NBでレストアされたNAロードスター(リフレッシュビークル)

NBでレストアされたNAロードスター(リフレッシュビークル)

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マツダが現在展開している「ロードスターレストアサービス」。その源流は、今から遡ること約20年前にありました。単なる中古車の再生(レストア)に留まらず、後継モデルの知見を注ぎ込み性能向上(レトロフィット)まで施した「公式チューニングカー」をメーカー品質保証で提供する。そんな先進的な試みが「マツダスピード・リフレッシュビークル」です。


2003年の東京オートサロン。マツダブースには、後に市販される「ロードスタークーペ(NB7)」や、デビュー目前の「RX-8 マツダスピードコンセプト」など、華やかなモデルが並びました。その他、各種「NR-A」車両やRX-7 B-spec.」など、今の目で見るとかなり豪華なラインナップですよね。

東京オートサロン2003 マツダ出品車両

No. 車種 出品社
1 マツダRX-8 ”X-MEN Car” マツダ 参考出品車
2 マツダアテンザ ZOOM-ZOOM Version 参考出品車
3 マツダRX-8 MAZDASPEED Concept 参考出品車
4 マツダデミオ MAZDASPEED A-spec. 市販用品装着車
5 マツダアテンザ MAZDASPEED A-spec. 市販用品装着車
6 マツダRX-7 MAZDASPEED B-spec. 市販用品装着車
7 RX-7 MAZDASPEED AL.Concept 参考出品車
8 ロードスターMAZDASPEED Version 1 市販予定車
9 ロードスターMAZDASPEED Version 2 市販予定車
10 RS Coupe NR-A マツダE&T 参考出品車
11 マツダロードスター NR-A マツダ 市販車
12 マツダデミオ NR-A 参考出品車
13 RS Coupe A-type マツダE&T 参考出品車
14 RS Coupe E-type 参考出品車

その中で異彩を放っていたのが、一見するとノーマル然とした一台の初代「NAロードスター」。これこそが、限定30台で市販された「マツダスピード・リフレッシュビークル」です。

リフレッシュビークルとは


この企画の特徴は、良質なNAロードスターをベースに、2代目であるNBロードスターの「アップデートされた部品」を中心にモディファイを施しす、近年の表現でいう「公式レストモッド車両」である点にあります。

ご存知の通り、NAとNBでは多くのパーツに互換性があります。これは、NBロードスターが初代から続く【N型プラットフォーム】を改良、継承した背景がありますが、同時にNAオーナーがNBのパーツを用いて補修やアップデートを行えるよう、マツダエンジニアが意図していた側面もありました。

そこで、程度の良い初期型(1.6L)NAロードスターの中古車をマツダ自らが発掘、外装だけでなく機関部も含めて当時の技術で再生させ、マツダE&Tが販売するという、前代未聞の企画が立ち上がったのです。つまり、NBのメカを積極採用したNAロードスターを、メーカー自らが提供したのです。

マツダE&Tは、1979年に設立されたマツダの関連企業です。特装車部門の企画開発・製造、コンセプトカーの製作、新車開発における車両設計や外観デザイン、実験も担当している。当時はツダ本社へ統合された「マツダスピード」ブランド製品の開発・製造を担っており、マツダスピードロードスター(NB8C)、マツダスピードファミリア(BJ5P改)、ロードスタークーペ(NB7)、RX-8マツダスピードバージョン(SE3P改)なども同社で製作されています。

リフレッシュビークルも、その技術力の結晶といえるでしょう。

リフレッシュビークル、ふたつの選択肢

リフレッシュビークルには、オーナーの志向に合わせた二つのバージョンが存在しました。両バージョンともに、NAロードスターの中古車をベースに、劣化部品の交換、ボディ補強やブレーキ強化などを織り込んだモデルとなります。


ロードスターMAZDASPEED Version 1
(限定5台) 143万円~

1.6L(B6-ZE)エンジンをオーバーホールし、ヘッドカバーは美しいバフ掛け仕上げに。消耗品やベルト類はもちろん新品交換。エンジンルームにはマツダスピードのプレートが輝きます。排気系は純正品を採用、オリジナルのフィーリングを尊重しています。メーター類は新品交換され、リフレッシュされたことを実感させます。緑色のマツダスピード製プラグコードが、その出自を静かに主張していました。


ロードスターMAZDASPEED Version 2
(限定25台) 178万円~

こちらはピストン、フライホイール、カムシャフトにまで手を入れたチューニングエンジンを搭載。マフラーやセミバケットシートもマツダスピード製となり、より深く「走る楽しさ」を追求した仕様です。まさしく、メーカー自身が手掛けた理想のNAロードスター、本格ストリートチューンバージョンとなります。

142品目のアップデートメニュー

圧巻なのは、142品目にも及んだ新規交換&アップデートメニューです。その一部に、このクルマの思想が色濃く表れています。


ボディ剛性強化
NBロードスターにおける剛性向上の要となった、フロアトンネル後端の補強ガセットを追加溶接しています。この効果は絶大で、NBロードスターではこのガセットの採用により、NA後期モデルに存在したリアパフォーマンスバーが不要となり、エアロボードの装着が可能になりました。NAの素性を知り尽くしたメーカーだからこその、的確なアップデートです。フロントにはマツダスピード謹製のストラットタワーバーが装着されました。


足周り
アーム類をブッシュも含めてNB用に一新。ダンパーには定評のある「NR-A」グレード用のビルシュタイン製が奢られました。さらに、スタビライザーリンクをNAのブッシュ式からNBのボールジョイントタイプへ変更することで、よりダイレクトな操舵感と応答性を実現。ブレーキもNA8C用の大径ローターへ換装され、動力性能の向上に対応しています。


エクステリア/インテリア
幌は、耐候性と後方視界に優れるNB用のガラス窓タイプ(デフォッガー機能なし)へ換装。ボディカラーはNA後期標準色を基本に、エンジンルームからトランクルームに至るまで完全な再塗装が施されました。オプションで往年のカタログカラーも選択可能でしたが、その多くはシャストホワイトでデリバリーされています。


モールやランプ類といった樹脂・ゴム部品、もちろんシートも新品です。これらの部品が、熟練の職人の手で一台一台丁寧に組み込まれていきました。


そして、その証として、NAロードスターの歴史において4色目となる、「黄色いROADSTER」のエンブレムが与えられました。

15年の時を経て結実した志


この車両は2003年1月11日に正式発表され、マツダE&Tのウェブサイトを中心に注文が受け付けられました。なお、完売は約半年後の7月10日になるのですが、現代の感覚であれば時間がかかったように思えるかもしれません。ただし、当時のレビューでは「エンジンはリフレッシュされているが、ラジエーターやミッションは中古のままだ」といった手厳しい声も散見しており、実際にNAロードスター自体も今のような人気はありませんでした。

しかし、この「メーカーによるリフレッシュ」というコンセプト自体は好評を博し、「定番サービスとして検討する」とのアナウンスもされました。その約束が、奇しくも15年の歳月を経て、2018年から正式スタートした「ロードスターレストアサービス」に結実したと考えるのは、決して感傷的すぎる見方ではないでしょう。


そして現在、NAロードスターの中古車価格が高騰している状況からすれば、メーカー保証付き・アップデート済みNAロードスターが200万円以下で手に入ったこの企画は、破格の試みだったといえるでしょう。(今さらですが、あまりにもレア車両すぎて私自身も実車で拝見したことはありません)


閑話休題、NBロードスターが後期型として熟成の域に達していた当時、敢えて初代NAに光を当てたこの企画は、NAロードスターがいかに深く、そして愛され続けていたかが分かるものでした。そんな歴史の1ページを飾る、意義深いクルマ。それがマツダスピード・リフレッシュビークル、黄色いエンブレムのNAロードスターなのです。

<関連情報>

940kgのロードスター(NA6CEベースグレード)試乗記

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