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NA/NBロードスターのサイドブレーキが助手席側にあるのは海外市場のためではなく、B型エンジン排気管とパワープラントフレーム接合の都合です。逆にNC/NDの海外MX-5は同じ理由で右側にレバーがあります。重量物を低く、中央に寄せるスポーツカーならではの拘りです。
トヨタの心配り
現行型GRスープラ(A90,91)がデビューした際、ウインカーレバーの配置がちょっとした話題になりました。左ハンドル(輸入車)と同様に、左がウインカーレバー、右ウォッシャーレバーという仕様になっていたからです。
これは、生産委託するマグナ・シュタイヤー(オーストリア)が欧州にあるからではなく、「ウインカーの位置を変えるお金があるなら、走りを煮詰めるほうに使うべきだと考えた」と、チーフエンジニア多田氏からのアナウンスがありました。
ちなみに、同じく多田氏がチーフエンジニアを務めた86(ハチロク)は量産効果の高さが予想できたからか、右ハンドルと左ハンドルでキャビンの構成を左右入れ替えています。
サイドブレーキの位置にご注目いただければ、一目瞭然です。
スープラは年次生産数が限られているそうなので、割り切った作りにしているのかもしれませんが、ある意味で哲学を感じ、カッコいいですよね。一方で、ハチロクのこういうことに気が回せるのも、さすが大トヨタだと思えます。
NA/NBロードスターは左ハンドル優先?
さて、ロードスターに話を移しますと、NAロードスター(ユーノスロードスター)が国内デビューした際に、先のスープラのように、キャビンにおけるサイドブレーキの位置が「海外仕様と同じく左側だ」と話題になりました。国内仕様の右ハンドルでも「助手席側」にサイドブレーキレバーが配されていたからです。
実際、北米でミアータが先行デビューしていたことからも、ロードスターの主力マーケットは海外であるという認識は一般化していました。したがって、運転席側にサイドブレーキを移すコストはかけなかったと思われたのです。
開発陣の本音では、NAロードスターはアフォーダブル(手が届く存在)にする前提がありましたから、それも真実でしょう。もちろんサイドブレーキは機能的な問題はありませんし、むしろ助手席側に配されているのこと自体がプレミア感にも繋がっていました。※当然ミアータ(MX-5)は運転席側にサイドブレーキが配されています。
しかし、サイドブレーキが左側にある本当の理由は違います。実は、B型エンジンのパワートレイン(マフラー配管)とパワープラントフレーム位置の関係上、致し方なく左になっている・・・というのが真実になります。
ヨー慣性モーメントを切り詰め、重量物は低く・中央へ寄せるというロードスターのパッケージは、ギリギリのクリアランスでなされています。そんなコンパクトなボディとメカを作りこんだうえで、サイドブレーキのために配管パターンからごっそり変えることは、(ロードスターにおける)コスト的にも現実的ではありません。
つまり、左ハンドルのために配された左側のサイドブレーキではなく、あくまでB型エンジンの取り回しにおける都合です。したがって、NAロードスターと同じパワートレインの取り回しであるNBロードスターも、サイドブレーキは左側にあります。
NC/NDロードスターは右側にサイドブレーキ
ところがNCロードスターになると、サイドブレーキは運転席側(右側)に配置されました。これはボディが拡大した恩恵・・・ではなくて、新型MZRエンジンのパワートレイン、パワープラントフレームの取り回しによる都合です。
ちなみに、NCロードスターのボディは拡大しているようにみえても、それは安全要件の都合であり、メカの要素はNA/NBと比較しても、よりボディの中心に配置されています。全くもって隙のない造りは、エンジニアの意地というか、執念まで感じることができます。
したがって、海外仕様(左ハンドル)におけるMX-5のサイドブレーキも、右側に配置されています。面白いことに海外市場では「MX-5は日本車だからサイドブレーキが右側にある」とささやかれたとか。
これは、スカイアクティブ(VP系)エンジンになったNDロードスターも同様です。
国内仕様(右ハンドル)では運転席側にサイドブレーキがありますが、海外仕様(左ハンドル)では助手席側・・・つまり右側にサイドブレーキが配されているのです。こういった、隙のないメカを設計したことによる都合は、ある意味でロードスターの哲学を感じる部分でもあります。
実は、マツダ・スポーツカーのこだわりでもある
じつは、このサイドブレーキの配置はロードスターに限ったことではありません。
コンパクトな初代RX-7(SA22c)も、実は国内外仕様に関わらず「左側」にサイドブレーキが配されています。当時からセブンは海外市場を意識していたから(半分はそうでしょう)とされていますが、ヨー慣性を減らして、重量物を低く・中央に・・・という哲学をもとに造られたメカの都合は、当時からあるのです。
これは2代目RX-7(FC3S)でも同様です。
したがって、ロータリー乗りであったマツダファンは、NAロードスターがデビューする以前から「マツダスポーツカーは左側にサイドブレーキ」という意識が、刷り込まれていました。
面白いことに、シーケンシャルツインターボをギチギチにセットしている3代目RX-7(FD3S)は、同じ13Bロータリーエンジンの系譜でありながらも、配管を始めとした取り回しを全てリファインしてあります。
そのうえで、ボディ左側にパワープラントフレームを取りつけている都合から、サイドブレーキは右側に配置されています。
もちろん、走行性能を追求するセブンは海外仕様でも妥協はありません。海外仕様のFDは左ハンドルでも右側にサイドブレーキが配されているのです。これも、国内市場が優先されたのわけではなく、あくまでメカの都合なのです。
未来のサイドブレーキは?
サイドブレーキの位置が右か左か・・・なんて話題も、近年はブレーキレバーそのものを電磁式(プッシュ式)に置き換えるのがトレンドになってきました。
2024年に発表される(と噂される)次世代ロードスターはぎりぎりガソリンエンジンでしょうけれど、その先の世界線にはモーター駆動になったロードスターが待っているかもしれません。
ただ、その際は電磁式(プッシュ式)ではなく、レバーをギュッと引くアナログなサイドブレーキの「味」を、スポーツカーであるならば残してほしいところです。でも、電磁式のほうが「安くて軽い」といわれたら・・・それはロードスターにおける呪いの言葉。電磁式でも仕方がありません。
ただ、今のうちにアナログ式のサイドブレーキレバーを楽しみたいと思うのでした。
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