ロードスターの慣らし運転(ラッピング)

ロードスターの慣らし運転(ラッピング)

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デビューからすでに30年以上経つNAロードスターと、実は20年経過しているNBロードスター。

さらにNCロードスターも含め、先代車種は新車購入しようにも物理的に不可能です。新車時のコンディションを味わうのであれば、よほど極上の保管整備されていた個体をみるけるか、徹底的なレストアなどのコストをかける必要があります。

そんなネオクラシック・ロードスターには、新車時に「儀式」がありました。エンジンやシャシーなど、メカにあたりを付る「慣らし運転」、別称ラッピングです。

ただ、慣らし運転自体は「必要」と「不要」で長年論争されています。いまいち何を信用していいのか分かりづらいですよね。しかし、NA/NBロードスターに関しては面白い記録が残されていますので、今回はそちらをご紹介します。

「慣らし運転」の前提


一般的に、機械の使用開始直後は「初期故障期」とされています。故障率は時間経過とともに低下し、やがてメカが安定した状態になっていくのです(故障率曲線)。特に、約3万点にもおよぶ部品の集合体である自動車も例外ではありません。

当然、クルマはメーカー出荷時に厳しい検査が課されています。しかし、実際の熱や振動など想定しきれなかった干渉や緩みにより、部品は故障する可能性があります。特に、現場ノウハウが蓄積しきれていないデビュー直後の新車にリコールが多発するのは、そういった想定外のトラブルが原因です。

そのため自動車ディーラーは販売1か月後、あるいは走行距離3,000kmなどの定量的なポイントで、無料点検サービスを実施しています。顧客サービスと共に、メーカーに状況をフィードバックしているのです。

一方、オーナーも新車時にはメカに負荷がかからないような運転を心がけ、一定の走行距離に達するまで「慣らし運転」をするのが通例となっています。

これは乗用車だけでなく、レースカーなどの競技用車両も「シェイクダウン」として慣らし作業を行います。組みあがったクルマをいきなり実戦投入せず、例えば1レース走行する距離を走らせて、不具合を摘出しているのです。

期待できる効果


機械的な緩み、嵌めあいの補正
実際の使用による振動で、ボルトやねじなどの各部品が緩む可能性があります。それを点検時などにチェックすることで、ウィークポイントを早期に発見、修正できます。

特に、エンジンやトランスミッションなどには「アタリを付ける」という表現があります。メーカー基準の加工精度でも、金属が擦れる部分でフリクション(抵抗)は発生するし、樹脂パーツの硬度は変化します。新車から徐々にこなすことで、メカの動作を滑らかにしていくのです。

各種リークの発見
エンジン、トランスミッション、ベアリングなどに使われているシールが不良品だったり、配管の継ぎ目がきちんと取り付けられていなかった際は、オイル漏れなどの漏水がおこります。これは出荷時に発見し難い、使ってみないと発見できない不具合です。

冷却水、エンジンオイル、トランスミッションオイル、ブレーキオイル、エアコン冷媒などの流体は冷熱変化と振動を加えることで、配管を慣らし・ほぐしていくことが有効なのです。

足周りの慣らし
タイヤのゴムは実走行で発生する熱で変質し慣らすことで、次第に性能が発揮するようにセットされています。つまり、一皮むくことで本来のグリップ力(性能)を引き出せるのです。ブレーキパットやディスクなども同様で、一定の負担をかけることで本来の性能が発揮するとされています。

また、リム組みやエアバルブの不良による(じわじわと空気が漏れ出す)スローパンクチャーは出荷時に発見し難く、慣らしを行うことで対策をすることが可能になります。

不必要という意見


かつては、自動車の取扱説明書にも「慣らし運転」は記載されていました。しかし、2000年以降は項目自体がそんざいせず、それならば不要であるという考え方もあります。

実際、日常生活の使用(通勤、通学、買い物など)が大半であれば、新車から負荷をかける使い方は少ないはずで、普通に使用しているだけで十分「慣らし運転」になるのです。

面白いのは各メーカーの「慣らし運転」におけるスタンスです。

必要なし : トヨタ、ホンダ
絶対ではないがしたほうがよい : 日産、マツダ
したほうがよい : スズキ、スバル、ポルシェ、メルセデス

※特に日産GT-Rは「慣らし運転」の細かい指定があることで有名です。

ロードスターの慣らし運転


ロードスターに関しては、初代NAロードスターのセッティングを行い、その後M2を率いた立花啓毅氏のインタビューにて、興味深い解答が残されています。以下、引用です。

エンジン/ギアボックス

①1km~500km
できれば止まらずに一気に走ってほしい。レブリミットは最大3500rpm、だいたい3000rpm前後を使って、速度を変えながら、シフトチェンジをゆっくり、シンクロの手応えを感じながら、できればダブルクラッチを使う。

②500㎞~1000km
レブリミットを4000rpmに上げる。ポイントは出来るだけエンジンに負担をかけないようにしてやる。このへんでオイル交換。

③1000km~1500km
十分に暖気した後(停めたままアイドリングすれば良いという意味ではない)、最初は一瞬、ほんの数秒レッドゾーンまで回してやる。その後徐々にその頻度を増してやる。エンジンは回さないと、所期の性能を発揮しなくなる。
これを繰り返しながら、5000kmくらいでラッピング終了。

オイルはそれほどグレードが高くなくてもよいが、交換は頻繁に、飛ばす人は1000km毎くらいに。ラッピング(慣らし運転)の時間を短くすると、それだけエンジンの寿命が短くなります。

ブレーキ
①最初は60km/hぐらいから0.3~0.5G(緩制動)で十数回踏んで、パッド表面を剥いてやる。
②0.7~0.8Gほどでフェード間際まで強くする。10回ほど、度を越さないように冷やしながら、パッドに焼きをいれてやる。
③その後、もう一度最初のように表面をきれいにしてやる。

別冊CAR GRAPHICS選集(二玄社):マツダ・ロードスターより

タイヤ
タイヤに関しても、メーカーにて下記内容の記載があります。

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タイヤは、新品から急激に過酷な条件で使用すると異常発熱による損傷を起こしやすくなります。ならし走行を行うことで、タイヤの表皮がとれて本来のゴムのグリップが発揮されます。また、タイヤ交換前後の性能差に馴れていただくことで、安全走行が確保できます。

新品タイヤ装着時にはタイヤがなれるまで、夏用タイヤの場合、80km/h以下の速度で最低100km以上、冬用タイヤの場合、60km/h以下の速度で200km以上の走行距離の慣らし走行を行なってください。

ブリヂストンWebより引用

今更ではありますが、ロードスターは10万キロまでが「慣らし運転」です。新車を手に入れることができない旧世代は神経質になる必要はありません。あくまで箸休めなトピックでした。

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