NBロードスター限定車「NRリミテッド」

NBロードスター限定車「NRリミテッド」

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ピュア・オーソドクス。

“orthodox”、辞書には「正統の、正しいと認められた」とある。ライトウェイトスポーツでいえば、自然吸気エンジン、FR、小振りなオープン2シーターが織りなす人馬一体の楽しさ。ロードスターは10年を超えてそれを貫いているが、それ以前に、英国を中心としてライトウェイトスポーツを楽しむ長い歴史がある。私たちは、その歓びを現代によみがえらせることを夢見た。

ライトウェイトスポーツ本来の楽しさをピュアに追いかけ、オーソドクスであることが最良の結果を生むことを知った。ロードスターのその想いは誕生以来、変わらない。ステアリングを握る人々と、人馬一体の楽しさや頬をなでていく風の心地よさをシェアしたいと、いつも願っている。

マツダロードスター(NB)「NRリミテッド」カタログより引用

「NRリミテッド」概要


2000年1月、NBロードスター前期型の末期に設定された限定車が「NRリミテッド」です。

冒頭のカタログ文言にもあるとおり、NRリミテッドは欧州ライトウェイトスポーツをリスペクトした、トラディショナル(伝統的)なモデファイになっています。NB8C(1800cc)「S」グレードをベースに、「VS」グレードから一歩踏み込んだ方向性の明るい内装&ダークウッドを用いたインテリア素材、さらに専用ボディカラー等をまとい、限定500台でリリースされました。

なお、NBロードスターの限定車は英記号二文字で記されることが多く、「NR」とはおそらく「NOIR RED(ノワールレッド)」・・・つまり、濃い(深い)赤という意味である思われます。これは専用ボディカラー「アールヴァンレッドマイカ(A1Q/A7/23E)」を指しているのですね。


また、この限定車には先代が存在します。それはNAロードスター後期(NB8Cシリーズ2)に設定された限定車「VRリミテッド コンビネーションA」で、その架装を踏襲しているのです。世代をまたいだシリーズ化から、NRリミテッドはユーノス推しのオーナーからも(当時)一目置かれた存在になりました。


また、このクルマは基本仕様が同一になる限定車が、NRリミテッドも含めて全世界で約8000台生産されています。

北米では「SE(SpecialEdition)」シリーズ、英国では「Icon」など、近年でもロードスター限定車で設定される名称が付けられていたのです。ちなみに海外のエクステリアカラーは「Mahogany mica(マホガニーマイカ)=楽器などに使われる赤い木材」「Merlot Pearl(メルローパール)=赤ワイン用ブドウ」など、粋なネーミングになっています。

NRリミテッド 仕様

MAZDA ROADSTER(NB8C) NR-Limited
車格: オープン 乗車定員: 2名
全長×全幅×全高: 3955×1680×1235mm 重量: 1,030kg
ホイールベース: 2,265 mm トランスミッション: 6MT
ブレーキ: ベンチレーテッドディスク/ディスク タイヤ: 195/50R15 82V
エンジン型式: BP-ZE[RS]1839cc 種類: 水冷直列4気筒DOHC
出力: 145ps(107kW)/6500rpm 燃費(10・15モード) 13.0km/l
トルク: 16.6kg・m(162.8N・m)/5000rpm 燃料 無鉛レギュラーガソリン
車両本体価格 2,516,000円 発売日 2000年1月

NRリミテッドのベースはNB8C「S」グレード。これは現行NDロードスターにも継承されている「Standard(標準)」仕様となります。ちなみに、走りのグレード「RS(Racing sports)」との差は、基本的にハードサス(ビルシュタイン)と15インチホイールを履いているか否かの差しかありません。なお、トルセンLSDは装着されていますが、ABSは義務化前なのでレスとなっています。

また、NB前期型(NB1)の15インチはストラットタワーバーと大径スタビライザーを装備するルールがあったので、15インチが採用されたNRリミテッドも同様の装備(ストラットタワーバーは専用塗装)が装着されています。NB前期型のノーマルサスでこの仕様は、唯一NRリミテッドのみになります。

カタログモデルのファッショナブルな「VS(Vintage special)」グレードが当時2,415,000円だったので、NRリミテッドとの差は101,000円。専用塗装や専用架装を踏まえると、お買い得感の高い限定車でした。 

NRリミテッド エクステリアの特徴


NRリミテッドは、専用ボディカラー「アールヴァンレッドマイカ(A1Q/A7/23E)」が採用されています。

アールヴァン(=Art Vin)とはトルコ北東部の都市名で、「山珊瑚」という濃赤色な宝石の生産地です。その「深い赤(ノワールレッド)」にちなんだシックな色味は、NRリミテッドの「ピュア&オーソドックス」というテーマを満たすボディカラーといえるのではないでしょうか。


このボディカラーのルーツは、NAロードスター限定車「VRリミテッド」より前が存在します。アールヴァンレッドはかのユーノスブランドにおいて、名匠ジウジアーロに「世界で一番美しい小型サルーン」といわしめたユーノス500後期型のテーマカラーだったのです。

ユーノス500は10年経っても色褪せない「高機能ハイレフコート」とともに、デビュー当初は「メイプルレッドマイカ(D7)」という専用のテーマカラーが設定されていました。デビューから2年後と早い時期のマイナーチェンジで差し代わったことから、「アールヴァンレッドマイカ」は「メイプルレッドマイカ」と同時に開発されていた、もうひとつの選択肢であったことが分かります。


ユーノス500は今でいうクーペ的な位置づけのスペシャリティセダンで、その開発過程に妥協はなく、シックで色気のあるワインレッド系は、とても美しいものに仕上がっています。なお、アールヴァンレッドマイカ自体もユーノス500とロードスター以外では塗られていない、きわめてレアリティの高いボディカラーになります。

また、先に登場した「10周年記念車」と同じくバフ仕上げの純正15インチホイールが採用されました。NRリミテッド以降、純正メッキホイールはロードスターで採用されていないのでレアリティが高く(実は海外で不評だったとか・・・)シック系のモデファイにおいて、今でも人気の高いホイールになっています。


また、ベージュに塗られたソフトトップもNRリミテッドだけの採用です。NBロードスター後期型(NB3以降)でもベージュのソフトトップがVS系で採用されていますが、そちらはクロス幌(布幌)でありビニール素材の明るい幌はNRリミテッド唯一のものとなっています。特筆すべきは、通常はオプション扱いのベージュ・ソフトトップカバーも標準で付属していました。

NRリミテッド インテリアの特徴


インテリアは本革シートやシフトブーツも含めて専用ベージュ色でコーディネートされており、ステアリングやシフトノブにはダークウッドのナルディが採用されています。また、インナードアハンドルやサイドブレーキのプッシュボタンがメッキ加飾され、メーターパネルはメッキリング付きのホワイトメーターが採用されています。

BOSEサウンドシステムも標準装備で抜かりなく、まさに「全部入り+α」として、既存のVSグレードから一歩踏み込んだ構成になっています。しかし専用フロアマットは日本市場のみオプションでした(海外では標準装備)。


なかでもとびきりなレアリティアイテムがイグニッションキーで、通常のものと形状は同一なれどベージュカラーになっていて、いつのもマツダキーではありますが特別感が半端ありません。

今やイグニッションはプッシュボタンが主流になりクルマの「鍵」自体を見なくなってしまいましたから、一周回ってレトロかっこいいアイテムになっています。残念ながら、もちろんパーツは廃盤になっているので手に入れる術はありません。


余談ですが、先代のVRリミテッドにおけるインテリアは純然たるベージュではなくトープ(灰色が少し入っている、落ち着いたベージュ)であり、これはXedos 6(海外版ユーノス500)やユーノスコスモなど、ユーノス系高級車の内装にちなんだものになっています。

ノワールレッドの系譜、その後・・・


NRリミテッドはNBロードスター前期型の終盤に設定された区切りともいえる存在で、ある意味で「全部入り」仕様として仕上がっていました。

また、テストマーケティング的な意味合いとしても成功をおさめたからか、2002年7月のマイナーチェンジ(NB3)では、ほぼ同じ仕様に仕上げることができる「VSコンビネーションB」グレードとしてカタログモデル入りを果たすことになりました。

「アールヴァンレッドマイカ(A1Q/A7/23E)」の実質的な後継色として設定された「ガーネットレッドマイカ(25F)」と、ベージュ&ダークウッドインテリアは「NRリミテッド」が先陣を切ってくれたおかげともいえます。


また、NCロードスターでもノワールレッドの系譜として、裏テーマカラーとして設定された「カッパーレッドマイカ(32V):NC1~NC3」がカタログカラーとして設定されていました。ただ、NCにおけるVS系のインテリアカラーはベージュのような明るい内装ではなく、チョコレート系(サドルタン)の高級感あるコーディネートに変更されました。また、残念なことにウッド内装はモダンなNCにマッチしないことから積極的に使われなくなり、ショップオプション扱いになっています。


なお、NC3ロードスターの最後期には後継色「ジールレッドマイカ(41G)」も設定され、これはNDロードスターのソウルレッド系に繋がる素敵な色になっています。ただ、若干情熱的な色味なんですよね・・・ちなみに、NCロードスターの販売台数の絡みから、国内でジールレッドマイカに塗られた個体は、下手な限定車よりも目にすることは少ないかも知れません。


ただ、限定車としてはかつてのロードスターと近しい仕様が復活しています。

2006年の「Blaze Edition(ブレイズエディション)」における「ラディアントエボニーマイカ(28W)」&サンドベージュ内装はまさにそのもので、VRリミテッドの系譜を感じることができます。ちなみにブレイズエディションのもう一つのボディカラー「ハイランドグリーンマイカ(35K)」は、NC以降で内装の色味が変更された(サドルタン内装)「VS」グレードではなく、NA/NB時代の「VS」グレードのリスペクトだったりします。


また、珍しいところではRX-8の2004年に登場した限定車「スポーツ・プレステージ・リミテッド」が「ラディアントエボニーマイカ(28W)」&サンドベージュ内装を採用しています。

しかし、現在はノワールレッドの系譜は断たれてしまい、マツダのスポーツカーでこのカラーコーディネートを見ることはなくなってしまいました。


2022年末、マツダ独自の塗装技術「匠塗(TAKUMINURI)」による特別塗装色第4弾、「アーティザンレッドプレミアムメタリック」が設定されました。「しっかりと深みと濃厚さを演出するハイコントラストな表現は、造形の強さと美しさを際立たせます」と公表されており、まさにノワールレッド系譜の復活です。

その第一弾として「MAZDA6 20th Anniversary Edition」・・・つまり、旧名「アテンザ」の20周年記念車に、個の新色が採用され、内装にもタンカラーがコーディネートされています。(個人的にはNDロードスター2リッター2023年モデルあたりにも、この色が採用されると予想しています)


さて、NRリミテッドの登場から20年以上経った今、自動車業界のトレンドは大きく変わりました。ガソリンエンジン最後の華を咲かせようと、各社が最終限定車なり、ド派手で豪華な仕様を設定しています。

そういう意味でNRリミテッドに派手さはありませんが、一方で今の目で見てもアールヴァンレッドの小さなオープンカーは特別感というか、しゃれた雰囲気を醸し出しています。つまり、ピュア&オーソドックスというコンセプトは陳腐化していない証明です。

そういう意味で、ハイセンスで特別なロードスターが「NRリミテッド」でした。

<NR-Limited専用装備>
【エクステリア】
専用ボディカラー(アールヴァンレッドマイカ)
【インテリア】
専用ベージュ内装
専用NARDIウッドステアリング(ダークウッド)
専用NARDIウッドシフトノブ(ダークウッド)
専用NARDIウッドパーキングレバー(ダークウッド)
専用6MTメーターパネル(ホワイト&メッキリング)
専用木目調センターコンソールパネル
専用イグニッションキー
専用本革バケットシート(ベージュ)
【シャシー&メカニズム】
15インチアルミホイール(バフ仕上げ)
カラードフロントサスタワーバー

関連情報→

NBロードスター ガーネットレッドの魅力

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