NCロードスターの兄弟車、マツダ鏑(カブラ)

NCロードスターの兄弟車、マツダ鏑(カブラ)

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2006 MAZDA KABURA Concept

今回はマツダのコンセプトカー「鏑(カブラ)」のご紹介です。

カブラは「コンパクトクーペ」とアナウンスされており、そのサイズ感からもわかる通りNCロードスターがベースになっているクルマです。したがって、パワートレインもそのまま活かされた走行可能なコンセプトカーになっています。同じ系譜のシャシーである4座のRX-8、2座のNCロードスターに次いで、その中間になるスポーツカーと位置付けられました。

新型スポーツコンセプト マツダ「鏑(カブラ)」


ブランドメッセージで「Zoom-Zoom」と発信していた2000年代のマツダは、エキサイティングで豊かな生活の一助となる、スタイリッシュかつ溌溂(はつらつ)としたクルマを立て続けに発表していました。いわゆる第三世代マツダ「アスレティックデザイン」という系譜で、生産車では「RX-8」初代「アテンザ/アクセラ」が代表的なクルマになります。(※NCロードスターもその系譜ではありますが、若干横に逸れている)


そのようななか、2006年の北米国際自動車ショーにて「新たなZoom-zoomを実現する新世代コンパクト・スポーツクーペ」として「鏑(カブラ)」を発表しました。カブラはマツダスポーツカーの魂を継ぐ一台として、MX-5(ロードスター)やRXシリーズと同様に、当時でも珍しかったFRレイアウトであることも強調されています。


また、コンパクトクーペであっても豊かなライフスタイルを提供するために、インテリアにも趣向を凝らしています。サイズと重量を抑えつつ、2+2レイアウトよりも優れたユーティリティを確保するために「3+1レイアウト」が考案されました。これはスポーツドライビングにおける優位性とともに、ショッピングなどの普段使いでも実用性を発揮するためのもので、全ての助手席はフラットにできたり、スノーボードなどの長物も積載することが可能となっています。


「カブラ」という名称は、日本の「鏑矢(かぶら矢)」からインスパイアされたものです。「鏑矢」とは、筒を中空にして軽量化した矢であり、射放つと音響が発生します。歴史的なシーンでは戦闘開始の合図として使われてきました。

「最初の矢」といえば、ロータリーエンジンなどベンチャー技術を追求するマツダのアイデンティティであり、その精神を表現する言葉として、「カブラ」が選ばれました。


カブラのターゲットは若者であり、彼らがが憧れ、そして購入できるような「アフォータブル(てごろ)な存在」であるとも積極的にアナウンスされました。実情としては、当時RX-8に次ぐロータリーの計画は途切れており、そもそもフォードからはRX-8にMZRエンジンを載せるよう指示があった背景もあり、今後において純然たるスポーツクーペの需要はあるのか、市場反応を見るためのコンセプトカーでした。

ホルツハウゼン×マツダデザイン


フォード傘下でありつつも「マツダ車らしさ」を表現する手法として定義された「アスレティックデザイン」は、「五感に訴える洗練された動き(=アスレティック)」、つまり、軽快で引き締まった緊張感を持ち、今にも走り出しそうな躍動感を志したデザイン群になります。

そこで、エクステリアにはマツダ全モデルで共通する意匠が設けられました。5角形のフロントグリル(コントラスト・イン・ハーモニー)からボンネットに連続するウェッジの効いたキャラクターラインと、ワイドで力強い「プロミネントフェンダー」を持って踏ん張り感を表現、スポーティさを演出するクリアテールなど、一目見ても「マツダ車だ」と分かるアイコンが全身に散りばめられています。

アスレティックデザイン時代における北米マツダ(マツダノースアメリカンオペレーションズ(MNAO))発のコンセプトカーは「颯爽(さっそう)」「先駆(せんく)」と続いており、カブラは3台目のアスレティック・コンセプトになりました。主導したのは2005年2月に入社したばかりのデザインディレクター、フランツ・フォン・ホルツハウゼン氏。彼は希代のヒットメーカーでもありました。


Pontiac Solstice roadster

ホルツハウゼン氏は、シラキュース大学で工業デザインを学び、カリフォルニア州の名門アートセンター(カレッジオブデザイン)を卒業しています。カーデザインとしてはVW時代(92年)に「ニュービートル」のコンセプトを手掛け、GM時代(00年)にはNCロードスター対抗馬となる「ポンティアック・ソルスティス」「サターン・スカイ」を手掛けています。マツダには2005年から2008年まで在籍し、アスレティックデザインに次ぐデザインテーマ「流(ナガレ)」時代まで在籍し、マツダのカーデザインに影響を残していきました。


Tesla Cybertruck

なお、2008年から現在にかけてはテスラのチーフデザイナーに就任しており、モデルS、モデルX、モデル3、2代目テスラ・ロードスター、そしてかのサイバートラックを手掛けています(デザイン発表時のプレゼン時に、鉄球で窓を割った人物としても有名です)。手がけられたクルマは、どれも他に類を見ない個性的なデザインとして目を奪います。

アフォータブルクーペに市場はあるのか

マツダ鏑(カブラ)は、コンパクトなボディに、スポーツカーらしい走りの楽しさと実用性を両立させたコンパクトスポーツクーペである。後輪駆動ならではのダイナミックなスタイリングを持ちながらも、様々なユーティリティを備え、走りの好きなエントリーユーザーをターゲットに開発した、マツダのZoom-Zoomを最も具現化したコンセプトカーである。

プレスリリースより


大手調査機関によると、北米においてマツダ車を新車購入する顧客層は比較的若い世代(中央値41歳)であることが分かっていました。いわゆる「ジェネレーションY」とされるこの世代は、最新トレンドよりもさらに数歩先を好む傾向があります。つまり、スタイリッシュかつ新鮮なデザインを、手ごろな価格で満たせるものを求めているのです。カブラは、その期待に応える目的がありました。


パワーユニットは当時から高く評価されていたMZR/2リッターエンジンであり、フロント19インチ(245/35 R19)、リア20インチ(245/35R20)のブリヂストン・ポテンザを履いた後輪駆動スポーツカーとして仕上げてられています。MX-5/RX-8のシャシーコンポーネントで構築されてはいますが、ボディサイズはその中間となっています。

したがって、カブラが量産される際には、派生車種ではなく同じシャシーを用いたスタンドアローン(新規車種)とするビジョンを持っていました。

「カブラ」の特徴

力強いスタイル、張り出したホイールアーチ、張りのあるエクステリアにより、見ているだけでも駆けだしそうなボディを表現しました。全てを途切れることのないラインで構成し、特にリアフェンダーアーチからボディに向かうテンションを感じてください。

プレスリリースより

開放的な室内空間
一見普通のクーペにみえますが、ルーフカウル天面からBピラーまでシームレスなガラスを採用し、積極的に光を取り入れる開放感のあるインテリアへ仕上げています。ガラスは調光可能でドライバーは必要に応じてノブをひねって透明度を変更することが可能です。(この時代ではコンセプト扱いでしたが、現在は実現できている機能ですね)


リアのガラスハッチはツーピースで構成で通常はルーフと一体化していますが、前部パネルは電気モーターによって換気を兼ねたルーフスポイラーになります。また、パネル全体には太陽電池が備えられ、室内温度制御やバッテリー充電のエネルギーとしてリサイクルされます。ハッチ側面はヒンジが取り付けられてあり、カーゴスペースにアクセスすることが可能です。

「3+1」のクリエイティブなインテリア

想定ユーザー(ジェネレーションY)の調査では、日常使いやレジャーにおいてクルマは「ドライバー+2人」までの希望が最も多く、「4席目」を使用する割合が僅かであることがわかりました。つまり、一般的な2+2クーペではスペースに無駄が生じる可能性が高く、カブラは3+1レイアウトをベストとして作りこみました。


運転席側(左ドア)は普通のクーペのようにコックピットと後部ジャンプシートへアクセスできますが、逆に助手席側(右ドア)は特徴的な機能を設けたため、左右非対称のデザインになっています。

助手席側のグローブボックスは廃止し、インストルメントパネルを最小限に抑えることで、助手席は運転席より6インチ(約15センチ)前方へ移動させることが可能になりました。助手席はタンデムになっており、脚部、肩、ヘッドスペースにおいてほぼ同じマージンを確保しています。


インテリアの素材はSSI社の再生皮革で仕上げたものです。この再生皮革は100%再生産業廃棄物(今回の多くはナイキ社のスポーツシューズの生産工程で排出された産業廃棄物)からできており、質感もよく加工性が高い魅力的な素材となっています。

RX-8以来のボーナスハッチ

クーペデザインにおける後部座席にアクセスする解決策において、マツダデザイナーはRX-01とRX-Evolvを経て、RX-8の「フリースタイルドア(観音開き)」にたどり着きました。カブラはさらにそこから踏み出し、よりスタイリッシュなデザインを追求するためのボーナスハッチを助手席に設定しています。このハッチはボタンを押すとリアクオーターパネルにスライドして、乗降スペースの確保を行います。

「カブラは、ドライバーが「ショットガン!(※頭を下げろ!)」と叫ぶ必要のない、最初のコンパクトクーペです。」と、ホルツハウゼン氏は語っています。

鏑(カブラ)・まとめ


初代ロードスターやRX-8のように、クーペで新たな市場を創出する・・・というコンセプトを示したカブラ。RX-8/NCロードスターに次ぎ、同じシャシーコンポーネント(共通組み立て工程)を想定したとあるとおり、夢物語ではないコンセプトであったことが分かります。


ただ、グローバル展開を鑑みると左右非対称のデザイン(変則的な助手席ドアなど)は、生産性や安全規制を担保するのにコストが嵩むことや、そもそもクーペ需要が減退していたこともあり、カブラはあくまでコンセプトで終わってしまいました。

また、新規で3+1のクーペを作らずとも、2シータークーペのMX-5 Coupe(※NCロードスターRHTの海外名)で事足りることや、アスレティックデザインの最後ということもあり、市場開拓はロードスターが担うことになりました。ただし、リーマンショックでリセットがかかる前の次世代ロードスターの企画段階では、新型ロータリーと共通のコンポーネントにすることを模索していたことから(※)、純然たるクーペの開発志向は今も続いているものと類推されます。
※次世代ロードスター企画はいったん白紙になり、新規でNDロードスターの開発はスタートした


ただ、カブラは今の目で見てもアスレティックデザイン最終系として陳腐化を感じることはなく、フォード資本が続いていたら・・・この方向性でマッチョなクーペや、NDロードスターが作られていたかもしれません。もちろん歴史にIFはありませんが、ロードスターの兄弟車として「あったかもしれない」、カブラのご紹介でした。

諸元 鏑(カブラ) MX-5(NC) RX-8
寸法 全長(mm) 4,050 3,995 4,435
全幅(mm) 1,780 1,720 1,770
全高(mm) 1,280 1,245 1,340
ホイールベース(mm) 2,550 2,330 2,700
乗員定員(名) 4 2 4
エンジン MZR2.0L MZR2.0L/1.8L 13B MSP
トランスミッション 6MT 6MT/5MT/6AT 6MT/5MT/4AT/6AT
サスペンション ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
タイヤ F)245/35R19 R)245/35R20 205/50R16 or 205/45R17 225/55R16 or 225/45R18

関連情報→

MX-6コンバーチブル(MX-6 convertible)

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