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2025年9月28日(日)
やっと、秋の気配を感じはじめた2025年9月28日(日)、マツダR&Dセンター横浜(以下MRY)にて、「NBロードスターミーティング2025」を無事開催することができました。
当日、横浜の天気予報は気まぐれな「曇り」予報。しかし、午後には優しい日差しが戻り、オープンカーの祭典にふさわしい、絶好のミーティング日和となりました。
このイベントは「温故知新 対話する人馬一体」というサブタイトルの通り、1998年のデビューから四半世紀以上が経過したNBロードスターを主役に据え、その魅力を再発見するための企画です。
ともすれば旧いクルマとして扱われがちなネオクラシックカーを、今なお現役で大切に乗り続けるオーナーの皆さまが、「イベントの帰りには自分の愛車に、より一層の愛着を持ってもらう」ことを目的とした仕立てを行いました。そして、その最大のハイライトとして、(様々なコネクションを通じて)念願の開発者(貴島さん、山口さん)講演を実現することができ、オーナーの皆が直接感謝を伝える場を用意することができました。
正直に言うと、イベントの募集を開始するまでは「本当に参加者が集まるのだろうか…」と内心穏やかではありませんでした。しかし、それは全くの杞憂だったようで、想定を大幅に上回るお申込みを頂いたのは、嬉しい誤算でした。ただ、物理的な空間の制約や安全への配慮から、苦渋の決断ではありますが参加人数に制限を設けざるを得ず、抽選(当選確率51%)となってしまいました。ご期待に沿えなかった皆様には、この場を借りて深くお詫び申し上げます。
その分、参加いただいた皆様には、最大限楽しんでいただくための”おもてなし”を行ったつもりです。今回のレポートは、そのあたりも踏まえつつ、当日の空気をお伝えできればと思います。
<↓ 当日のメニュー>
受付後の、ちょっとした仕組み
ロードスターが集まればオーナー同士の交流が自然に始まる・・・のはいつもの光景ですが、折角同じ時間を共有するのですから、もっとお互いの「クルマ」を知る仕組みを作りたいと考えました。
そこで、参加エントリー時に「NB世代、ナンバープレート下4桁、ボディカラー」を申請いただいてたので、当日受付を行ったのちに、参加される皆様へ名札の提供と、愛車のスペックシートをダッシュボード(フロントガラス下)に掲示して貰いました。
自分の愛車を改めてアピールするのって照れくさいけど、一番楽しい時間だったりしませんか?皆さん、我が子を自慢する親のような目でスペックシートを書き込んでいたのが印象的でした。これは、ご自身のロードスターへの想いを再確認する時間になれば・・・という意図によるものです。
また、事前に掲示用スペックシートのテンプレートを共有していたので詳細に記載いただいた方もいて、個人的にはガッツポーズものでした。しかし、50台以上の個性豊かなロードスターが集まると、正直全てをじっくり堪能するには時間が足りなくて・・・それだけが心残りでした。
マツダ協力・強力なおもてなし
ホワイエ(ロビー)には、ミーティングの事前打ち合わせ段階でMRYにリクエストをしていた「NBロードスターの広報車(NB1 RS)」を中心に、マツダの至宝ともいえる関係車両の展示をさせて頂きました。
なお、ラインナップはNBロードスター広報車のみをお願いしましたが、その他の車両はMRYにあるものがランダムで展示されるそうです・・・が、そこはマツダさん、さすが分かっていらっしゃる。ロードスター好きでこのラインナップが嫌いな方はいない、という熱いクルマの展示が実現しました。
手前から目に鮮やかなエボリューションオレンジマイカをまとったNB1広報車(NB前期型RS)、Web Tune FactoryのガーネットレッドのNB3(NB後期型 NR-AベースにVS内装)、そして、全ての伝説の始まりであるユーノスロードスター広報車(NA6CE、スペシャルパッケージ・クラシックレッド)。ちなみに、このNAは(当時)90歳になった女性オーナーがマツダに寄贈した、愛情の籠っている一台です。
さらに奥には、流麗なフォルムが美しいハイライトシルバーメタリックのRX-7と、オープン仕様のRX-8「Paradester(パレードスター)」が配置されました。
このFD3S型RX-7は、2025年の報道で話題になった、80歳の女性からマツダに寄贈されたもので、あらためてピカピカにレストアされていました。なお、この車両は本ミーティングの翌週に開催された「マツダファンフェスタ富士」にて、毛籠勝弘社長の運転によって富士スピードウエイを駆け抜け、喝采を浴びていました。もちろんご存じでしょうが、今回のゲスト貴島孝雄さんが主査を務められた、歴史的なクルマです。
また、オープン仕様のRX-8は、広島カープなどのパレード用に制作されたワンオフモデルで、デザインは当時マツダE&Tで顧問をされていた福田成徳氏。同氏はユーノスロードスター時代にマツダデザイン本部長をされていた方で、NA/NBやFDのデザインテーマ「ときめきのデザイン」を熟成させ、かのロードスタークーペ(NB7)のデザインも手掛けています。つまり、ホールにはロードスターにゆかりのあるクルマが”偶然”用意されるという、ニクい演出がなされました。
お昼の休憩時間にはMRY主催によるバックヤードツアーが行われ、コンセプトカーRX-01などの貴重な歴史的な遺産を間近で閲覧することができました。なお、このMRYは第二次世界大戦時にフォードの工場だったそうで、屋根に社名を描いていたおかげで空襲を免れたとか。とんでもない逸話を聞いた気がする・・・!
ちなみに、いつもの「787B」は富士のイベントで稼働するため、MRYにいる子(レプリカですが)はマツダミュージアムに出張中。その代わりといってはなんですが、787B後継の「MX-R01」が展示されていました。ジャガーXJR-14をベースとしたレシプロエンジン(マツダ・MV10)を積んだプロトタイプレーシングカー)で、ロードスターのイベントだから、同じMXを冠するシリーズがいるのは必然ですよね!
なお、10周年記念車(10AE)のサインカーはレストア中とのことで、今回はお目にかかれず。しかし、むしろ、動態保存をするためのメンテナンスを継続的に行っているマツダの姿勢に感銘を受けました。
NBロードスターギャラリー
メインプログラムの待機時間に楽しんでいただくために、公式および、有志によるNBロードスターグッズの展示も行いました。こちらはマツダデザイナーさんによる、NBロードスターのデザイン画稿です。雑誌や書籍で見たことがあるやつだ!
また、国内外のパンフレットバリエーション、当時の雑誌、各種モデルカー、模型、そしてコレクションパーツなど、個人的には見たことのないお宝も多く、心の中で小躍りしながら眺めていました。
モデルカーを集めている人であれば分かると思うのですが、NB後期のクラシックレッド仕様のミニカーは、本当に出物がないんですよね。
そして、今回の目玉は、事前打ち合わせで「可能でしたら・・・」とダメ元でお願いをしていた、マツダデザインチーム渾身の習作、1/5スケールのNBロードスター・クレイモデルがAVホール(講演会場)に展示されたこと!かつて南青山にあったブランド体感施設「MAZDA BRAND SPACE TOKYO」のオープン時に展示されていたものですが、そのオーラは格別です。抱えて持って帰りたいほどの素晴らしい出来でした。来場された皆さん、これは本当にラッキーでしたよ!
メインプログラム、開発者による講演
メインプログラムの講演は、午前、午後と豪華2本立てで行いました。実は、イベント前日に講演内容の打ち合わせを行っていて、直前までバックヤードで資料を作りこんでいらっしゃいました!
前半のプログラムは、現在山口東京理科大学の教授をされている貴島孝雄さん。多くのマツダスポーツカーに関わり、とりわけ歴代NA~NCロードスター、およびRX-7(FD)の開発主査もされていました。
貴島さんの講演は、世界的な大ヒットとなったNAロードスターにおけるルーツ、初代主査である平井敏彦さんから継いだマインドと守り通した哲学、それがどのようにNBロードスターに活かされたのか。「感性価値」「愛着性能」といった、「楽しさ」を性能という指標に落とし込むアプローチと、その苦悩を熱く語られました。
後半は、マツダ株式会社の商品開発本部にて、ロードスターヘリテージマネージャーをされている山口宗則さんに講演をいただきました。同氏はNA8ロードスターから現行のNDロードスターまで、文字通り全てのロードスターに携わっている、”生き字引”ともいえる伝道師のひとりです。NBロードスターはもちろん、そもそもの「ロードスターシリーズ」におけるモデルチェンジの考え方やその実現方法、競合他車との関係性など、開発現場のリアルを交えた多角的な視点での講演をいただきました。
おふたりの講演を聞いて感じたのは、ユーノスロードスターの偉大さと、それを継ぐために奮起した当時の若者たちの物語。(当時の貴島さん、山口さんは、イベント来場者よりも若かった!)。誰もが好きなスポーツカー開発は、好き勝手にやれたわけではなく、様々な制約の中で最高のクルマを創り上げるというパッションがなければ、市場投入までこぎつけることはできなかったのだと、あらためて胸が熱くなりました。
来場者用冊子に関して
今回、ゲストをお招きする前提での企画を行っていましたが、諸々の準備をおこなっていた4月~5月の段階では、米国大統領による金融施策の先行きが見えなかった時期でした(いわゆるトランプ関税です)。そこで、万が一講演企画が実現しなかったことを想定して、冊子(パンフレット)を用意させていただきました。全32ページ、取捨選択したので文章は結構削っています。
内容は、NBロードスター全体を振り返るものと、そのDNAがどう継がれていったかをユーザー視点で書き下ろしたもので、当NBロードスターアーカイブでも発表をしていない、オリジナル記事になります。また、事前におこなった「NBロードスター実態調査」の集計結果もまとめています(※これらは、改めて当サイトで紹介をさせて頂く予定です)。
結果的に意図通りの企画を行うことができたので、イベントにて「私が話す予定だったパート」はほぼ全カットしましたが、その供養として私なりのパッションはこの冊子に詰め込んでいます。頑張って書き下ろしたので、お土産くらいにはなったでしょうか。
冊子からひとつだけ共有したいのは、NBロードスターの残存台数。2025年4月時点で国内生産分30,039台に対して、残存数11,979台(NB6:5,157/NB8:6,822)、残存率約39.9%ということです。20年前のスポーツカーではありながらも、約4割が生き残っているのはちょっと嬉しいですね!
イベントの最後に
見どころはそれなりにあったかと思いますが、会場をお借りしている都合上、どうしてもタイトなスケジュールになってしまったのは、申し訳なく思っています。繰り返しますが、個人的には、来場いただいた一台一台のロードスターをもっとじっくり見たかった・・・!なお、参加者サマリーは上記の通りです。特に、感染症騒動以降にスポーツカーのような趣味車が再び注目を集めていることを示唆しているデータな気がします。
また、会場のお声掛けやイベントアンケートでは、非常に多くの方に「初めてミーティングに参加したけど、想定よりもずっとよかった!」とポジティブなフィードバックをいただけました。準備はしんどいこともあったけれど、本当に報われた瞬間でした。独りよがりで押しつけがましい内容になっていないか、思想が強めになっていないか、そんな心配もしておりましたが、杞憂だったようです。
参加台数は52台、参加人数62名。欠席者も少なく、参加率は9割を超えました。予告通り、利益を目的としたイベントではありませんので、運営残金はしかるべき機関へ寄付を行おうと考えています。
最後に、もちろんこのイベントは私一人では実現不可能でした。ご協力いただいた貴島さん、山口さん、MRY(マツダスタッフの皆さま)、RCOJ水落さん、起案者のNiiさん、協力してくれたイベントスタッフ、そして何よりもこの場を創ってくれた参加者の皆さま、本当にありがとうございました!改めて感謝を申し上げます。
会場から笑顔で皆が帰る時、少しだけウルっとしました・・・
アンケートより、参加者の声をご紹介
貴島さん、山口さんのお話で、「これは!」と膝を打った、あるいは胸が熱くなったエピソードはありましたか?
・貴島さんのお話では、感性工学に関連して、文系と理系が融合すべきだと仰られていたのがとても共感できました。お話を伺っていると、感性工学は「理系から文系への歩み寄り」であり、平井さんの話から出てきた自動車文化論は「文系から理系への歩み寄り」であり、その二つが融合して初めてロードスターのような特別な存在が作られるのだと解釈しました。世のスポーツカー、ひいては趣味性の高いクルマを作る際の根底にあるべき考えだと感じました。(Sさん)
・質問に答える形で、スポーツカーとはこうあるべきとの考えから作りたいものを作る。あえていろんな人の声を聞かないようにしていたというような内容のくだり。スポーツカーは特にそうだと思いますが、購入するかわからないような人の声、社内の営業部門の声を聞いて対応していくときっとコンセプトがブレブレの車になってしまうんだろうなと思いました。(そう思われる車が数多くあるように思われます)(Nさん)
今日のミーティングで「一番良かった瞬間」は?
・帰り道です。こういうミーティングは初めてで全く期待していなかったのですが、想像以上に内容が濃く、帰り道で感動していました。(Aさん)
・みなさんと歓談している時もバックヤード見学も、もちろん貴島さんと山口さんのお話を聞いている時もよかったのですが、実は帰りの道中でした。やっぱりNBは良いな~と幸せシャワーの余韻を感じながら運転している時が一番良かったかもです。(Nさん)
・貴島さんと直接お話をしてサインなども貰えたことです!前からお会いする機会があったら是非サインが欲しいと思っていましたが、オーナーになって3年と少し、遂に叶いました…!(Oさん)
・実はファミリア(※バックヤードツアー)を見た時でした。中学生の時に先輩が買った新車の後部座席に乗せてもらった時のことをほんわかと思い出しました。(Mさん)
・常日頃から、もっと自動車文化を深めるためにはどうすれば良いか考えています(ですが、OEMの中にいても中々そのような機会には恵まれません)。そんな中、貴島さんの官能工学講義内の、幸せになる→どう理論とつなげるか、理系文系をつなげなければならない等の言葉は、まさに自分の考えていたことの言語化がされてるなあと感じました。その時です。(Kさん)
・会場に車が並んだ時。NBオンリーは参加したミーティングでは初めてだったので今までにない光景でした。(Iさん)
運営や企画について、お気づきの点や、次回への期待など、どんなことでもお聞かせください。(残念なところもあれば、忌憚なく!)
・今回初めてのミーティング参加でドキドキしていましたが、企画頂いたスタッフの皆さま、マツダの皆さまのお陰で大変楽しく過ごせました、本当にありがとうございました。(Nさん)
・マツダの方や主催してくださった皆さんの負担が大きくなるので心苦しいですが、開催時間をもう少し長くして、皆さんとお話する時間をもう少し取れると良いかなと感じました。そのためにお手伝いスタッフを募集していただければ喜んで参加します。具体的な案を持っているわけではありませんがオーナー同士の交流のプログラムがあっても良いかもしれません。(Mさん)
・希望者の半分が参加できなかった点は残念。ギャラリーを使うと今回の上限になってしまうので、クルマは奥の駐車場に停めるとかどうかしら?そうすると講義の座席も足りなくなってしまうかな?(※1)オープンギャラリーはどう使う?などいろいろ検討事項はありそうですが、MRYでのイベントの参加者数が増加できたらいいのになぁと思いました。東北ミーティングが慧日寺の駐車場で180台入れるのでやりようはあるように思うけど、運営は大変そうですね(笑)(Uさん) (※1 主催者補足:奥の駐車場は現在開放していません)
・様々な人の、車に対する色々な愛の形が表現されていて良かったし、自分の将来的なカスタムの予定の参考になりました。収獲があり良かったです。(Kさん)
次回以降の企画は未定ですが、その際は・・・よろしくお願いいたします!
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