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1989年。古き良き時代を継ぐ【現代】のライトウェイトスポーツカーとして世界中から絶賛されたユーノスロードスター(NA)。さらにロードスターは「オープンの楽しさ」「走る楽しさ」「スタイリングを眺める楽しさ」の熟成をテーマに掲げて、2代目(NB)へフルモデルチェンジを果たします。
そんな初代から数えて10年後、特別なNBロードスター「10周年記念車」が発売されました。
自分たちが本当に乗りたいスポーツカーをつくろう。 エンジニアたちの夢からロードスターは生まれた。そして、ライトウェイトスポーツ本来の“Fun to drive”をピュアに追い求めるロードスターは、デビュー10年を迎えるいまも世界の人々の変わることのない支持を得ている。
そしていま、世界統一スペックのロードスター10周年記念車誕生。10年にわたって同じ夢を共有してきた世界中の仲間たちへ。この特別なロードスターには、言葉に尽くせない感謝の気持ちと、これからも変わることのない情熱が込められている。
ロードスター「10周年記念車」カタログより抜粋
10周年記念車の概要
MAZDA ROADSTER(NB8C) 10周年記念車(10th Anniversary Model) | ||||
車格: | オープン | 乗車定員: | 2名 | |
全長×全幅×全高: | 3955×1675×1235mm | 重量: | 1,030kg | |
ホイールベース: | 2,265 mm | トランスミッション: | 6MT | |
ブレーキ: | ベンチレーテッドディスク/ディスク | タイヤ: | 195/50R15 82V | |
エンジン型式: | BP-ZE[RS] 1839cc | 種類: | 水冷直列4気筒DOHC | |
出力: | 145ps(107kW)/6500rpm | 燃費(10・15モード) | 13.0km/l | |
トルク: | 16.6kg・m(162.8N・m)/5000rpm | 燃料 | 無鉛レギュラーガソリン |
発売日:1998年12月15日(※納車は1999年から)
希望小売価格:2,483,000円(税別)
ロードスター「10周年記念車」は、1.8リッター(NB8C)をベースに専用装備を架装した限定車です。NBロードスターの販売戦略はマツダで初めて「世界共通のブランディング」を行った背景を持っており、その一環として企画された限定車です。したがって、このクルマは販売地各国の「規制に対応する部分」以外は基本的に同一仕様となります。
販売台数は世界で7,500台。国内向けの500台に加えて、北米3,150台、欧州:3,700台、豪州:150台であり、それを示すオーナメントが運転席側のフロントフェンダーに通し番号で装着されました。なお、最終号車はイギリスに納車されています。
国内における愛称はそのまま「10周年記念車」「テンリミ」「アニバ」などと呼ばれていますが、海外では限定車名「10th Anniversary Model」から「10AM」または(主に北米で)「10AE」と呼ばれています。
AEというのは「Anniversary Edition」の略称であり、北米ではNA(Miata)の年次限定車を「SE(Special Edition)」シリーズと呼称されていたことにちなみ、「AE」の愛称が付けられました。ちなみに、ミアータオーナー間では現在でも呼び方を「10AM」「10AE」両派に分かれており、たびたび論争になります。こういったエンスージアストの習性は世界共通なようで、面白いですね。
ベース車両はNBロードスターのなかで最も走りに特化した「RS」グレードであり、エクステリア、インテリアともに「青」をポイントとしたコーディネートが施されました(近年ではNDロードスター990Sが近しいモデファイをおこなっています)。また、10周年を祝した特別なノベルティも用意され、特別な存在であることが強調されました。
【ベース機種】
1800RS、6速マニュアルトランスミッション、メーカーセットオプション
(パワードアロック+BOSEサウンドシステム+FM/AM電子チューナー付CDデッキ)装着
【外観(専用装備)】
・エクステリアは彩度の高い鮮やかな「イノセントブルーマイカ」
・ブルーのソフトトップ/ソフトトップカバー
・スタイリッシュなバフ仕上げ15インチアルミホイール
・タイヤはミシュランPilot SX-GTを装着
【内装(専用装備)】
・黒を基調に、ブルーの差し色でコーディネート
・シート中央はブルーのスエード調素材、ヘッドレストは黒本革
・ツートーンのナルディ・本革巻ステアリング/シフトノブ
・ブルーのシフトブーツ/フロアカーペット
・メーターにクロームメッキのリングを装着
・センターコンソールパネルにカーボン調素材を採用
【その他】
成約者全員に、マツダ社長の署名入りのオーナー認定証(車台番号及びシリアルナンバーを記入)と、オリジナルギフトセットを贈呈
特別色、イノセントブルーマイカ
NB1:イノセントブルーマイカ(INNOCENT BLUE/Sapphire Blue Mica)【20P】:限定カラー(10th AM)
クルマは発売開始時点で、数年先まで「マイナーチェンジから限定車の投入」までのロードマップが組まれています。NBロードスターがデビューした1998年1月の段階で、カタログに純粋な「青色」がラインナップされなかったのは、10周年記念車に「イノセントブルーマイカ」が設定されていたからであると類推されます。
イノセント(=天真爛漫/純粋)という意味の通り、イノセントブルーマイカ(海外名サファイアブルーマイカ)はスカっと抜けた青色であり、マイカフレークが施されたいわゆるメタリック系の塗装になります。NBロードスター(ときめきのデザイン系譜)のオーガニックシェイプを際立たせ、スタイリッシュさや軽快感を演出する色味でした。
なお、10周年記念車の発表と同時期に、NBロードスターのテーマカラーとして設定されていた「エボリューションオレンジマイカ」が約1年でカタログ落ちしています。
1999 Mazda RX-7(FD3S)Type5
また「10周年記念車」の発表と同日にRX-7(FD3S)のビッグマイナーチェンジもおこなわれています。マツダファミリーフェイス(コントラストインハーモニー)を取り入れたエクステリア変更と、ついに280馬力を達成したロータリーエンジンを積む、いわゆる「5型」と呼ばれるモデルです。
そして、そのテーマカラーにもイノセントブルーマイカが設定されました。この「青」は、特別なセブンに用意されたボディカラーでもあるのです。意外かもしれませんが、純然たる「青」がセブンに採用されたのは初めてでした。
国内フラグシップスポーツカー(280馬力戦争)の王位に挑んだピュアスポーツと、10周年を迎えたライトウェイトスポーツカーが「同色」「同日投入」したことは、マツダスポーツカーにおける矜持を感じるものでした。

マツダ、スポーツカーへの取り組みを強化
「RX−7」のマイナーチェンジ、「ロードスター」10周年記念車を発表
マツダ(株)は本日、本格スポーツカー「RX-7」のマイナーチェンジと、軽量オープンスポーツカー「ロードスター」の10周年記念車を同時に発表する。(中略)
「RX-7」と「ロードスター」は、マツダのすべての商品に組み込まれるべき共通の要素である「際立つデザイン」、「反応の優れたハンドリングと性能」を具現化した代表的な商品である。マツダでは現在、ブランドイメージを向上させるためのブランド戦略に注力しており、その一環として両モデルを、特に若い世代を中心とするお客様を引きつける重要なイメージリーダーとして位置づけている。
そのためマツダは、今後ともスポーツカー両モデルの商品開発から販売促進策までの様々な活動を、積極的に推進していく。
1998年12月15日 マツダプレスリース(第1549号)より抜粋
2000 Mazda DEMIO(DW3W) LX Special
イノセントブルーマイカはスポーツカーに用意されたボディカラーですが、セブンやロードスターと同じマツダ宇品第一工場(U1)のラインで組まれる初代デミオのマイナーチェンジ(1998年12月21日発売)においてもカタログ入りしています。翌99年12月20日に発表されたスポーティグレード「LXスペシャル」ではテーマカラーに設定されました。
1999 Mazda MPV(LW5W)
また、フルモデルチェンジを行った2代目MPV(1999)においても、イノセントブルーマイカがカタログ設定されています(MPVも宇品第一工場で組まれています)。MPVはミニバンでありながらも軽快な色が多く採用されたことで話題になりました。余談ですが、MPVの開発企画は初代ロードスターと同じ「オフライン55」が源泉となっています。
国内外の違い
10周年記念車は世界統一仕様であることからカタログも世界共通の構成となっており、各国の言語でエモーショナルな翻訳がおこなわれています。上の画像は左から、マツダロードスター(日本)、Mazda MX-5 Miata(北米)、Mazda MX-5(欧州)のものです。
注目すべきは各国の「仕様差」が示されているこのページです。運転席側のフェンダーに「10周年記念のオーナメント」が装着されることから、ロードスターの向きが違っています。細かいところだと、ミアータ(北米)にはサイドターンランプ(フェンダーウインカー)がありません。
また、日本国内仕様のみ【エンジン】に手が入っていることから、違う解説が書かれています。
世界7500台のうち日本では500台の限定販売となる10周年記念車は、見ての通り、世界統一仕様の「特別な」エクステリアが目を引く。そして、そのボンネットの中には、ライトウェイトスポーツの走りにこだわるドライバーをさらにうならせる「特別」が潜んでいる。
そこに積まれた1.8l DOHC16バルブユニットには、厳選したピストン、コンロッド、フライホイールが組み込まれているのである。すなわち、厳しく管理されているこれら運動部品の重量バランスをさらにシビアに追求したのだ。
ピストン、コンロッド、フライホイールとも、通常の方法で組み込まれるものとの重量差は微小だ。しかし運動部品にとって重量バランスのレベルアップは、たとえそれがわずかでも、吹け・伸び、レスポンス、エンジン音質の向上を促す。これらは特にサーキット走行などで決定的な意味を持つのである。
MX-5 Miata 10AE カタログより抜粋
Just a glance is enough to take in the special exterior of the 10th Anniversary Model. But it’s in the drive train that drivers find something truly special-a close-ratio 6-speed transmission, the further refinement of the Miata’s already legendary gearbox. The short-throw gear lever requires just a flick of the wrist to shift up or down. Plus the carefully chosen gear ratios mean there’s minimal drop in revs when shifting up, keeping the 1.8 16-valve DOHC power plant firmly within its opti- mum torque range to deliver scintillating performance.
<翻訳>
10周年記念モデルはひと目で特別なことがわかるだろう。しかし、本当に特別なのは駆動系だ。ミアータの伝説的なトランスミッションをさらに洗練させた、クロスレシオの6速トランスミッションを採用したのだ。
ショートストロークのシフトレバーは、手首を軽く動かすだけでスムーズにシフトアップやシフトダウンが可能だ。また、綿密に選定されたギア比により、シフトアップ時の回転数の落ち込みを最小限に抑え、1.8L 16バルブDOHCエンジンが常に最適なトルクレンジを維持しながら、刺激的な走りを提供する。
実は、10周年記念車の国内仕様のみが【バランス調整を行った特別なエンジン】を採用しており、某ホンダタイプRのようなメーカーチューン(バランス調整)が行われました。こちら、かなりの手間だったそうで「二度とやるな」とお叱りを受けたと、貴島主査(当時)は回顧されています。
なお、サブブランド(M2(NA)、マツダスピード(NA/NB)、M’s Tune(NC)、MSR(ND))においてもエンジン周りのチューンを施されたロードスターは登場しますが、マツダ大本営としてエンジンに唯一手を入れたのは、この10周年記念車のみになります。
一方、海外のミアータ/MX-5はNB型にフルモデルチェンジした後も、基本は【5速マニュアルトランスミッション】だったのですが、10周年記念車で初めて【6速マニュアルトランスミッション】が提供されました。プロモーション文章の差分はここに集中しています。
また、仕様地による違いにおいて目立つもののひとつにシート(座席)があります。日本/北米ではNA時代からずっとヘッドレスト一体型のシートでしたが、欧州ではレギュレーションによりヘッドレストを分割しているのです。ちなみにこれはNBロードスター前期型(NB1)までで、後期型(NB2~)のシートは世界共通仕様となっています。
さらに、北米仕様のミアータにおいて、10周年記念車で始めて「エアコンが標準装備」となり、さらに約100台がハードトップ付きで販売されました。また北米でもさらにアメリカ仕様(3,000台)とカナダ仕様(150台)を視覚的に区別するため、前者にはフロントエアダムスカートとフォグランプ、後者にはリアスポイラーが標準装備されました。したがって、カタログも北米版のみ独立したバージョンが存在しています。
10周年記念オリジナルギフト
10周年を祝う特別なギフトとして、オーナーにはセイコー製の腕時計、1/43ミニカー、10周年記念キーホルダーがプレゼントされました。豪華なベルベット生地の箱に収まっているのが気合を感じますね。また、当時のマツダで社長だったジェームズ・E・ミラー氏の署名とともに、10周年記念オーナメントと同じ番号の「証明書」も付属しました。
世界に誇るセイコー製の時計が大盤振る舞いされたことも凄いのですが、ミニカーはエポック社のモデルカーブランド「エムテック(MTEC)」製で、イノセントブルーマイカのロードスターは市販されていないレアモデルとなります。余談ですが、エムテック製ロードスター(NB1)はカタログカラー全色が発売されています。
もちろん海外でも同様のキャンペーンが行われており、こちらでは腕時計が大小のペアウォッチでプレゼントされています。
あれから25年
今では考えられませんが、10年目を迎えた当時のロードスターは新車でなくても「手ごろな中古NAロードスター」がゴロゴロしていました。そこで、北米における10周年記念車は完売するまで1年以上かかり「生産数が多すぎる」と批判されていました。なぜなら、価格が26,875ドル(当時の為替レート(※)で、約311万円)と、ベースモデルより6,500ドル(約75万円)高かったのです。
一方、国内では10周年記念車の販売価格は248万円(税別)と、スペシャルなモデルでありながらも驚異的な価格設定でした。当時のクルマは安かったんですね・・・今だったら35周年記念車のようにバカ売れしそうですね。
なお、2025年現在において国内のNBロードスター中古販売価格(平均)は97.4万円となりますが、10周年記念車はリミテッドモデルであることから30%~50%上乗せされてるようです。一方、海外では90年~00年代スポーツカーのリバイバルブームにあやかり、平均価格が13,203ドル(現在の為替換算で約207万円)、最高で22,000ドル(同換算で345万円)と、年式の割にはそれなりの価値が付けられていることが分かります。
※1998年:1ドル116円、2025年:1ドル157円で計算
そんな「10周年記念車」も、誕生からさらに25年が経ちました。そこで、当時主査をされていた貴島さんの「ロードスター」に対するメッセージを読み返すと、感慨深いものがあります。

オープン2シーターのロードスターが世界に45万台以上(※)も送り出されることになるなど、私をはじめ開発スタッフの誰もが思っていませんでした。私たちは、自分たち自身が乗りたいスポーツカーをつくりたい一心で、このクルマの開発に取り組んでいたのです。オープンかクーペか、FRかFFかミッドシップか。スポーツカー好きのエンジニア揃いだけに、企画段階では実にさまざまなアイデアが出されました。
そして、最終的に「オープン、2シーター、FR」という結論に到達したのは、このパッケージこそが、自分たちが求める「人馬一体」の走りを実現する唯一のものと確信したからでした。人馬一体とは文字通り、乗り手と馬が体も心もひとつになること。私たちは、ドライバーが自分の体の一部のように操れるクルマをつくりたかったのです。
コンパクトで軽いボディ、理想的な前後重量配分が得やすく、アクセルワークでの車両コントロールが可能なFRレイアウトは、それを実現するために不可欠の条件でした。そしてもちろん、オープンは理屈抜きに気持ちいいドライビングを求めてのことです。
基本構想が決まり、次に私たちが目指したのは、「人馬一体」というコンセプトに命を与えることでした。単なるハイパワーではなく、リニアで俊敏なアクセルレスポンス。前後重量配分50:50とヨー慣性モーメントの極小化によるダイレクトなハンドリング感覚。それらとともに私たちが心血を注いだのは、安全性を高めながら車両全体を軽量化することでした。
クルマを自分の体のように自在に操る「人馬一体」の走りは、クルマ自体が「ライトウェイト」であることから始まるからです。そのために、アルミ製ボンネットフードから小さな部品に至るまで、まさにグラム単位の軽量化に取り組んできました。
こうした私たちのこだわりは、この10年間を通して一貫しています。ロードスターの進化は、変わるためではなく、安全性など時代の要請に最新のテクノロジーで応えながらライトウェイトスポーツの良さを磨き上げるためのものなのです。10年間で45万台という事実は、スポーツカーを愛する私たちの情熱やこだわりが、それだけ多くの人々に支持された結果だと自負し、同時に大きな歓びを感じています。
その気持ちを込めて、私たちは10周年記念車をつくりました。ほかにあまり例を見ない 「世界統一仕様」の限定車としたのは、ロードスターを愛する世界中の人々に私たちの想いをストレートにお届けしたかったからです。どうぞ、ロードスターの本領を存分にお楽しみください。そして、ライトウェイトスポーツのこれからにますますご期待ください。
ロードスター主査 貴島孝雄
ロードスター10周年記念車カタログより抜粋、貴島氏の肩書は当時のもの
※NAロードスターの販売実績
※ユーノスロードスタ「Vスペシャル」は、当初はカタロググレードではなく「ユーノス1周年」限定車だった
もちろん、10周年記念車の後もNBロードスターは熟成され、3代目NCロードスター、4代目のNDロードスターへ続いていくのですが、ロードスターにおけるフィロソフィー(哲学)は間違いなく現在にまで継がれ、今日も街で元気なロードスターを見かけます。
アニバーサリーカーとしては、ついに「35周年記念車」まで登場したロードスターにおいて、「10周年記念車」はあくまで通過点でしたが、この「エンジンまで手を入れた」スペシャルなロードスターを振り返るだけでも、色々見えてくるものがあると思うのです。
今回は、そんな歴史の片鱗のご紹介でした。
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