマニュアルにおいてオーバーヒートの際は、下記のような対策が記されています。

次のようなときはオーバーヒートです

水温系の針がH付近を示し(※近年のクルマはエンジンチェックランプ、または高水温警告灯 (赤) が点灯する)、エンジンの出力が急に低下したとき。またはエンジンルームから蒸気が出ているとき。


【対策】
1)安全な場所に車を止めます。

2)エンジンルームから蒸気が出ていないかどうかを確認します。

・エンジンルームから蒸気が出ているときはエンジンを止めてください。蒸気が出なくなるまで待ち、風通しをよくするためにボンネットを開け、エンジンを始動してください。

・エンジンルームから蒸気が出ていないときはエンジンをかけたままボンネットを開け、エンジンを冷やします。(※クーリングファンが作動していることを確認し、高水温警告灯 (赤) が消灯したらエンジンを止めます。)

3)エンジンが十分に冷えてから、冷却水の量を点検します。冷却水量が不足しているときは①ラジエーター、②リザーバータンクの順に冷却水を補充してください(冷却水がない場合は一時的に水を補充してください)。補充後はキャップを確実に取り付けてください。

4)早めに最寄りのマツダ販売店で点検を受けてください。

【警告】
エンジンルームから蒸気が出ているときは、ボンネットを開けない。エンジンルーム内が熱いとき、ボンネットを開けると、蒸気や熱湯が噴き出してやけどなど、重大な傷害につながるおそれがあります。また、蒸気が出てない場合でも高温になっている部分があります。ボンネットを開けるときは十分に注意してください。

エンジンが十分に冷えるまではラジエーターとリザーバータンクのキャップを開けない。エンジンが熱いときにキャップをはずすと、蒸気や熱湯が噴き出してやけどなど、重大な傷害につながるおそれがあります。

エンジンルーム内を点検するときは、ファンやベルトなどの回転部に触れない。特に、エンジンルームが高温のときは、エンジンが止まっていてもファンが回転することがあるため、手や衣服などが巻き込まれるなど、重大な傷害につながるおそれがあります。

基本に忠実、ラジエーターまわりの予防整備


クルマの性能を安定させるには、エンジンが発する熱をいかに効率よく処理するかが鍵となります。「燃焼」や「金属の摩擦」が絶えず起きているエンジンでは、オーバーヒートに陥ると潤滑の要であるエンジンオイルがその性能を失い、最悪の場合、ピストンやシリンダーなどのパーツが焼き付いてしまいます。

そのための冷却装置がラジエーターであり、ラジエーターを大型で高効率な社外品へ交換する考え方もあります。ただ、その前にできる対策として、定期的なメンテナンスを行うことで得られる安心感は大きいと思います。そこで、基本に立ち返った水回りの予防整備をご紹介します。


1)冷却水量の日常点検
エンジンが完全に冷えている状態で、リザーバータンク内のクーラント(冷却水)が規定量(UPPERとLOWERの間)にあるかチェックしましょう。減っている場合は補充が必要ですが、極端に減りが早い場合はどこかで漏れている可能性を疑うべきです。ちなみに、規定量を超えると、走行中にクーラント温度が上昇して膨張、リザーバータンクやラジエーターキャップから水が吹き出します。「多ければ良い」というものではありません。

ちなみにクーラント液は消耗品です。長寿命を謳う純正LLC(ロングライフクーラント)であっても「2年ごとの交換」が推奨されています。車検時のリフレッシュ提案は、商売目的ではなく、クルマの健康を維持するための理にかなったメンテナンスタイミングでもあるのです。

2)ラジエーターキャップの交換
ラジエーターキャップには寿命があり、一般的には5~7年が交換の目安とされています。クーラントタンクの水量は適正なのに水温が安定しない(高めで推移する)となると、「ウォーターポンプ」や「サーモスタット」といった大物が疑わしくなりますが、そもそもキャップ自体の劣化という線も考えられます。もし長年放置されているようであれば、交換を推奨します。(※ボタン式の社外品は経年劣化が早く、1年ごとの交換が推奨されています)

なお、長年キャップを交換していなかったクルマは、交換後に本来かかるべき圧力が急にシステム全体に掛かるようになります。それにより、今まで何とか持ち堪えていた箇所から冷却水漏れが発生するリスクもあるようです。そうした事態を避けるためにも、ラジエーターキャップの交換は定期的に行いましょう。


3)ラジエーター本体や各種ホースのチェック
停車中の下回りを見て、クーラント(冷却水)を“お漏らし”していないかもチェックする習慣をつけましょう。クーラント液は「赤」や「緑」など鮮やかな色が付けられているので、漏れていれば比較的発見しやすいはずです。地面に液だまりやシミがあった場合は、漏れている場所を特定しましょう。

液漏れの発生しやすい場所は「ラジエーター本体」「ラジエーターホース」「ウォーターポンプ」などが挙げられます。漏れ止め剤や専用の補修テープで応急処置をすることも可能ですが、あくまで一時的な対処と考え、その後は必ずプロに診てもらう方が安全です。また、ロードスターの純正ラジエーターは上部が樹脂製ですが、経年劣化すると分かりやすく艶が失われ、カサカサの緑色っぽく変色していきます。これもひとつの目安になれば幸いです。


なお、エンジンの水回りは高熱・高圧力がかるため、どうしても経年劣化が避けられない箇所になります。近年はエアコン冷気の効率化のため、水回りのラインを変更するノウハウもあるようですが、NA/NBロードスターに搭載されるB型エンジンは「なるべく水回りのラインを強固に、シンプルにしたい」という開発エンジニアの信念において設計されています。パイピングのアレンジは、思わぬトラブルを招く可能性があるので、注意されたほうが賢明と思われます。

参考→https://mx-5nb.com/2020/12/14/radiator-replacement/

ラジエーターに風を当てる工夫


ロードスターのラジエーターはフロントグリル、つまりクルマの「口」の中に配置されています。走行風を正面から取り込み、ラジエーターフィンを通過させることでクーラント液を冷やし、さらにエンジン本体を冷やす・・・このサイクル繰り返しているのです。つまり、グリルの開口部に入る風を遮らないことが、冷却の基本中の基本です。


ちなみに、米国ミアータ(NAロードスター)のテクニカルサービス(リコールの手前)では、純正オプションだったグリル内の「プロジェクターフォグランプ」は冷却効率を著しく下げるとして、AT車に限り「取り外し指示」が推奨されていました。しかし、あそこを塞いだら、MT車でも冷却に良い影響がないことは自明ですよね・・・


また、走行中であれば水温は比較的安定しますが、渋滞路でのストップアンドゴーやアイドリング状態、あるいは峠などエンジンに高い負荷がかかっていると、水温はみるみる上昇していきます。そういった時のために、ロードスターのラジエーターには二つの電動ファンが付いていて、規定温度に達すると自動で始動するようになっています。

しかし、純正状態では片側(運転席側)のファンは、エアコンを使用しないと回らない仕様になっています。逆説的に考えると、暑い日は我慢せず「エアコンを使う」方が(ファンが常に両方回っているので)結果的に水温は安定することになります。


もちろん、折角ふたつのファンを備えているのですから、任意のタイミングで両方を回すことが可能なリレーキットや、後付けのファンコントローラーなどもショップ販売されています。しかし、サーキット走行などの特殊な用途でなければ、素直に「エアコンを付けっぱなし」にする方が、コストパフォーマンスは高いかもしれません。

真夏のオープンカーは自殺行為


そもそも酷暑の環境で「エアコンが効かないこと」自体が、ドライバーの熱中症リスクを著しく高めます。クルマだけでなく、人間を守るという意味でもエアコンのメンテナンスは重要です。

エアコンガスは、単に「足す」よりも「入れ替える」方が、本来の性能を発揮しやすくなります。カー用品店や専門工場で定期メンテのメニューとして存在しますので、ぜひ検討してみてください。

ちなみに「ロードスターのエアコンは効かない」という話もありますが、少なくとも適切にメンテナンスされているNBロードスターのエアコンは、真夏でも十分に室内を冷やす能力があります。また、よほどのトラブルがなければ5年程度のスパンでガスが著しく抜けることは考えにくいため、エアコンが効かないと感じたら、ガス漏れ以外の原因(コンプレッサーやセンサー類など)も探った方が賢明でしょう。

参考→https://mx-5nb.com/2025/06/22/heatstroke/

エンスージアなひと工夫


冷却効果を高める意外なアイテムとしては、バンパー上部にある整風プレートの設置があります。

これはNA8から純正装着されるようになったパーツで、NAでは「バンパーシール」、NBでは「フロントバンパーリテーナー」という名称になります。後付けで「完全に穴を塞ぐ」美しい社外パーツ(クーリングプレート等)も発売されていますが、要はこの「隙間」を埋めてあげるだけで、ラジエーターを通過する風の量が増え、冷却効果が高まるのです。ちなみに私は、余っていたクリアファイルとスポンジテープにて隙間を塞いでいます。

このNBロードスターの穴は、本来はサービスホールかもしれませんが、実は寒冷地域のためのオーバークール対策だったのかもしれません。この穴は走行時にはさほど影響が少ないのですが、停車時にはエンジンルームの熱気が前に回り込み、熱い空気がラジエーターに再び当たってしまう状況を生み出しているようです。

なので、たかだか数センチの隙間を塞ぐだけでも、驚くほど水温が安定してくれます。冬期にエンジンの温まりが悪ければ元に戻そうと思っていましたが、私の場合は数年間塞いだ今でも特に悪影響はありません。


なお、純正状態のラジエーターは、フロントのコアサポート(ヘッドライト左右を繋げるフレーム)との隙間にスポンジテープが貼られています。経年劣化でボロボロになっている場合は、それを張り直すだけでも冷却効果の向上が期待できます。また、ラジエーターを交換した際に気づいたのですが、上部だけでなくラジエーター周囲の隙間という隙間にテープが貼られていましたので、余裕があれば、全体をフォローしてあげると効果的かもしれません。

また、意外に見落としがちですが、下回りを保護するアンダーカバーも重要です。(極端に破損する場所ではありませんが)バキバキに割れている状態だとエンジンルーム内の空気の流れが乱れ、冷却効果が下がります。もし割れていたら、きちんと補修、または交換してあげましょう。


最後に余談ですが、ロードスターの冷却に有効な手段として、かつてはナンバープレートのオフセット(グリル横への移設)が定番のモディファイでした。しかし、2021年10月の道路交通法改正で「ナンバープレートの取り付け位置」が厳格化されたことで話が変わりました。

新基準の対象は2021年10月以降に新規登録されたクルマ(つまり後期NDロードスターなど)であり、取り付け角度などの規定を守れば、それ以前のクルマは車検をクリアできるはずですが・・・実際はディーラーや検査場によってはNGと判断されるケースがあるようです。時代の変化を感じますね。


また、前述の通り、ボンネットのヒンジ部分を浮かせて排熱させる手段は、残念ながらロードスターの構造上、走行中の効果は期待できません。理論上、最も効率の良い「高さ」が存在するはずですが、そのモディファイが定番として定着していないことを鑑みると・・・それが答えなのかもしれません。

同じくエンジンの排熱効果を狙ってバルクヘッド手前(ワイパー下)の隔壁にあるゴムシールを外す手法も、ロードスターはエアコン用の外気をその箇所から取り込む設計上、クーラーの効きが悪くなるだけでなく、悪天候時にエンジンルームへ水が浸入するリスクを伴うため、あまりお勧めはできません。

やはり、中央にボンネットダクト(社外品)を設けるのが、走行中でも負圧がかかり排熱効果が高いため、最も理にかなった手法といえるでしょう。ただし忘れてはならないのが、ロードスターは一般的な鉄と比較して約3倍の熱伝導率を持つアルミニウム製ボンネットが採用されている点です。これは軽量化だけでなく、ボンネット全体がヒートシンクとして機能し、放熱するという点でも大きな恩恵をもたらしています。

その代わり、夏場はボンネットから陽炎が立ち上り、塗装の経年劣化を促進するというトレードオフもありますが・・・


NBロードスター後期型ならではのモディファイとしては、フォグランプの装着穴を利用してエアダクトを引き込む手法も存在します・・・が、これは排熱効果ではなく、エアクリーナーにフレッシュエア(密度の高い冷たい空気)を導入し、パワーを維持するための手法なので、今回は割愛します(NAロードスターのリトラクタブルヘッドライトを利用したダクトも、これと同じ目的です)。

以上、いつ何時もドライバーのために頑張っている愛車に対し、酷暑を乗り切るためのメンテナンスの一助となれば幸いです。

関連情報→

ロードスター、白煙を吹く(備忘録)

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