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「ロードスターは人を繋げる」・・・これは、開発主査を務めた貴島孝雄さんが、ロードスターを語るときに使う言葉ですが、今回はそれを身をもって体験した話のご紹介です。自分語りになりますが、少しお付き合いをいただければ嬉しいです。
クルマ趣味に恵まれた環境
さて、不詳わたくし、いつも偉そうに本サイトにてロードスター記事を書いておりますが、そんなロードスター自体を新車で購入したのは、実は一度しかありません。それは平成14年式(2002年式)のNBロードスター、世代でいえば熟成期に入ったNB3・RSグレード(GH-NB8C(1800cc))です。
背景として、その当時は独り身だったので全力で趣味にお金がつぎ込めたことや、ハイオクガソリンもリッター100円台と、クルマの維持費自体が安かったことがありました。さらに、私の地元(宇都宮)ではクルマがないと生活できない土地柄ということもあり、友人達も皆こぞってスポーツカー(シビックR、インテグラR、CR-X、セリカ、MR-S、RX-7)に乗っているという、今思えば恵まれた環境にありました。
就職して間もなく、私も平成5年式のユーノスロードスター(NA6CEの中古)を所有し、愛情を注ぐ日々を過ごしていたのですが、若さゆえの無知であることから乗りにくくなるモデファイを施し、メンテナンス不足によるトラブルも多発させていました。
ショックが抜けて左右で車高が違ったり、オートアンテナも故障して固定式になり、パワーウインドウも壊れて手動式へと変更、エンジンオイルは常に滲んでいる。さらに未熟な運転技術から、峠で壁に突っ込んで足周りを損傷、冬場にジッパーを開けず幌を開けてリアスクリーンを割る、悪路走行でアンダーカバーを破損するなど、ユーノスに対して本当に申し訳ない乗り方をしていました。
そんなユーノスはずっとどこかで異音が鳴っている有様で(もちろんオープンカーに静粛性を求めるのはナンセンスですけど)、正直なところ、振動や軋み音などの剛性感の欠如により「ボロいから仕方がない」と、より雑な扱いになっていきました。しかし、それでもユーノスは健気に自分色に染まってくれて、クルマの楽しさの原点を教えてくれた、大事な思い出をくれた愛車の一台でした。
2000年 今更ロードスター?
少しだけ時を進めた2000年、現在こそライトウェイトスポーツのベンチマークとされるロードスターですが、NB現役当時の国内市場におけるポジションは客観的に厳しい状況がありました。90年代の国産スポーツカー黄金期が終焉を迎えつつあるなか、同じ価格帯でもっと速いクルマ、豪華なクルマ、信頼できそうなクルマはゴロゴロあるし、中古市場を見渡せばRX-7はもちろん、R32などのフラグシップスポーツまで狙うことができたのです。300万円台のNSXもあったなぁ・・・
そんな状況下でのNBロードスターは、新車販売されていること自体が奇跡と思える感じで、ディーラーに試乗車なんてまず用意されず(近隣から取り寄せ、使い回し)、次期型の噂もしばらくなくて、モデル消滅してもおかしくないような扱いになっていました。
別トピックでも書いていた通り、もともと私はNBロードスターが大嫌いな「ユーノス信者」だった過去がありますが、この頃はNAで知ったあまりにも楽しい乗り味と、哲学を感じる開発背景をもとにロードスターに心酔しており、あれだけ嫌いだったNBも手のひら返しでリスペクトを感じていました。そして、幸いにも経済的な余裕があったことから「ロードスターを新車で楽しんでみたい」という思いが募っていきました。
参考→https://mx-5nb.com/2025/06/16/eunos-follower/
クルマ好きの悪友達からは「今更ロードスターなんて買うの?」と揶揄されましたが、工業製品として完璧な状態である(はずの)新車なNBロードスターを経験できるのは今の瞬間しかないはず。この体験は10年後、20年後にお金を積んでも得ることのできない、何物にも代えがたい経験になる。そう確信して「今こそロードスターをゼロから育てたい!」と一念発起しました。
そんな折、懇意にしていたマツダディーラーからNB型のマイナーチェンジ情報(NB2)が掲載された社内向けレジュメを見せてもらう機会を得ました。精悍な顔つき(フェイスリフト)になって、しかも、ついに可変バルブタイミングエンジン(S-VT)を得てパワーも向上すると!そんな新型NB8(1800cc)を買うならば、憧れだった6速マニュアルトランスミッションと、「走り」に特化した装備が架装がされた「RS」グレードしか眼中にありませんでした。
しかし、どうしてもボディカラー設定だけが不満で、そこに妥協はしたくない。NB2のRSグレードには、私の望む緑系のボディカラーが設定されなかったのです。結局は「緑のRS」が登場するまで「欲しいけど決められない」モヤモヤした生活を送っていました。なお、当時はインターネットでNBロードスターをカスタマイズ購入できる「WebTuned」も開始され、そこでRSの緑色(グレースグリーンマイカ)も選択できましたが、実物も見ずにクルマを購入する勇気は、当時の私にはありませんでした。
2002年 忘れられない、スプラッシュグリーン納車の日
そうこうしているうちに、2002年のマイナーチェンジ(NB3型)にて、待望の新色が追加されるとディーラーから連絡が。なんと、カタログには「スプラッシュグリーンマイカ」という、エメラルドグリーンに輝く鮮やかなロードスターが掲載されており、RSグレードも選択できるとのこと。全ての条件が揃ったことで、ほぼ発表と同時に即決・契約をしました。
なお、ずっとディーラーに通っていたので、特にこちらから切り出すこともなく、交渉なしで23万円値引き。後日談として車台番号の調査を行うと、私の購入した個体が、世界で最初にスプラッシュグリーンマイカへ塗られたNBロードスターであることも判明しました。
夏の終わり、「スプラ」が納車された時の興奮は未だに忘れられません。長い人生において心が震えた経験はそう何度もありませんが、納車日の朝にディーラーに向かうと、朝日に輝くスプラッシュグリーンの車体をみつけて、ちびりそうなくらいにときめいた事は、今も脳裏に焼き付いています。
スプラッシュグリーンの色味は、ロードスターで近しい系列でいえば先代NA「SRリミテッド」に塗られたスパークルグリーンメタリックを明るくしたような、NB2のクリスタルブルーメタリックを緑に振ったような、本当に不思議な色合いです。どんな場所でも主張をしてくる、まさにスポーツカーらしい速そうなボディカラーでした。
しかし、結局は家庭環境の変化や諸事情により、スプラッシュグリーンのロードスターは手放すことになるのですが・・・工場からラインオフしたばかりのNBロードスターの「乗り味」は予想通り、私の自動車趣味において素晴らしい経験となりました。事実、あの経験があったからこそ、私は再びNBロードスターを手に入れて、本サイトを運営するようにまでなるのですから。
2012年、ふたたびNBロードスターを購入しようと躍起になり、現在の愛車(ガーネットレッド)と巡り逢うことになりますが、本当はスプラッシュグリーンのNBロードスターも本気で探していました。しかし、この希少色と巡り逢う縁はなく、見つけることは叶わなかったんですね。
2014年まさかの邂逅
2014年、現相棒のガーネットレッドなNBロードスターを駆る傍ら、友人から「某中古車販売店に、君が探していたスプラッシュグリーンのNBがある」と一報を受けました。平成14年式、RSグレード、純正エアロ装着・・・どこかで聞いた仕様です!速攻でお店に向かいました(※もちろん、店舗に撮影許可を頂戴しています)。
懐かしのスプラッシュグリーンに再会し、ドアを開けた瞬間すぐにピンときました。自分でシルバーに塗装したエアコンのルーバーリング、自分のお尻の形に合わせてアンコ抜きを施した純正シート、最後に取り付けた社外品のシフトノブ、そしてコンソール脇に貼ったシフトパターンのシール。
この組み合わせは・・・と高鳴る胸を抑え、車台番号を確認させていただいたことで、確信に変わりました。その中古車は、紛れもなく私が初代オーナーだったNBロードスターそのものだったのです!まさか自分が所有していた個体そのものと再会できるとは思ってもいなかったため、言葉を失いました。何より、廃車になることなく、こうして生き永らえていたことが何よりも嬉しく、これこそがロードスターならではの奇跡的な再会と感じ入りました。
実は、本当に大好きなクルマだったので、せめてその魂の一部だけでも・・・と、手放す際に交換した純正シフトノブを手元に残し、ある場所にメッセージを残していたのですが、さすがに販売されているクルマの分解をお願いすることはできず、その確認ができなかったのが心残りで・・・
もちろん再購入も検討したのですが、当時の経済状況でロードスター2台持ちは現実的ではなく、SNSでレポートを残すに留まりました。その後、そのSNSを通じてこのロードスター購入したオーナーから連絡をいただく機会にも恵まれましたが、残念ながらお会いすることは叶いませんでした。
2020年 ネットの海で募る思い

数年後、いつものように中古車検索サイトを眺めていて、私は再び驚愕することになります。あのスプラッシュグリーンの個体が、今度は広島の販売店で売りに出されていたのです。なぜ分かったのかというと、写真から判別できる数々のモデファイの痕跡と、忘れもしない車台番号の記載です。
ウェブサイトを追いかけていると、すでに新しいオーナーが決まっていて掲載終了になっていましたが、アーカイブからは丁寧にメンテナンスが施されていた様子が窺え、希少な純正色のハードトップまで装着されていました。実は、この個体に対しても「広島方面で見た」という目撃情報を頂いてたのですが、やはり会えることはかないませんでした。
なお、このクルマに残したメッセージとは、売却する際どうしても断ち切れなかった想いを、メーターフードの裏側に手書きで記したものです。内容は大変恥ずかしいので秘密ですが、今の愛車のメーター周りをメンテナンスする度に、ふと、あの日のことを思い出していました。
2025年 まさかの再会、ロードスターは人を繋げる
2025年某日、当サイトへ上記の連絡が寄せられ、まさかの内容に二度見しました。国内仕様でスプラッシュグリーンマイカに塗られたNBロードスターの製造台数はわずか74台(NB6:50台/NB8:24台)。この希少性から車台番号下3桁がかぶることはなく、しかもご連絡いただいた番号は紛れもない量産1号車のもの。まさに、私が23年前に新車購入した、あのNBロードスターでした。
内心ハラハラしながら、現オーナーさんへ連絡を取ると・・・あれほど遠い存在だった広島で走っていたはずのスプラが、数奇な巡りあわせにより、関東圏内(しかも驚くほど近所)に戻ってきたとのこと。逸る気持ちを抑え、もちろんアポを取って現オーナーさんへ会いに行きました。
じりじりとした夏の日差しが背中を焼く青空のもと、某「道の駅」で待ち合わせをしたのですが・・・快音を響かせながら駐車場に入ってきたスプラッシュグリーンのNBロードスターは、23年前、納車した日にみたあのままの輝きを失っていませんでした。うーん、やはり贔屓目なしに見てもカッコいい!
現オーナーさんから話を聞くと、このNBロードスターはとある事情で広島から関東に戻ってきたそうで、さらには「このまま潰すのは勿体ないから・・・」ということで、譲り受けたそうでした。現在はサーキットユースをメインに使用されており、クルマを作りこんでいくなかでエンジンスワップを検討するも、「思ったよりBP-VEエンジンが良かった!」とのことで、素性を活かしたカスタムを行なっていくそうです。そこで、まだオリジナルの姿が残っているうちに、というご厚意で連絡をいただけたのでした。
お言葉に甘えて少しだけ運転をさせていただくと、ドリフト仕様なのでステアの切れ角が凄まじくて笑いましたが、ホンダのVTECのような官能さはないものの、フラットトルクで高回転までよどみなく吹き上がるS-VTのパワー感は重ねた走行距離を感じさせず、「やっぱNB8後期はじゃじゃ馬だなぁ・・」なんて、懐かしい感覚を思い出させてくれました。
折角再会したスプラッシュグリーン、後日に餞別として、かつてこの子に付けていたリップスポイラーをオーナーさんに差し上げて、その代わりといっては・・・ということで、かのメーターフードを交換してもらいました(※私の愛車も同じNB3ですから、もちろん同一パーツです)。
なお、裏面のメッセージは現オーナーさんの前の所有者様がメンテナンス中に気づいて「ビックリして消してしまった」とのことで、残念ながら跡形もなくなっていました。でも、何を書いたのかは私が覚えていますし、なにより23年前のロードスターから取り外されたパーツが、時を経て今の私のNBに取り付けられているのです。それだけで、メッセージの役目は十分に果たされたといえるでしょう。自分でいうのも変ですが、エモーショナルな気持ちになりました。
ちなみにこのスプラッシュグリーンの遍歴をたどると、北関東→越谷→静岡→広島→北関東と、日本を巡る旅をしてきたようで、現オーナーさんから「大丈夫です、ずっと乗りますよ!」と温かい言葉もいただきました。歴代のオーナーにずっと可愛がられ続け、最後にこの情熱的なオーナーさんのもとに嫁いだようで本当に嬉しい。
なにより、スプラッシュグリーンが23年間ずっと元気に走り続けていたことも、一人のロードスター乗りとして感無量です。こんなスプラッシュグリーンとの再会は、「ロードスターは人を繋げる」をまさに実感する出来事でした。
最後に、現オーナーのNさん、このようなお時間を頂き、本当にありがとうございました!
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