NCにVTEC?ありえない!(D-2)

NCにVTEC?ありえない!(D-2)

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貴島孝雄さんインタビューの続き、NCロードスターのエピソードです。主査になった段階で予定されていたNCの初期プランは、どう考えても大きく・重い、ロードスターの方向性として相違するものでした・・・

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NCのベンチマークは


これはNBがベンチマークになる。ロードスターのような「味」を持つクルマは、世界中探してもどこにもない。だから自らを超えるという目標になった。NAもNBも図面は全部あるし構造もわかっているから、ティアダウン(※分解解析)をする必要もなかった。


NC時代は3Dコンピュータ解析が充実した時代で、衝突安全シミュレーションもコンピュータで出来るようになっていた。ここからの時代は「オフセット衝突」の車速が上がって厳しくなるから、材料も新しいハイテンションスティール(高張力鋼)を使わないと、軽くて強い構造がとれなかった。


ハイテンションスティールはバネ鋼のように硬くて曲がらないから、ホットスタンプという熱を加えた整形をおこなう。そこで下請けがホットプレスという機械を使う為に投資をしなければならなかった。ロードスターだけで投資効果は成立しないから、デミオのクロスメンバーと一緒に発注をおこなった。

NCの初期プランは


しかし、NC最初のプランが最悪だった。RX-8のホイールベースを縮小して、脚はキャリーオーバーで開発コストはゼロ。つまり、「そのままでやれ」となっていた。もともとエイトはNCありきのワンセット企画だけど、ロータリーのパワーを受けるためのポテンシャルは、ライトウェイトとしては豪華すぎて重い。


これでは今までのロードスターファンに申し訳なくて、どうしようかと思っていた時に、神風が吹いた。当時、日本が円高になって1ドル125円が96円くらいになってしまった。これは会社としては大変なことだから、部品コストを25%下げろといってきた。


当時、シャシー設計部の部長は私の元部下だったから、エイトはもちろん、ロードスターに合う軽い脚を再設計させた。もちろん単に「作ってくれ」で人は動かないので、コストダウンのアイディアや効果予測などのデータを持って、主査として一緒に彼の上司へ根拠の説明にいった。


それはミッションも同じことで、パワートレーンは1年以上先行してやらなければならないけれど、NBのミッション(6MT)が最初から悪いことはわかっていた。

そこで、社内にもスポーツカーが好きな、私の思想に共感する人もいてくれるから、マツダとしてミッションも大事でしょう、ロードスターはマニュアルのエンゲージが主力の商品だから、これだとシフトフィール悪いだろう・・・とNBに乗ってもらった。

そして、NAのカチッとした5MTも触ってもらって、こういうのを作りたい、このフィールを6速で出したいと伝えると理解をしてくれた。それなら、これらをまとめて開発しようやと、彼らの上司を説得しに行った。

その代わり工数と開発費を出せとなるので、それは任せてもらった。その代わり目標はA社より軽く、シフトフィールの評点は2点以上いいもので、コストも下げてくれとお願いした。

ホンダエンジンの噂


ホンダにエンジンを頼みに行った?そんな話は絶対ありえない。例えば、なぜフィアットがマツダにクルマを頼みながらエンジンが自前かというと、彼らは自分たちのクルマだというため。仮にエンジンまでマツダだったら「124」という名前でも、お客さんはマツダのクルマと思ってしまう。

OEMなら諦めるけれど、オリジナルで、特にスポーツカーでエンジンを借りるのはありえない。もちろんエンジンを外で買ってきたら、高くなってアフォータブルなんて絶対無理になる。


また、VTEC(ブイテック)みたいなエンジンがマツダに合うかというと、多分S2000みたいになってしまうから、そうも思わない。マツダのいい脚・操安性に合った、低速からトルクが効いている(マツダ)エンジンでないと、いいものは作れない。


本当のところ、馬力とかトルクではなくて「PPF(パワープラントフレーム)」のような駆動ロスを減らすとか、ねじり剛性を高めるとかが重要で、それで「しっかりした感じ」を出せる事がわかっている。

回るのはいいけれど、トルクが出るところも回転が上では俊敏に感じない。初動の立ち上がりはロードスターの一体感に繋がっている。5000回転以上で走るならいいけれど、出だしがアレでは「うにゅーっ」となってしまう。多分、サーキットはああいった方が絶対楽しいから、彼らはサーキットで開発していると思う。

次回に続きます

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NCはインチダウンしたかった(D-3)

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