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NDロードスターNR-A(2020年式)のレビューに続き、いよいよ新ブランド【マツダスピリットレーシング】が放ったコンプリートカー「12R」のインプレッションをお届けします。
先に私の率直な印象をお伝えすると、このクルマは単なる「ロードスターの豪華版」や「高価な社外パーツの寄せ集め」ではありませんでした。メーカーが本気で牙を研ぎ、スーパー耐久レースなどで得た知見をそのまま公道に持ち込んだ、いわばライトウェイトスポーツにおける「ストリート・コンペティション(競争、競技会)」と思えるクルマでした。この言葉、聞いたことありますよね!?
同時に、私のようなアナログ世代のロードスター乗りに対して、大きな気づきも与えてくれました。ネオクラシックなNBロードスター(NB6C)を愛する私が、新ブランドを冠してまで市販にこぎつけたこのフラグシップカーに何を感じ、何を思い知らされたのか。少しでもその印象をお伝えできれば幸いです。
マツダスピリットレーシングロードスター12R 2026/ND3

| MAZDA SPRIT RACING ROADSTER 12R(NDERE)2026/ND3 | ||||
| 車格: | オープン | 乗車定員: | 2名 | |
| 全長×全幅×全高: | 3915×1735×1245mm | 重量: | 1,050kg | |
| ホイールベース: | 2,310 mm | トランスミッション: | 6MT | |
| ブレーキ: | ベンチレーテッドディスク/ディスク | タイヤ: | 205/45R17 | |
| エンジン型式: | PE-VP[RS-R]11997cc | 種類: | 水冷直列4気筒DOHC | |
| 出力: | 200ps(147kW)/7200rpm | 燃費(WLTCモード) | 15km/l | |
| トルク: | 21.9kg・m(215N・m)/4700rpm | 燃料 | 無鉛プレミアムガソリン | |

先ほどまでステアリングを握っていたNR-A(2020年式)は、歴代ロードスターから継承したライトウエイトスポーツの楽しさの一端を現代の目線で磨きこんだ、さもすれば我々アナログ・ロードスター世代が違和感なく扱える傑作マシンでした。その余韻も冷めやらぬまま、私はマツダスピリットレーシングロードスター12R(以下12R)の鍵を受け取りました。
全国200台限定、車両本体価格761万2,000円。これはNDロードスターのベースグレードと比較すると倍近いプライスタグが付けられています。ライトウェイトスポーツのなかでもアフォーダブル(手が届くこと)を信条とするロードスターにおいて、乗り出し800万円という価格は狂気じみている。そう感じる人は多いでしょう(かくいう私もそのひとりでした)。

一方、ロードスターの歴史を紐解くと、初代NAのデビュー後間もない1991年に、マツダのサブブランド「M2」からロードスターベースの「M2 1001(カフェレーサー)」というコンプリートモデルが存在しました。こちらもベースグレードが170万円だった時代に、倍の340万円(乗り出し374万円~)で販売され、あっという間に完売。歴史を鑑みれば、「ベースグレードの倍」という価格設定は、マツダにとって本気を打ち出すための「攻められるライン」なのでしょう。
コスト上限のタガを外し、その価値に納得できる人、魂が響く人にだけに伝わればいい。そんな【究極の割り切り】をしているところが、ある意味でロードスターのカスタマイズ精神を引き継いでいる一台といえるでしょう。

特別なクルマであることを一目で主張するように、エクステリアはスピリットレーシングのテーマカラーとなるエアログレーメタリックに彩られています。
特徴的なボンネットのセンターラインデカールから始まり、専用エアロパーツ、RAYS製の鍛造アルミホイール、そしてブレンボ製キャリパーを採用。インテリアもアルカンターラの加飾にフルバケットシート、赤いシートベルトの差し色など、全体を通してレーシーな演出が目を引き、こういった装備群はお世辞抜きにカッコいいです。

しかし、結果的に私がこのクルマの価値を感じたのは、「目に見えるパーツ」ではありませんでした。
それは、同じ2.0Lエンジンを採用するスピリットレーシングロードスター(コアモデル)と比較して、コストをかけながら軽量化を達成していること。そして、このご時世にエンジンの吸気ポート等に「手作業(手磨き)」の工程を挟み込み、徹底的な吸排気系のモディファイで至高のパワートレインに仕上げていることでした。そこへ、ND3世代の最新電子制御シャシーが組み合わさります。
取捨選択も見事で、価格域で考えたらマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC:弁当箱グリル)が欲しいなんて意見もあるでしょう。でも、走りのクルマには不要な重量物ということで割り切り、エアインテークの面積を優先しているのもエンスー魂をくすぐります(通常のクルーズコントロールは搭載されています)。
クルマ全体に適材適所のコストをかけ、マツダが本気を出せば「ロードスターというパッケージでここまでやれるのだ」という技術力と執念の結晶。そこにメーカーの保証が付く。これこそが、12Rに800万円の価値があると感じた最大の理由です。

なお、「12R」という名称は「スーパー耐久シリーズ」に参戦しているマツダスピリットレーシングのロードスター、ゼッケン(カー)ナンバー「12」に由来しています。
ある意味驚愕する、マフラーサウンド

ドアを開けるとまだ新車の香り。12R専用に開発されたRECARO製フルバケットシートに腰を下ろします。さすがはレカロの知見というべきか、私の体型でもぐらつくことなく、骨盤から腰回りをきっちりとホールドしてくれました。もちろん電動調整なんていうヤワな装備はありませんので、シートレールで座面位置の調整を行います。
専用シートというだけあって視界は良好。先に乗ったNR-Aのロールケージを体験した後だからか、とても開放感のあるフロントビューに感じました。とはいっても座面自体が低いわけではないので、幌を閉じるとヘッドクリアランスは私の座高ではギリギリでした。

ステアリングを握り、シフトの位置を確かめます。手が届く範囲に各種スイッチ類が整然と並び、アクセントとなるアルカンターラが内装の質感を底上げしています。面白いのはステッチの使い方で、スピリットレーシングのエンブレムに由来するのか、赤と白の糸の使い分けが非常にオシャレでした。何でもかんでもアルカンターラ、レザー、アルミパーツ(光り物)で埋め尽くさない美学に、好感が持てました。

クラッチを踏み込み、スタートボタンを押して専用2.0Lエンジンを目覚めさせます。クランキングもそこそこに、メーターコンソールにウェルカムエフェクトが表示され、特別なクルマであることを演出してくれます。走行距離は1,000kmちょっと。初期の慣らし運転を終えたばかりの12Rです。注目はタコメーター、実は1.5Lよりも高回転型のユニットなので、7,200回転のポイントに「三角(▲)」のマークが記されています。
・・・が、ここで私は少しだけ肩透かしを食らいました。野太いマフラーサウンドの「音質」自体は素晴らしいのですが、排気音が驚くほど静かなのです。

装着されているのは純正マフラーとのことですが、耳に届くのはフロントのインダクションサウンドエンハンサーから響く吸気音の方が印象深く、先ほどのNR-A(オートエクゼ製マフラー)はもとより、我がNB6Cの純正マフラー方がよほどスポーツカーらしい快音を奏でていると思えるほどでした。
これは、2026年から国内で完全適用される過酷な車外騒音規制「UN-ECE R51-03(フェーズ3)」の壁によるものでしょう。
12Rは公道を走るため、マフラーから「音量」という牙を抜かれることを余儀なくされました。しかし、落胆するのは早計です。12Rには専用品といえるフジツボ製チタンマフラーが別途ショップオプションで用意されているとのこと(マスコミ等の広報車レビューは装着済みのもの)。今回は下ろしたての、あえて全て純正仕様での試乗なのです。

ただし、12Rはエンジン側の「4-1等長エキゾーストマニホールド」で排気効率を高めています。これが最高出力&レブリミットの上乗せと同時に、最大トルクの発生回転数を約1,000回転低くすることに繋がっているのです。「音の快楽」を削ぎ落としてでもダイナミック性能で勝負する。令和のスポーツカーは面白い進化を遂げました。
街乗り、本当にこれでいいの?

エアコンOFF、オーディオOFF。DSC(横滑り防止装置)は切らずにギアを1速に入れ、さくっとクラッチを繋いでアクセルを踏むと、想定以上にボディの軽さを感じました。それもそのはず、2.0Lエンジンを積んでいるとはいえ、NBより車体は圧倒的に軽いのです。12Rはするすると、羽のように前へと押し出されました。
まずはクルマに慣れるため、市街地走行で各種タッチを確かめます。
正直に言いましょう。時速20km〜30kmの市街地巡航レベルでは拍子抜けするほど「普通」でした。暴力的なハイパワー感や、特別なコンプリートカーを操るピーキーさは皆無。路面のいなしも良く、ギャップでボディがガタピシすることもなく、派手なエキゾーストサウンドもない。本当にクセが全くない「普通のクルマ」な印象でした。

かといって、NR-Aのようにロールケージでガチガチに固められているわけではないので、ロードスターらしくボディのしなやかさも活きています(※決して剛性感が低いわけではありません)。さらに、低速からフラットトルクな癖のないエンジン特性と、少し重めではありますがニュートラルなステアリングの味付けにより、交差点のコーナーも極めてスムーズにこなします。もちろん、エアコンを入れてもパワーロスは皆無でした。
そんなスマートすぎる状況下で、唯一「ロードスターらしさ」を感じたのがシフトノブ。アイドリングも静かな車内で、FR特有のエンジンから伝わる振動がシフトノブを鼓動のように震わせて、クルマは生き物であることを実感しました。
クルマがドライバーの操作の「粗」をすべて吸収し、極めて優秀で従順。だからこそ、街乗りでは少し退屈すら感じるほど「イージーモード」だったのが、12Rの最初の顔でした。
スポーツ走行で感じる奥深さ

慣熟走行もそこそこに、いざスポーツドライビングの領域へ。先行するNR-Aオーナーの地元走りを追いかける形でワインディングロードに入りました。ここで私は、12Rに搭載された専用2.0Lエンジンの、プレスリリースからは読み取れなかった凄さを実感することになりました。
| 2026 MAZDA ROADSTER(JP) spec | |||||||
| グレード | 型式 | エンジン型式 | 排気量 | エンジン重量 | 最高出力 | 最大トルク | 車両重量 |
| S | 5BA-ND5RE | P5-VP[RS] | 1496cc | 95kg | 136ps(100kW) /7000rpm |
15.5kg・m(152N・m) /4500rpm |
1010kg |
| PS | 1030kg | ||||||
| S(RF) | 5BA-NDERE | PE-VPR[RS] | 1997cc | 110kg | 182ps(134kW) /7000rpm |
21.9kg・m(206N・m) /4700rpm |
1110kg |
| MSR (コアモデル) |
PE-VP[RS] | 184ps(135kW) /7000rpm |
20.9kg・m(205N・m) /4000rpm |
1070kg | |||
| MSR 12R | PE-VP[RS-R] | 200ps(147kW) /7200rpm |
21.9kg・m(215N・m) /4700rpm |
1050kg | |||
通常、1.5Lから2.0Lへと排気量を上げれば、エンジン本体や回転部品が重くなり、ドッシリとした「重厚感(悪くいえばモッサリ感)」が出るのが普通です。ちなみに、NDロードスター1.5Lのエンジン(P5-VP[RS])本体重量は95kg、2.0Lエンジン(PE-VP[RS])は110kg(+15kg)とされており、さらに大パワーを受け止めるためのドライブシャフトや大型ブレーキ、冷却系の補器類などを加えて、40kg前後の重量増になっている実情があります。
しかし、12Rはそれを良しとしませんでした。
ここで生きてくるのが、バネ下重量を削り取るRAYS製鍛造アルミホイール、さらにはフルバケットシートやアルミ製のタワーバーなど、可能な範囲での軽量化を行った事です。
増えた心臓の重さを相殺し、1.5Lモデルが持つ「鼻先の軽さ」を死守するためだけに、コストをかけて軽量素材を投入している。飾りのためではなく、機能と相殺のための必然。これこそが、12Rが単なるリッチな限定車ではなく「ストリート・コンペティション」であると思えた最大の理由です。MSRコアモデル(2.0L)から20kg軽く、海外のMX-5からも約30kgの軽量化を果たしています。たかが20kgと思うなかれ、5kg米袋4つをスーパーで抱えてみましょう。

また、12Rのエンジンは、専用型式の「PE-VP[RS-R]」になります。
マツダはスーパー耐久レースの知見から、このエンジンに「シングルマス・フライホイール(専用軽量フライホイール)」を採用。大排気量の不快な振動を消す重いパーツを排除し、回転の慣性を徹底的に削ぎ落とした結果、200馬力というパワーを持ちながら、1.5Lエンジン以上に軽快なレスポンスを実現しています。結果、レブリミットも1.5Lより200回転高く設定されています。
このエンジン、何が凄いかというと、踏み込めば「カムに乗る」感覚が凄まじく、どのギアに入れてもトルクを維持したままパワーを即座に引き出してくれることです。パワーバンドの維持に頭を使わずとも、右足をアクセルに乗せるだけで太いトルクでボディが前に進む。トルクピークになる11時半(4,800回転)に至らずとも、とにかく踏めば矢のようにパワーがあふれ出すのです。

また、6,000回転を超えた領域から、このエンジンの真骨頂が顔を出します。
現代の量産エンジンは環境規制の壁もあり、高回転域で空気の吸入抵抗が増え、加速感が「タレる(頭打ちになる)」のが普通です。しかし12Rは、7,200回転のレブリミット直前まで、加速の勢いが増し続ける「二次曲線的な伸び感」を誇ります。これを実現するために、マツダは吸気ポートを「匠エンジニアが一機ずつ手作業で研磨する」という、量産ラインではなかなかできない手法を行いました。
アクセルの緻密な電スロ制御がドライバーの意図を綺麗に拾い上げ、手磨きの吸気ポートが高回転まで澱みなく空気を飲み込み続ける。峠を先行するNR-Aに対し、少し踏み込めば余裕で追いついてしまう速さ。かといってドッカンターボのような凶暴さはなく、回転の立ち上がるペースは速くとも、いつものロードスターで感じる自然なリニア感。その気になったドライバーを、ひたすら速く走らせることに徹したレーシング・ユニットでした。
ここまで安定して曲がるの?

コーナーが連続するセクションでは言葉の通り、オン・ザ・レールでめちゃくちゃ曲がります。
私の峠レベルの速度域では修正舵を当てる必要すらなく、意図したラインを寸分違わず進みます。ボディも跳ねず、接地感が半端ないのでクルマの限界が全く見えません。ブレーキングの強弱も意図通りに反応し、ブレンボの強烈な制動力でもABSは効かず、ND型特有の強力な「アンチダイブ・ジオメトリー」により車体を水平に保ったままコントロール可能でした。
ステアリングを切り込んだ瞬間、車体の重心(ピッチセンター)は「ドライバーのおへそ」を軸にしながら、クルマがクルッと自転する。NR-Aの足周りも素晴らしかったですが、12Rの安定感は別格です。これは噂の制御が効いている証拠でしょう。逆に、コーナー進入で(あえて)アクセルを抜いてもFR車特有の「タックイン(鼻先が内側に入る)」の挙動は少なく、素直に「KPC」と「アシンメトリックLSD」の恩恵を受けたほうが良さそうです。

KPCはコーナー時に内側のリアブレーキをごくわずかにつまみ、車体を地面へ引きずり下ろすことで、ロールとリアの浮き上がりを封殺します。そして、減速時に効く機械式「アシンメトリックLSD」が、リアをより安定させ、加速時にはデフの突っ張りを消してトラクションをかけながらノーズをイン側へと吸い込ませるのです。この一連の流れがスムーズすぎて、本当に異次元の気持ちよさでした。
どの領域からでも本気になるとぶっ飛ぶ加速があり、コーナーはするする曲がってしまう。当たり前のことを書いていると思われるでしょうが、それが高次元で、いきなり乗った私でも体験できるのです。これって本当に凄い。運転がうまくなったと錯覚して、調子に乗って事故を起こす人もいそうなので、800万と200台というのは、いろんな意味で正解かもしれません。

正直、この動きは私のNBでは絶対に不可能です。雑な挙動は一切なく、足周りの制御で路面を完璧にいなすのです。
つまり、荷重移動を意識せずとも感覚で運転できる凄さというか、ステアリングを切った分だけポテンザが路面を鷲掴みにし、車体を適度にロールさせたまま、矢のようにコーナーを脱出していくのです。余談ですが、この足周りは2026年式のNDにフィードバックされるそうで、納得です。
「お尻の感覚で対話する」アナログなNBに対し、12Rは細やかなテクノロジーを違和感なく介入させ、破綻の入り口すらドライバーに見せない「絶対的なマージン」を保って走るクルマなのです。公道でどれだけ踏んでも安心できる。これは本当に凄まじい技術です。
逆に、たかが数時間の峠を走っただけでは、12Rは「10%の実力」すら味わえていないでしょう。街乗りでの「普通のクルマ」という印象は、分厚すぎるマージンがもたらした上辺だけのもの。もしサーキットに持ち込み、もしくは峠道で本気で走りこんだら、このクルマは一体どんなバケモノに豹変するのでしょう。
NBロードスターで同じコースを走る

最新フラグシップを振り返るには、同じ道を自分のNBで走るのが一番です。200馬力のちょうど半分(100馬力少々)、車重は近しい(ハードトップを載せている分、こちらの方が重い)愛車のNBロードスターに乗り換え、同じ峠道を12Rに先導してもらいました。
まずNBで感じたのはペダルタッチが細いというか、軽いので、より繊細な足元の操作が要求されること。そして、いざスポーツドライビングの領域に入ると・・・まずは全く12Rに追いつけません!私の腕が悪いのもありますが、ストレート区間はもちろん、各コーナーの立ち上がりで明らかに差が生まれます。
また、コーナーリング時の安定感は12Rの足元にも及ばず、同じ速度、同じ曲がり方をしようとするとリアが跳ねて非常に危ない。あくまでNBらしく、手前から丁寧に荷重移動をおこない、トルクバンドとリアの接地感を保ちながら、立ち上がりで床まで踏み込むしかありません。

なにより最大の違いは、ギアの選択です。2速か?3速か?踏み込んでもトルクバンドに合わせないと、NBはモッサリした動きになってしまいます。「5速で十分」と思っていましたが、6速クロスレシオのギアと、どこから踏んでもパワーを絞り出す12Rエンジンの乗りやすさを、改めて痛感する結果を得ました。
ただし、どちらが楽しいか?と問われれば、話は別です。
12Rは限界(マージン)が遥か彼方にあるため「どこまでクルマの実力を出し切れるか」という底知れぬ楽しみを待っているでしょう。一方でNBは、針に糸を通すようなマージンの狭さが楽しく、愛機のスペックをどう活かしきるかという、違うベクトルで自分の実力を試すことが出来ます。この2台を「どちらが上か」という観点で語るのは、ナンセンスでしょう。

ただ、ひとつだけハッキリと書けるのは、12Rのマージンの凄まじさです。初めて乗った状態でも、誰でも安心してとんでもない速度域で走れてしまう。あのクルマの実力が100%活かせるステージは、オールマイティ。いつでもどこでも戦える「ストリートコンペティション」として、スピリットレーシングブランドの第一弾の名に恥じないマシンでした。

個人的に数々のロードスターに乗ってきましたが、12Rに一番近い乗り味イメージは、かのテーマを冠した「M2 1028」が一番近しかったこと、付記します。
不満点はないのか

コスト的な部分はさておいて、少しだけ気になったのは、「絶対的な安定性」を誇るシャシー由来の、巡航速度域(30km/h~40km/h)で感じた「縦揺れ(ピッチング)」です。NDロードスターはNR-Aでも似たような挙動を見せましたが、12Rのそれは別の理由があるようです。ちなみに、同じ路面をNBで走った際は、ゴツゴツとしたダイレクト感はあっても、車体全体が小刻みに揺れるようなことはありませんでした。
その理由は明確です。12Rの足元を支えるのは、17インチのプレミアムタイヤ「ブリヂストン POTENZA S001(※広報車等に装着されているネオバ(AD09)はショップオプション)」と、サーキット走行を見据えて初期減衰力を極限まで高めた専用ビルシュタインダンパーです。巡航速度という「足周りが本格的に仕事を始める手前」では、路面の細かな入力に対してタイヤもダンパーもわずかに撓(たわ)んで吸収することができず、突っ張ってしまいます。クッション性の少ない45扁平のタイヤとRECARO製フルバケットシートが、その微振動を間引くことなく、ダイレクトにドライバーへ伝えてくるのです。
しかし、だからといって「乗り心地が悪い」わけでは決してありません。むしろ、大きな段差やギャップを乗り越える際のショックのいなし方は、NR-Aを遥かに凌ぐ極上の「しなやかさ」と「上質感」に満ちていました。

それこそが、12R出荷時に施された「1G締め付け」による恩恵でしょう。車両が地面に着地した状態でブッシュのストレスを完全に抜いてから精密に締め直すことで、可動部の引っかかり(フリクション)がゼロになる。さらに、(純正17インチホイールと比較して)鍛造アルミホイールによるバネ下軽量化の恩恵で、足回りがストロークする瞬間から滑らかに追従するのです。
細かな振動には突っ張るが、大きなギャップは新幹線のようにいなす。この低速域での快適性に日和らない二面性こそが、12Rがいかに「上の速度域」へターゲットを絞って造り込まれているかを示す証拠といえるでしょう。
ちなみに、その圧倒的な制動力により走りを支えるブレンボ製ブレーキは、極上のペダルタッチとのトレードオフとして、ホイールに結構な量の鉄粉(ダスト)を出していました。洗車好きには、掃除のし甲斐があるというものです。
未来と過去が交差する

マツダスピリットレーシングロードスター12R。それは、フラグシップスポーツにありがちな、ドライバーを置いてけぼりにするようなマシンではありませんでした。圧倒的なマージンの高さと、裏に持つ街乗りのイージーモードにより、「絶対にドライバーを危険な目に遭わせない」。でも、フラグシップらしくどこでも戦える、最高の走りを提供する。
一方で、私は12Rの「実力の10%も引き出せていない」という悔しさもありました。時間が足りない!

帰路、私はNB6Cのステアリングを握り直し愛車のフィーリングを確かめました。ABSの効きも怪しく、油圧パワステが路面のノイズを拾い集め、右足のコントロールをサボればあっさりと失速する極めてアナログな愛機。
しかし、不思議なことに、12Rの途方もないマージンを見せつけられた後だからこそ、この「自分が全てをコントロールできる」マシンを、いつも以上に、堪らなく愛おしく感じたのです。
どちらが欠けても、ロードスターが紡いできた30年以上の歴史は語れません。最新鋭のフラグシップは、過去のアナログな魅力を否定するどころか、私がNBを愛し続ける理由を、逆説的に、そして鮮やかに証明してくれました。

マツダスピリットレーシング 12R。それは、すべてのロードスター乗りに「うちのフラグシップは凄いぞ。でも、お前の愛車も最高だろう?」と語りかけてくる、マツダからのメッセージを案じた、そんな一台でした。
最後に、下ろしたての12R及び、NR-Aをお借りする機会を頂いたオーナーであるJ吉様、心より感謝申し上げます!

| 「MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER 12R」主要な特別装備・専用仕様 | |
| パワートレイン・メカニズム(12R専用チューニング) | |
| SKYACTIV-G 2.0(200PS専用エンジン) | 最高出力を184PSから200PSへ向上 |
| 職人による吸気ポート研磨 | 匠エンジニアが手作業で吸気ポート内側を研磨し 空気抵抗を低減 |
| 専用形状カムシャフト | 高回転域の伸びを重視したカム形状に変更 |
| 大型化フレッシュエアダクト | 吸入空気量を増加させる大型ダクト |
| 藤壺技研工業共同開発エキゾーストマニホールド | 4-1排気化され、ガラス繊維バンテージと ステンレスメッシュを採用 |
| シングルマス・フライホイール | ダイレクトなトルク伝達と高レスポンス化 (デュアルマスから変更) |
| サーキット専用制御(BOS・リミッター解除機能) | 特定操作でブレーキ・オーバーライドと スピードリミッターを同時解除 |
| ヒール&トゥ操作回転上昇アシスト制御 | 減速時のブレーキングに集中できるよう 回転数を自動アシスト |
| エクステリア・空力(特別付属品含む) | |
| 12R専用レーシーデカール | ボンネット、トランクフード、 フロント、サイド、ミラー等に配置 |
| 結晶塗装エンジンヘッドカバー | 手塗りの結晶塗装を施し、 シリアルナンバープレートを設置 |
| 「12R」専用オーナメント | グレード名を示す専用のバッジ |
| 「MAZDA SPIRIT RACING」専用オーナメント/フロントグリル | メッシュタイプの専用グリル |
| ブラック仕様マツダエンブレム | 前後のブランドエンブレムをブラックで引き締め |
| 専用エアロパーツ (ブリリアントブラック仕様) |
フロントアンダースカート |
| サイドアンダースカート | |
| リアアンダースカート | |
| リアスポイラー | |
| 専用ボディカラー | 「エアログレーメタリック」のみを設定 |
| インテリア・コックピット | |
| RECARO社製専用フルバケットシート | ヘッドレストに「MAZDA SPIRIT RACING」の 刺繍入り(MSR標準はセミバケ) |
| アルカンターラ採用インテリア | ステアリングホイール(赤いトップマーク付き) シフトノブ、パーキングブレーキレバー、 インパネ、ドアトリムに使用 |
| 専用タコメーター(エンジン回転計) | 最高出力200PSの発生回転数に 「▲」の特別表示を付与 |
| 専用オープニングアニメーション | エンジン始動時、メーター左の ディスプレイに専用映像を起動 |
| 専用フロアマット | MAZDA SPIRIT RACINGのロゴ入り |
| 足回り・ボディ剛性 | |
| レイズ共同開発 専用鍛造アルミホイール | |
| 熟練工による高精度サスペンションアーム締め付け &アライメント調整 |
|
| [MAZDA SPIRIT RACING] ストラットタワーバー | |
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