NBロードスターと丸目異形ヘッドライト・デザイン

NBロードスターと丸目異形ヘッドライト・デザイン

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今回はNBロードスターのデビュー当時、相当な賛否両論を巻き起こした「ヘッドライト・デザイン」の話です。

目は口ほどに物を言う


誰が言い出したのかわからないほど古くから、故事から伝わる諺(ことわざ)に「目は口ほどに物を言う」というものがあります。これは「隠そうとしても心の内面は目に現れる」という意味を指しますし、日本語には目元の印象でキャラクターを表す「目力(めぢから)」なんて独特の表現もあります。

日本の顔文字【(^^) ( ゚Д゚) (_)】なんてその極端な例で、目元を記号化して感情を代弁します。余談ですが、海外の顔文字は【:)】や【;(】と記号を左に90度倒した形で表記を行い(※嬉しい/悲しい)、カッコで示される「口元」で感情を記します。これはサングラス文化がある欧米ならではの表現だそうです。

そして、「目元」でキャラクターを表現するのはクルマでも同じです。全体のフォルムでそのクルマの機能を魅せるのももちろんですが、デザインのアクセントとして前照灯、つまりヘッドライトが重要な役目になります。

ヘッドライトは規格から独自デザインへ


1984年まで北米の自動車ヘッドライトは連邦自動車安全基準(FMVSS)によって定められた統一規格があり、実は、デザインの観点では大きな制約になっていました。80年代から開発が始まっていたNAロードスターもそれに準じていて、シールドビームという規格型のヘッドライトを採用しています。

同じ目であることを避けるために作られたリトラクタブルヘッドライトのデザインはスッキリした面構えが特徴ですが、反面「どのクルマも顔が似てね?」ってなるんですね。そんなシールドビームには丸型と角型があり、バルブとレンズが一体型になったシンプルな構造をしています。これは、アメリカの広大な国土において、どの地方のガソリンスタンドに行っても容易に交換しやすくするという意図からできた規格だそうです。


しかしその後、規制が緩和されたことでマルチリフレクタータイプやプロジェクタータイプのヘッドライトが一般化し、デザインの制約は大きく変わり、自由な造形が可能になりました。この規制緩和こそが、90年代の自動車デザインに革命をもたらす引き金となります。それまで規格品という「枷(かせ)」にはめられていたデザイナーたちが、堰を切ったように新しい表現を模索し始めたのです。

現在に至ってはHID、LEDの実用化やレーザー式ヘッドライトというものまで準備され、クルマの目は今まで以上に「キャラクター」を表現する重要なパーツになっています。例えば、光岡ロックスターのヘッドライトはその最たる事例で、前照灯としての機能はあの小さなサイズでも十分にイケるのです。

似て非なるもの?90年代のデザイントレンド「エアロージョン」


さて、ヘッドライト・デザインの自由度が増したことにより、各社が切磋琢磨を始めるのですが、時にメーカーをまたいだ「似ているカタチ」が発生しました。社内の厳しいコンペを勝ち抜いて発表されたデザインですから、他社のマネをするなんて気持ちは毛頭ないでしょう。これはまさに、その当時のデザイントレンドといっても過言ではありません。

特に、この時代の大きな流れを海外メディアでは「Aerosion(エアロージョン)」と表現することがあります。これは「Aero(空気力学)」と「Erosion(侵食)」を組み合わせた造語です。80年代の角張った箱型のクルマが、まるで風雨に侵食されて角が取れたかのように、全体的に丸みを帯びた滑らかなデザインへと変化していった様を表しているのです。

そして、この「エアロージョン」の象徴こそが、NBロードスターにも採用された「丸目異形」のヘッドライトでした。専門的な統一用語はありませんが、ボディと一体化したその有機的な形状は「コンポジット・ヘッドライト」や、涙のしずくのような形から「ティアドロップ・ヘッドライト」などと呼ばれ、当時の流行であった自然界のフォルムを取り入れた「オーガニックシェイプ」「バイオデザイン」の流れを汲むものでした。

2000年代に入るまでは、現代のようにメーカー全体でデザイン言語を統一するという考え方もまだ希薄で、特に90年代は「クルマ自身のキャラクター」で勝負をかけていた頂点ともいえる時代でした。だからこそ、デザインが「かぶる」事も起きるのです。例えば・・・


オートザム・レビュー/Mazda 121 DB系 1990-1998


スバル・ヴィヴィオ KK/KW/KY系 1992-1998


スズキ・X-90 LB系 1995-1997

これは見ての通り、クラスも価格も違うのに、丸型異形というヘッドライト・デザインが似ていることと、発売時期が被ることで、さもすれば兄弟車に見えてしまうという一例です。

全体のバランスは似て非なるものですが、顔つきひとつで(言葉は悪いですが)「どこかで見た事がある」ように見え、結果的に没個性と捉えられてしまう事もありました。今の目で見ると、とてもキュートですけどね!

当時のマツダ車+αたち

では、ここからがNBロードスターの話です。


マツダ・ロードスター NB系 1998-2005
前期型/後期型

NBのデザイン発表時、最も異論が多かったのがエクステリア、とりわけヘッドライトデザインでした。なぜ否定意見が多かったかを紐解くと、リトラクタブルヘッドライトの廃止と同時に、既視感(どこかで見た事がある)があった事も要因だったのかと思うのです。なぜなら同じマツダ系の中でも下記の様なラインナップが揃っていました。

当時賛否両論(というよりも否定意見が大半だったと記憶しています)であったヘッドライト・デザイン。前期型はマルチリフレクター主体の二灯式、後期型はプロジェクター併用の三眼式になっています。

そのモチーフはNAロードスターのフロントバンパーに埋め込まれたポジションライトから来ており、NA当時から「ロードスターに目を与えたかった」と構想されていたものが、時代の要請であった固定ヘッドライトとして昇華されたデザインです。余談ですが、前期型のベースはカリフォルニアにあるマツダのデザイン拠点(MRA)で描かれたデザインで、後期型は日本のスタジオで手直しされたデザインになります。

この水滴を倒したような形のヘッドライトは、便宜上「丸目異形」と呼ばれています。

NBのデザイン発表時、最も異論が多かったのがエクステリア、とりわけヘッドライトデザインでした。なぜ否定意見が多かったかを紐解くと、多くのファンに愛されたリトラクタブルヘッドライトの廃止と同時に、既視感(どこかで見た事がある)があった事も要因と思えます。なぜなら、同じマツダ系列でも下記の様なラインナップが揃っていました。


ユーノス・プレッソ/オートザム・AZ-3/(MX-3)
EC系 1991-1998


オートザム・クレフ GE系 1992-1994


フォード・トーラス(アジア・オセアニア仕様)
1FA系 1996-1999

このように、00年代のコントラスト・イン・ハーモニー群(ファイブポイント・グリル)でデザインアイデンティティを統一する以前から「丸型異形ヘッドライト」群の一員として、意図せずしてマツダ・フェイスが誕生していました。

ロードスターを鑑みると


ロードスターはオープンカーという非日常が求められます。そのなかにおいて、鳴り物入りで登場した新車のNBロードスターに「既視感」があれば、ネガティブにとらえる方がいたのも頷けます。

NAのリトラクタブルヘッドライトはシンプルな表情といいますか、(あえて書きますが)「没個性」な顔でありながら、往年のスーパーカー群から受け継ぐDNA、メカとしてのロマンがありました。そこからNBロードスターが「見たことある顔」になってしまったことへの反動は、とても大きかったと思うのです。


しかし、繰り返しますが、これらは一流のデザイナーたちが競い合って勝ち残ったデザイン。当時の評価はさておき、今改めて眺めてみると・・・ぜんぜん陳腐化していない、普遍的なデザインといえるのではないでしょうか。クルマのキャラクターと相まって、どれも実にカッコいい表情に見えます。

さて、自動車は企画から量産されるまで、少なくとも約4年の工程がかかるとされています。しかし、さまざまな実験車やモーターショーのコンセプトカーも含めると、実際には何年もまたいでいる企画もあるようです。水滴を倒したような「丸目異形」群は、ヘッドライトデザインの自由度が上がった90年代のデザイントレンドのひとつでした。もちろんNBロードスターもそのなかの一台です。

では、マツダ以外のメーカーで、同系統の「目」にはどんなものがあったのか、折角なので並べてみましょう。

丸目異形ヘッドライトの国産車


トヨタ・ソアラ/LexusSC Z30系 1991-2000
国内では不人気だった3代目ソアラですが、これはバブル経済の崩壊による高級車・スペシャリティクーペのブームが減退した事にあります。しかし、北米で展開された「レクサスSC」の評価は非常に高く、北米カーオブザイヤーの10ベストにノミネートされるほどの支持を得ていました。今思えば、ビッグサイズ・大排気量・5MTでトヨタの保証が付くとか、胸熱なキャラクターなんですよね。


ヘッドライトとしては丸目異形の内側に複眼があり、ロングノーズなボディとともに止まっていても「速そうな」オーラを放ち、カッコいいです。その後、後継車となった4代目「レクサスSC」以降にこの名は継承されませんでしたが、現行のRCやLCが精神的な後継モデルといえるのでしょう。ちなみに、ルーフを切ったカスタム・ソアラは一瞬「でっかいNB」に見えて面白かったりします。


スズキ・カプチーノ EA系 1991-1998
カプチーノは今も復活が望まれる平成の軽スポーツ「ABCトリオ」のなかの一台。AZ-1と同じくF6Aユニット(後期型はK6A)はカタログ値よりも出力があり、理想的な前後重量配分(51:49)や4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション、車重700キロと、ある意味ロードスターよりもじゃじゃ馬なライトウェイトスポーツかもしれません。(※AZ-1も含め、当時の感覚ではNAロードスターよりも速かった気が・・・)


軽自動車故のボディサイズ制限により丸目異形ヘッドライトは相対的に「大きい」ですが、慣れてくると精悍でありつつもキュートな表情に見えてきます。


ホンダ・CR-Xデルソル EG系 1992-1997
当時の峠でFF最速と謳われたEGシビック(スポーツシビック)の兄弟車で、トップグレードのSirには伝説のB16A・VTECエンジンが搭載されています。また、「トランストップ」という電動で屋根をトランクに格納する、ロマンあふれるメカがあることも大きなポイントです(※ただし高価なオプション扱いでした)。


それにしても今見ても、とてもカッコいい。Bピラーからルーフ後端に伸びるフライング・バットレスのデザイン処理で流麗なクーペスタイルを演出し、後ろの窓はパワーウインドウで開いたりと、屋根以外にもロマンあふれるクルマです。後期型はフロントバンパーの複眼アクセサリーライトが廃されて、シンプルな顔つきになったことで、オープンカーであるNBロードスターとさらにキャラ被りしました。

丸目異形ヘッドライトの北米車


ダッジ・バイパー SR1系 1991-2002
1989年のコンセプトモデルVM-01のデザインを引継ぎ、伝説のシェルビー・コブラをリスペクトし、現代によみがえったアメリカンマッスルカー。8リッターV10 OHVエンジンというとてつもないパワーユニットを引っ提げて3年間限定の販売予定でした。しかし、想定以上の売り上げがあったことからモデル継続され、この初代バイパーから数えて3代目までリリースされました。


NB視点でいえば、実はバイパーのデザインチーフを務めたケン・セイワード氏がNBロードスターのコンセプトにおけるエクステリアデザイン(MRA案)を描いています。同氏は、NBロードスター後期のアグレッシブな表情の方が「自分の描いたイメージに近い」と回述しています。

さて、そんなバイパーは若干薄目の丸目異形ですが、ホンモノはとてつもなく大きいクルマなので、ヘッドライトユニットの大きさはそこそこあります。また、「センターストライプ」はロードスターのモデファイソースのひとつになっています。超個人的な感想としては、実車を見たときに価格帯の割にパネルの組み付けが甘く、「エンジンにお金をかけすぎたのかな?」と思いました。あらゆる意味でアメリカらしい、マッスルカーです。


シボレー・カマロ(マイナーチェンジ)1998 CF系 1993-2002
4代目カマロのフェイスリフトモデルが、丸目異形・ティアドロップ(涙目)デザインに変更されています。ちなみに4代目カマロのオリジナルデザインは、あの奥山清行氏(ケン・オクヤマ)が手掛けたりします。シボレーはGM傘下のグローバル展開するブランドで、国内ではスズキと提携していたこともあり、スイフトのバリエーションモデル(シボレークルーズ)はよく街で見ましたね。


前期型のシャープでクールな迫力のあったヘッドライトに、フェイスリフトで「表情」が分かりやすくなったことで、21世紀に向けて求められていたキャラクタートレンドの変化を感じさせてくれる一台です。


クライスラー・PTクルーザー PT系 2000-2010
一度見たら忘れられないインパクト。デザインソースは1930年代の名車「エアフロー」で、プラットフォームは「クライスラー・ネオン(これもまた、2代目インプレッサとキャラが被る)」と共用されています。強烈なキャラ立ちとは裏腹に、ワゴンとしての実用性もあったことからスマッシュヒットを記録し、10年近く生産されました。


NB視点でいえば、丸目異形ヘッドライトの形が近しくても、これだけ印象の違うものがデザイン出来るという事に気づかせてくれます。

丸目異形ヘッドライトの欧州車


ジャガー・XK XK系 1996-2006
XKはフォード傘下に入ったジャガーが、伝説のE-Type以前に販売されていたスポーツモデルの愛称を復活させた2+2のラグジュアリー・クーペです。ボディタイプはクーペとコンバーチブル(オープン)が用意され、ブランドのデザイン力の底力を感じます。ただ、信頼性はあまり高くなかったようで、今の時代に街を走っていたら、拝まなければバチが当たるくらいの貴重な車両です。


NB視点でいえば、欧州ではNBロードスターに「ミニ・ジャガー(リトルジャガー)」の愛称が付けられていました。なお、当時はジャガーもマツダもフォード傘下でしたが、デザイン自体の連携は無かったそうです。しかし、ブリティッシュグリーンなどのカラーバリエーションに関してNBロードスターも、イギリスのスポーツカーをリスペクトしていたことが分かります。XKオーナーには怒られるかもしれませんが、個人的には「超カッコよくしたNB」のようにも見えます。


アルファロメオ・147(マイナーチェンジ)937系 2000-2011
147はイタリアのプレミアムブランド、アルファロメオのCセグメント・ハッチバックです。前期型はヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するほど高く評価されています。オリジナルのスタイリングは、当時アルファロメオ・デザインセンターに在籍していたワルテル・デ・シルヴァ、アンドレアス・ザパティナス、ヴォルフガング・エッガーというそうそうたるメンバーの共同作業によるものです。


そして、2004年に行われたマイナーチェンジ後のスタイリングは、イタルデザイン創始者のジョルジェット・ジウジアーロが担当しました。ちょうどNBロードスターの終焉とともに入れ替わったキリっとした丸目異形は、今の目で見ても素敵です。

90年代を駆け抜けた「丸目異形」ヘッドライトの仲間たち


さて、私の知る限りで紹介させていただきました「丸型異形ヘッドライト」のクルマたち。これを時系列で並べていくと、以下の様になります。

1991 ソアラ、AZ-3、カプチーノ
1992 クレフ、デルソル
1996 トーラス、XK
1998 NBロードスター、カマロ(マイナー)
2000 PTクルーザー
2004 アルファロメオ147(マイナー)

つまり、市販の順番ではNBはこのトレンドの最後期にあたり、デビュー時より「なんか見たことあるデザイン」になってしまっていたことが改めて分かります。それなのに、あえて丸目異形ヘッドライトを採用したのは、ロードスターらしさにマッチする「目力」が、この形だったという事なのでしょう。


ロードスターのデザインテーマには「ファン・フレンドリー・シンプル」という不変の軸があります。これは20年先、30年先を見越した、飽きのこないデザインを目指しているからだそうです。

「目は口程に物を言う」の言葉通り、前期型のハッピースマイルな顔や後期型のファイブポイントグリル、つまり「口」よりも、ロードスターらしいファンなキャラクター・・・言葉を変えると、威圧感がなく「敵を作らない顔」を表現するのに、あの「目」が必要だったとされています。

NB以降も「ロードスターらしさ」を追及したデザインとしてNC、NDと続いていきますが、NC1のオーバルデザイン・ヘッドライト以降は、マツダ全体のデザインテーマである「流(NAGARE)」「魂動(KODO)」に合せた、よりシャープな「目」に変わっていきます。


そして、これらの90年代車種が次々とモデル終了になるとともに、一時代を築いた丸型異形ヘッドライトは街から消えていきました。

さて、他のメーカーと「目」のキャラ被りしたことで、デザインが凡庸であると不遇の扱いを受けたNBロードスター。しかし時代が一周回って「ロードスターらしさ」を感じる顔つきということで近年は再評価されているのも、あのハッピースマイルフェイスが功を奏した結果でしょう。※未だに「平成がっかりしたクルマ」などの記事で、NBが「見た目」だけで酷評されていますが・・・

最後に、「目は口程に物を言う」の通り、丸目異形ヘッドライトを用いて街を走っていたクルマたちは、同じ時代を過ごした仲間として敬意を感じずにはいられません。現代のクルマもカッコいいけれど、振り返ればあの時代のクルマ達もまた、輝いていたと思いませんか!

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