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クルマはじっくり乗ってみなければわからない。そんな持論からロードスターをお借りするシリーズです。今回はNA8ロードスターシリーズ2の限定車「VRリミテッド コンビネーションA(1996年式、以下VR-A)」をお借りしました。
このクルマは2024年に登場したNDロードスター「35周年記念車」のルーツとなるコーディネートが施された、特別な存在です。
しかもこのロードスター、基本的にフルノーマルかつ(パワーウインドウが左右均等に上下するくらい)メンテナンスも完璧であり、走行距離も50,000kmに至っていない凄い個体でした。ロードスターは100,000kmで馴らし運転終了ですから、まだ新車みたいなものですね。
1996 EUNOS ROADSTER(NA8C) VR limited combination A | |||
車格: | オープン | 乗車定員: | 2名 |
全長×全幅×全高: | 3955×1675×1235mm | 重量: | 1,000kg(実質1,020kg) |
ホイールベース: | 2,265 mm | トランスミッション: | 5MT |
ブレーキ: | ベンチレーテッドディスク/ディスク | タイヤ: | 195/50R15 82V |
エンジン型式: | BP-ZE[RS] 1839cc | 種類: | 水冷直列4気筒DOHC |
出力: | 130ps(96kW)/6500rpm | 燃費(10・15モード) | 12.0km/l |
トルク: | 16.0kg・m(156.9N・m)/4500rpm | 燃料 | 無鉛レギュラーガソリン |
たまたまかもしれないけれど、私の周りにいるNAロードスターのオーナーは他のスポーツカーを経験していたり、他世代のロードスター(NBやNC、もしかしたらND)からの乗り換えを行うパターンが多い気がします。実際、NDロードスターはNAをリスペクトしているとマツダが公表をしています。
今でこそ骨身にしみたNBロードスター乗りである私ですが、かつてはNA6のオーナーでもありました。そこで私の独断と偏見で、そのあたりを解析したいと思います。特に今回お借りしたNA8のシリーズ2といえば、ユーノス最後期型として最も人気のあるNAロードスター。それはどんな味付けなのか?
NAロードスター後期型(NA8シリーズ2)の特徴
NA8シリーズ2の特徴といえば、各種パーツのコストダウンが指摘されることもありますが、大幅に手が入ったのはパワートレインまわりのリファインです。
BP-ZE[RS]1800ccエンジンは16bitコンピューターにアップデートされ、きめ細かな制御ロジックを実現しています。最高出力130ps/6500rpm、最大トルク16.0kg-m/4500rpmというスペックで、シリーズ1と一見変わりませんが、広報資料によると実質出力は3psほどアップしているそうです。
加えて、イナーシャ(感性抵抗)を約16%低減した軽量フライホイールを採用し、ファイナルギアレシオをローギアード(4.3)に設定し、アクセルに対する応答性を意識的に上げています。
これらのリファインは、環境性能に対応するためNAロードスターが排気量を1800ccにした際(NA8シリーズ1)、クルージング重視のハイギアード(4.1)設定によるエンジンレスポンスが「重い」という酷評を受けての対応です。ちなみにシリーズ2のギア比改善は国内市場のみで、海外は(4.1)のまま販売されています。
また、今回のユーノスロードスター「VR-A」はSスペシャル(グレード名)がベースになりますので、吊るしの状態でフロントタワーバーの補強や、ビルシュタインダンパーの足周りを架装しています。カタログ車重は990kgですが、エアコンとオーディオはショップオプションのため、実際は1010kg位になっています。
NAロードスター限定車 VR-Aとは
1996 EUNOS ROADSTER(NA8C) VR limited combination A
VR-Aの独自装備は、専用15インチアルミホイール、専用ボディカラー「アールヴァンレッドマイカ」、タンカラーの幌、「Roadster」刺繍の入ったトープカラー(ベージュ)の本革シート、シフト/パーキングブレーキはアルミパーツ採用・・・と、走りのSスペシャルに、ハイグレードとなるVスペシャルの装備を足したような豪華仕様になっています。(※今回お借りした車両は、幌だけ社外品にモデファイされています)
2024 MAZDA ROADSTER(ND5RE) 35th anniversary
ちなみにこの「ワインレッド×ベージュ」のカラーコーディネートは好評で、NBロードスターを始めとした歴代ロードスターで定期的に復活し、2024年に発表された「35周年記念車」にも採用されています。
NAロードスター いざ、乗り込んでみる
必要以外のものを極力排除したロードスターのエクステリアは、工芸品といっても過言ではありません。単に古いのではなく、クラシカルでありつつもセンスの良さを感じます。
特徴的なユーノスのドアノブもカチャっとしたメカニカルな感触で、長年愛用している機械式腕時計を愛でるような、今のクルマでは味わえない儀式的な感覚を得ます。もちろんキーレスなんてありません。
実際、インテリアスイッチのクリック感やウインカー音なども、いい意味でレトロタッチです。NA8はコストダウンの影響で、メータのメッキリング廃止などインテリアの加飾もシンプルになっており、逆に素材感あふれる雰囲気は自分色にコーディネートする余地が残されているのです。また、時代柄エアバックは装備しておらず、太っていないMOMO製ステアリングは素直にカッコいい。
クーラーが効き辛いことが有名なエアコンですが、ヒーターは信じられないくらい効きます。風力ゼロでも外気循環にしておけば、車内は暑いくらい。寒い時期こそオープンカーが楽しめるというものです。
ただし、純正シートはもう少し深いと助かりました(私がユーノスに乗っていた時はアンコ抜きをしていました)。しばらく走っていたら慣れますが、私の座高が高いため幌をクローズしていると視界が狭く、サンバイザーを外すくらいがちょうど良いと感じました。もちろん、ホールド性に関しては尻が滑るので、峠を走ってきた晩にお尻が筋肉痛に・・・踏ん張っていたんでしょうね。
やはり、リトラクタブルヘッドライトは意味もなく開けたくなります。クール美人が一気に可愛くなる瞬間です。二つの顔を持っているのは、やはり素敵です。
実際、NAロードスターは「走り以外の装備は自分で何とかして」というスタンスなので、ドリンクホルダーすらありません。でも、それでいいんです。
NAロードスター パワートレイン
実際、第一印象はどうだったかというと・・・イグニッションによるお約束のブリッピングの段階から、純正マフラーであっても(最近のクルマでは考えられないほど)腹に響くかなり良い音を奏でます。アクセルオンで軽快にブォンブォン響くので、これが感情に訴えてきます。
ギアを上げながらアクセルを踏み込むと、予想よりもエンジンがトルクフルかつスムースに回りきるので驚きます。私の愛車(NB6)のエンジンは1600cc(B6-ZE:出力125ps/6500rpm、トルク14.5kg-m/5000rpm)なので、ひと回り低いスペックであることは承知していたのですが、BPエンジンはトルクで走れてしまうことが目からウロコでした。徐行からの2速発進もガクガクせず問題なく走り出せます。
スロットルにワイヤーで繋がるアクセルレスポンスも非常にクイックで、旧世代と侮っていたのですがトルクバンド内(3,000~5000)の中間加速感はローギアード設定と相まって、街乗りレベルではグングン前に行きます。排気量の差でここまで味付けが変わるのは想定外のショックで、素直に良いと感じました。
シフトチェンジもスコスコ決まります。5速に入れるのが若干「遠い」感覚を得ましたが、誤差の範囲でしょう。NA6の「2速入らない病」を想定していたのに全く問題なく、お借りしている間はダブルクラッチをすることも、シフトミスも発生しませんでした。NA6のシフト周り(センターコンソール)はお湯が沸くのかの如く熱くなる印象だったのですが、そんなことも今回は全く無し。少し悔しい・・・
ブレーキはNA独自のフィーリングで、普通乗用車の感覚で踏むと全然止まりません。NAロードスターのブレーキは、きちんと踏まないと効かないように味付けされているのです(決してパットがプアなわけじゃありません)。これだけは初めてユーノスに乗るとビックリするんですよね。
NAロードスター 旋回性能
コーナーリングは正に水を得た魚のようでした。自分の運転が上手くなったと錯覚する位、狙った方向に頭が入ります。オーバーハングの重量はNBより重いはずですが、アライメント(セッティング)によりNAの方が「鼻先が軽い」と感じてしまいます。当時の流行からビルシュタインの足が非常に硬く、ロールなんて全然しないので(結構力任せに)グイグイ曲がります。現在のスポーツカーはロールさせる方向が多いので、その差に時代を少し感じました。
あまり上手な走り方ではありませんが、中間加速域のトルクバンドが広いので、アクセルワークでコーナーの進入角度を調整出来たり、コーナー出口までグイグイ押し出してくれて気持ちいい!かといってパワー過多なわけでもないので、スピンモードになる事もありません。教科書のような後輪駆動を体験できます。ただし、より安定志向になっているNBロードスターの感覚で踏み込むと、オーバーステアが出てビビります。調子に乗るのはよくないですね・・・
路面状況による前提がありますが、中速ロングコーナーが続くような場所は3速のみで気持ちよく走れました。繰り返しますが、程よいパワーとトルクによる賜物です。つまり、車速30km/h~60km/hの範囲は声が出るくらい(笑っちゃうくらい)イメージ通り走れます。
峠(タイトコーナー)に関しても同様で、NB6では1速を使うような場面でも、2~3速で走りきれます。意外だったのは、同じ道でもNBではABSが効くシーンであっても、ABS無しのNAブレーキで近しい走りが出来ました。これはちょっと感動です。しかし、悪路ではビルシュタインがコーナーで跳ねまくり、心臓に悪かったので、そこはのんびりさせて頂きました(後述)。
NAロードスター 気になったところ
想定内ではありますが、路面状況によってはボディが「たわむ」のが判ります。特に腰の後ろ、リア周りは轍(わだち)のギャップを超えるだけでブルルン・ガタタンと振動が伝わってきます。一体どこが発生源なのか、幌の根元やブレースバーあたりを調べたのですが不明。まぁそんなもんですよね。クルマとして問題はありませんが、いわゆる剛性感はそれなりです。
なので、少し路面が悪いとクルマが分解するんじゃないかというくらい、乗り心地がハードになりました。ビルシュタインの硬さが原因かと思ったらそれだけではなく、リアまわりの緩さと相まった結果だと思われます。こればかりは、NBロードスターにおいて、リアを中心にガゼットやメンバーブレースで補強したことがよく分かります。
なので、コーナーの路面が荒かったりすると死を予感させてくるので、自ずと安全運転になります。慣れの問題かもしれませんが、NBロードスターで慣れているシーンで踏み込めないこともありました。人様のクルマであることから、完全に信用してはいけないという感情が先立ちました。
高速安定性
折角なので速度領域を上げていきます。ここでは路面のギャップで撓(きし)むのが耳に悪く、どこかにクルマが飛んでいくのではないかと心配になり、アクセルを緩めました。ポジティブに考えるとロードスターが「この道ではスピードを出すな」と警告してくれているのでしょう。
面白かったのは、横風がある状況でリトラクタブルヘッドライトを上げたら当然グラグラしまして・・・空力って凄いと感じました。NA8ロードスターで高速巡航をずっと行うには慣れが必要です。80km/h以上を出すと正直怖かった。
NAロードスターが凄いと感じたところ
これらを総合したうえで、一番NAロードスターを凄いと感じたのは、手と腰、そして耳など五感で感じるクルマからのフィードバックでした。エンジンレスポンス、路面状況、そしてヤバいと思わせる挙動・・・これは確かに人馬一体です。特にステアリングからのインフォメーションは、歴代ロードスターでNAが一番強く感じました。クルマと対話している感が半端ありません。
また、意外に感じるかもしれませんが、今回のNA8ロードスターに乗っていて、歴代ロードスターで一番近いイメージだったのはNC2ロードスターの幌でした。
量産ライトウェイトスポーツは、可能な限り車体に見合った「使いきれる」パワーユニットを搭載しますが、決して小排気量が凄いというわけではなく、重要なのはトータルバランスです。そういう意味で、中間加速(トルク)を使って軽快に走れるというスタイルに、NA8 → NB8 → NCE という系譜を感じることができ、非常に納得がいきました。ロードスターとしてのハンドリングはもとより、エンジンレスポンスの味付けも非常に近しいのです。
そう思うと納得なのがNDロードスター(幌)の味付けです。1500ccエンジンは「回すと速い」タイプなので、実はNB6や、そもそものルーツとなるNA6(1600cc)に近しい印象がありました。NDロードスターのベンチマークは、同じ初代ロードスターであってもNA8ではなくNA6だったことが分かります。
燃費に関しては結構ブン回しましたが、走行距離416.4kmに対して給油量35.5L。リッター11.7(レギュラー)なので、優秀ではないでしょうか。
なぜNAロードスターなのか
なぜNAロードスターが愛されるのか私なりに解釈すると「後輪駆動(FR)でしっかり走れる基本構造は作ったから、あとは自由に楽しんでね!」というスタンスであり、そこから自分色に染められる素材感にあるのではないかと感じました。
全て手動なドアロック、トランク、ミラー調整(※これはモデルによる)。オーディオはヒーターをつけるとノイズが走るし、ドリンクホルダーもない。パワーウインドのスイッチはセンターコンソール後方にあってクリックしづらいし、突風があれば幌がバタつきます。道が荒ければボディは軋(きし)みますし、エアバッグやABSのような安全性能も基本的にはありません。今の基準で見れば非常に「危ないクルマ」です。
実際マツダもここまでヒットすると予想していなかったことから、あらゆる要素が(いい意味で)割り切られていることがわかり、徹底的にライトウェイトスポーツの最大の性能である「軽さ」を最優先しているのです。
そして、これらの要素を「ライトウェイトスポーツとは、そういうもんだ」と許容できた瞬間に、NAロードスターでなければ絶対に駄目な人がいることも理解できます。例えるならば、野生の馬を捕えてきたのがNA6で、少しだけしっかりした馬を捕まえてきたのがNA8ロードスター。
さらに、鞍をつけたり毛並みを整えたりしたて誰でも乗れるようにしたのがNBであり、それらの馬を再現しようとブリーディングしたのがNCやND・・・みたいなイメージです。
どの馬も「楽しい」のですが、NAロードスターは「走る楽しさ」のみを追求するために存在しているクルマであり、とにかく野生の馬なのです。
NB以降は、安全性能や環境性能など時代に見合った加飾をしています。そこでロードスターのルーツってどんな感じなんだろうとNAに乗った瞬間、その荒ぶる世界感にヤられてしまう感覚を、今回はとても感じました。
少しだけ覚悟があれば
ただし、今回はメンテナンスをしっかりしているロードスターでだったという前提の話です。いざ所有するとなると「覚悟」が必要であることも記載しておきます。
NAは最終型でも1997年式になるので、約25年以上前のクルマです。パーツもレストアプログラムで一時期は安定していましたが、昨今の物価高や現場の後継者不足等により、純正品の供給は厳しくなってきました。それでも有志による代替品が供給されるのはありがたいのですが、経年劣化によるるトラブルと、それに伴うコストはかかっていくでしょう。この覚悟はオーナーにとってもクルマにとっても重要です。
「愛情を持続させることができるか」なんて、今更NAロードスターのオーナーに問うまでも無さそうですし、この世界感にハマる事ができれば、見合ったリターンは絶対にあるでしょう。特に、愛車におけるネガティブな要素は、今の時代では味わえないポジティブな要素でもあります。
したがって、クルマがただの機械ではなく自分の愛馬になってしまったら、どんな事も許せてしまい、手放せなくなってしまうのがよく分かります。でも、万が一が起きた際の覚悟を持っている必要はあるのです。
ただ、こんな屁理屈も屋根を開ければどうでもよくなります。FRのオープンスポーツを、五感を使って楽しむ・・・それだけを満たす、シンプルかつ最高の素材を楽しめるのは堪らない感覚です。ステアリングを握りアクセルを踏みこむ、その世界感は「誰もがしあわせになる」とはよくいったものです。
繰り返しますが、五感を刺激するけど、かなり危ないクルマ、野性的なスポーツカー。そんな魅力がNAロードスターではないかと私は思いました。こんな凄いクルマが市販されて、今でも生き残ってくれただけでも感謝です。走りの根っこ(DNA)は間違いなくNB以降に活かされていますから。
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