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90年代後半のマツダといえば、今や伝説の迷走期。多チャンネル戦略(マツダ、アンフィニ、ユーノス、オートザム、オートラマ、アマティ(企画のみ))の崩壊にともない、経営再建のためにフォード経営の傘下に入り、ディーラーおよび車種の統廃合が行われました。
時代背景
当時のマツダ・デザインテーマ「響きのデザイン」も虚しく、車種ラインナップに残されたのは基幹モデルのみ。マイナーチェンジで延命されたRX-7(FD)も、3代目で終了することが確定していました。
そのような状況下、スポーツカーとしては異例のスコアを記録したユーノスロードスター(NAロードスター)の後継車種、つまり2代目ロードスターはフォードより許可を受け、既に開発がスタートしていました。
これは、ロードスター自体が採算の取れていた「儲かる」車種であったことと、自動車産業に関わる身であればスポーツカー開発に参画したいというのはフォード出向者も一緒だったこと、さらにフルモデルチェンジを謳いながらも実質はNAロードスターのスキンチェンジであったことなど、様々な要因が絡みます。
もちろん、経営陣のGOサインが降りる前から先行開発はスタートしていました。次世代ロードスターの初期デザインスケッチは94年頃にさかのぼるので、NA8の時代には、既に「次の一手」が始まっていたのです。
とんでもない仕事を引き受けた
有名なエピソードとしてNBロードスターを担当された貴島主査は「とんでもない仕事を引き受けた」という回顧録を様々な媒体で残しています。その理由は、当時の自動車業界における「フルモデルチェンジ」の定義にありました。
次世代モデルは分かりやすい「豪華装備」「馬力向上」「大型化」・・・という先代からわかりやすい進化、車格の向上を指すことが多く、初代モデルがヒットすればするほど2代目モデルは本質的な「良さ」を見失って、結果として大失敗する事例が多かったからです。(ネガティブ・ジンクス)
そこで、次世代ロードスターの開発チームは、ロードスターのコンセプトである「人馬一体(=乗って楽しい)」理由を、改めて定義することから始めました。
その結果、目指すべきライトウェイトスポーツカーの進化は、パワー向上でクラスアップをするのではなく「軽さは性能」という目標に軸を置き、あえて寸法を変えない制限をかけながら、メーカーでしか実行できないメカ(中身)を鍛えること・・・衝突安全基準や環境規制の対応、剛性アップ、シャシーセッティング、さらに軽量化といった、目に見えづらい部分の熟成を行いました。
注目すべきは当時のエンジニアインタビューで、新型採用の6MT(アイシン製)よりも5MT(マツダ製)の改良を熱く語っていることです。NAロードスターは寒い日にシフトミス(特に2速が入らない)を招くことが多く、致し方なくダブルクラッチを行うことになるのですが、NBロードスターではほとんどそれがありません。(これは是非NA乗りの方に体験してもらいたい・・・)
担当したくなかった
また、林浩一チーフデザイナー(故人)もNBロードスターは「担当したくなかった(笑)」とコメントを残されています。なぜなら、米国でNAロードスターの前身になるP729計画のDuo101、V705(試作プロトタイプ)、アドバンズデザインを扱っていたこともあり、その完成形(プロダクトデザイン)であるNAロードスターの完成度が高く、「いじりたくなかった」との事です。
一方で、リトラクタブル・ヘッドライトのイメージが強いNAロードスターにおいて、先行デザインでやり残したことが「目(表情)を与えたかった」ということがありました(NAロードスターのウインカーにその名残があります)。
したがって「目」の解釈を、NBロードスター最大の特徴といってもいい固定ヘッドライトへ置き換えて、デザインのブラッシュアップを行いました。なお、リトラクタブル・ヘッドライトの廃止理由は、欧州の灯火レギュレーション対応とコストダウン、そしてオーバーハングの軽量化をするためという、ロードスターが延命するために必要不可欠な選択でした。
ちなみに、今でこそNDロードスターはヘッドライト・ユニットにLEDを採用して軽量・薄型を実現していますが、98年当時の技術ではNBロードスターのヘッドライトですら、ユニットのダイエットは限界まで攻めているそうです。
ただ、残念ながらNBロードスターの丸目異形ヘッドライトはプレッソ(MX-3)やクレフなど「ヒットしなかったマツダ車」に近いいイメージだったことで、デビュー時から不評を買うことにも繋がりました。改めてディティールを確認すると、ハッピースマイルフェイスを継承した愛嬌がありつつも、時折キリッとみえる表情が良いんですけどね。
リトルジャガー
結果的にNBロードスターのデザインテーマは「NAロードスターのキープコンセプト」になりました。したがってNAロードスターの「ときめきのデザイン」(光と影のコントロール)を保ちつつ、「ロードスターらしさ」をよりダイナミックに、よりエモーショナルにブラッシュアップする方向で造り込まれていきました。
ちなみに、先代よりもより強調されたコークボトルシェイプで、さらに極力キャラクターラインを廃して曲線で構成されたオーガニックシェイプ(オーガニックフォーム)はアメリカデザインチームの案がベースになります。デザイン決定プロセスで、フォード(※当時ジャガーもフォード傘下だった)より「ジャガーに寄せろ」とされた噂がありますが、これは異なっているようです。
アメリカ側デザインチームのボスであったトム俣野氏により、ジャガーEタイプのような抑揚のあるブリティッシュ・ライトウェイトスポーツのリスペクトが込められていた事実はありますが、さらにNAよりもNBの方が欧州市場で売れていたこともあり、結果リトルジャガーと呼ばれていたのが噂の発端のようです。
ハッピースマイルフェイス
ロードスターらしさを表現するために「ハッピースマイルフェイス」も意識して引き継がれています。これは現行のNDロードスターまで継承されているロードスターデザインのアイデンティティーですね(※NC1のオーバルグリルも、ヘッドライトとセットで笑っています)。
しかし、NAロードスターで特徴的だったドアハンドルは他車流用(MX-6など)に変更されてしまいました。デザインコンペではNAロードスターのものを流用していましたが、女性のネイルに配慮した「一般化対応」とともに、マツダ部品統合による影響が大きいようです。
ただ、デザインにより機能がブラッシュアップされた点もあります。
まずはサイドミラーの位置です。NAロードスターはホイールベースの中央にミラーがあるのですが、NBロードスターはミラー位置を20㎜前方へ移設し、止まっていても「疾走感・ダイナミックさ」を演出していることと同時に、視認性も向上させています。
また、サイドのベルトレリーフに合わせてサイドシルがより太くなりました。ドアカットのラインも直線から曲線に変わったことで、剛性強化に寄与しています。トランクがダックテールになったことはデザイン上のアクセントが理由でしたが、結果として空力の向上にも繋がりました。
このようにデザイン自体が機能となる手法は、RX-7(FD)から引き継いだもので、ある意味でマツダスポーツカーのDNAを引き継いでいます。
NB1(前期型)ロードスター・まとめ
当時のプロモーションフレーズを見ると、「変えないために変えた。」「おいしところを使い切る。」「進化のほどは、コーナーに聞け。」面白いほど楽しめる。マツダNEWロードスター誕生・・・といった、まずは乗ってから感じて欲しい!・・・という想いが込められています。
なお、国内では不人気車扱いだったNBロードスターですが、欧州市場ではNAロードスターのネガティブな要素(主に走行性能)が解消されたことと、取扱販社が増加した影響もあり、NBロードスターの方が売れました。
どうしても主人公にはなりきれないNBロードスターですが、細かいこだわりを知れば知るほど、そして「体験」するほど、最高のライトウェイトスポーツカーのを味わえます。今だからこそ、改めて乗ってみて欲しい一台です。
こちらはデビュー直前のムービーです。今思うと、納得できる内容です。
NB1:16,662台
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