巨大なNBロードスター(デザイン検討3)

巨大なNBロードスター(デザイン検討3)

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1993年からスタートした次世代型ロードスター(NB)の開発は、1994年にデザイン検討、量産決定は1995年、デザイン最終決定は1996年3月となりました。

デザイン検討を始めた段階で、世界中に拠点を持つマツダデザインの各スタジオは基本的にキープコンセプトを示してきましたが、カリフォルニア(MRA案)だけはモアパワーかつGT寄りな・・・一回り大きい「ロードスター」のデザインを提出してきました。

最終的には広島案(丸目デザイン)とMRA案のコンペが行われ、ウィナーはMRA案となりました。ただ、そのデザインコンセプトカーに対して「一回り以上大きかったサイズを小さく削った」という記録が残されています。

→広島案(丸目デザイン)はこちら


そこで今回は、デザインコンペを勝ち抜いたMRA案の解説とともに、プロダクト(量産)デザインに至るまでの流れをご紹介します。なお、MRA案のフェイスは「NAロードスターのターンランプ(ウインカー)」をモチーフにしたヘッドライトを用いて、クルマの「表情」を作っています。

「MRA案」一次クレイモデル


一次クレイモデルのサイズは全幅1740mm(※3ナンバーサイズ)となっていました。NBロードスターの全幅が1680mm(正確には1678mm)と考えると、62mm(104%)とかなり幅広なことが分かります。


フロントビューを確認すると、ボンネットのパーティングラインがNCロードスターのようにヘッドライト手前で分割されています。NAロードスターと同じサイドミラーのサイズを鑑みると、フェンダーの抑揚からみてもワイドボディであることが分かります。


サイドビューはオーバーハングが目につき、若干ホイールベースが伸びているように見えます。ただ、前後ホイールのサイズを確認すると写真にパースがついているので単純な比較ができません。ただ、NAロードスターに準じたドアノブのサイズとAピラー、サイドミラー、三角窓を鑑みると、NAロードスターと共通のプラットフォームを意識していると思われます。


つまり、全長・全幅が極端にワイドになっているのです。


リアの抑揚も量産モデルにイメージは近しいですが、パーツのサイズが一回り大きいので迫力が増しています。


折角なので比較をすると、クレイモデルは現行NDロードスターの全幅1735mmと近しいサイズになっていることが分かります。ヘッドライトのサイズを比較しても、量産型よりも小ぶりな「目」になっています。


NDロードスターのワイドボディは側突安全レギュレーションをクリアするため必須要件とされていますが、NBロードスターの時代に3ナンバーサイズであることに理由はありませんでした。


余談ですが、MRA案は初代オリジナルミアータ(DUO101)を手掛けた同一チームに加え、ダッジ・バイパー(バイパーRT10)のデザインチーフを務めたケン・セイワード氏がエクステリアデザインを描いています。

同氏はNB後期のアグレッシブな表情の方が「自分の描いたイメージに近い」と回述しています。

「MRA案」最終提案モデル


こちらは更にリファインされたMRA案です。

主査の貴島孝雄氏、デザイン主査の林浩一氏からのオーダーは「少しスポーティで男性的なデザインを取り入れる」「アメリカはもちろんの事、LWSの故郷である英国やヨーロッパでも人々を引き付けるクルマ」でした。

ヘッドライトを若干薄く造形し、ダイエットを図りながらもボディサイドの抑揚はよりダイナミックになっています。一見量産モデルに近しいイメージになりますが、ボディ全体はまだダイエットの余地があることがリアバンパーのサイズで分かります。なお、ドアノブはNAロードスターの物を流用していましたが、量産モデルに引き継がれませんでした。

そして、丸目デザイン(広島案)とのコンペを勝ち抜き、こちらのモデルがウィナーとなりました。

エクステリア最終モデル(プロダクトデザイン)


日本のチームにより、ウィナーとなったMRA案を5ナンバーサイズにダイエットしていく作業に入ります。「ライトウェイトの楽しさ守る」というエンジニアからの開発要件には、「NAロードスターと絶対同じサイズ」という指示があったからです。


しかし、デザイナーチームがどうしても抑揚を出したく、「フレア部分を片側1.5mm(全長+3mm)拡大したい」とエンジニアに申し出て、非国民扱いをされながらも5ナンバーサイズだから許された・・・というエピソードも残されています。


最終的にはサイドマーカーやドアノブなどマツダ車の既存パーツの流用を地道に行い、コストダウンや市場要件を満たしていきました。サイドミラーやテールランプの完成度は素晴らしいものになっています。

1998 MAZDA MX-5/Miata/Roadster mk2


そしてこちらが最終的に市販されたモデルです。

実はデザインの途中から株主の指示でデザインレギュレーションの変更が行われつつも、とてつもなく大きかったデザインをコンセプトと同じイメージで一回り以上コンパクトにまとめる偉業を達成し、今につながる「ロードスターらしい」デザインを完成させました。


様々なデザイン案があったなか、北米市場の意向によりMRA案(米国)を採用したのが唯一NBロードスターになります。これ以降のロードスターは、NC3のマイナーチェンジ以外は全て国内デザインです。

なお、当時のフォードグループにおけるオープンカーのトップモデルはジャガー(XK)で、ボトムモデルがMX-5という位置づけでした。そこでグループ内デザインの近似性を指摘されることがありますが、実際はMRAのチームが(サイズはともあれ)古き良きブリティッシュスポーツをリスペクトして、コークボトルシェイプのラインを活かすデザインにしたというのが真相のようです。


MRA案は、そんなNBロードスターの方向性を決めた重要なデザインスタディであるとともに、もし、あのままのサイズで発売されていたらライトウェイトではなく、違う方向性・・・そもそも巨大化したMX-5シリーズではモデル廃止になっていたかも知れません。


そういう意味ではライトウェイトスポーツの哲学を守った当時のエンジニアたちの熱意には頭が下がります。ロードスターの歴史は本当に奥が深いです・・・

関連情報:

スクープ!新型ロードスター(1997年)

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