新車のロードスターは、まだ「手が届く」存在か?(ベースグレード価格推移)

新車のロードスターは、まだ「手が届く」存在か?(ベースグレード価格推移)

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人馬一体が揺らぐ?ベースグレード乗り出し300万円の衝撃


2026年のマツダウェブサイトより引用

「あのロードスターが、乗り出し300万円を超えた」

2024年1月、ND型の大幅改良(ND3)の価格表を見て、驚いたひともいたのではないでしょうか。かつて、マツダ・ロードスター(MX-5)はアフォーダブル(=良心的な価格、手が届く)スポーツカーの代名詞でした。極論、本気になれば免許を取り立ての若者が、アルバイトや新入社員の給料でも(頑張ってローンを組んで)購入することができた、そんな「民主的なスポーツカー」の一台でした。

しかし、現在はベースグレードの「S」ですら車両本体289万円、諸経費を足せば300万円を超えてくる。もはや「若者の特権」ではなく「選ばれし大人の趣味」になってしまったのでしょうか?お金がないなら型落ちの中古を探せ?・・・それはそれで楽しいですけれどね。

そこで今回は、1989年の初代NA誕生から2026年現在のNDに至るまで、「経済指標」と「ロードスター価格」の相関関係を検証してみました。ここで見えてきたのは、厳しいインフレの現実と、それを乗り越えようとした歴代モデルの奮闘です。

※車両本体にかかる税金は年次により違っているため、税抜き価格と税込み価格を併記しています。
~1997 物品税 6%(自動車取得税)
1997~ 消費税 5%
2005~ 自動車は税込表記に統一
2014~ 消費税 8%
2019~ 消費税 10%

歴代大卒初任給の情報ソース → 厚生労働省調べ

NAの支持は「安かった」からではない


時計の針を1989年(平成元年)に戻しましょう。日本中がバブル景気に沸き、ユーノス・ロードスターがデビューした年、当時の価格は170万円。一見「安い!」と誰もが思いました。なぜなら当時の若者はアイデンティティにマイカーの所有があり、さらにスペシャリティカー(ソアラやプレリュード(200〜300万円台))に憧れていたからです。しかし、データをよく検証すると、少し違う景色が見えてきます。

【検証1】NAロードスターの体感価格(1989)
1989年の大卒初任給:約16万900円(厚生労働省調べ)
ベースグレード車両価格:170万円(税抜)→ 実売196万円(エアコン+税込)

グレード ベースグレード 型式 E-NA6CE
全長×全幅×全高 3970×1675×1235mm 車両重量 940kg
エンジン型式 B6-ZE[RS] 総排気量 1597cc
最高出力 120ps(88kW)/6500rpm トランスミッション 5MT

購入に必要な期間:初任給の約11.5ヶ月分
参考)最も高価なNA
M2 1001(1992):340万円(税抜) → 実売376万円(エアコン+税込)

当時の消費税は導入されたばかりで3%、社会保険料の負担も今よりずっと軽いものでした。それでも、新入社員がロードスターを買うには、額面給与の約11ヶ月分が必要であり、しかも「エアコン」はディーラーオプション(約15万円)だし、自動車は消費税が適用されず、物品税(6%→1997年まで)の適用と、実売価格は196万円・・・決して「激安」ではありませんでした。移動初段だけであれば、軽自動車のアルトバンが54.3万円でしたので・・・

しかし、当時は「給料は毎年上がる」という確信があり、未来への希望が170万円という掲示により、ハードルを低く見せていました。そして何より「FRオープンの非日常」は、他のどんな贅沢品よりも費用対効果が高かった。そんな経済的背景がありました。

NBロードスターの価格還元


ロードスター約35年の歴史の中で、最もアフォーダブル(買いやすかった)時代となると、それは1998年1月にデビューしたNB型(2代目)の世代になります。当時の日本経済は、バブル崩壊後の金融危機と消費増税(5%)に喘いでいました。しかもマツダは5チャンネル戦略の頓挫により、フォード資本による経営再建の真っ最中。

しかし、マツダはNBの価格を177万円(標準車)に設定しました。NAからの値上げ幅はわずか7万円。ベースグレードとはいえ性能向上(安全性強化、エアコン標準装備)を考えれば、実質値下げに近い状態でした。

【検証2】NBロードスターの奇跡的な買いやすさ(1998)
1998年の大卒初任給:約19万5500円
ベースグレード車両価格:177万円(税抜)→ 実売185万円(税込)

グレード 標準車 型式 GF-NB6C
全長×全幅×全高 3955×1680×1235mm 車両重量 1010kg
エンジン型式 B6-ZE[RS] 総排気量 1597cc
最高出力 125ps(92kW)/6500rpm トランスミッション 5MT

購入に必要な期間:初任給の約9.4ヶ月分
参考)最も高価なNB
クーペTypeA(2003):310万円(税抜) → 実売322.5万円(税込)

購入ハードルは単純計算で、NA時代の初任給・約11ヶ月から、NBは9.4ヶ月へ大幅に短縮されました。1990年代後半、日本の賃金はまだピーク圏にあり、そのなかでマツダは徹底したコスト管理(NAからの部品流用や生産効率化)によって、価格上昇を極限まで抑え込んだのです。「NBはユーザーへ還元した」とは開発エンジニアの言葉ですが、それでもロードスターは「儲かるクルマ」だったことが凄い。

さらに2000年代、日本が深刻なデフレ(物価下落)に突入してもNBロードスターはそこに在り続けました。2001年、デフレのど真ん中で様々なメーカーがスポーツカー(RX-7、スープラ、シルビア、GT-R)を生産終了させるなか(※)、NB・・・というか、ロードスターとMR-S(186万円)のライトウェイトスポーツ勢だけが「新入社員がボーナス併用で無理なく買えるスポーツカー」の最後の砦として奮闘していたのです。
※経済的理由だけでなく、安全対応、環境対応等の規制強化により開発コストに見合わなくなった

NCロードスター、220万円は実質の値下げ


2005年、NCロードスターのデビューは一部のファンに戸惑いが起きました。「3ナンバーで大きくなった」「重くなった」という話題が先行したことです。しかし、これらは全て微増レベルで、ロードスターの本質となる正統ライトウェイトスポーツの素性は変わりません。今の目で見ると恐ろしくコンパクトなクルマであることが分かります。また、単純に価格を先代NBのベースグレード(177万円)から「約30万円アップ」と捉えるのも早計です。

【検証3】デフレ時代のNCロードスター(2005)
2005年の大卒初任給:約20万3230円
ベースグレード価格:209.5万円(税抜)→ 実売220万円(税込)

グレード ロードスター 型式 CBA-NCEC
全長×全幅×全高 3995×1720×1245mm 車両重量 1090kg
エンジン型式 LF-VE 総排気量 1998cc
最高出力 170ps(125kW)/6700rpm トランスミッション 5MT

購入に必要な期間:初任給の約10.8ヶ月分
参考)最も高価なNC
25周年記念車(2014):309.5万円(税抜) → 実売325万円(税込)

前提として、NCはそれまでの「NA/NBのキャリーオーバー」ではなく、そのスピリットを継ぎながら「ゼロから作り直された」全く新しいスポーツカーになります。プラットフォーム刷新により剛性や安全性は劇的に向上し、マルチリンク式サスペンションやMZRエンジンの余裕により、大幅に商品性は向上しています。まさに、ロードスターが世界レベルのライトウェイトスポーツのベンチマークへ脱皮した瞬間でした。

また、NB時代のベースグレード(標準車)は1600ccであり、格上のエンジンを積む1800ccのベースグレード(S)は218万円(税抜)(→228万円(税込))なので、機能向上した2LのMZRエンジンを鑑みると、実質は値下げになっているのです。

さらに、2008年のリーマンショックと、その後の超円高(1ドル70円台)において、輸出で利益が出せない地獄のような環境下においても、マツダは国内価格を大幅に上げず、最終的にはベースグレードの「S(2014年モデル)」で239.7万円、デビューから20万円の値上げで踏ん張り続けました。

NDロードスターの300万円は高いのか?


そして現代、2015年のND型(4代目)はベースグレード(S)は249万円(税込)でしたが、現在は同グレードで289.8万円(税込)・・・プラス40.3万円となっています。ここで少し計算をしてみましょう。

【検証4】NDロードスターの推移(2015)
2015年の大卒初任給:約20万5000円
ベースグレード価格:231万(税抜)→ 実売249万円(税込)

グレード S 型式 DBA-ND5RC
全長×全幅×全高 3915×1735×1235mm 車両重量 990kg
エンジン型式 P5-VP[RS] 総排気量 1496cc
最高出力 131ps(96kW)/7000rpm トランスミッション 6MT

購入に必要な期間:初任給の約12.1ヶ月分
参考)最も高価なND1/2
30周年記念車 RF/MT(2019):398.5万円(税抜) → 実売430.3万円(税込)

【検証5】現行NDロードスターの推移(2024)
2024年の大卒初任給:約23万9000円
ベースグレード価格:263万(税抜)→ 実売289万円(税込)

グレード S 型式 5BA-ND5RE
全長×全幅×全高 3915×1735×1235mm 車両重量 1010kg
エンジン型式 P5-VP[RS] 総排気量 1496cc
最高出力 136ps(100kW)/7000rpm トランスミッション 6MT

購入に必要な期間:初任給の約12.1ヶ月分
参考)最も高価なND3
SPRIT RACING ROADSTER 12R(2026):692万円(税抜) → 実売761.2万円(税込)

給料の12ヶ月分・・・これはNA時代(11.5ヶ月)、NB時代(9.4ヶ月)、NC時代(10.8ヶ月)と、単純に比較すれば過去最高のハードルになっています。さらに我々を苦しめるのは可処分所得の減少で、1989年当時の給与からの天引き(社会保険料+税)は10数%でしたが、現在は20%〜25%近くなっており、消費税も10%になっています。つまり、手元に残るお金(使えるお金)で計算すれば今の若者がロードスターを買う苦労は、NA時代の若者の1.5倍近い感覚になるでしょう。

しかし、NDロードスター単体で考えると、経済状況に合わせた価格上昇であり、物価そのものとしては「横ばい」であるのは注目すべきポイントです。そう、めっちゃ頑張っているんですね。

また、価格上昇をメーカーのせいにするのはあまりにも酷といえます。年が進むごとに安全装備の義務化(先進運転支援システム(ADAS)や衝突安全ボディ)は、数十万円単位のコスト増を招くものですし、環境規制(排ガス規制)やサイバーセキュリティ規制のために、エンジンには高価な触媒が必要になり、高度なコンピュータ制御も必要になっています。さらに、円安(1ドル150円)の世界では、鉄もアルミもエネルギーも、すべてが高騰している実情があります。

むしろ、世界を見渡すと特殊な国内事情が浮き彫りになります。北米や欧州で「MX-5(Miata)」を買おうとすれば、今や3万ドル(約450万円)スタートであり、「日本だけが、世界で一番ロードスターを安く買える」 事実はずっと変わっていません。マツダは日本市場のために、(おそらく)利益を削ってでも200万円台(税抜)を死守している、そんな執念を感じませんか?

アフォーダブルの「新定義」


ここでロードスターの価格推移を、経済状況(物価・デフレ・税制)と絡めて分析しました。

結論から申し上げますと、価格だけでみればロードスターは「デフレ時代の優等生」から「世界基準のプレミアム・スポーツ」へ変質しているように見えます。では、ロードスターはもはや「アフォーダブル」ではないのか?となると、私は、アフォーダブルの意味を広義に解釈したいのです。

かつてのアフォーダブルは「安くて手軽」という意味を指していましたが(Cheap & Easy)、2026年のアフォーダブルは「人生を賭ける価値があり、決して不可能ではない」(Valuable & Reachable)という意味に捉えたい。例えば800万円のポルシェ・ボクスターは多くの人にとって「夢」で終わる可能性があります。400万円のGR86/BRZは素晴らしけれど、屋根は開かないし、維持費やサイズで躊躇するかもしれない。しかし、ロードスターはまだ頑張れば届く「ギリギリ」の範囲にあると思うのです。

また、近年は自動車趣味において「資産価値」という視点も明確になってきました。

かつてのクルマは「購入直後から価値が下がる消費財」でした。しかし、NA/NBのようなネオクラシックスポーツカーの中古車相場、つまり良質な個体は、既に新車価格を超えつつあります。ロードスターのようなスポーツカーは単なる移動手段ではなく、「価値が保存される資産」になりつつあるのです。下世話な話かもしれませんが、300万円で買って10年乗っても150万円の価値が残るなら、実質負担は月額1万円ちょっと。そう考えれば、これほど人生を豊かにする投資はなかなかありません。

年月 型式 モデル概要 当時の価格
(税抜本体)
2025年の価値で換算 備考
1989.09 NA 初代デビュー 170.0万円 208万円 実質200万円強。今の軽スーパーハイトワゴン並みの感覚で買えた
1993.09 NA8Csr1 1.8L化 175.5万円 196万円 実質価格は低下、バブル崩壊後の価格抑制努力が見える
1995.08 NA8Csr2 シリーズ2 169.0万円 187万円 円高・デフレ不況下での値下げ、ロードスターが最も安価だった
1998.01 NB1 2代目デビュー 177.0万円 191万円 コストダウンを徹底したNB、性能向上しても価格は据え置きに近い
2000.07 NB2 1.6L最終 183.9万円 201万円 デフレ進行中だが、装備充実で少し値上がり
2005.08 NC 3代目(2.0L) 209.5万円 234万円 3ナンバー化・2.0L化で「ライトウェイト」の定義が変わった分岐点
2015.05 ND 4代目(1.5L) 231.0万円 250万円 原点回帰したが、先進安全装備等のコスト増で実質価格は上昇トレンドへ
2024.01 ND3 大幅改良(ND3) 263.5万円 263.5万円 初代と比較し、実質負担額で約56万円(+27%) の上昇


ロードスターはアフォーダブルか?

もちろん若者が「ノリで買えるクルマ」ではなくなった事実は変わりません。1989年比でロードスター価格上昇率は1.55倍になりましたが、日本の物価全体(CPI)は1.25倍程度。つまり「物価上昇のスピード以上にロードスターの価格は上がっている」からです。日本人の所得が増えないなかで、クルマだけがグローバル価格(正当なインフレ)に近づいてしまった、そんな実情があるんですね。

しかし、(繰り返しますが)世界的に見れば2万ドル台後半〜3万ドル(約450万円〜)で販売されているスポーツカーが、日本国内だけ200万円台(税込289万円〜)で踏みとどまっていること自体が「奇跡」といっても過言ではありません。したがって、今のNDも10年後には「あの頃はガソリンエンジンで、しかも300万円で買えたなんて奇跡だった」と語られる日が来るのではないでしょうか。

先のことは誰も分かりませんが、ロードスターがアフォーダブルな存在であることは、まだ続くのではないかと個人的に思います。新車から乗るロードスターって本当にいいんですよね・・・

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