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クルマは乗らなければわからない。今回は1996年式トヨタ2代目「MR2(SW20)」のⅣ型、NA(自然吸気エンジン)仕様をお借りしました。
そもそものきっかけは、2023年に当サイトでNBロードスターのライバルだった「MR-S」の小特集を読んでくれたオーナーさんから「ルーツとなるMR2に乗ってみませんか?」と声掛けを頂いたのでした。後期型NAのMR2といえば知る人ぞ知る、隠れた名車といわれている存在です。こんなありがたい提案を断る理由は1ミリもありません!
そこで、10月某日の連休にてイベントを決行、下記のようなスケジュールで試乗をおこないました。走行距離は約500kmほどでしたが、あらゆるステージでNA仕様のMR2を体験させていただきました。
①初日:合流&クルマ交換ツーリング
②2日目:自由行動
③3日目は「答え合わせ」のMTG
※先方にはNB6Cをお貸ししました
正直、2代目MR2は一部で酷評もあるようですが、結論から書くと「噂」なんて当てにならないと実感しました。やはりスポーツカーは自分で乗って、触って、感じることが大切であると再確認できたのです。そこで今回は【NBロードスター】乗りの視点で、永遠のライバル「MR-S」ストーリーの追補版として、2代目MR2のレビューをさせていただきます。
2代目MR2(SW型)の開発背景
1984 TOYOTA MR2(AW20)
80年~90年代の国内自動車産業は、70年代のオイルショックを脱して好景気(バブル景気)を迎えようとしていた時代です。積極的な差別化、オンリーワンの性能、飛びぬけた個性、ひいてはメーカーのブランドリーダーとなるスポーツカーの開発を良しとする空気がありました。
トヨタ初代MR2(AW型:1984年)もそんな時代に誕生したクルマで、国産車初のミッドシップ車両として北米セクレタリーカー・小型クーペ市場へ切り込み、スーパーカーやレーシングカーが持つミッドシップレイアウトと、それに伴った最先端(最新トレンド)を連想させるデザインを武器として、クラスにおいて異例のヒットを飛ばしました。なお、初代NAロードスター(1989年)もメーカーは違えどもパッケージからマーケティングまで、「打倒MR2」として企画を通しています。
ただ、トヨタはあくまで初代MR2はランナバウト(気軽に使える存在)として販売しており、最後までスポーツカーと名乗ることはありませんでした。しかし、市場(ユーザー)がミッドシップ車両に求めたのはさらなる走行性能、ひいてはパワーであり、事実として初代MR2はスーパーチャージャー仕様の売り上げが7割を超えていました。
そこで2代目となるMR2(SW型)は、開発段階からトヨタの持つスポーツユニット「3S-GE」エンジンの搭載を前提に開発、初代から車格を上げたリアルスポーツカーの路線を歩みます。1989年、満を持してデビューした2代目MR2は、ミッドシップ特性のひとつとなるトラクション性能を活かした「国内最速の加速」を武器に、さらに洗練されたデザインを用いて90年代スポーツカーの一台としてファンに受け入れられました。
一方、また官僚的なレギュレーション(自主規制)が残っていた時代でもあり、初期型(Ⅰ型)はあえてピーキーにセットした素性が全ての人には受け入れられず、特にターボ仕様は「危ない」と酷評を受けました。ただし、暴力的な馬力を抑えられないのはフェラーリ等も同じであり、ハイパワーミッドシップは同じような評価を受けていました。
ただし、スポーツカーは熟成していくもの。MR2はスタイリングよりもメカのアップデートにこだわり、かのトヨタ・マスタードライバー成瀬弘氏を据えて、足周りのセッティングを中心にマイナーチェンジごとに熟成していきました。特に後期型のNA(自然吸気エンジン)仕様はポルシェ・ボクスターが開発の参考とするなど、ミッドシップスポーツカーのベンチマークに至るまでの評価を得ています。
1996 MR2(SW20)Ⅳ型
1996 TOYOTA MR2 G-Limited[T-BarRoof](SW20)Type Ⅳ
初代MR2はカローラ系のシャシーと関係が深かったのですが、2代目MR2は念願の2リッターエンジン「3S-GE」を積むため、車格を上げたセリカ/コロナ/カリーナ系のプラットフォームをもとにシャシー設計が行われています。もちろん、量産ミッドシップを成立させるために進行方向のレイアウトを前後反対にしながら、さらに重量物を低く・中心に据える「スポーツカーの素性」が徹底的に造りこまれました。
例えばフロントフード(トランクルームではない)にスペアタイヤを納め、さらに奥の中心にバッテリーが搭載されていたり、キャビンを隔てる太いセンタートンネルのなかには重量配分が変わらないように縦型フューエルタンクを備えていたりと、かなり贅沢な専用構造が許されていました。ブレーキキャリパーも内側に向けた対向タイプです。
なお、今回試乗したMR2は1996年式「Ⅳ型」のNAエンジン仕様です。
初期型(1型)のピーキーとされたハンドリングをマイルド志向へ再セッティングされており(Ⅱ型以降は足周りの大幅な構造変更が行われている)、さらにⅣ型独自の機構として4チャンネル式スポーツABS(※4輪独立稼働)や、SRSエアバッグ(運転席・助手席)が標準装備されています。なお、ターボ(GT系)にはトラクションコントロールやLSDの有無の選択できますが、NA仕様にそのオプション設定されませんでした。
※4チャンネルABSはⅣ型独自の機構で、Ⅴ型は3チャンネルに変更されています
TOYOTA MR2 G-Limited[T-BarRoof](SW20) :1996[Type Ⅳ] | ||||
車格: | クーペ・スポーツ・スペシャリティ | 乗車定員: | 2名 | |
全長×全幅×全高: | 4,170×1,695×1,235mm | 重量: | 1,260kg | |
ホイールベース: | 2,400mm | トランスミッション: | 5MT | |
ブレーキ: | ベンチレーテッドディスク(F) | タイヤ: | 195/55R15 84V(F) 225/50R15 91V(R) |
|
エンジン型式: | 3S-GE | 種類: | 直列4気筒DOHC16バルブ | |
出力: | 180ps(132kW)/7,000rpm | 燃費(10・15モード) | 11.8km/l | |
トルク: | 19.5kg・m/4,800rpm | 燃料 | 無鉛プレミアムガソリン |
フロント周りが極端なスラント形状となっているリトラクタブルヘッドライトを採用したエクステリアは、、広く寝ているフロントガラスはとともにスーパーカールックといっても過言ではありません。また、ミッドシップ車両らしくボディサイドには大胆にエアダクトが切り込まれており、5ナンバーサイズ(小型自動車)であっても低く、ワイドかつ伸びやかに見えるデザインは、素直にカッコいいです。
Ⅳ型における細かいネタとして、ランプ回りのデザインがリファインされていることや、当時は珍しかった切削鏡面加工のホイールが採用されています。また、今回は「Tバールーフ」を備えているため、天面を解放するとオープンカーに近しい解放感を得ることができました。なお、かの「頭文字D」において日光いろは坂でジャンプするMR2と素性はほぼ同じですが、あちらはⅢ型相当なので、若干ルックスが異なります。
ボディカラーは「スーパーブライトイエロー」という鮮烈な黄色で、面白いことに「熱が籠らない」特徴があります。特筆すべきは、走行距離が20,000km台であり、かつほぼ純正仕様なこと。ミントコンディションといって差し支えなく、この奇麗な車体を見た友人は「恐れ多くて触れない」といっていました・・・
3S-GEエンジン
2代目MR2といえば、絶対に確認したいのが3S-GEエンジンです。エンジンルームのハッチを開けると、車軸の内側に横置きでマウントされており、ミッドシップであることを改めて確認できました。
このトヨタS型エンジンは1981年~2007年に製造されたもので、排気量1.8L~2.2Lのバリエーションを持つ直列4気筒のユニットです。エンジン形式に「G」と記号が入るものはスポーツツインカム搭載(もしくはスポーツ仕様)を意味しており、この3S-GE(ターボ仕様は3S-GTE)は、トヨタ2000GTやレスサスLF-Aと同じく、ヤマハ発動機がスポーツチューニングを施しています。
基本仕様は160kgと重量が嵩みますが、鋳鉄シリンダーブロックにより900ps近い高出力に耐えることができるチューニング特性を持っており、当時のトヨタスポーツカーに限らずモータースポーツのシーンでも多く活躍をしています。
TOYOTA Corolla WRC
古くはグループB規定に合わせて開発をしていた222D(初代MR2のラリー仕様)や、世界ラリー選手権で活躍したセリカGT-FOUR/カローラWRC、ルマンのグループC車両、全日本GT選手権のスープラGT500(※重量配分から2JZ-GTEと差し替えた)など、「3S(サンエス)」として一時代を築き上げた名機になります。そんな伝説がミッドシップにマウントされている特別感だけで、テンションは高まるというものです。
NA仕様の特性としては、3000回転から立ち上がったトルクがピークの6,500回転までフラットにパワーを維持するもので、ワイヤースロットルのダイレクト感も伴って、ボディを後ろからぐいぐい押し出してくれるエンジンでした。自然吸気ならではのリニアな特性により非常に扱いやすい印象を受けました。一方、ターボ仕様は諸元を見てもわかる通り、かなりのドッカンターボだったようです。
話を戻すと、MR2においてはフラットタイプのエンジンルームが採用されており、ハッチには排熱用のスリットが設けられています。裏面からはインシュレーターによって熱の流れをコントロールしており、雨天時は浸水をうまく逃がすように設計されていました。なお、ターボ仕様ではハッチのスリットが一段盛り上がっているので、見た目で判断が可能です。
エンジンは横置きながらも中心かつ奥へマウントされているのは素晴らしいのですが、前にあるキャビンと後ろにあるトランクには隔壁があるので、整備性はかなり厳しそうです。ボディサイドからエンジンルームに抜ける側面ダクトは、右側奥には送風ファンが、左側はNA仕様は空洞ですがターボ仕様では過給機が鎮座するそうです。
なお、MR2最終型となる「Ⅴ型」ではBEAMSブランドのエンジン(VVT-i/可変バルブタイミング)が搭載されますが、「Ⅳ型」はLASRE(レーザー:Light-weight Advanced Super Response Engine)ブランドを冠するユニットとなります。
高性能、低燃費、軽量コンパクト、高い応答性はもとより、優れた耐久性、低振動、低騒音、メンテナンスフリーが特徴ということで、今回の試乗ではブン回すシーンも多かったのですが、リッター11.7kmと思ったよりも高燃費で衝撃を受けました。これ、ほぼカタログスペック通りなのでトヨタ凄い・・・
なお、国内仕様では3S-GE系を採用していますが、海外ではセクレタリー需要に対応するため、マイルドでパワーを抑えた3S-FE/5S-FE系のエンジンもラインナップされています。
TOYOTA MR2 Engine Line UP | ||||
Year | Engine | power | torque | |
NA | SW20 89-92(Ⅰ-) | 3S-GE | 165ps(121kW)/6,800rpm | 19.5kg・m/4,800rpm |
SW20 93-96(Ⅲ-) | 180ps(132kW)/7,000rpm | |||
SW20 97-99(Ⅴ) | 200ps(147kW)/7,000rpm | 21.0kg・m/6,000rpm | ||
SW21(EU 90-95) | 156ps (115kW) / 6,600rpm | 19.0kg・m/ 4,800rpm | ||
SW21(EU 96-99) | 170 ps(125kW) / 7,000rpm | 19.5kg・m/ 4,400rpm | ||
SW21(EU 90-95) | 3S-FE | 121 ps(89kW) / 5,600rpm | 18kg・m// 4,400rpm | |
SW21(US 90-92) | 5S-FE | 132ps (97kW) / 5,400rpm | 20.0kg・m// 4,400rpm | |
SW21(US 93-95) | 137ps (101kW) / 5,400rpm | |||
TURBO | SW20 89-92(Ⅰ-) | 3S-GTE | 225ps(165kW)/6000rpm | 31.0kg・m/3,200rpm |
SW20 93-99(Ⅲ-) | 245ps(180kW)/6000rpm | 31.0kg・m/4,000rpm | ||
SW22 (US 90-95) | 203ps (149kW) / 6,000rpm | 28.0kg・m/ 3,200rpm |
コックピットからの印象
サッシュレスのサイドウインドウを備えた分厚いドアを開けると、角に赤いウェルカムランプがあることにバブル時代の細やかな配慮を感じ、キャビン内は2シーターとは思えない必要十分な広さでした。シートは座面、腰、ヘッドレストと細やかに調整が可能で、想像よりもしっかり身体を固定してくれました。
驚くのがシートレールの調整幅で、十分すぎるマージンは足を伸ばしたり、シートを寝かせることが可能でした。なんと車中泊が可能です!
左右シートの間には丁度肘が置ける高さの分厚いセンタートンネルが通っており、助手席にちょっかいを出すことはできません。ドリンクホルダーが無いことに時代を感じますが、トンネルの真下にはフューエルタンクが鎮座していますので、安全面を踏まえると余計なものは設置できないのでしょう。肘を置いた先にショートストロークのシフトノブが鎮座しています。
メーター、デフロスター、スイッチ類はスポーツカーよりも実用車を思わせるデザインですが、手の届く範囲に操作系が集約されているので、運転中に予備動作を行う必要はありません。内装はクッション性のある素材で作られており、安っぽさはありません。オーナーが「ここだけは気に入らない」といっていた、エアバッグ入りの4本スポークステアリングは時代を感じさせますね・・・
個人的にはスピードメーターとタコメーターがNBロードスターと左右違いになっているので、慣れるまで走行中のインフォメーションを得るにのに苦労しました。
キャビンからの視界は非常に良好で、NBロードスターよりも視点は低く感じます。芸術的な湾曲ガラスを備えるバットレス・デザインのリアビューも視界がゆがむことはありません。ボディは必要十分なサイズで手足の延長線上に感じるのは、さすが5ナンバー(小型自動車)スポーツカーといえるでしょう。
リトラクタブルヘッドライトの点灯は視界を妨げることもなく、むしろコーナーポールに近しい役割を担うので夜間時の取り回しがよくなります。また、光量は十分でありフォグランプの必要性は感じませんでした。しかし座面が低い分、対向車線のヘッドライトはかなり眩しくて辛かったです。
ちなみに、Tバールーフは天面のカバーを外すだけでオープンカーのような解放感を得ることができました。脱着時間は左右で5分~10分ほど。ガラスを外すとピラーとの結合部がなくなるため若干ステアフィールに「緩さ」がでましたが、それでもボディがガタピシするシーンがないボディの剛性感に驚かされます。半面、サイドウインドウを開放すると風の巻き込みが激しく、ロードスターの三角窓や立っているフロントガラスはよく考えられているんだなぁと実感しました。
なお、外した天面ガラス類はシート後方に格納することが可能です。
街乗り2,000回転、5速は使わず
キーシリンダーが正面にあるのは初めての経験でしたが、ステアリングの右下でキーをひねると、あっさり3S-GEエンジンが背中から咆哮を響かせてきます。時代柄なのかノーマルマフラーであっても野太いサウンドで、普通車よりも騒がしい車内が気分を盛り上げてくれます。
ギアを1速に入れてゆっくりクラッチを繋げると、トルクが立ち上がる2,000回転までクルマは「伸びやか」というよりも「穏やか」な動きを見せてくれました。エンジンも重量の割には腰高感を感じることはなく、日常使いではこの「上辺のキャラクター」に助けられるシーンが多いでしょう。
実際、下道であれば4速2,000回転で50kmに到達するので、そのあたりのトルクでのんびり流すのが非常に楽で、むしろ50kmで5速に入れると1,800回転に落ちるのですが、その領域ではエンジンルームからの共振音が騒がしくて、助手席でSwitchのドラクエをやっていた娘が「うるさいんだけど・・・」といってきました(笑)。のんびり下道を走っていてトップギアまで入れるシーンはほぼ無いでしょう。
シフトフィールはNBロードスター(5MT)のようにカチっと入るタイプではなく、シフトレバーの奥でゴクっと入る感じです。これ、NBロードスター(6MT)の感覚に近しく、製造メーカーとなるアイシンの味なのでしょうか。少し違和感だったのはリバースギアで、クリック感が少なくあっさり入るので本当に大丈夫か?と疑うシーンがちらほら。そういえば、坂道発進のアシストはありませんが、きちんと一発でできました!
気になったのはステアリングセンター付近に「緩い領域」が残されており、一定以上切り込むといきなり重くなること。他に類を見ない電動アシスト付き油圧ステアリングの仕事ですが、重厚感のあるアシストをかけてきます。最小回転半径は4.9mとコンパクトカー並のスペックではありますが、駐車場や徐行時には汗をかきながら切り返しを行うこともちらほら・・・わたし、パワステ・LSD付きのNBロードスターに甘やかされていたようです。
ただし速度が乗ってくれば話は変わってきます。気づけばステアリングの重さが心地よく、剛性感の高いボディであることも伴ってクルージングではシャープな舵角調整を行うことが可能になります。ロードインフォメーションは手元ではなく、腰で感じるタイプで、ボディがどこかでミシミシ鳴くようなことがないので4輪からのフィードバックを集中して得ることができました。
ここまでの体験であれば、スポーツカーらしさはミッドシップというよりもステアリングの重さが目立ち、「普通過ぎる」と勘違いできるくらい走りやすいクルマでした。
ちなみに、北米市場対策でゴルフバッグがふたつ入る、意外なほど広く深いトランクを備えているので、積載性も想像以上にありました。ただ、エンジンの熱が伝わるので夏場に生モノを長い時間収納するのは避けたほうがいいでしょう。また、Tバールーフを格納できるシート後方スペースに、ラージサイズの買い物袋を置くことも可能です。
直進安定性
そうはいってもスポーツカーなので、床までアクセルを踏み込んでみたくなるもの。NA仕様のレッドゾーンとなる7,000回転まで踏み込むと(※レブは7,500回転)、1,250kgの重量なんてものともせず、矢のような加速で真っすぐすっ飛んでいきました。中間加速においても3,000回転以上を維持すれば、アクセルをぐんと踏むだけで楽に追い越しがこなせます。むしろ4速から上まで回すのはコントロールに自信が持てなくて、公道では無理でした。
パワーウェイトレシオは【7kg/PS】で、普段乗っているNBロードスター(NB6)が【8kg/PS】であることから何を行うにもパワフルであり、トルクが太いおかげで雑に扱うことは危険であると身をもって感じました。NBロードスター後期型の1800cc仕様(BP-VE)がパワーウェイトレシオ【6.8kg/PS】なので、NB8後期型エンジンのコントロール特性に近いものを感じました。でも、トルク感はMR2の方が上かなぁ・・・
当然ながらロードスター以上にMR2のクーペボディはしっかりしているため、直進ですっ飛んでも圧倒的な安心感がありました。ギャップを乗り越えても足回りが適度にいなしてくれるので、そういう点において怖くはありませんでした。
しかし、想定していなかったのは加速状態からギアをフリーにした直後です。後輪のトラクションが抜けた瞬間、前輪の接地感が失われるのか、挙動に若干の怪しさがでます。前後重量配分はトラクション特性が活きる後輪寄り(42.3:57.7)だそうですが、この前輪がふわっとする挙動は慣れが必要でした。ちなみにこの重量配分、ホンダNSXと同じだとか。
ただ、そこで活きてくるのがステアリングセンターの緩いと思っていた領域です。轍(わだち)やギャップに掬われることなくレーンキープの微調整を行えるんです。これは良く考えられている!
また、そういう時のブレーキタッチが絶妙で、トヨタのファミリーカーでありがちなカックンブレーキではなく、ペダルを踏み込んだだけ効くタイプのもので、オーバースピードでも調整が楽でした。なお、スポーティに走っていてもABSが作動するシーンは全くなく、折角なので急制動をかけてみるとギュッ!と止まってくれたのですが・・・タイヤに申し訳がないのでそれ以上は控えることにしました。
スポーツドライビング
ステージを変えて峠に向かうと、適当でもそれなりの走りが出来てしまうのですが、気づけばコーナーでアンダーになることチラホラ・・・重いステアリングを見越して早めに切り込んでも修正舵を掛ける始末。下手糞な運転にどんどん自信がなくなってきます・・・
そこでMR2の挙動に注意を払うと、トラクションの掛け方(アクセルの踏み方)が雑だとコーナーでお釣りがくることに気づきました。言い換えると、パワーのないNBロードスターのようなFR車は感覚的な(適当な)アクセル調整でも、なんとなく頭の向きを調整できるのですが、そんな雑なアクセルワークでは許してもらえないようです。
直進安定性でも感じた通り、完全にアクセルを抜くと一瞬不安定になるので、アクセルに薄く足を掛けながら(トルクを乗せながら)舵角を決めて、ヨーが安定するタイミングで踏み込んでいくと・・・スパっとコーナーを駆け抜けてくれました。つまり、FRではなくMRなりのリズム感がポイントであり、それに気づいてS字コーナーをリズミカルに駆けぬけると気持ちよくて、思わず声が出てしまいました。
さらに速度領域を上げていくと気持ちはいいのですが・・・100馬力のNBロードスターよりもテンポがズレるというか、むしろ遅い気がしました。慣れていない、という言葉で片付くものではなかったのですが、これは片側1車線のブラインドコーナーが連発する道で理由がわかりました。もちろん、そんな危ない状況でかっ飛ばすのは論外ですが、「何速が適正なのか」とシフトチェンジに迷っている状況がいけなかったようです。
私の運転はシフトチェンジしすぎだったようで、NBロードスターはパワーがないので頻繁にシフトを変えるのですが、これをMR2でやるとギアチェンジの度にクルマがモタつくことに気づきました。
MR2の3S-GEエンジンは3,000回転から6,500回転までフラットトルクの特性を持っています。もちろん公道で床まで踏んだら危ないのですが、峠レベルではある程度「シフトを固定」してアクセルワークのみで走ったほうが圧倒的に早かったのです。シフトのタイミングは回転数の音を拾いながらのほうが、圧倒的に効率がいい!
もちろんサーキットでは別の走り方になるのでしょうけど、NBロードスターのようなライトウェイトな走り方よりも、普段は腰を据えながらも、いざとなったらエモーショナルな走りをこなすグランツーリスモ的なステアリングワークの方がしっくり来たんです。重いステアリングは両手で握ったほうが安定するし、シャープな操舵にも繋がります。なるほど、よくできているスポーツカーだ!
みんな大好きMR2
実は、今回MR2をお借りして最も驚いたことはドライビングプレジャーよりも、想定以上に「知らない人」から声を掛けられたことでした。ガソリンスタンドでは壮年の男性から「うわー懐かしい!奇麗に乗ってるね!」、若い女性から「パカパカ(リトラクタブル)お願い!」なんて事があり、スケジュールの絡みで顔を出したロードスターMTGの会場でも「昔乗っていたよ!」「憧れだった」なんて話をいただきました。
また、友人たちからは「試乗車なのに交差点で一回転した」「納車直後に崖から落ちて廃車になった」「ターボでも遅いと思っていた、狂った時代だった」「ディーラーに試乗にいったらロードスターを勧められた」なんてエピソードもいただきました。ブラックジョーク交じりであっても、どれもMR2に愛着を向けた言葉であって、古き良き(そしていろいろ雑)時代を感じるものばかり。
ネオクラシックのスポーツカーは、ドライバーだけでなく、それに触れる人たちも幸せにする力があると改めて感じました。
もちろん、令和の時代に平成初期のオリジナルコンディションの放つオーラも影響していたのでしょう。総じてですが、この2代目MR2は商業的な成功を収めることはできなかったとされていますが、クルマ自体の出来が悪かったのかというと、そんなことは全く感じませんでした。
一方で、90年代は同クラスのライバル車両にシルビア/180SX、インテグラタイプR、レビン/トレノ、インプレッサ、ランサー、そしてロードスターとキャラの立った濃い顔ぶれが並んでいました。今の目で見れば「トヨタが造ったミッドシップスポーツカー」である衝撃を持っているのに、それが霞むほど国内スポーツカーはラインナップが揃っていたのでした。
さらに、MR2はⅠ型の評価が尾を引いてしまって、なかなか目立てなかった背景もありました。実のことをいえば、ミッドシップの車両は「まっすぐ走らせる」ことにエンジニアリングの見せどころがあるのですが、初期型では足周りをガチガチに固めて、14インチで小回りを効かせた事で(※制約上15インチが使えなかった)エンジンパワーが勝ってしまい、「曲がること」にこだわりすぎた故のピーキーさがあったのでした。その乗り味が「良い」という人がある一方で、万人向けではない仕様だったことが、酷評に繋がったのです。
したがって、Ⅱ型以降はリアはサブフレームごと新造して「動く足」にリファインされ、15インチ化でグリップを稼ぐなど、「安心して乗れるミッドシップスポーツ」へのマイナーチェンジを重ねていきました。
なお、3代目MR2(MR-S)はライトウェイトスポーツへ転身し、パワーをあえて下げ、ホイールベースをさらに伸ばし、オープンカーとしての商品性の確保をおこないました。トヨタ・ミッドシップスポーツとして再チャレンジは初代MR2に寄せた原点回帰でもあり、2代目MR2の乗り味から走りやすさへ舵を戻し、スポーティに走っても普通では絶対にスピンしないミッドシップに仕上げています。
積載性などのユーティリティ性能を全てそぎ落として「走りの楽しさ」だけで勝負をかけた割り切った仕様を、質実剛健なイメージが強かったトヨタが販売したことに、別の意味で凄い存在でしたが・・・おかげでMR-Sの販売終了となった2007年から、2012年の「86」まで、スポーツカーラインナップの空白期間があったことは、記憶にも新しいでしょう。
さて、そんなトヨタ2代目MR2は、2024年にデビューから35年を迎えました。多くのライバルたちがいるなか、初期型のイメージが尾を引き、試乗レベルでは「普通」にしか感じられないなかでは、なかなかポジティブなセールスになかったのも納得できる一方で、MR2のような存在が埋まってしまった日本は、本当に贅沢な時代を経ていたんだなぁと感じます。
総じて、今回ステアリングを握って感じたことは、クルマの楽しさは昔も今も変わらなく、MR2のようなロマンを操舵することに気持ちよさみたいなものも感じました。正直、本当に突き詰めて乗りこなせたかというと後悔は残りますが、90年代を振り返る至高の経験だったといえます。
MR-SやNBロードスターがスニーカーのように扱えるスポーツカーだとすれば、MR2はフォーマルに乗りこなしたくなるクルマで、若者がバリバリチューニングして乗るのではなく、初老のご夫婦で重いステアリングをものともせず、しれっと乗りこなす姿が似合う、そんなクルマでした。少し強引ですが、歴代ロードスターのなかでMR2で一番近しい乗り味は、NB8ロードスター(後期型)のAT仕様が近しかったです。
最後に、こんな経験をさせていただいたN氏に感謝しつつ、やはりクルマは乗らなければわからない、少なくともMR2は最高のスポーツカーといっていい一台と感じることができました。
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