エアコンレスだったロードスター

エアコンレスだったロードスター

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ユーノスロードスターは、基本エアコンレス仕様


ロードスター史上、古い方しか覚えていないであろうトリビアのひとつに、初代ユーノスロードスター(NA)は最終型まで「エアコンがショップオプション(ディーラーオプション)だった」というものがあるでしょう。

今の基準で考えるとなぜ?となるかもしれませんが、そもそも当時はエアコンレス車両が珍しくなかった時代であり、スポーツカーに余計な装備は不要という考え方もあったので、「マツダは分かっている」とエンスージアストからは逆に好評を得ていたのです。また、夏でも真夏日(30℃)を超えることが少なく、屋根を空けて風が当たれば大丈夫・・・なんて考えもありました。熱帯夜のオープンは地獄でしかないですけどね・・・


ちなみに、ユーノスロードスター(NA)デビュー時の車両本体価格は170万円(税別)。エアコンもパワステもパワーウインドウも無く、もちろん鉄チン(スチールホイール)という「素材」の状態ではありますが、高嶺の花だったオープンカーがアフォーダブル(=頑張れば手が届く)な価格であったことが分かります。

正直、ロードスターを取扱う「ユーノス」はハイブランドなディーラーを志しており、ブランドイメージとしてこのクルマを選んだ割には、逆に安すぎた気もします。ただ、自動車業界で世界的に10年以上途切れていたライトウェイトなオープンカーという海千山千の存在に、冒険的なプライスを付けられなかった事情もあるでしょう。(それでも、発売直前に10万円上乗せしたそうです)


ただ、車両本体価格を抑えたことでショップオプション(ディーラーオプション)・・・つまり、後付けパーツで稼ぐことができる構造はディーラー内の売上マージンを調整することができるので、割引の都合などを踏まえても良い采配でした。自動車を購入する際には様々な諸費用がかかります。そこで「最終見積もりが予想と違った」なんてのは今でもよくある話で、その過程でディスカウント(お得感)が可視化されればセールスの促進に繋がるからです。結果としてロードスターがユーノスブランドで最も売れてしまったのは、想定外でしょうけれど・・・

一方で「お得感を見せるため」や「スポーツカーとして重量増を避ける」だけではなく、エアコンがショップオプションだったことによるユーザーメリットは、他にも間違いなく存在していました。

エアコンレスのメリット① 消費税


ひとつは新車購入金額のメリットです。

ユーノスが発売される直前まで、日本には「物品税」という税金がありました。そこで自動車は奢侈品(しゃしひん=贅沢品)とみなされており、購入価格に3ナンバー乗用車は23%、5ナンバーの小型乗用車は18.5%、軽乗用車は15.5%の物品税が課税されていました。こういった背景から80年代までの3ナンバーは「すげぇ!」と、ゆるぎない高級車の地位を確立していました。

しかし、平成元年(1989年)に大きな転機を迎えます。「3%」の消費税導入により物品税が廃止されたのです。これは自動車にとって大きな税負担の軽減になり、結果として市場活性化に繋がるのですが・・・実は自動車は1997年の消費税率改定まで「6%」の税率が適用されていました。

つまり、ユーノスロードスター時代は、車両本体価格(6%)よりも、外付けショップオプション(3%)の方が、購入時の金額を抑えることができたのです。ちなみに、前述のロードスター車両本体価格は税込みで180.2万円。

さらに純正エアコンの金額は151,000円。

エアコン付きで購入すると税金が9,060円(6%)、エアコンを後付けで購入する税金が4,530円(3%)。

実際、この微々たる差額ではメリットはそれほどなさそうですが、様々な追加オプションを考慮すると「チリも積もった」ことは間違いありません。また、ほぼすべての車両にエアコン付きが選択されたでしょうから決算セール等で割安感を調整もでき、当時のオーナー候補へ決断を促す材料になったはずです。

ちなみに、税金はその他「自動車取得税(現在は環境性能税)」など分かりづらいものが多く、過去の課税ルールもあまり記録されていな実情があります。また90年後半はマツダが経営難を迎えた苦しい時代で、後期のユーノス(というか、セブンも含めスポーツカー全般)はディーラーからも雑な取扱いになっており、交渉せずとも平気で5%~10%割引を提示してもらえました。

エアコンレスのメリット②、重量税


もう一つのメリットはランニングコストです。

クルマは所有するだけで様々な税金がかかりますが、そのひとつ「重量税」は、車検証に記載される重量を0.5t単位で刻み、課税対象とします。

デビュー時の車重は「940kg」だったユーノスロードスターは、熟成をかさねた最終型でも車両重量「1,000kg」を死守しました(※MTのみ)。実は、エアコンはショップオプションなので、重量は車検証に加算されません。つまり、重量税の差がじわじわ出てくるのです。

重量税の徴収条件は幾度か変わっていますが、当時の新車購入時(3年分)にかかる重量税は1,000kg以下が37,800円。1kgでも重くなると(1,001kg~1,500kg)56,700円になり、その差額は18,900円。

今現在でも重量税は継続しており、全てのユーノスロードスターは18年超過なので現在は増税対象ですが、車検時にかかる金額(2年分)は1,000kg以下で25,200円。これが1kgでも超過すれば、+12,600円かかります。

つまり、「軽さ」による金銭的なメリットはずっと続いているのです。ざっと計算すると、NAロードスターのマニュアル車は30年所有して、1,000kg超えのクルマと課税金額は約14万の差が出ています。その分をメンテナンスや燃料費に回せたと考えれば、金銭的な面で「軽さは正義」だったのです。


ちなみに、近しい理由で欧州では1994年以降もNA6(1600cc)が併売されていたのも「馬力に税金がかかる」事情に即していたからでした。また、北米自動車保険の対策として補修パーツはもっとも壊れやすいフロントまわりを安く、差額を他のパーツに分散させたなど、こういった「負担を抑える」のためのエピソードがロードスターには数多くあります。

これこそ、スポーツカーをアフォーダブル(手の届く範囲)で市場へ届けるための、エンジニアの哲学といっても過言ではないと思うのです。

なお、AT車は+30kg、DHT(ハードトップ)が+30kg、ABSが+20k、エアコンが+15kg~20kg、パワステが2.5kg・・・ハードトップは別にしても、全部乗せユーノスロードスターの車重はカタログ値で比較すると、NBロードスターと大差ないことが分かります。

ちなみに、エアコンレスのメリットを引き継いだNBロードスターも、少数ながら存在します。

NBロードスターのエアコンレスモデル


NBロードスターでは全車エアコン付きが基本仕様となりましたが、NB1初期までは標準車(ベーシックモデル)でエアコンレスモデル(車重1000kg)を注文することができました。そもそも「標準車」自体が市販58台とかなりレアなモデルになり、さらに30台存在するエアコンレスモデルは、現在も続くメディア対抗レース用の車体しか量産されなかったようです。


カタログを確認すると、かなり小さく「エアコン非装着車を用意している」と記載されていますが・・・よほどの注意しないと気づけなかったと思われます。ちなみに、標準車を見た目だけで判断するポイントは「手動アンテナ」「エアロボード無し」「スチールホイール」位でしょうか。


2003 MX-5 Miata ClubSport
また、NB後期にも北米NB2ミアータのレースベース車両として用意された「クラブスポーツ」という、スパルタンな個体が存在します。


これは、SCCA(スポーツカークラブ・オブ・アメリカ)の要請によりマツダが制作したモデルで、国内レースベース車両「NR-A」よりも割り切っていることが特徴です。販売された台数は50台で、その内訳はソフトトップ25台とDHT(ハードトップ)25台。ボディカラーは赤(クラシックレッド)と白(ピュアホワイト)が選択できました。


後期型の北米仕様なのでエンジンは1800ccのBP-ZE(RS)(※前期型と同じ仕様)ですが、DHTモデルの幌は取り払われ、全ての車体のエアコン、パワーステアリング、エアロボード、カーステレオも取り払われるなど、がっつり軽量化されています。


また、あくまでレースベース車として販売されたので19,995$(円換算約215万円、市販価格より▲2,000$)と安価に提供され、販売店は値上げを許されませんでした。NBこういったハードな仕様がNBにひっそりと受け継がれていたのも、基本設計が近しいNAロードスターのおかげです。

NC以降は逆に余計な「コスト」がかかる


では、NC、NDロードスターにエアコンレス仕様が用意されたかといえば、それは実現しませんでした。理由は単純で「外した方がコストがかかる」からです。

もちろんパーツ単品で考えれば「使わなくなる」ことによる物理的なコストは減りますが、仕様、設計、組立、アフターフォローまでの工数を鑑みると、そもそも一般ユーザーにはほぼメリットのない「エアコンレス」が採用されないのは当然の事。いらない人は自分で外してね・・・というスタンスでしょう。

そのせいで、車両本体価格が上がったら、ユーザーにとってデメリットにしかなりませんからね・・・手巻きハンドルが消滅しパワーウインドーになったのも、同じ理由といえるでしょう。


メーカーは違いますが、それでもトヨタ86の初期モデルにはレースベース車量「86RC」というグレードが存在していました。ウレタンエクステリア、オーディオレス、スチールホイール、そしてエアコンレス・・・(※後付け不可)。車両本体価格199万円というチャレンジングな仕様を設定できたのは、流石トヨタと唸りますが・・・あまり売れなかったのか、すぐにグレード廃止になったのは残念です。

軽さが目的になっては本末転倒ですが、その背景にあったのはアフォーダブルにユーザーへ車を提供する、マツダの心意気だったような気がします。そんなエピソードのご紹介でした。

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NBロードスターの新車見積価格

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